2024年10月27日日曜日

12月分の予約受付

10月31日(木)の昼12時(正午)より、12月分の予約受付を開始いたします。

普段と異なる時間なので、ご注意下さい。


雪山に関する講習は、前後日を休業またはジム講習にする必要があるため、先行予約を一部受付した状態です。

こちらは、すでにスケジュールに反映済みです。


マルチピッチ講習も、奥多摩で実施可能です。

では、よろしくお願いします。

2024年10月25日金曜日

ワイドで膝が抜けなくなる現象

ヨセミテにて本日レスト日ですが、とりあえず出国前の記録を。
10月2日(水)、10月10日(木)、11日(金)は、一緒にヨセミテに行く桂くんと。
<桂くん@クロム1P目>

常々思うことですが、講習生に「これはハマりやすいですよ」と言った罠に自分がハマることが頻繁にあります。

10月2日は、瑞牆のクロム1P目(5.11a、ワイド系)をオンサイトトライ中に、膝がスタック!
体感では10分以上は粘って、ようやく膝を抜くことができましたが、もう擦り傷やアザだらけ。かなりの痛みに耐えつつ、オンサイトしました。

しかも、何らか神経を痛めたのか、その後の1週間ぐらいは左脚だけがピリピリと痺れていました。
<「うおぉー」と吠えてフラッシュする桂くん>

状況(ある程度、ワイドクラックに慣れた人にしか分からない描写です):

薄被りのO.W.セクションを越える際に、リップ周辺が4番〜5番サイズで膝が入りません。
で、リップを越えた緩傾斜は6番サイズにより膝が入ります。

という訳で、核心のハング越えを果たして、緩傾斜の6番サイズに素早くニーロックすると完全ノーハンドの大レストが可能なパターンです。
そこで落ち着いてマントル前のカムを決め、ニーロックを解除してマントル、という場面で膝が抜けません。

膝を入れた少し下が4番〜5番セクションなので、完全にボトミングが効いてしまったのです。
<桂くんは、隣の5.10cもO.S.>

この手の困った話は講習生からも相談されるので、過去にも何度も回答しています。
昨冬、城ヶ崎のプチワイド(5.8)で、この相談をされましたし。

①完全ボトミングで効くニーロックは、要注意。
 ※膝を曲げて太腿を膨らませたり(カムの働き)、膝を内転させてトルキングを効かす必要が無い形状。ナッツのように膝が決まってしまう。

②完全ボトミングで効くと思っても、念のために僅かにカムかトルキングをしておくと、解除する分のゆとりが生まれる。

③原則、ボトミングの逆方向に抜く必要があるため、もう片方にガバ足が無いと解除は厳しい。
 ※本当にヤバい時は、アブミなどで片足を作成して脱出。

もちろん上記は意識していたのですが、ほぼノーハンドレストの体勢でカムセットをしながら②を保つことに失敗しました。
つまり、核心を抜けてホッと体幹の力を少し抜いたり、カムセットをしているうちに、少しずつ膝がナッツのようにボトミングされてしまったのです。

あとは、③の選択肢ですが、典型的O.W.のハング越えなので、もう片方のガバ足はありません。
どうにかヒール&トウで頑張るも、一向に抜け出ず。

何度もギブアップテンションからのアブミ脱出がチラつきましたが、最終的に膝周辺の皮をズリムケする覚悟で、重力方向に近い5番サイズ方向へと数ミリずつズラして抜きました。
<ジェリーフィッシュ>

過去に、城ヶ崎のチークボーンでも同じ状況になったことがあります。
あの時はルーフだったので、さすがに諦めてテンションギブアップからのアブミにしましたが、身体構造的にボトミングの逆方向に押し出すことは不可能に・・・。
結局、今回と同様に色々とズリむきながら通常は通れない5番サイズを数ミリずつ通しました。

今回は、「チークボーンよりはマシな状況だ・・・」と考え、どうにかギブアップせずには済んだのですが、まぁ痛かったです。
<桂くんは2撃>

そして、講習生に留意点を説明している罠にハマると、なんだか自分が不遜で恥ずかしい人間に思えてきます。

ただ、こういう可能性は分かっているので、講習生にも
「分かっていても、(余裕とか状況によっては)僕も含めて誰でもなっちゃう可能性はあると思いますけどね。」
と説明する習慣なのがせめてもの心のバックアップです。
<I'm old fasshioned の1P目>

この手の話は、カムスタック、ヒヤリハット、他の人に驚かれるようなオブザベミス、ホールド見落とし、忘れ物など、一生尽きないんでしょうね。

いい人生経験だと思いますが、毎回心は痛みますね。
<1P目の上部は乾いていたが、もうヘロヘロだった>

具体的に登ったルート
10月2日(水) 瑞牆の黄金狂時代周辺
・5.10bぐらいのワイド O.S.
・クロム1P目(5.11a、ワイド系) O.S. 上述の顛末
・5.10aぐらいのワイド O.S.

10月10日(木) 小川山の屋根岩3峰
・アップで5.10aぐらいのボルトルートを3本ほど
・ジェリーフィッシュ(5.11d、ボルト、スラフェース系) R.P.通算3トライ
 何年か前にトライしたが、リボルト前だったこともあり、落ちる可能性満々だったので敗退。
 この日の1トライ目で、ハングドッグしてムーヴ解決。
 この日の2トライ目で、R.P.。

10月11日(金) 瑞牆の大面岩
・ I'm old fasshioned(5.11b、5ピッチ)
 敗退。
 1ピッチ目(5.10b)が濡れており、大苦戦。
 リード交代して、どうにかフラッシュして、午後にようやく2ピッチ目(5.11b)
スタート。しかし、ここも核心が全然分からず、ハングドッグしてようやくムーヴ解決して抜ける。
 この時点で時間切れ敗退。

 正直、条件が良かったとしても、オンサイトトライでは全然歯が立たないマルチに感じた。とは言え、一応核心ムーヴは解決したし、他のピッチは5.10台と言うこともあるので、いずれ再訪したい。

2024年9月2日月曜日

登攀スピード

10月・11月の予約受付は、9月4日(水)です。
念のため再掲しておきます。

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登る速度に関して、リスク低減とスピードは、利益相反することが多いです。

初心者的な言い方をすれば、
「雑で早い登り」VS「丁寧でスローな登り」
という構図になります。

「丁寧に素早く」というのは熟練者のみが到達可能なものだからです。

例えば、マルチピッチなどで「早くしろ!」と急かされる初心者が雑な行動で怒られる構図は、見ていて辛くなるものがありますよね・・・。
この問題は、講習生に対しても常々悩まされるポイントです。
一般の初級者よりは遥かに慎重には登って欲しいんだけど、残置無視・トポ無視のスタイルであっても1日で6ピッチぐらいは登れるようになって欲しい、という話です。

