2016年10月25日火曜日

ショートルートと同じ頑張りは可能か?

10月22日(土)、23日(日)は、マルチピッチリード講習。
初日は小川山、2日目はミズガキ。
男性ITさん、女性STさんのペア。
<1P目>

ITさんからの質問。

「マルチピッチでも、ショートルートと同じくらい登れなきゃウソだって気がするんですが、登れるものなんでしょうか?自分は、ショートルートなら5.10bくらいでも、やってみるかと思うけど、マルチだと全く無理そうな気がします。」

「岩が脆いとか、プロテクションが不安とか、シングルロープじゃなくてダブルロープを使っているとか、ビレイヤーから見えないとか、色々あるので。」

「でも、マルチで登れないものを、ショートルートでだけ登れても、下駄履いて登らせてもらっている気がしますよね。同じ5.10bでも、ちょっとインチキっぽいというか。」
<細い立木の連続>

なるほどなるほど。合っていることと、そうでもないことがありそうです。

1つ1つ分析して行きましょう。
<2P目の前半は、綺麗なクラック>

①岩が脆い
硬い岩に比べたら、ムーヴに集中できなくなるのは、仕方ないと思います。
また、その状況がプロテクションが悪いなら、岩が欠けるリスクは死亡リスクに直結するかもしれませんので、ショートルートと同じパフォーマンスは無理でしょう。

感覚的ですが
プロテクションが良い ⇒ ちょっと登れなくなる(脆さ具合にもよるが、2~3グレード登攀力が落ちる、など)
プロテクションが悪い ⇒ フリーソロできるぐらいのムーヴしか出来ない
<2P目の後半は、恐ろしいマントル>

②プロテクションが悪い
3ヶ所などの固めどりで対応可能なレベルなのか、一応決めてはいるけどフリーソロのつもりで登るべきなのか。

前者なら、99%行けそうなムーヴなら突っ込むでしょう。だから、ちょっと登攀力が落ちるくらいで済みます。
後者なら、クライムダウンできる範囲でしか登れないことも多いです。
<ブッシュ帯に活路を求める>

③ダブルロープへの不安感
当塾では、ショートルートの講習で落ちる練習を散々やってきているので、ITさんもシングルロープは信頼。
「ダブルは、落ちる練習していないから、伸びるとか、切れるとか、なんとなく不安でいっぱいで。」

これに対しては、2つのアイデアがあります。

A:ダブルロープでも、落ちる練習してみる。
ただし、ダブルロープは大きなフォールで何度も衝撃を掛けることを想定していないため、大きなフォールで練習すると消耗してもったいないです。小さめのフォールで試すのが、現実的。
ちなみに、私はダブルロープで何度かフォールしたことがあり、講習生がフォールするのもよく見ているので、不安感はあまりありません。(岩角には弱いと思いますが)

B:マルチピッチもシングルロープで登る
正直、僕自身は小川山やミズガキなんかでは、シングルロープでマルチピッチも登ります。

ただ、幾つかのデメリットもあります。
ロープ1本で登ると、3人で登りにくい、下降が難しくなる、など。
それに対して、長め(60m)のシングルロープで登る(30mは下降可能)、バックロープを使用する、などの方策もあります。

どちらにせよ、3人でシングルロープを使うことは、ロープワークが複雑になるため、講習向きではなく、今のところ諦めています。
ただ、卒業後は日本的な本チャンはダブルでⅤ級程度を登る、ゲレンデマルチはシングルでショートルート並みのピッチを登る、といった使い分けが現実的かと思います。
<ほとんど歩きの3P目>

④ビレイヤーから見えない
これも、不安要素です。
丁度よい弛み具合でビレイしてくれるか怪しいし、「テンション!」とか言っても聞き間違いされそうです。さらに、事故ったらセルフレスキューも難しい場面になりそうです。

