2023年11月30日木曜日

1月分の予約受付

12月4日(月)の夜21時より、来年1月分の予約受付を開始いたします。

ジム講習は、先月と同様です。

月曜:ストーンマジック
火曜:Dボルダリングプラスリード立川
水曜:ランナウト
木曜:Dボルダリングプラスリード立川
金曜:ランナウト

ただし、ある程度は講習生の希望に合わせて融通することにしています。
その場合、最初に申し込んだ1名に合わせることになるため、HPのスケジュール欄に開催予定ジムをその都度書いておきます。
お手数ですが、ご確認をお願いします。

ちなみに、12月19日(火)は、ランナウトでの定期講習となりますので、どうぞよろしくお願いします。

また、こちらの都合で雪山講習を2件あらかじめ受けております。
前後予定が立て込むと、運転などのリスクが上がり過ぎるためです。
どうぞよろしくお願いします。

2023年11月15日水曜日

講習で得やすいもの、得にくいもの

何年もの間、コンスタントに講習を続けてくださる方は、それなりの覚悟があるように思います。

これまでの取り組み方、自分なりの理論を全否定されるような体験を何度も繰り返しながら、講習を続けていくのですから、本当に素晴らしいと思っています。
実際、初級者が多く集まるような岩場に行けば、色々な意味で「やっぱり講習生は、かなり良い取り組みをしている方だな。」と思えることも多いです。

例えば、ボルトルートの岩場では。

・オンサイトを大切にする
・チョンボ、トップロープを自制する
・オブザベをする
・落ちてはいけないセクションを明確に意識し、行きつ戻りつを行う
・ロープが足に絡むのに気を払う
・終了点作業に下から大声で指示することを慎む
・ビレイの立ち位置、ロープの緩み具合を意識する
・岩の脆さ・ボルトの遠さなどを受け入れて、自分なりに対処する
・スタティックとダイナミックの使い分けを意識する
・安全圏では、落ちるまで頑張る
・ボルトの種類などに注意を払う

などなど。
<マルチピッチリード講習、三ツ峠>

一方で、「なかなか伝わらない。」と感じることもあります。
1つは、トレーニング方法です。
例えば、フォームがある程度良くなったとしても、以下のことをしなければ成果は出にくいです。

「そのフォームで大きな筋肉に効かせることを意識して、強度×回数を登り込み、それを週2回以上ジムなどで行う。そして、睡眠、栄養補給などの回復に気を払う。」

非常に難しいのは、本気トライはフォームが崩れやすいので、フォーム改善時にはトレーニングになっているかは怪しい点です。
特に、リード、岩場といった他に気を払うことが多い環境では、これまでのフォームで登ってしまうのも、仕方がないことです。
<ハンドクラックをO.S.するHDさん>

したがって、講習時に「ちょっと今までよりも肩が下がってきて良くなったな。」、「少し脇が締まってきたな。」、「だいぶ腰が入ってきたな。」と見えても、それは再び元に戻るものです。

何年もの講習でこれを繰り返すと、流石に良いフォームが癖付いたりしますが、トレーニングを自分で行う人はほとんど居らず、筋肉が育つことはなかなか難しいです。
良いフォームが本当に癖付けば、本気トライの中でも少しは筋トレになるため、2年前とかに比べれば皆さん強くなっていると感じます。

これはこれで良い、と考えることもできます。
フォームが良くなることは、強くなることだけが目的ではなく、故障防止でもあるため、生涯スポーツとして楽しむためには有効なのです。

例)一生5.10を登るのだとしても、肩が下がっているのに越したことは無い。
<紅葉をバックに>

一方で、「強くなりたい」と考えている講習生も一定数いるのに、なぜこうなるのかは私も考えさせられます。
この原因を、私なりに考察します。

①強くなるよりも、まず身に付けるべきことがある。

当塾に来る講習生は、岩場で「まともに」登れるようになりたい、という気持ちから通い始めます。
そうなると、まずはレスト・足置きを教え、次にリードの落ちる練習・ビレイで止める練習、そして岩場で終了点作業や行きつ戻りつ、クラックでカムセット・ジャミング、マルチで残置無視・トポ無視、そしてワイドクラック、人によっては雪山・アイスや読図と講習は進んで行きます。

この過程で、ロープワークなども本格的に学ぶ必要があり、理想的にはセルフレスキューやファーストエイドも知りたくなるでしょう。

そうなると、ジムで5.10後半、ボルトルートで5.10中盤、クラック(ワイド含む)で5.9程度がコンスタントにオンサイトできれば、講習生のレベルとしては最低限満たしており、これを伸ばすことよりも全ジャンルの基礎を身につけることが目標になってきます。

クライマーとして上を目指さないのは寂しい気もしますが、上記を成し遂げるだけでも講習生の何%が続けられるのか、という世界観です。
<この後、敗退戦略の立て方に、2人とも大反省することに・・・>

②初心者には、強くなることよりも技術を教えた方が良さそう。

例えば、卓球の話。
高齢でフットワークがおぼつかなくても、老練な元上級者であれば、若い初心者は絶対に勝つことができないそうです。

また、最初はテクニックを覚える方が、そのスポーツの楽しさを感じることができます。
実際、講習中にも「なるほど!」と言ってもらえて、講習生の登りが劇的に変わる瞬間は、私も嬉しく思います。