少し、分析的に見てみましょう。

登攀スピードの問題を顕在化しやすくするため、「落ちてはいけないセクション」が多い、マルチピッチや沢登りをメインに考えます。
①マルチピッチなどで要求される丁寧さ

A:慎重さ
・戻れるムーヴ主体で登り、安全圏(プロテクションで守られた場所)まで退却できること
・そのために、スタティックで登ること
・浮き石のチェックをしながら登ること
・浮き石の可能性のあるホールドを止むを得ず使うときは、ホールドを剥がす方向の荷重になるか否かを厳密に意識すること
・足のスリップを避けるため、丁寧に足置きすること
・外傾スタンスに置く場合は、荷重方向をキープすること
・プロテクションセットに時間を掛けられるように、十分に安定した3点支持を主体で登ること

B:ムーヴ選択の習慣
・クラックを積極的に活用した方がプロテクションに困らないため、どちらかと言えばクラックが得意であること
・ジャミングやワイドテクニックなど、比較的ホールドが欠けにくい技術主体で登ること(誰も持っていないようなカチを拾う登りは、欠けるリスクが高まる)
・ステミング・ニーロックなど、ノーハンドになれる態勢を積極的に活用すること

Bは慣れてしまえばスピードにはあまり影響しませんが、Aを完璧にこなそうとするほど「落ちてはいけない」5.7以下(RCCで言えばⅣ級ぐらい?)のセクションの登りは、スローになっていきます。

※難しいマルチになれば、落ちてはいけないセクションのグレードも上がってくるが、とりあえず初級マルチを想定。

しかし、サボると実際に事故に遭ったり、怖い目に遭うので、なかなか難しいものがあります。
②普段のウォームアップで意識すべきことのうち、マルチに即応しないものを思考から除外

普段は、上記の点に加えて、
・脇を締める
・小指で効かせる
・肩を下げる
・胸を開く
・背筋を伸ばす
・骨盤の位置
などなど、フォームに関することを意識しています。

また、手足の位置関係や、荷重方向変化など、ムーヴの仕組みに関しても、様々な考察が可能です。

これらの目的は、故障防止と、将来的により強くなるためです。
どちらかと言うと、マルチピッチのためというよりも、ジムや岩場のショートルートで「もっと登れるようになる。」ことを念頭に置いています。

少なくとも、マルチピッチ中は、これらを意識から外すことで①に集中することが可能です。
実際、マルチピッチ中は、ルートファインディングやプロテクションセットなどにも脳のキャパを取られるので、こんなことは考える余裕が無いと思います。

つまり、この項目は、あくまでも普段のウォームアップでのみ可能な練習です。
③丁寧さを維持した状態で、登攀スピードを上げる要素

A:ルートファインディング
間違うと、大幅にクライムダウンを強いられます。
複数ラインが考えられる場面で、両方にどれだけの偵察を試みるのが効率的なのか、といった戦略が非常に大切になってきます。
1回の戦略成功が、30分〜1時間以上の時間短縮に繋がることも多いです。

B:オブザベーション
「この形状であれば、こういうムーヴになりそうだ。」という読みです。
正解を見つければ非常に易しいムーヴでも、見つかるまでは落ちそうなムーヴしか思い付かず、落ちてはいけないセクションだけに安易に突っ込めず逡巡しまくる、といったシーンをよく見かけます。

C:現場でのスタティックムーヴ選択
オブザベーションを終えて、実際にホールドを触って、「ハイハイ、この配置パターンね。」と理解して自分の引き出しを使う場面です。
ルートファインディングは、ほとんど頭脳戦ですし、失敗経験が物を言う世界なので、マルチピッチリード講習の中で「今の場面は、こうやった方が効率的だったんじゃないですかねー。」といったディスカッションをするのが良いかなと思います。
そういう意味でも、トポ無視・残置無視の初登攀ごっこは、非常にトレーニング効率が良いです。

オブザベーションは、ジムでのオブザベ練習で諦めないこと、岩場ではクラックなどの形状登りの経験を積むこと、などが肝になると思います。
ジムでは、ホールド配置が見えていて、ホールドの掛かりを知っている場合などは、オブザベを外したら、自分のミスだと考えるべきです。まぁ、どんなにレベルが上がってもミスが無くならないのも確かですし、数パターンのムーヴが思い付いて「あとは現場判断」ということが多いのですが。
ある程度分かるようになるまでは、ムーヴ講習を継続的に受講することがオススメです。
軸またぎ、正体フック、逆三角形、などと、講習生用に配置を理解しやすい用語を色々と作りましたので、是非とも習熟して欲しいと思っています。

現場でのスタティックムーヴ選択は、ボルダージムの○級までを手だけでなく足の移動も含めてスタティック縛りで登る、という練習が有効です。
どういう場面では踏み換えが有効で、どういう場面ではプッシュが有効で、といったスタティック縛りならではのムーヴ選択が習慣付いてきます。
当然ながら、自分が本気トライするグレードよりは、少し易しいグレードでないと不可能です。
④許容される手抜きの検討

「落ちてはいけないセクションなんだけど、戻れないムーヴでチャチャッと登っちゃっても良い場面って、どんな条件があるときなんだろう?」
「こういう条件のときは、浮き石チェックをサボっても、ほぼノーリスクだよね。」
といった、条件分岐を自分の中に持つことも、有効です。

ただ、条件設定を間違えてルール化したり、ついつい調子に乗って条件を拡大解釈したりして、ヒヤリハットを感じたことは、僕自身も学生時代から現在に至るまで数々あります。
これらに関して、過去にもブログで何度か書いては来ましたが、今となっては誤解されて伝わるリスクを感じて、少々の罪悪感が沸いています。

この話は、本当に色々と考えてそうな友人と、ディスカッションして身に付けていくべきものでしょうね。

また、ある程度のレベルまでは、あえて積極的に取り組まない、という方法もアリかもしれません。
例えば、1日に10ピッチ以上あるようなルートに行くんじゃないかぎり、6ピッチ程度なら朝イチから登ってヘッデンで下降すれば、登攀スピードは最低限あれば十分です。

とはいえ、現場に行ったら、自然と考えてしまうとは思います。
なんせ、その場で手っ取り早く時間短縮できてしまうので、魅惑的です。
どの要素も一朝一夕には行きませんが、引き続き頑張って習熟していただければと思います。

講習的には、
「①の要素を早期に伝えて、ちゃんと理解した人ほど登攀スピードが遅くなるので、そこから③の要素を本格的に伝えていく。」
という方針になろうかと思います。