核心部手前でピッチを切る、ビレイ点の場所を工夫する、といった工夫で対処が上手く行けば、この不安は解消できることもあります。
その場合、登攀力は全く落ちないでしょう。

もちろん、出来ないこともあります。
その場合は、登攀力はやっぱり少し下がるでしょう。
<4P目の美しいフィストクラック>

という訳で、私なりの結論としては。

“マルチでも、プロテクションを工夫したり、ロープの信頼度を高めたり、ビレイ位置を工夫したりすれば、ショートルートに近いパフォーマンスを出せることもある。
そして、それが出来ないこともあって、そのときはショートルートなら登れるはずものが登れなくても、恥ずべきことではない。”

ということです。
<ここでルベルソを落とすハプニング>

具体的にITさんを例に取れば、

最高の条件:
マルチの中でも5.10前半くらいでもオンサイト(できる日がきっと来るはず)

プロテクションだけは信頼、不安要素あり、という条件:
5.8~5.9くらいはオンサイト(これは、今回もすでに1回成功)

不安要素だらけで、フリーソロに近い条件:
5.6(Ⅳ級とか)でも、冷や汗ものの物凄く嫌なリード
<5P目>

ちなみに、これが僕の場合にグレードをスライドさせると、

最高の条件:
5.11中盤くらいのオンサイト

プロテクションだけは信頼、不安要素ありという条件:
5.10後半~5:11aくらいのオンサイト

不安要素だらけでフリーソロに近い条件:
5.8くらいでも相当嫌

ってイメージです。

ちなみにですが、既成ルートのトポを見て、現実的に自分が取り付けるマルチかを判断するのにも使えます。
<2日目>

ただ、グレードはあくまで参考値です。
ワイドクラックとスラブは、そもそもショートルートでも5.10cくらいしかオンサイトしたことが無いので、上記グレードの限りではないとか、得意不得意でグレードはバラつくものです。
<1P目>

注釈が多くて、かえって分かりにくかったら申し訳ありません。
要するに、ショートルート並みに頑張れるときもあるし、頑張れなくても仕方ないときもあるってことですよ。
<2P目>

当塾講習は、残置無視、トポ無視でやっているので、グレードではなく実際の岩を見て、なんとなく自分に見合ったラインか否かを判断してもらいます。

で、登った後に、
「体感グレードは、どんなもんでした?」
と聞いたりしているので、こんな話になったのかもしれませんね。
<ちょっと見栄えするクラック>

具体的なピッチ
今回はトポに無いラインが主なので、私を含めた3人の体感グレードで。

1P目:Ⅳ級くらいだが、プロテクションは細い立木の連続
2P目:5.7くらいの綺麗なクラックから、Ⅳ級くらいの猛烈にランナウトしたマントル
3P目:ほとんど歩きのビレイ点移動
4P目:5.8くらいの綺麗なクラック
5P目:5.8くらいだが、プロテクション以外に不安要素の残るクラック(ビレイヤーの位置が悪くなる、など)

1P目:5.8くらいで、プロテクションは良いが、あまり登られていなさそうなクラック
2P目:5.9くらいで、プロテクションは良いが、表面が脆いクラック

2日目は、本気トライ的な内容だったので、これにて疲れを感じて早めの下山となりました。
<チムニー内に走るクラック>

ムーヴグレードだけ見たら、2日目の2P目が一番難しいですが、感覚的には1日目の2P目が「ヤバい!」と思います。
講師目線でも冷や冷や。

そんな感じです。
<立木のビレイ点>

ところで、2人のマルチもようやくクライミングらしい感じになってきました。
ほとんどショートルートをやらない2人なので、心配しておりましたが、ホッと一安心です。

先日まで、5.7とか登ってはいるんだけど、
「マルチの最中は、Ⅲ級に毛が生えた程度で十分!」
っていうニュアンスが見て取れたので、ようやく余裕が出て来たのでしょうか。
<早めに降りました>