そうなると、トレーニングよりも足置きやレスト、ごく初歩的なオブザべ、などを教えることは、たとえ岩場を目指さないジムクライマーにも有効な気がします。

また、初心者が「腕の力が無いから・・・」などと言っているのを聞くと、「(それもあるとは思うけれど)今の筋力でも遥かに登れる課題は増やせるよ。」と言いたくなるのが心情です。
<アドバンスクラック講習、野猿谷>

③省エネ、リスク管理に比べると、トレーニングは講習中に成果が出ない。

省エネ技術は、「たしかに楽だ!」と言ってもらえることが多いです。
リスク管理は、仕組みを教えれば、「えー、そこまで気にしなくっちゃいけないのー。ぶつぶつ・・・。」とか言いながらも、知ってしまったら後戻りはできないものです。

同じ人に何回も同じ指摘をすることはありますが、どちらも「一定レベルまで知識が浸透すると自然と使うようになる。」という特徴があります。
極端な話、自分で全く練習しない人が居たとしても、講習に通い続ければ一定レベルまで理解が進む項目です。

一方、トレーニング(強くなる方法)は、そうは行きません。

「〇〇を意識して、こういうメニューで続ければ、数ヶ月後には相当登りが変わると思いますよ。もし、成果が出なければ、また相談に乗りますよ。」
と、言うことになります。

講習中は、〇〇の部分を徹底的に伝えようと頑張りますし、反復練習としてトレーニング時間に相当するものを設けますが、それが精一杯です。
トレーニングして来ない人を責めても講習に通いづらくなるだけですし、トレーニングしてくれても成果を保証することもできません。

僕も含めてトレーニングを伝える人は、あまり口煩くは言わないのが普通だと思います。
さらに、僕の場合、①の要素を伝えることが看板になっているため、「石田さんは強くなるための方法は教えない。筋力が大事とか言わない。」と言った誤解までもが広まります。
<インバージョンも試しに>

④ボルダー(あるいはボルダージム)の雰囲気が苦手な人が多い。

トレーニングには、ボルダーが適しています。
フォームを意識するなら、被った壁の全ガバのルートをゆっくりと登るだけでも、かなり効果があります。
量を登るなら垂壁・薄被りでも、効果はあります。(強度×量という考え方、丁寧さの追求を同時並行するには強度は抑え目で十分という考え方、など。)

ビレイヤーに気を使うこともなく、空いている壁を探してウロウロしながら登ったり、易しいグレードをサーキットトレーニングしても良いと思います。
そして、クリップやリスク管理、パートナーとのコミュニケーションといった周辺作業から思考が解放され、トレーニングに集中できます。
※「いや、周辺作業こそ大切なのだ。」という問題は、①で議論済み。

そして、ボルダーの本気トライができない、というのも問題です。

ボルダー:リードの比率は、色々な考え方があるものの、ボルダーがまともにできない人は、スポーツとしての成長率が10分の1ぐらいに減衰していると見て良いでしょう。
<トポに載っていないチムニー>

さて、考察が終わって、あとは各自の状況によってやるべきことは違うと思います。

講習の段階がジムリード講習・岩場リード講習であれば、①の要素が強くなるので、今回の話は「長い目で見て、ちょっと気に留めておく。」ぐらいで良いかなと思います。
山屋系クライマーは、スポーツとしての成長が遅いのは止む無し、という考え方です。

マルチピッチリード講習卒業レベルの人であれば、③や④の話を考えていかないと、そこで成長はストップするかもしれません。
特に、①の要素で成長している感覚が薄くなってくる頃なので、講習への飽き、クライミングそのものへの飽きが始まる可能性があります。
本当は、①の要素(総合力の向上)にも終わりが無いのですが、マルチピッチリード講習の卒業あたりから、成長曲線が緩やかになってくる頃なので、いよいよ飽きずに続ける力が必要になります。
<マルチピッチリード講習、つづら岩>

自分の立ち位置を俯瞰して、練習方法の参考にしていただければ幸いです。
<2P目>

<無事にトップアウト>

2023年11月9日木曜日

因縁の「延長サブウェイ」

ここ1年で、最大の成果は「延長サブウェイ」(1級)を登れたことです。
小川山にあるボルダーで、割と人気課題です。
<矢立岩の桂くん>

どういう課題かというと、「サブウェイ」(3級)というトラバース課題があって、それのスタートに4手ほどのSDパートを加えたものです。

4手の追加で、3級が1級に上がる訳なので、その強度が押し測れるかと思います。
この手の課題が登れないこと自体は日常茶飯事なのですが、これは過去に3回登れかけているのにフォールしたことが私の心残りです。

1回目は、10数年前にエクセレントパワーをR.P.する目標を掲げて、5月〜10月のほぼ全週末を花崗岩ボルダーに費やしたというトレーニング年です。
そして、10月後半からエクセレントパワーを再開して、無事にR.P.。

このとき、登れた課題も色々あったのですが、1級はほとんど全滅。
ただ、延長サブウェイはスタートの4手が奇跡的に1回だけ繋がり、サブウェイでフォールしました。

で、このまま冬山シーズンに突入してしまい、なんとなく忘れていた課題でした。
で、昨シーズンに当時の宿題の中で、最も可能性がありそうな2つ「三日月ハング」(1級)、と「延長サブウェイ」の2つをトライ。