まぁ、③の要素を勉強しづづけるのは、かなりの根気が要るので、なかなかマルチピッチ卒業生でムーヴ講習に継続的に通うような人が少ないのですが。

今回は、マルチピッチや沢登りを例に挙げましたが、ショートルートでも落ちてはいけないセクションを登るときは実際には同じはずだと思います。


2024年8月30日金曜日

10月、11月分の予約受付

9月4日(水)の夜21時より、10月、11月分の予約受付を開始いたします。

ヨセミテに行く予定なので、その出発日と帰宅日の前後1日ずつも含めて休業とさせていただきます。
かなりの長期休業となりますが、どうぞよろしくお願いします。

2024年8月13日火曜日

バシルーラ(5.12a)のオンサイト

5月24日と、かなり前の話になりますが、桂くんと七賢の岩場。
バシルーラ(5.12a、核心はボルトルート)をオンサイトしたのですが、自分でもびっくりの3時間トライになってしまいました。
ボルトルートでは、自身最長時間の記録だと思います。

残念ながら明確な反省点はなく、再び繰り返す可能性も無きにしもあらず。
顛末を書き留めておきます。
ルート詳細に言及するので、オンサイトしたい人は読まないでください。
<これは、別日に桂くんと瑞牆に行ったとき>

①事前準備
下部は易しいスラブ、核心部がハングしており、ハング面に入らないとホールドが見えづらいことが一目で分かった。
すると、ハング面に入って上部観察(頑張ってレストしながら数分観察)、スラブ面に戻って大レスト(完全回復するまで10分以上休む)を何度も繰り返す展開が予想される。

この時点で、1時間越えの可能性は十分にあるルートだと分かった。

②ウォームアップ
嫌な予感がプンプンしたため、本気トライの時間短縮のために工夫することにした。

バシルーラと下部が共通するであろうNPでトップアウトする凹角ラインでアップ(5.8ぐらい)。
さらに、隣の「遠雷の木曜日」(5.8、ボルト)も登る。

これらのラインを登りながら、バシルーラの核心パートを遠目に眺めて、可能な範囲でオブザベしておく。

③地上でのオブザベ
幸い、ハングしたカンテラインなので、カンテと相性の良いホールドの向きがあった場合と無かった場合で、何パターンかムーヴをイメトレ。
が、あまりに地上からは遠いため、ホールドの予想はやはり外れた。
しかし、このイメトレは役に立ったとは思う。

ちなみに、ある程度までオブザベが当たったのは、各ボルトにおけるヌンチャクの伸ばし具合ぐらいか・・・。

④トライ
ルートが日陰となり、状態が比較的良くなってからトライ開始。

下部のスラブは、リピートなので順調にこなす。
ハング下(正確には右下)が予想通り居心地が微妙なレストポイントで、完全回復するのに時間が掛かる。
ここから、核心部まで3mぐらいトラバースして、ハング面に上体だけを入れて、上部観察。
疲れたら、3mをトラバースして戻り、居心地の微妙なレストポイントで完全回復を待つ。
これを、4回ほど繰り返す。

大体の作戦が定まり、核心部へ突入。
無事にボルト2本分のハング面を越え、ノーハンドで立てる外傾テラスへ。

そこから、3mほどの垂壁からスラブへのマントル(以下、スラブ系マントル)があるが、ここにボルトが無いのに、予想より遥かに難しい!
最後にクリップしたのはハング面のボルトなので、外傾テラスに立った時点で既に足元を越えている。

何度もマントルにトライするが、できそうなムーヴが見えない。
そして、かなりのランナウトになっているため、いかに下がハング面でロングフォール許容だとしても、9割行けそうなムーヴじゃないとトライできない。
さらに、外傾テラスに戻っても、シューズを一旦脱いだりするのも物凄く体勢的に厳しいものがあり、時間ばかりが過ぎていく。
かといって、スラブのスタンスが細かく、5分もシューズを履き続けているとスタンスの乗り心地が悪く感じてきて、一旦シューズを脱いで汗を乾かさざるを得ない。

何度もビレイヤーに謝りつつ、自分でも時間の読めない行きつ戻りつを繰り返す。
ビレイヤーとしても、「仮に3時間半のトライ」が見えて来たら、敗退を促すつもりだったそうだ。

そして、行きつ戻りつの高度を十センチずつ上げていき、ある時「たぶん登れそう」というムーヴが見出された。
落ち着いて外傾テラスに戻り、「次こそは行けそうです。」と宣言して、突っ込む。
そして、10%のフォール確率を許容したマントルを達成・・・。

ようやく終了点にクリップすることができた。

⑤トライを終えて
ハング面の核心部における行きつ戻りつに時間が掛かることはビレイヤーも想定しており、1時間半程度まで(クラックで、まぁまぁ時間が掛かったときぐらい)は、お互いに折り込み済みのオンサイトトライだった。

しかし、上部のスラブ系のマントルは、ボルトが打たれていないことから易しいだろう(せいぜい5.9の核心ぐらい)と思い込んでいた。
実際、フォールしても盛大にハング面に落ちるだけなので、5.9ぐらいなら恐々越えられるだろうと思っていた。
もっと言うと、ボルトルートは人為的にボルトを打っているので、「5.12aでランナウトするとしたら、ハングの5.10b、スラブで5.9まで。」などと言う相場感をオブザベに当てはめていた。
が、実際には体感で5.10bくらいのスラブ系マントルだと感じた。
正確な時間は分からないが、ここで1時間以上の行きつ戻りつとなったことが、最大の誤算であった。

ちなみに、外傾テラスにしゃがんでフォールすれば、敗退することは可能であった。
(ビレイヤーとしても、これ以上長くなる場合は、それを促すつもりだった。)

⑥感想
トライ中は、「ボルトルートにしては、ちょっと厳しめのボルトだよー。」などと文句を言ってしまうが、実際には大変よくあることなので、登る側も覚悟を持ってトライする必要がある。
実際、危険になる前にトライを辞めることも可能なので、ルートが危険なわけでも、初登者が悪いわけでもないとも思う。
初登者が、例のスラブ系マントルを5.9以下に感じたからボルトを打たなかった可能性だってあるし、「5.12aなんだから5.10bぐらいはスラブでもランナウトでしょ。」と思う可能性だってある。まして、僕は185cmと長身なので、狭いムーヴで辛く感じることも頻繁だ。

つまり、「5.12aでボルトが無いスラブだから5.9以下」という僕の見立て自体も、ハズレの可能性があることは、僕自身もよく知っている。
一方で、今後こういう見立てを使わずにボルトルートのオブザベをするかと言われたら、答えはノーだろう。
見立てが当たればラッキー、外れても敗退すれば良いので命に関わる問題ではないからだ。

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つまり、明確な反省点はありません。
ルートが悪いわけでもなく、今後もこういうルートには出会うでしょう。

ここまでの長時間トライを積極的に行いたい訳では決してないのですが、外傾テラスで敗退するのが正解だったかと言えば、「それはビレイヤーとの相互理解による」ということになるでしょうし、今回に関してはトライを続けて良かったと言ってもらえました。
(桂くん、ありがとう!)

