2012年1月4日水曜日

槍ケ岳硫黄尾根(3日目、4日目)

さて、いよいよ核心部。
岩稜帯の通過です。

このルート、結果からするとリードしたのも懸垂下降したのも、それぞれ10回以下。
数だけ見ると、わりと易しい通過だったようにも思えます。

が、僕は大変に苦労しました。
ロープを出すか出さないかの境界線!みたいな危険個所が連続し、終始疲れさせられたからです。
 さて、アルパインクライミングでは落ちない前提、とよく言われます。
だけれども、怖かったら念のためにロープは出そうという話。
そして、判断がつかなかったら(迷いあぐねたら)、ロープを出しとけ、とも言われます。

しかし、この意味が本当に分かりにくい!
僕がやっても失敗する場面があるのに、講習生にその意味を伝えるのたるや・・・。
今回は、その意味について解説にチャレンジ!

まず、難しくても、落ちても平気ならロープは不要です。
逆に、落ちたら死ぬような場所でも、非常に簡単で落ちそうもなければロープは時間短縮のために出しません。
(鎖場、ハシゴ、などでロープを出さないのと一緒)

で、この“落ちそうも無い”という感覚が、人によって異なるのこそが問題の核心です。

当然、熟練者と初級者では落ちそうもない難易度は変わってくるでしょう。
また、同じレベルの人でも、イケイケな人も、臆病な人もいるでしょう。

さらに、その日の気分によって、イケイケになってしまうこともあります。
じゃあ、クライマーたる者、危なっかしいのも仕方ないのか?
という話です。

その一方で、「計算されたランナウトは、危険では無い」なんてことを仰る先輩もおります。

一体、どういうこと?
そこで、僕は一つの基準として、
「落ちてはいけない場面ではスタティック且つクライムダウン出来るムーブなら、敗退を考慮しつつ前進してもO.K.」
というのを、講習生の方にお勧めしております。

これなら、少なくとも途中で行き詰って「もう降りられないから、この後がどんなに難しくても行くっきゃない!」なんてギャンブルは無くなります。

ただし、これでも不意落ちで死亡、という可能性はあります。
でも、これを言ったらアルパインは出来ないので、不意落ちは練習で減らしましょう、としか言えませんね。
さらに、本当のことを言いますと、実践はこの基準よりも+αの突っ込みをしています。
いよいよマニアックな世界に突入しますので、実践経験の無い方は読めないかな?

例えば、
「ここさえ越えれば、安定した大木があって大丈夫」というとき、「クライムダウンは無理だけど、このムーブでは落ちない自信はある」という条件が揃えば、行きます。

このとき、全身に悪寒が走るような緊張感が走り、アドレナリンは全開!
ただ、一応は計算されたランナウト、ということになります。
で、“ここさえ越えれば、・・・だから大丈夫”というのが、1歩の時もあれば、数メートルの時もあります。
さらに、大丈夫の基準も、安定したプロテクションの保障ならば確実ですが、安定しそうな緩傾斜帯となると、少しリスクが出てきます。

とはいえ、ここの+α基準を緩めてやらないと、不安定な雪や氷、草付きを登るのなんて無理なのが現実。
で、この+αが大きいクライマーを“キレてる”と呼びます。

講習生の方には、あまり“キレてる”クライマーにはなって欲しくありません。
が、“キレてる”やつほど、完登もしやすいし、あっという間に強いアルパインクライマーの仲間入りをしちゃうのも確か。

最終的には、本人のモチベーションに委ねられます。
今回は、この+αの判断を100回、200回と行いました。
一歩や数メートルで安定するくらいならロープは出さず、その先に行き詰りそうなリスクを感じるときはロープを念のために出し。

つまり、ほとんどの危険個所は数メートル以下で、自分たちの中では“計算されたランナウト”で行ける自信があったので、ロープを出さなかった訳です。

岩はボロく、新雪も不安定で、ザックも重い。
後半は、「殺す気か!?」と岩に悪態を付きながらの縦走でした。
それでも、ついに1回+αの判断を誤ってしまいました!

K島嬢がノーロープで突破したところが、もろに苦手系のボロ岩スラブ。
「リードしてもらえば良かった」と、後悔して出だしを試みるもリスキー過ぎて敗退。

そこで、ザックを一旦置いて、空身で行く。
(あとで、ザックはロープを使って回収)
「おー、これならスイスイ!」なんて調子に乗っていると、途中で行き詰る。

本当に行き詰る・・・。
降りることも、進むことも出来ない・・・。

K島嬢の立ち位置も不安定で、ファイト一発的なお助けも無理・・・。
「やばい、死ぬかも。」
と、何度もよぎりながら、ムーブを必死で探り、アドレナリン全開。
「うおーっ!」と、何度か吠えながら突破!

+αの判断は、本当に難しい・・・。
しかも、パートナーが自分よりもそこを安定して登れたりすると、なおのこと判断がブレてしまう。

その後は、10mくらいでも不安定なのが続きそうなら、即座にK島嬢にリードを懇願。
なんとか通過させていただきました。
アルパインクライミングは、やっぱり危ないですね(笑)。
ギリギリは攻めないように、経験を積んで行きましょう。
 行動記録
12月31日(土) 晴れ

3:30 起床
5:55 出発
16:00 赤岳手前の岩峰群の途中にて幕営開始

1月1日(日) 小雪、ときどき本降りの雪
4:00 起床
6:15 出発
17:00 白樺平にて、幕営開始

ちなみに、同日に入山した名古屋の先行パーティが強く、彼らのラッセル跡、ルートファインディング跡に終始助けられながらの行動でした。
ほとんどラッセルを交代できなかったのは、我々の弱さですね。