三日月ハングは1日で登れたものの、延長サブウェイはまたも惜しいトライを1回、その後はスタート部分が全くできなくなるという惨状でした。
むしろ、寒くなってきて、岩が暖かかった「フィロソフィー」(初段)にターゲットを変えて、何日か打ち込んで登れたという状況。

今シーズンも、延長サブウェイに行ってみてスタートが出来なくなっていて悲しむ日もあり。
まぁ、この日は少し疲れていたのもあり、自分の問題点確認のための1日だったと割り切りました。
<矢立岩で、2人で2日間トライしたハンドクラック。どうにか2人ともR.P.。桂くん調べでは、5.11dらしい。>

延長サブウェイで、僕が問題となったのは、以下の3点。

①サブウェイ(3級)が、かなり苦手。
トラバース課題でリードっぽいと思いきや、僕には非常にレストしづらい。
また、スタンスの暗記が非常にややこしく、何かの帰りにトレーニングで登ろうとしても、普通にフォールする。
そして、それが気を重くする。
体感は、5.12a。

→完登した日は、あらかじめ何度かリハーサルして暗記し直し。

②初手の強度に耐えられていない。
いわゆる、被った壁の外傾スタンスを踏み、遠いホールドを取る動き。
懸垂やキャンパの力なのか、外傾スタンスを押しながら身体を上げる力なのか、この能力はほとんど成長を感じない。

→この能力をジムでトレーニング。ある程度の成果は感じた。

③初手の後、次のムーヴに入るまでのホールディングの修正が繊細すぎて、確率勝負に感じる。
「親指は、どこの結晶に当てて・・・」みたいなのが多すぎるのに、修正そのものもデッド気味で行うので、余裕が無い。

→暗記はもちろんだが、結局は初手の余裕具合が、この確率を向上させる。完登した日は、そんなに余裕は生み出せなかったけれど、確率勝負で幸運が訪れて2手目以降につながった。
<サブウェイ(3級)>

まぁしかし、10年数前と比べて、ごく僅かでも成長していることを喜ぶべきか、あまりに僅かであることを悲しむべきか(笑)。

ただ、「次回までに、ジムで〇〇をトレーニングしよう。」と思ったことは、割と的を得ることが多くなり、しかも数週間後まで継続できて、どうにか成果に漕ぎつけられる、ということが増えたのは嬉しいことです。
クライマーとしては弱いままですが、人間的には少し改善されたような感覚です。
クライミングの1つの要素に、「次回までに何をトレーニングしてくるか、どう修正するかを考え尽くす時間」というのがあると思います。

山歩きのように、「歩いていれば目標を達成できる」というジャンルから入った僕にとって、達成率の低いこの項目は、とても苦手とするところです。
でも、これをたまにしか取り組まないから一生底辺なんだよなぁ、とも感じる訳です。
<延長サブウェイのスタート>

まぁ、クライミングと登山の他の要素も好きなので、色々やりたいですよね。

2023年10月27日金曜日

12月分の予約受付

10月30日(月)の夜21時より、12月分の予約受付を開始いたします。

12月は、第1週末が特殊な講習があり、第3週末と第4週末に雪山・アイスクライミングの講習となりました。
私自身が連日の講習が厳しいなどの事情があり、あらかじめ希望者からの相談を受けた結果ですので、ご容赦ください。
特に、雪山と岩場での講習が連日だと、運転距離やギアの整理の時間で睡眠時間が削られて、運転のリスクが非常に高まったという反省があります。

雪山・アイスクライミングの講習に興味がある方は、HPの参加条件を見て、是非ご相談ください。

●平日のジム講習場所に関して。
火曜、木曜:Dボルダリングプラスリード立川
水曜、金曜:ランナウト、など。
      八王子から比較的行きやすいジムであれば、応相談。
      ストーンマジック、ベースキャンプも候補。

2023年10月18日水曜日

「岩場基礎トレ」の御案内

11月3日(金、祝)に、ガイドの友人である林智加子さん主催の「岩場基礎トレ」という講習の講師をやることになりました。
過去に何回か行っていますが、毎年開催という訳ではなく、不定期開催です。
今回の講習場所は、城ヶ崎です。

普段の講習とは異なり、この日は「登山靴で、登山道に出てくる岩場を安全に通過すること」を目標として、登り方の講習を行います。
内容的には普段のムーヴ講習と重なるところもありつつも、登山者の目線でムーヴを解説していきます。

当塾の「岩場リード講習」の敷居が少し高いと感じられる方も、こちらは参加条件がなく、ロープを使って練習する場面でもトップロープを使用いたします。

興味のある方は、私に直接ご連絡いただければと思います。

2023年10月12日木曜日

「落ちてはいけないセクション」への対処

このブログで使い古されたネタですが、たまには別の言い回しで書いてみるのも良いかなと思いました。
自分の考えも整理されてきますしね。
<マルチピッチリード講習、小川山>

クライミング中、「ここで落ちたら死亡を含めた大怪我の可能性あり」というセクションが出てきます。

例① 本チャン、沢登り、マルチピッチ、などなど
 プロテクションが取れないピッチ、またはプロテクションが非常に悪いピッチ、悪いアプローチ

例② 沢登り
 ロープを出さない判断をした滝、高巻き

例③ スポートルートのショートルート(1ピッチのフリークライミング)
 1本目のボルトまでが高いとき、1本目は低いが下地が非常に悪いとき、落ちたらグランドフォール相当の怪我をしそうなボルト間隔のセクション