一方で、単なる粘りではなく、オブザベとかを磨いて、もうちょっとスマートにオンサイトできる確率を上げたいなぁとは思うので、今後のトレーニングの問題意識として行きましょう。

<これも本文とは別日>

<これも・・・>

2024年8月6日火曜日

9月分の予約受付

8月9日(金)の夜20時より、9月分の予約受付を開始いたします。

曜日毎のジムなどに、特に変更はありません。

原則、火木がDボルダリングプラスリード立川、水がランナウト。
ただし最初の1名の方の希望によっては変更できる場合もあります。

また、10月中旬〜11月中旬でヨセミテに行く予定なので、その期間は講習を行うことができません。
継続的に受講されている方には、ご迷惑をおかけしますが、ご理解よろしくお願いします。

2024年8月5日月曜日

2024シーズンの富士山ガイド

7月に3週間ほど、富士山ガイドに行ってきました。

今も残っているガイド仲間の皆さん、本当に頑張ってくださいませ!
自分の中で、良かった点、イマイチだった点を書き出してみます。

●良かった点

①全体説明中に、自分が注目を集めきれていないことに気づいた際に、「Are you O.K.?」みたいな内容を一言喋り、笑いを取りながら注目を集め直すテクニックに習熟してきた。
(実際には、日本語で行う。)

②登りの歩行技術、下りの歩行技術に関して、日常生活の姿勢との関連を、お客さまに分かるように説明できるようになってきた。ただし、本人が実際にツアー当日中に修正できるかどうかは別問題で、実際には相当難しいことが多いが、修正してくる人もいる。

③登りの歩行技術、下りの歩行技術、耐風姿勢の説明が、ごく僅かにレベルアップした。

④休憩中に、肩回しや伸びをさせて、高山病対策をさせることを、僕自身が忘れにくくなった。

⑤お客さまの水分補給量が少し増えた。(五合目で原則1人1リットル程度を持たせる。七合目で水が足りなくなって、購入する人が増えた。)これによる、高山病の予防と脱水予防。

⑥7月の富士山と天気図の関係の理解が、少し深まった。

⑦観光ガイドで、笑いが取れているとき、「へー」と思ってもらえたときは、もともと満足感があった。
今年は、「何の反応も無いけれど実はよく聞いてもらったとき、というのも結構あるはず。」というのも意識してみたら、実際やりやすくなったし、後々そういう感想ももらえた。

⑧足首を捻った程度のお客さまで、その場で歩けたとしても、「一応オタワアンクルルールをやっておこう。」という意識が染み付いてきた。小雨の下山道で、正直かなり面倒ではあったが、2人ガイドで他のお客さまを待たせる必要の無い場面だったので、面倒がらずにやって良かったと思う。
●イマイチだった点

①よく理解してもらうことに重きを置きすぎて、短時間で説明を終える工夫に至れず、過去シーズンより下手だった気がする。
(初心者ツアーで、2日間の中に伝えたいことをギュッと詰め込むのは、かなりの難題。)

②強風の日にお鉢巡りを決行したが、帰りの大沢崩れ上部通過のリスクが高かった。
・添乗員さんが耐風姿勢が甘かったことに強風帯を抜ける頃に気づいたため、ヒヤリハット体験の気持ちになった。
・そもそも、風向きを考えると、お鉢一周ではなく剣ヶ峰往復にすべきだった。
・耐風姿勢よりも帽子が飛ばされないことに意識が注目してしまう人がいたので、帽子を脱がせてスタートすべきだった。

③ツアー終盤に話している「できれば、これを機に登山や運動習慣を!」という話の反応が、過去シーズンよりも悪かった気がする。原因は、歩き方の姿勢矯正の話とかまで踏み込んだ結果、話が難しくなったり、実現可能性が遠のいたためと思われる。

④いつもながら仕事の合間に余裕はなく、博物館などに行けたのは初仕事の前日だけだった。後は、ネット調べや、他のガイドから聞いた知識で、わずかばかりの観光ガイドの補強をした程度。
オフシーズンに勉学モチベーションが上がらないことが最大の問題・・・。
同様に、仕事の合間にクライミングジムに行けたのも、3週間で1回だけだった・・・。

⑤高齢層が多いツアーで寒い日に、トイレマネジメントが全く上手く行かなかった。
休憩の最後に、やっぱり今からトイレに行って良いですか?という人が現れる。トイレが2時間無いセクションで、「トイレ我慢できないんです。」という人が現れる。などなど。
水分補給量が増やせた、他に色々とアドバイスする項目が増えたためお客さま目線でトイレマネジメントの優先度が下がった、などの可能性あり。
●興味深かった点
①経験の多いガイドと2人仕事ができて、単純なダメ出しではないレベルの議論ができたこと。

例)
・(弱めのお客さまを何とかしてでも)全員登頂を目指すこと、ツアー中の個別ケアの限界、時間の制約を、その日の具体的事例の中で。
・ツアー運行や説明で、あえてやっていること、あえてやらないでいることの意味。
・各自のガイドスタイルのメリット、デメリット。

※新人教育とかを話し合う機会はあるが、ガイド個人技の悩みを共感できる機会は、意外と少ない。

②吉田ルートから登り、富士宮5合目に下山するという、縦走形式のツアーで、富士山を少し別の側面から見られたこと。

例)
・山頂宿泊小屋の雰囲気
・リタイヤの出しにくさを実感(初心者が多く、高山病も多い富士山で、リタイヤを出しづらいのは非常に厄介な問題。)
・夏山期間中の御殿場口と富士宮口の雰囲気(山小屋、ガイド、登山道、など)
変わりゆく富士山というのも、実感します。

10数年前の大混雑時代(1日あたり7,000〜12,000人)を知っているガイドは、
●多少荒っぽくても山頂御来光に間に合わせること
●時短の技術
●40人ツアーを1人でガイドすること
などが最低条件で、この上に各自の個性がありました。

とにかく荒っぽい時代で、他の小屋のガイドから怒号が飛んだり、山小屋の人から怒鳴られたりも頻繁にあり、とても平成とは思えない雰囲気でした。

その後、世界遺産登録やスバルラインのマイカー規制の影響なのか、年々と登山道は空いて行きました。
さらに、コロナで山小屋の宿泊者数を絞ったことも重なり、去年と今年は、1日あたりの登山者数は1,000〜3,000人程度です。
ツアー上限も30人が主となり、2人ガイドもメジャーになりました。
登山道も山小屋も余裕が生まれて、山頂直下の渋滞もごく限定的です。

