2019年5月17日金曜日

反省会は難しい

5月15日(水」)は、特殊オファーにて、セルフレスキューについて越沢バットレス。
女性IUさん、女性HMさん、男性NSさん。
今回の最後、シナリオレスキューとして、私が出したお題。

ルートは、1ピッチ目。
Ⅲ級(5.5?)程度のクラック~土のバンドを歩くようにトラバースして、太い立木というピッチ。

リード:IUさん
フォロー先発:HMさん
フォロー後発:NSさん

・トラブル設定
フォローのNSさんが、土のバンドに入るところでフォール。
登ってきたクラックラインから、数m逸れた場所に宙づり。
土のバンドより、5mほど下。地上から、10mほどの高さ。

NSさんに怪我なし。
NSさんは、登り返しのロープワーク技術が出来ない。
大声で、助けを求めるところからスタート。
NSさんと太い立木のビレイ点は、声が届きにくい。
この日は、朝から
「フォローが宙づりになったら、どうやってロワーダウンしようか?」
というロープワークを検証していました。

カラビナをパタパタさせる方法、ルベルソの説明書にある方法、ムンターに切り替える方法、などを検証。
そんな訳で、設定を聞かされていたNSさんは、私が想定していた解決策がすぐに浮かびました。
で、答えを半ば知っている状況で、IUさんとHMさんの奮戦を見守るという立場に。
最終的には、救助に行ったはずのHMさんもNSさんの横で宙づりになり、身動きが取れなくなりました。
それに対し、2人ともをロワーダウンしようとしたIUさんも、最終的にはロープがこんがらがり、どうしようも無い状況(いわゆる詰み)。

ここで、およそ2時間が経過していたこともあり、これにてゲームオーバー。
あとは、私が手助けに入りました。
さて、主な感想&反省。

NSさん:
・今回の設定ではナシだったけれど、フォローであっても登り返しは必須技術。
・ミスコミュニケーションが、最大の敗因。
・これが練習で、本当に良かった。

HMさん:
・シナリオ開始時点で、IUさんとのコミュニケーションで、自分の役割が曖昧だった。
・とにかくNSさんの近くに行って、状況を見なければと思った。(結果、土のバンドから下まで不用意に降りてしまった。)
・登り返しが、上手く出来なかった。(設定上、登り返しが出来ないのはNSさんのみ)

IUさん:
・自分の指示が曖昧だった。(HMさんに、偵察をお願いしたつもりだった。)
・ロープワークで詰んでしまった。
<シナリオ開始>

立場上、色々な事故(ヒヤリハットも含む)の反省会を相談されることが(最近特に)多く、改めて色々思うところがあります。
あえて例は挙げずに、抽象論だけ語ります。

事故の理由を語る際に、誰もが無意識に分類していること。

①似たような失敗経験がないと、予想できないこと。
②不可抗力。(自然条件、心理的な要因、疲労、など)
③もう少し用心深く行動していれば、避けられたこと。

建設的反省をするなら、③にフォーカスすべきです。
②についても、「こういう心理のときは、一層気を付けよう。」と思えれば、わずかながら建設的な反省になります。

失敗した本人が、①、②を語れば、言い訳がましく聞こえるものです。
一方で、周りが③を声高に叫ぶことは、本人を痛烈に批判しているような雰囲気にもなります。

まず、ここにコミュニケーションの難しさがあります。
<宙吊りのNSさん>

次に、③について深く考察すると、事故者本人の普段の行動から見直そうという気持ちになります。

多くの場合、事故現場にいたパートナーは、それ以前からの登山・クライミング仲間です。
ですから、「今回に限らず、事故者本人が少しリスキーな行動をとるような気がしていたんだけど、上手く伝えられなくて今現在まで来てしまった。」という責任を感じていることも多いです。
そして、それをここぞとばかりに伝えようとします。

これは、ものすごく大事なことですし、上手くいけば全体的な事故確率の低下に繋がるので、使命感が沸いてしまうものです。
しかし、相当なストレスを伴うコミュニケーションとなるので、人間関係が悪化し、半年~数年の冷却期間が必要になることすらあります。

これらを踏まえた上で、これが決定版という反省会の方法は、私も知りません。
ここから先は、登山・クライミングのスキルではなく、もっと別のスキルにあたるのでしょうしね。
ただ、こういう分野にいる限り、避けて通れないものだと思います。

どんなに重要な話でも、ある程度のところで切り上げることも必要です。
ガンバ!