例④ トラッド(クラックなどNP)のショートルート
 プロテクションが悪いセクション、チムニーなどプロテクションが取れないセクション

例⑤ ボルダー
 下地が悪い課題で一定の高さまで登った状況、高いボルダーでのマントルセクション

これらを、「落ちてはいけないセクション」と考えます。

※ショートルートなどで、「ボルト足下で落ちるのめっちゃ怖いけど、実際には落ちても安全という状況」とは区別します。
ここに名付けるなら、「怖いけど、落ちて良いセクション」。

※雪山、沢登りなどで、「太い立木などの良好なプロテクションは取れているけど、落ちたら振られて打撲はしそう。」とは区別します。
ここに名付けるなら、「落ちない方が良いセクション」。

※ショートルートやボルダーなどで、「態勢に十分気をつけて落ちれば大丈夫だが、変な落ち方をしたら死亡を含めた大怪我」という状況とは区別します。
ここに名付けるなら、「十分に用心深い人なら、落ちられるセクション」。
つまり、今回のテーマにしている「落ちてはいけないセクション」は、落ちないこと以外に生還の道が無い状況です。
まさに、「生きるか死ぬか」です。

これに関して、様々な観点が考えられます。

①ムーヴ選択
②浮石チェック(スタティックムーヴの重要性、安全マージンの大きさ、など)
③オブザベ(ライン取り)
④回避すべきかの再考(ノーロープで行く判断を止めてロープを出す、クラックの土を掘り出してでもプロテクションセットする、その課題はもう少し日を置いてから再トライする、一生やらない課題とする、など)
⑤メンタル(甘く見る訳でもなく、追い詰められる訳でもなく、淡々と対峙できているか)
⑥自分以外のメンバーの状況(特に、バリエーションや沢登りで、ノーロープで突破した方が楽だという判断をする際に)

結局、どれも大事で、どれが原因で事故った先人も数々いるとは思うのですが・・・。
<月形半平太(40mの5.12a)をトライする桂くん、ちなみに私もR.P.2トライでした。>


さて、この中で特に「①ムーヴ選択」に関して、言及します。
経験上、3つの方法があると思っています。

A:戻れるムーヴで進む
気分は、オンサイトフリーソロです。途中で、思ったより悪いセクションが出てきたら、そこで十分にホールドを探り、それでも落ちる可能性があるムーヴしか見えなければ、安全圏までクライムダウンしましょう。

注意)
・大ガバなら、行きと帰りのムーヴが異なっても戻れますが、少々悪くなるとムーヴ(少なくともキーホールド)の暗記が必要になることもあります。
・スラブなど、ちょっと勢いを付けた乗り込みでさえ、戻れなくなる場合も多いです。

実用例)
・マルチピッチなどで、どのラインから登れば良いかオブザベ不可能な状況で、あっちへ5m、こっちへ5mと右往左往する。
・遡行図では巻くと書いてある滝が登れそうに見えるので、戻れる範囲で探ってみる。
・スポートルートで、1本目のボルトまで何度も行きつ戻りつする。
・ボルダーのマントルで不安定なムーヴしか見えず、いったんリップにぶら下がるところまで戻ってからフォールする。
・長いチムニーの抜け口が悪く、延々とチムニーをクライムダウンしてくる。
<アドバンスクラック講習にて、クラックの森>

B:見切る
オブザベで、次の安全圏まで「絶対に落ちることは無い」と自分なりの確信を持って、突き進みます。

注意)
オブザベを外した場合は、セミ(落ちてはいけないセクションで、戻ることもできず、登ることもできない状況)になる可能性が極めて高いです。
長居できるレストポイントがあっても救助要請、それが無ければ詰み(場合によっては、人生の詰み)です。
安全マージンのため、かなり悲観的にオブザベしましょう。

実用例)
・沢登りで、出だしだけが少々難しいが、後半は明らかに階段状なので、出だしさえ落ちなそうならロープは要らないという判断。
・スポートルートで、落ちられないセクションではあるのだが次の1〜2手をこなしてしまえばガバがあり、そこでクリップできる。
・本チャンで、あと50cm這い上がれば立木があるので、そこまでは戻れないムーヴでも行ってしまえば命だけは問題ない。
・小川山のスラブで、ランナウトするが、登るほどに傾斜が落ちてくるのが明らかなとき。
・ボルダーのマントルで、「落ちる確率が相当低いムーヴ」が見えた!と感じたとき。

もちろん、こういった「すぐ上に安全圏が見えている状況でも、Aの方法でこなせるならベスト」でしょう。
しかし、現実にはこういう判断を頻発してますよねー、という話。

また、この状況は「目の前にニンジンをぶら下げられた馬」と同様に、「本当は見切れていないのに、現状の怖さから逃れようと進んでしまう。」という現象が散見されます。今なら、まだ安全圏に戻れるのに!
これについて、「上に活路を求めてはいけない。」と私は度々講習生に話しています。
<この何年かで、ロープワークもだいぶ強くなりました>