だからと言って、世界文化遺産の広報とばかりの観光ガイドが好まれるかというと、また少し違う気がします。

●天候が悪い日も多く、並の登山ガイドよりもシビアに天候判断やお客さま説明を経験する
●程度の差はあれ、高山病の症状はほとんど毎ツアーある
●同じ旅行会社ツアーでも、参加者層が高齢化、登山未経験者化していく傾向を感じるため、全員登頂のハードルが上がっていく
●持病や軽い怪我を含めれば、ガイドが初期対応する事案も多い

大混雑時代でなくなったとは言え、やっぱり若手ガイドが
・20〜30人という人数
・時間通りの運行
・全体説明
・山小屋やガイド同士の調整
などに脳のキャパを大部分持っていかれるのは、昔と同じかなぁとも思います。

個人的には、天気や状況次第で、臨機応変にやること・説明内容を変えられる裁量が、ガイドの面白さでもあります。
そういう意味では、時代の変化は感じつつも、普段はツアー毎・天気毎の臨機応変の対応に追われて毎シーズンを終えています。

つくづく富士山は、短い期間に凝縮された人生経験の宝庫だと思います。

2024年6月3日月曜日

スポートと山っぽい場面でのムーヴ、登り方そのもの、ビレイ、プロテクション戦略、などの考え方

7月、8月の予約受付は、6月5日(水)の21時スタートです。
念のために再掲します。

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表題で言うスポートは、ボルトルートのスポートだけでなく、ジムリード・ジムボルダーをイメージしています。
落ちるまで手を出すことが善、とされる環境です。

一方で、山っぽい環境は、沢登り、本チャン、ゲレンデ的なマルチピッチではあるがプロテクション状況などから考えて、落ちるまで突っ込まずにダメそうなら戻るべき場面、などです。

ボルトルートやクラックのショートルート(1ピッチのルート)、ボルダーでは、実際には上記2つの状況がどちらも出てくると思います。
ボルトルートではグレードの割に核心部でないと判断されるセクションにボルトが無いことが多々ある、クラックでもプロテクションが悪いセクションは多々ある、プロテクションはあっても振られ落ちなどで激突必死な場合、など。

今回は、簡潔に書くことよりも、何度も重複しながら書いていきます。
同じ話を何度も書くのも恐縮ですが、色々な角度から話すことで、ようやく伝わることもあると感じる日々です。
<掃除講習@瑞牆>

さて、まずは一般論を抑えておきましょう。

①スポートでは、原則として落ちるまで頑張るべき。
②山っぽい場面では、落ちない方が良い。特に、落ちたら絶対に大怪我or死亡につながる場面も多い。

ゆえに、スポートではダイナミックムーヴが頻出します。

山っぽい場面では、もし次のホールドが欠けたら、もし次のホールドが持てなかったら、などを考えると、ちょっとしたデッドポイントすら極力避けるべきとなります。
さらに、山っぽい場面では、戻れなくなって「行くしかない・・・」という特攻隊になることを避けるべきで、行きつ戻りつできるムーヴ選択が大原則となります。
このため、スタティックムーヴ、レストなどを学ぶことが中心となります。
では、例えば以下のような質問にどう答えますか?
「私はマルチをやりたいから、落ちる必要は無い。だから、ジムでも落ちなくて良いですよね?」

私の経験から言って、これは間違いです。
理由を、何点か挙げてみます。

●落ちるまでトライすることで、ムーヴが理解できてくる。余裕があるグレードを、山っぽい登りで極めて慎重に登る練習だけで、クライミングのムーヴを理解していくのは、ほぼ不可能。

●落ちることによって、ビレイ技術・落ちる態勢・墜落距離の予測、などが上達していく。マルチなどであっても、落ちた場合のリスクは状況によって大きく異なる。そのリスクレベルを把握した上で、どこまで慎重な行動を取るべきかを判断するべき。

●落ちることで、スポートとしての楽しみ方が実感できてくる。本気のオンサイトトライ、ボルダーで何度も落ちてムーヴを解決していく、など。これにより、ジムクライマーともセッションが可能になる。

●落ちることで、クライミングの上達がしやすくなる。結果、山のための義務的なクライミング練習が、それ自体楽しくなってくる。
別の言い方をしてみます。

「落ちないとスポートが楽しめないし、上達もしない。結果、練習が嫌になってジムから足が遠のく。また、ビレイも落ち方も、リード中のリスク予測も、全部がフワフワしてしまうので、その状態で山っぽいクライミングとか、危ない。」

落ちない人のビレイは信用できない、落ちない人のカムは信用できない、なんて言い方をする人も居ます。
<GWは、狂祖様とボルダー>

講習生などからの質問の形に落とし込んでみます。

「山では戻ってテンションなのだから、ジムでもそうして良いですよね?」
「山では落ちちゃいけないのだから、ジムでは他のホールド使ってチョンボクリップしても良いですよね?」

どう思いますか?
<この日は、野猿谷>

もちろんダメだと思うのですが、山っぽいクライミング以前に、ジムですらダメなトップローパーも多いです。

例えば、ジムでチョンボクリップをしまくっていて、R.P.トライになるとロープが足に絡んでいる人、リハーサル済みで安心していることを良いことにランナウトしている人、下部のビレイがダラダラの人、などは散見されます。

要するに、「落ちそうもなければ何やっても良いのか?」という問題があります。
<ダイアナをトライする狂祖さま>

では、「岩場でも落ちそうもない時にランナウトしちゃダメですか?」という質問があります。

例えば、クラックでは、常にどこでも落ちて良いようにプロテクションを取り、全てのセクションで固め取り推奨。
ボルトルートでは、「落ちてはいけないセクション」が存在するルートはトライせず。
マルチピッチや沢登りには行かない。
という話になります。

これも、現実的では無いです。
やはり、「落ちてはいけないセクション」なりのスタティックムーヴ、行きつ戻りつ、丁寧さを習得しつつ、なるべくカムなどのプロテクションを決めていくという判断にせざるを得ません。

スタティックムーヴ、行きつ戻りつ以外にも、
・ジャミングが効いていれば、多少身体がブレても落ちる気がしない
・チムニーなどで、多少足が滑っても落ちる気がしない
などの判断でランナウトを許容することも、クライミング界では一般的だと思います。
<インバージョン>

また、「戻れるムーヴなんて、無理じゃない?それに、自分が選択したムーヴなんて覚えられませんが。」という諦めに似た意見もあると思います。

これは、僕の講習を実際にしつこく受講していただかない限り、現実的に可能であることが伝えられないと思います。
僕は、スタティックムーヴを含む様々な基礎練習してから、本気トライを行うというのが、ジムでのルーティンです。
<動画撮影のため、落とし止めの細引きも活用>

「山をやりたいんで、ボルダリングはやらなくて良いですか?」という質問もあります。
やりたくないので、講師に「やらなくて良いですよ。」と言って欲しいだけの会話にも感じますが・・・。

当然、やった方が良いです。
ただ、取り組み方はある程度考えて、控えめに取り組んでも構いません。

ボルダリングをやった方が良い理由。

●一人でジムに行く習慣が付き、練習を継続しやすい
●リードだけやっていると、テンション癖、チョンボクリップ癖などが付きやすい人も多い。その是正になる。
●フォール姿勢、現在の高さを嫌でも考える。
●初級リードクライマーが嫌がるムーヴに対して、抵抗が減る。(距離出しデッド、ヒール、ちょっとだけランジ、などなど)
●ウォームアップなどで、スタティックムーヴの練習をゆっくり行うのは、リードでパートナーにビレイされて行うよりは、遠慮しなくて良い。ジムの混雑状況にもよるが。

一方で、たしかに難しいと思われる点もあります。

●ジムによっては、終了点付近で落ちると本当に危ない。脚力がしっかりしている人なら、足から着地できれば問題ない、ぐらいの高さ&マットの堅さに設定されていることもあり、自分の脚力や落ちる姿勢のコントロールなどをよく考える必要がある。場合によっては、「ガンバ!」と言われてもトライを諦める必要もある。

この点から、やや低いボルダリングジム(あるいは壁面)を選んだり、リードで落ちられるようになることを優先課題としてボルダリングは将来の課題とするなど、その人なりの上達過程への判断はあっても良いと思います。
特に、年配になってから山っぽいクライミングを志す方、足を怪我している方などは、考慮して良いと思います。

しかしながら、ボルダリングをやらないリードクライマーは、ムーヴ分析が荒く、ひたすら言い訳が多いという苦言は書いておきます。
<レスト日に数学書を読む人>

「山っぽいクライミングだけやりたくて、ボルトルート、クラックはやりたくないんですが、良いですよね?」

これも、実質的に議論済みですね。
ショートルート(1ピッチのルート)の方が落ちる確率が高いので、ちゃんとしたリード技術・ビレイ技術が身に着きます。
ムーヴも、よく考えます。

グレードを上げることよりも、むしろこちらが目的なのですが、グレードが上がらないとモチベーションが下がりやすいというジレンマもあります。
実際、岩場で5.10aぐらいを頑張ってやっているグループで、トライや練習がグダグダでない人達を見つける方が難しいので、せめて5.○○までは登りたいみたいな気持ちも理解できます。
<肉離れのため、最終日はトライを諦めて易しい課題で基礎練習する狂祖さま>

「山で使わないから、コーディネーションはやりたくありません。」

これは、ちょっと微妙な問題です。

メリットとして
●デッドなどの軌道が良くなるため、リード上達への寄与がある。
●転石渡渉など、原理的には易しいコーディネーションというケースは山でも存在するため、身体で理解することが役立つ場面もある。
●ジムボルダラーと一緒にトライできるため、自分は違う目標を掲げてジムに来ていたとしても、一緒に楽しめる。
などが考えられます。

ただ、デッドが全くできないことで落ちるまで頑張れない人に比べると、遥かに傷は浅いように思います。

経験上は、「〇〇に関する練習は、やりたく無い。」などと頭が固くなるとどんどん年寄り臭くなっていくので、なるべく嫌がらない方が良いです。
一方で、ある程度のレベルまでは、練習への優先順位は下げても良いかなと思います。
<これは、ちょっと基礎練習の範疇を超えているような(笑)>

「デッドは嫌いなんで、練習しなくて良いですよね?」

前述の通り、山屋にとってもコーディネーションよりは不味い弱点だと思います。
<本日は、一人で野猿谷>

「岩場のボルダリングまでは、手を出さなくて良いですよね?」

本当はやった方が良いとは思います。
テンション癖、他のホールドでのチョンボクリップ癖、トップロープリハーサル癖、などが全て使えない環境です。
マットを使ってもジムよりは下地が悪いケースが多いので、嫌でも着地姿勢も考えます。
また、落ちてはいけないセクションも多く、山っぽいクライミングと大差ないと感じる場面も多いです。

山でのクライミングを学ぶ上で、ムーヴ面に関しては最善の練習環境とすら思えます。
また、スポートとしてクライミングを上達する(雑に言うとグレードを上げる)ためには、ボルダリングが最も効果的です。

一方で、マルチピッチや沢登りを楽しみたい初心者にとって、あまりにも遠い遊び方に感じてしまう気持ちも理解できます。
それに、岩場の8級って結構難しいです。

これらから、初級者が練習方法として優先順位を下げるという選択肢はあると思います。
「本当はやった方が良いけど、まだ今は良いかな。」ぐらいの話なら、頭が固い人にならずに済みます。
<この課題を、レイダウンスタートで遊んだ>

こういう話って、クライミングに後ろ向きになっている人には、いくら話しても追い詰めるだけです。

本当はやった方が良いことに対して、
「〇〇しなくても良いですよね?」
と聞いてくる時点で、私は厳しいことを言うか、嘘を付くかの2択を迫られます。
経験上、ボカしてスルーすると、変な勘違いを生むので、最近は「今の時点で完璧にやれとは言わないけど、本来はこうですよね。」と言う話し方にしています。

山のために、半ば義務的にクライミングを始めるというケースは数多いと思いますし、私も学生時代はそうでした。
そういう人間が、こういったことを達観するまでに、どれぐらいの時間が必要なのでしょうか?