C:上の情報を使う
落ちてはいけないセクションで「怖いな」と思う場面でも、先を知っていれば怖さは半減し、登る見通しが立ちやすくなります。

注意)
怖さが半減する現象が、果たして安全に繋がっているかは、本人の自覚レベル次第というところもあり、非常に複雑な問題。
情報が誤っていると、詰む可能性がある。

実用例)
・トップロープリハーサル後のフリーソロor絶対落ちてはいけないR/Xルート、ハイボルダーのトップロープリハーサル。
・残置ハーケンなどの危険なピッチ、ノープロのチムニーなどを、フォローした後にリードする。
・通常の安全レベルのショートルート(部分的に「落ちてはいけないセクション」が出てくる程度)で、トップロープ練習した後なので、あまり考えが無い人がリードできてしまう。
・1本目をプリクリしてホールドを覚えたので、次からはプリクリしないで登れる。
・落ちてはいけないセクションで逡巡している初級者に、「次はガバだよ。」と励ましつつも、上へと登ることを促す。
・落ちてはいけないセクションで、次に見えているホールドがガバか否か(次のクラックにカムが効くか否か)を、他人に聞く。
・すでにトライしたことがあるクラックで、易しいと感じたセクションはカムを取らずに(or固め取りを割愛して)行く。
・ジムのR.P.トライにおいて、落ちそうも無いセクションは、見ていて危険なレベルにクリップのタイミング遅い。
・ボルダーで、何度も練習して落ちる確率が下がったセクションはマットを敷かず、一番落ちそうなセクションにのみマットを敷く。
・脆そうで心配な岩でも、何度も触ったり、他の人が人が荷重するのを見るうちに、欠けない気がしてきて、大胆に荷重するようになった。
<因縁の宿題(チムニー)を回収したISさん!>

さて、本気で考えて読んでくださった方は、どれだけいるでしょうか?

例を沢山挙げると、ついつい読み飛ばしてしまうのは、私も知っています。
でも、今回はあえて沢山書きました。

「うん、たしかに同じ構図だな。」とか「ちょっと、ズレた例のような気も・・・」と考えながら読んで欲しいですね。


●私の考え、その一
僕は、A(戻れるムーヴで進む)主体で登り、B(見切る)も部分的に使用する、というのが基本姿勢です。
もちろん、いずれも失敗してヒヤッとしたことは、数々あります。

ただ、登山の延長でクライミングを始めると、これが一番自然な考え方かなと思います。
リードとは「ルートを切り拓く作業」のことですし、マルチピッチ・沢登り・バリエーションルートではリードは原則オンサイトなので。

要するに、グラウンドアップのオンサイトで使いやすい作戦は、AとBです。

●私の考え、その二
将来的にはチョンボ棒全盛になるであろう初級者岩場では、R.P.はトップロープリハーサルが当たり前となり、気づかぬうちにC(先の情報を使う)主体の人間を育てるはずです。
これは、リスク察知能力を鍛える意味で悪しき習慣だと思いますが、残念ながら大衆はそちらに行くでしょう。
そして、リスク察知能力の低い人たちは、ちょっとでも危ないルートに対して文句タラタラで、本来要求されるべきリスク回避の水準に満たぬままトップロープで「お触り」をしていきます。

ただ、登山的な志向がない、純粋なスポートクライマーであるほど、私ほどはCに否定的になれないのも理解できます。
それでも、早くチョンボ棒を捨てて欲しいものですが・・・。

ちなみに、チョンボ棒には、
・落ちても良いセクションで落ちる経験が積みづらくなり、ショボいトライになりやすくなる。
・ヌンチャクを裏から回って回収するなど、様々な岩場での応用的作業を覚えなくなる。
などの問題もあります。

●私の考え、その三
オンサイトトライもバリバリやり、AやBも十分に意識しまくった上級者が、それでもリハーサル後のリスキーなルート(R/Xルート、フリーソロ、など)をトライするのは、別格です。

僕には実体験がないので想像の域を出ませんが、
・将来のクライマーのために、ボルト無しのラインとして美しく残したい。
・リハーサル後でも、決してムーヴを間違うことが許されないヒリヒリ感が良い。
・ほんの僅かな冒険性を残すために、トップロープでムーヴを100%暗記する前にリードトライを開始した。
などなどの、トップクライマーの考えから推し量れるものがあります。

というか、結構実感として理解できちゃう気もしますし、全部分かった上でやっている人なんで、「スタイルは自由」の真骨頂です。否定はできないと思います。
ただ、志向性として危ないっすよねー。

●私の考え、その四
C(先の情報を使う)は、なるべく避けた方が、力は付くと思います。

ただ、2トライ目のクラックでプロテクション減らすとか、ボルダーで落ちる確率が減ったところをマットの重点位置から外したり、他人に次のホールドの掛かりを聞いちゃったり(これは雑談も兼ねて)、細かく見ると色々やっているんですよね。

実際、「これは、Cなんだ!」という強い自覚を持って行動できれば、リスク管理の悪癖には繋がらないとは思いますが・・・。
<オフィズスに苦戦するHSさん>

今回は、「落ちてはいけないセクション」への対処のうち、「①ムーヴ選択」について考察しました。

まぁ、他にも考察すべき対象は無数にあるのですが、僕が最も頻繁に考えている一分野なので長くなりました。

2023年10月3日火曜日

11月の予約受付

10月6日(金)の夜21時より、11月分の予約受付を開始いたします。

ジムは、原則として以下の通り。
月、ストーンマジック
火、Dボルダリングプラスリード立川
水、ランナウト
木、Dボルダリングプラスリード立川
金、ベースキャンプ、ストーンマジック、ランナウトのいずれか