もちろん、時間だけではダメです。
「練習してみてメリットを実感できた。」という積み重ねが無ければ、経験を積んだとは言えないからです。

真面目にやって、何年ですかね。
途中に嫌気がさしたり、サボったり、逆行した悪癖が付く時期を勘案すると、何年ですかね。
<野猿谷も、場所によっては綺麗です>

一人でも多くの方に、私なりの考え方が伝われば幸いです。

一方で、ムーヴ講習とか落ちる練習とかに参加していただかないと、実際には身に付かないとも思います。
文章で観念的なことだけを学んでも、メリットを実感できないと経験は積めないと思うのです。
<もはやハイボール?まずは下降路を登りクライムダウンし、次いで上部が易しい課題だけを選んで登った。>

<滝>

<こちらは、トポに無いクラック。5トライぐらいで完登。>

<たまたま、一人で登りに来ていた講習生と遭遇>

2024年6月2日日曜日

7月、8月分の予約受付

ここ1ヶ月くらいは、ほとほと色々ありました。
現時点では、関係各所のことを思うと書きづらいことが多いのですが、本当に皆さんお疲れ様です。

自分のクライミングでも、久々にボルトルートの5.12aをオンサイトできたりしたのですが、それが3時間トライとなってしまい、ビレイヤーには大変なご迷惑をお掛けしました。
この辺の顛末に関しては、また書こうと思いますが、まさに1つ前のブログに書いた最もハマりやすいパターンの1つでした。
パートナーも2時間トライ(オンサイトトライであれ、ハングドッグであれ)をちょくちょくやるタイプなので、お互い様感があったのが救いでした。

6月5日(水)の21時より、7月、8月分の予約受付を開始いたします。
例年通り、7月は3週間ほど富士山ガイドに入りますので、講習できる日程が少なめとなっております。

また、7月2日(火)は諸事情により岩場リード講習で確定させていただきました。

平日のジム講習は、火木がDボルダリングプラスリード立川、水がランナウトを基本といたします。
ただ、これまで通り、一番最初に予約される方に強い希望があれば変更も検討いたします。

ではでは、どうぞよろしくお願いします。

2024年4月25日木曜日

オンサイトトライ時の「行きつ戻りつ」

6月の予約受付は、4月30日(火)の21時スタートです。
念のため、再掲。

レストポイントから核心部を探り、再度レストポイントに戻る、という方法があります。

リードのオンサイトトライが、最も頻出する場面ですが、ボルダーであっても一部有効な場面はあります。
マルチピッチ、沢登り、冬期バリエーションなどでは、これができないと死亡に直結するとさえ思います。
<クラックリード講習@城ヶ崎>

私は、本当にしつこくやる方で、岩場でのオンサイトトライが2時間に及ぶこともあります。

理由は、2つ。

・オンサイトトライを大切にしたいから。
ことリード技術に関しては、オンサイトに拘った上で、その上達方法を真剣に検討しないと上手くならないと感じています。オブザベ、省エネ技術、戦略、駆け引き、リスク計算、などなど。
グレード自体はレッドポイント主体の人でも向上しますが、あくまでリード技術という観点に絞って考えるとオンサイト技術で見るべきかなと考えます。

・本当に危ない場面も多い。
マルチピッチは当然としても、ショートルートでも「落ちてはいけないセクション」は、本当に多いと感じています。ここで、戻れないムーヴで突っ込んで、次のボルトにクリップできたから結果オーライ、みたいな登り方は、もはや心が受け付けません。
クリップの直前一歩だけを、「絶対に行けばクリップできる」と読み切って勝負をかけるのは、ボルダーの怖いマントルみたいなもので、仕方ない場面もありますが、極力避けたいです。

これは、プリクリップ問題にも直結する話です。
スタイル問題は、リスクをやせ我慢するのではなく、こういうことを真剣に考えた方が良いと思います。
<名張に行ってきました>

さて、この問題に関して、3つの論点を挙げてみます。

①そもそも行きつ戻りつが苦手な人は、どうすれば身に付く?

②現実的に、許容できるトライ時間は?

③効率的な行きつ戻りつで、時間短縮は可能か?
<苔男で、行きつ戻りつする桂くん>

①そもそも行きつ戻りつが苦手な人は、どうすれば身に付く?

まず前提として、「行きつ戻りつがどうしても嫌い」だという人は、無理にやらなくても構いません。
ジムのようにボルト間隔が近いルートなら、困ったらテンションor潔くフォール、で良いんじゃないでしょうか?
実際、コンペを見ていても、それに近いスタイルで上位になる選手も居ますので、我々一般レベルではどんなスタイルであれグレードに伸びしろはあります。

ただ、「落ちてはいけないセクション」があるようなルートは、きっと苦手になるでしょうし、すぐにチョンボしたくなるでしょう。
「チョンボしないけど、リスクをやせ我慢しているだけ」というのも、いただけませんし。

あとは、行きつ戻りつと土壇場の頑張りをミックスさせたような至高のオンサイト体験は、一生できないかもしれません。これは、グレード的には5.10レベルでも十分に体験できるので、本当はオススメしたいです。
<行きつ戻りつ>

次に、行きつ戻りつができるようになりたい人です。

ジムや岩場で見かけた人、講習生などを見るに、いくつかのパターンがあります。

・そもそも、足がデッドポイントっぽい感じで、戻りにくそうなムーヴ構成をしている。
   →手だけでなく、足のスタティックを考えた方が良い。

・ノーハンドレストできるテラスから数歩上がって戻ることも、全く意識にない。
   →完全回復できそうなのに、おそらくは意識が無い。ビレイヤー、周りに申し訳ないという気持ちもある。単なる「せっかち」な場合も多い。

・垂壁の大ガバなのに、戻らない。
   →そこで回復できる自信が無い。結果として、戻らないことが常態化している。

・微妙なレストポイントに、戻らない。
   →ここまで来ると、さすがにレスト技術の差が顕著になり、戻っても回復できない人がいるのも理解できる。

・レストポイントからの数手(数歩)を暗記しないと戻れなくなるパターンに弱い。
   →暗記しようという意識の問題も大きい。ホールド・スタンスの暗記が重要なのか、ムーヴ自体を暗記しないと戻れないのか?

自分がどのパターンに該当し、それをどうやって改善するかを考えるのが、興味深いところです。
<こちらも、腰を据えてビレイ>

②現実的に、許容できるトライ時間は?

まず、安全上の上限として2時間が妥当だと感じています。

自分自身や、これまで一緒に登ってきた「行きつ戻りつを積極的に行うタイプ」のパートナー
5人程度を思い返しても、集中力切れ・喉の乾き・シャリバテなどを引き起こします。
クラックなどで順調に登っても40分以上掛かりそうなロングルートを粘りに粘ったとしても、2時間後に核心を突破できていないなら、まず無理でしょう。
マルチピッチなどのリスクあるピッチのリードでは、この時間を越えることは、判断力の大幅な低下を招いていると感じます。

もちろん、「核心を越えてから5.10台が続いて、慎重に行けば登れちゃうだけに2時間オーバー。」とか、「粘りに粘った挙げ句、ハングドッグになってしまい、クラックなどでカム残置もできないのでトップアウトorエイドダウンで2時間オーバー。」とかも、考えられます。

状況的に仕方ないこともあると思うのですが、本人にもストレスが大きく、ビレイヤーからも泥仕合に見えるので、なるべく避けた方が良いです。
それでもやってしまったら、軽めでも良いので謝罪します。
<サキサカ1P目の桂くん>