よろしくお願いします。

2023年10月1日日曜日

不動沢の矢立岩

もう6月5日の話になるのですが、Hさんと矢立岩に行きました。

前々から、Mr.スランプ(5.11c)といった有名課題が気にはなっていたものの、「どうせ行くならトポは見ず初登攀ごっこのスタイルで登りたい。」と思っていた岩です。

とりあえず、下見だけになる覚悟で、弁天岩まわりで2時間ほどかけてアプローチ。
こちらは、時間は掛かりますが、悪場もなく、矢立岩も目視できるので、オンサイトアプローチには良さそうという判断。

パッと見て、明らかにラインと分かるチムニーラインを4ピッチかけて登りました。
(後から、風林火山(5.9)だったと分かります。体感グレードは、5.10a。)

この日は、これでオシマイで、成果として書くには本当になんてことは無く、ただただ自分の実力の無さを悲しむことになります。

しかし、案の定メチャクチャ楽しかったです。

状況判断を含めたオンサイトを楽しむことは勿論ですが、開拓者の歴史を感じるのも、トポを見て登るよりも何倍も増します。
スポーツ的なエリアでは純粋な登攀力の弱さを突きつけられますが、総合力の弱さを突きつけられるのも、人生のスパイスです。

Mr.スランプと思われるクラックを見かけたり、他にも多くのラインを見たりしつつ、この日は帰りました。
2回目は8月25日、省二さんと。

この日も、なるべくトポを見ずに登りましたが、結果としてMr.スランプにトライすることに。
O.S.トライは、ラスト5mほどでムーヴが分からずに力尽きてフォールしました。

この日は、これで終了。

こうなってくると、もはや初登攀ごっことか言っている場合ではなく、早く再トライしたい気持ちに火がつきます。
<省二さんの1P目>

3回目は、9月12日で「世界のキタヒラ」こと北平さんと。

北平さんは、Mr.スランプを「瑞牆に残っている最後の大物」(ワイド系で、5.11以上で、スケールとか有名さとかで言っていると、僕は理解しました。)と言い、虎視淡々とチャンスを伺い、一人で矢立岩に偵察に行ったりしていたとの話。
そのモチベーション、「さすが過ぎです。」と言わずにはおれません。

初めてご一緒するので、登りを見るのが楽しみです。
早速、北平先生のO.S.トライ。
<あれよあれよ・・・>

<僕が落ちたあたりもスイスイ>

<見事にO.S.!>

基本に忠実な真っ向ワイドの連続で、全く問題なく。
今回のトライでは自分の作ったムーヴでゴリ押し予定ですが、ムーヴ習得の方向性として、かなり参考になりました。

で、僕のR.P.トライ。
<そもそも、ムーヴが全く違う>

<自分が、ワイドを局所利用してムーヴを作っていると再認識する>

1時間近く粘って、どうにか完登!
この日は、午後からの予報が悪いこともあり、2人とも満足。

いったん取り付きに戻り、僕が先日から気になっていたワイドを2人でトライすることに。

O.S.トライしたい気持ちもありますが、あまりにもMr.スランプで掛けた2人の労力が違うため、元気な北平さんに先行を譲ることに。

パッと見、5.10中盤ぐらいですが、意外と苦労してO.S.していました。
スタック系の技やスタンスが滑り、一瞬ヒヤッとしたのが何箇所があったように見えました。
「短くて悪い系だな・・・。」と、十分に理解して、自分のトライ。
<やっぱ傾斜感じるなー。>

<下部のフレアが足技を難しくする>

<どうにかフラッシュ成功>

その後の北平さん調べでは、これが初登の可能性があるそうです。

北平さんに体感を聞かれて、「5.11aぐらいっすかねー。」と答えるものの、いつもながら自信はありません。
僕は、5.11aのオンサイト率は50%も行かないので、5.10後半と言われれば納得しちゃう反面、それ以上のグレードでも非常に稀にオンサイトしているので。

ワイドのグレードは、フェースみたいに「ある程度の精密さ」で当てることが難しいですね。
フェースの場合、自分の得意系やら、リーチ考慮して、グレードを当てることが、まだマシだと思います。

●フェースのグレードが、比較的当てやすい理由。
①これまで登ったサンプル数が大きい。ジムと動きが近いこともある。
②自分以外(リーチ、筋力、得意系が異なる人々)の登りを大量に見ているので、それを目の前のホールド配置に当てはめやすい。

アホみたいな話ですが、5.10c〜5.11bの間であることは、多分たしかでしょう(笑)。
<1P目>

4回目は9月18日、狂祖さまとSTさんと。

初心に戻って、トポ無視の続き。
他にも、登りたいラインは色々見つかっていますので。

ゴルジュっぽい大チムニーを登ります。
もはや突っ張れないほど広いセクションもありつつ、チョックストーンや側壁のクラックなどがゴチャゴチャしているので、どうにかなりそうです。

1P目を5mほど登ると、目の前にチムニーの中にルーフオフウィズスが出現。
これはいきなり核心部だと思い、ピッチを切ります。
<2P目、思った以上のボスが出てきた。>

チムニーを利用しつつ、ルーフオフウィズスの下をトラバースしてビレイヤーの真上ぐらいまで戻ります。

無限に近いレストポイントの連続なのですが、とにかくムーヴが分からずに、10回以上の行きつ戻りつを繰り返します。

小さいゴルジュのような地形に加えて、昼間なのにヘッデン登攀で、気分は盛りあがります。
<ルーフ部分を無事に突破>

<フォローするSTさん>

こちらは、2人も無事にフリーでフォローできました。

ワイド系の5.10前半って感じでしょうか。
(まだトポを見ていないので、実際のグレードなどは不明。体力的には、綺麗なゲレンデ的岩場で5.10後半ぐらいをO.S.するぐらいは苦労しています。)

いやはや、楽しいピッチでした。
<フォローのビレイ中>

続く3P目は、狂祖さま。

チムニー側面にあるハンドクラックを主体にしつつ、背面も使って進んでいきます。
<3P目>

<ようやく明るいビレイ点に出た>

<4P目にトライするSTさん>

4P目は、いくつかラインがあったものの、綺麗なハンド〜フィンガーのラインを選択。

2人とも1時間ぐらいトライして、最終的に僕がリード。
結構プルプルでフラッシュしました。
<4P目は、無事にフラッシュ>

このピッチを抜けると、頂上台地のようなブッシュ帯へ。
ここから岩峰の頂上までは、どうにも歩いては行けそうもなく、時間も夕方だったので、今回は下降としました。

まぁ、この岩峰には、まだ登りたいラインが幾つかあるので、その際に頂上台地の探索も深められればと思います。

改めて、こういうのが趣味なんだなぁと自覚しています。
一人ボルダーも、ボルトルートのオンサイトトライも、それ自体が楽しいんですが、やっぱコレのための基礎力作りの一環、というのが大きいんでしょうね。

2023年9月6日水曜日

卒業システムの様々な問題点

9月8日(金)の夜21時より、10月分の予約受付開始です。
よろしくお願いします。

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多くの講習生は、自分自身のことにせよ、周りの講習生仲間を見るにせよ、この問題を感じたことがあるかと思います。
「いつになったら卒業か分からない。」といったボヤキから、思いつく限りを書き出してみます。
<岩場リード講習、小川山>

さて、まずは前提の共有が必要です。

各クラスの卒業は、
「そろそろ自力で行ってみたら良いでしょう。」という私の見立てであって、
「もう教えることは無い。もう講習に来ないで大丈夫。」という意味ではありません。

例えば、ジムのリード講習卒業となれば、「そろそろ友達同士でジムでリードしてみたら?」ということです。
この段階に至るまでに、レスト態勢、足置き手繰り落ち、ビレイの立ち位置、ロープの弛ませ具合など、様々な項目の理解度を見ていきます。

理想的には、これを理解できた状態で、「安全に落ちるまで頑張るトライ」を見せてもらえたら良いわけです。
実際は、まぁ今回のトライはイマイチだったけど、ちゃんと反省できそうな人、今後も岩場リード講習で教えて行けそうな人には、卒業を言い渡す感じです。
<マルチピッチリード講習、小川山>

この時点で、3つの悩みが発生します。

①もともとリードしている人で、「これはちゃんと習わないとヤバい。」という自覚を持ってきた人の場合。

「卒業していないのに、リードしている。」という後ろめたさを感じるはずです。

実際、私を含めて一部の人からは、「あのビレイ、イマイチだなー。」、「落ちる距離とか、ロープの足絡みとか考えずに突っ込んでる感じで、いつか絶対事故起こすなー。」などと見られているのです。
そして、それを講習の中でボンヤリと感じたり、卒業させてもらえないという事実から、なんとなく落ち込んだり、講習や私のことが嫌になったりするでしょう。
<この日で、TGさんはマルチピッチ講習を卒業としました>

②卒業用件は、説明できない。

そもそも、「まだ出来ていないことを把握することが至難。」という事実があります。
登りがバタバタしている人も自分なりに安定していると思っているし、ビレイの立ち位置がイマイチな人も自分なりに理解してやっているつもりだったりします。
何より、「自分は安全だ。」と思いたい、「自分はダメじゃない。」と思いたい、という自己防衛の心理があるので、よほど分かりやすい状況設定をしてから説明しないと、反感を買うことすらあります。

この状態の方に「私は何がダメなんですか?」と聞かれて、「あれも出来ていない。これも出来ていない。」などと言っても、お互いに不快な時間が流れるだけです。
したがって、講習メニューの中で、本人なりの気づきを促すように努力することしか、私にはできません。

ちなみに、全然できないんだけどセンサーだけは良い人がいます。
「自分の登りの荒さが嫌い。」とか、「ビレイについて時々注意されるんだけど、イマイチ統一的に理解できていないのか、人によってビレイの好みが色々あるのか分からない感じで、同じ過ちを繰り返しそう。」といった、無知さの自覚がある状態です。
ただ、こういう人は、自分の至らなさが数多くの点で見えてしまうでしょうし、「山岳会などの先輩も結構いい加減なんだな。」と初心者時代から見えてくると思うので、山岳会にせよジムのリード初中級グループにせよ、馴染めないかもしれません。

生きづらい世の中ですが、真理に気づいてしまったからには、逃れられない訳です。
<自分のクライミングにて、不動沢の矢立岩>

③卒業後に受講を継続するモチベーションを保ちにくい。

例えば、ビレイの立ち位置にしても、ジムリードから始まり、岩場リードでも繰り返し講習していきます。
おそらく、ほとんどの講習生にとって、ジムリード講習卒業の時点では私の説明したことは理解はできても実践には程遠い状態なのでしょう。
これを、岩場リードでも落ちる練習を繰り返すことで、どうにか一定レベルにまで実践できるようにしてもらいます。

つまり、卒業の条件「そろそろ自力で行ってみたら?(一応、形にはなってきたし、なぜそうすべきかも知識としては理解できたでしょう。)」と「本当に、講習内容を理解して、自分なりに考えて判断・実践できる。」ことの間には、大変な隔たりがあります。

そういうことも、ボンヤリとは感じるんだけど、卒業までに掛けた時間・金額を考えると、もうこの辺で修行を終えたい(あとは楽しく登りたい)、という気持ちも分かります。
<1P目をリードする省二さん>

さて、③に関連して、せっかく講習で覚えたことも忘れたり、悪い習慣に戻ってしまう、という現象について考えます。

先ほどのビレイの立ち位置だと、「本当に理解して、自分なりに判断・実践できるようになった人」は、そうそう忘れたり、戻ったりすることはありません。
しかし、その手前の段階で、「一応、良い立ち位置でビレイしていて、なぜそうするかも知識レベルでは知っている人」は、すぐにダメになります。「フワッとした理解だと、サボるメリットの方が大きい。」とでも言えば、状況が想像できるでしょうか?

言い換えれば、深い理解の人は不退の状態にあり、浅い理解の人は簡単に戻ってしまいます。

今は、ビレイの立ち位置を例に取りましたが、講習で扱う内容は、ムーヴ、オブザベ、ロープワーク、様々なリスク管理、ほぼ全てこの話にあたります。
本当は、全ての内容を深い理解にまで至ってもらいたいところですが、各クラスの卒業までの短い期間(5回〜10数回程度)では、到底難しいようです。

また、クラックリード講習を卒業した後に、マルチピッチ講習やアドバンスクラック講習を受けていただければ、先ほどのビレイ位置習得の話と同様に、少しずつ理解を深めていただくことも可能です。
その点では、本来は次のクラスまで受講しなければ、深い理解は得られない、という話になります。

じゃぁ、マルチピッチ講習のように、次のクラスが設定されていない場合は?
マルチピッチ講習の復習参加を推奨?冬山や沢登りの講習を推奨?と、いよいよ終わりなき修行感が漂います。
<Mr.スランプ(5.11c)にトライする私、上部でフォールして、宿題に>

さて、ここまで書いてきて、問題の本質を俯瞰してみます。

深い理解、無知の知、辛くても真実を見る、全てを漸進的にマシにしていく、といった講習の性質と、「卒業」という言葉がミスマッチです。

日本の義務教育を受けてきた私達が「卒業」という言葉から連想するのは、もっとインスタントだったり、習得状況に関わらず回数・期間で修了できるものでしょう。
そして、自動車教習所のように「卒業したからには、もう通わなくて良い。」、「免許をもらった。」ような認識になるのも、理解できます。

しかし、卒業システムが無かった開業当初の数年間に比べると、継続受講の一つのモチベーションになっていることは確かなようです。
5回、10回と通っているうちに、「どうやら、この講習はインスタントなものでは無い。」と気づいてくれる方もいます。
功罪あるシステムですが、今のところ別アイデアも無いのです。

「全ての講習内容が深い理解となり、決して後戻りすることの無いの状態になり、あとは講師などいなくても仲間との討議や学び続けられる。上級者からのアドバイスや見本は、ごくたまにで十分。」
という状態になれば、それは真の卒業なのでしょう。

ただ、これは卒業というより、“悟り”に近い感覚なのでは無いかと思います。

ちなみに、講習生という枠を外して考えると、そういう雰囲気をまとった人は、ジムであれ岩場であれ、ときどき見かけます。
大抵の場合、こういう人は何かに秀でているので、ジムで見かける場合は僕なんかより遥かに登れる人が多いのですが。
<マルチピッチリード講習、小川山>


まぁ、初心者にもパッと見で分かるようなシステムでありつつ、中級者も学び続けられるような内容、というのは両立が難しいですよね。

本当は、マルチ講習をやるぐらいになってからが、ようやく話が分かる感じになってくるので、いよいよ教えたいことは沢山あるし、マルチ講習したいエリアも山ほどあるのですがねー。
<この日で、KTさん、Mさんも卒業にしました>

<「スラブの大平原・・・」by Mさん>

<クラックリード講習、瑞牆>

<マルチピッチリード講習、小川山>

<戻れないムーヴで突っ込み、後々反省することに>


<無事にトップアウト>

9月3日(日)、自分のクライミングにて瑞牆、ピカソ(4級)。
入門的なインバージョン課題という評判で、気になっていた1本。

無事にO.S.して、逆向きとか別ムーヴとかで、合計7回登って遊びました。
下半身に効くトレーニングなので、登るたびに歩くのがフラフラになっていきます。

その後、真理さんに教えてもらって黄金狂時代の右を見学に行ったら、結構感動しました。
色々、行きたいエリアが増えてきました。