次に、ビレイヤーの集中力です。

これは、そもそも素晴らしいビレイは10分程度が限界じゃないかと思います。
レストポイントから出発するときに「行きます!」の声がけをすることで、レスト中はビレイヤーに休憩してもらう、などのメリハリが必要です。
ただ、ビレイヤーが行きつ戻りつのビレイを面倒だと思っていそうだと、「行きます!」と言っておいて、やっぱり戻るのを繰り返してしまうのが、お互いにすごくストレスになります。
(「行きます詐欺」をやっている気分になる。)

グリグリなどのブレーキアシストも、やはり有効だと思います。
<このままBlueまで繋げるつもりだったので、ギアも重い>

最後に、ビレイヤーや周囲への迷惑です。

これは、本当に人によるし、場面にもよると思います。
ビレイヤーも行きつ戻りつを積極的に行うタイプで、順番待ちも皆無なら、問題ありません。
そうでなくても、その頑張りを応援してくれる雰囲気があるのなら、問題はありません。

ただ、順番待ちでイライラしがちな岩場というのも実際に存在します。
ビレイヤーが行きつ戻りつをそれほどしない場合は、どこまで許容できるタイプか見極める必要もあります。
③効率的な行きつ戻りつで、時間短縮は可能か?

行きつ戻りつに肯定的な私ですが、とはいえ闇雲に行きつ戻りつをするのも考えものです。
行きつ戻りつは行うが、少ない回数で正解を導きたい、というのは当然の願いでしょう。

主には、
・マルチピッチなどの時間制限がある
・微妙なレストポイントなどで行きつ戻りつを数回はできるがそれ以上繰り返すと核心ムーヴが成功しなさそう(核心前に、ほぼ確実に無限レストポイントがあるのは、低グレードのみ。)
・周囲への影響から、長時間トライは、1日に1回以内に留めたい(長時間ハングドッグと、似た構図?)
といった状況が考えられます。

例1)
地上やレストポイントから、核心部のホールドが全て確認できる場合。
その場合、ムーヴの選択肢がいくつか浮かびます。
そのムーヴの導入部分だけを行きつ戻りつで何パターンか試し、ゴーアップする、というのが理想です。
これならば、2〜5回程度で発進できそうです。
ジムリードのオンサイトトライなどで頻出のパターンですし、コンペを見ていてもリードが強い選手は行っています。
ジムの場合、5.11以上のオンサイトトライで核心前で無制限にレストできる、というケースも少ないので、この技術が肝になります。

※講習生は、これが苦手な人が多いです。オブザベ能力の問題でしょうね。

例2)
ホールドの掛かり、ホールドの場所などの確認をしてからでないと、ムーヴの選択肢が絞り込めない場合。
岩場のハング越えなどに頻出です。
残念ながら、可能な限りホールドを触りに行き、戻って作戦を練り直すことになります。
かなり時間が掛かることもあります。

※ハング下のレストポイントに入ったときに、「ハング上をオブザベできる場所で、なるべく見ておくべきだった。」と後悔することが多いので、注意しておく。

例3)
プロテクションを先行させるために、一旦クリップしてから、また戻る場合。
特に厄介なのが、カムセット態勢に難航してしまい、疲れて何度も戻るパターンです。
さらに、カムセットした挙げ句、その場所がムーヴに干渉してしまい、別の場所にセットし直すこともあります。
大抵の場合、ここで少しでも高い位置に固め取りしたい場面でもあり、作業は難航しやすいです。

※プロテクション先行→固め取り→ムーヴ干渉、というパターンは、超頻出だと理解しておく。

例4)
落ちてもギリギリ怪我はしなさそうな状況に思えるが、かなり際どいフォールになりそうなので、99%落ちないムーヴを探したい場合。
ギリギリでテラスに届かないであろう、振られ落ちだが隣の壁にはぶつからないであろう、このカムなら何とか止まるであろう、などなど。
この場合、命が掛かっている感覚になる。

※僕が2時間トライになるパターンとして、これが特に多い。絶対に落ちられない状況の方が、可能・不可能という判断も下しやすい。
「99%は落ちて怪我しないのなら、99%落ちないムーヴならばリスク許容できる。」という状況だと、時間を掛けただけ成果が出やすいため、悩ましい。

例5)
ライン取りが複数考えられ、ルートファインディングに迷った場合。

※効率的に複数ラインを試すために、色々と頭を使う。
例1)に近い状況で、10〜20回も行きつ戻りつしていたら反省すべきでしょう。

一方で、例2)+例3)、例2)+例4)といった悪条件が揃った状況では、もはや作業を終える時間が読めなくなってきます。
こういった中で、私が意識していることは以下になります。

①ハマりそうなルートは、たとえグレード的に易しくても、アップ無しで極力取り付かない。
「ロングルートだし、下部は易しいから登っているうちに暖まるよ。」などとパートナーから勧められがちなので、要注意。
アップが終わってからトライするだけでも、30分以上もトライ時間が変わることもある。
周囲にアップルートが無く、仕方ない状況もあるが。

②行きつ戻りつを始めたら、今自分が置かれている状況を頭の中で整理する。

例1)ムーヴ選択の最終絞り込み
例2)ホールドの位置、掛かりの確認
例3)プロテクション先行(ムーヴとの干渉注意)
例4)確実なムーヴの必要度合い
例5)ルートファインディング

これにより、作業を着々とこなすように意識する。

③ビレイヤーが不快に感じている可能性、自分自身への不甲斐なさ、などが押し寄せてくるが、その感情を客観視する。
この場面では、トライを止めるか、時間を掛けるかしか無い・・・。

④粘りに粘った挙げ句、登れずにテンションした場合の展開(大迷惑シナリオ)も念頭に入れておく。
ボルトルートなら、ハングドッグせずにロワーダウンすることも考慮。
クラックなら、ムーヴ解決は捨てて、すぐさまトップアウトorエイドダウン回収に移行することも考慮。
フォール後に、ビレイヤーと相談する。

どれだけ意識してもハマるときはあるんですが、それを承知で色々と思考を巡らすのが人間かなと思います。
<マルチピッチリード講習@三ツ峠>

名張で登った主なルート

1日目
苔男(5.11a、フィンガー系) フラッシュ
サキサカ1P目+Blue(5.10a+5.10a、フィンガー〜ワイドまで盛り沢山の45m) 後半部分はO.S.かな?

2日目
大魔神の逆襲(5.11a、ハンド系と見せてフェース系) O.S.
   まさに、これで執拗な行きつ戻りつを行いました。1時間30分ぐらい?

3日目
レスト

4日目
ムササビ君の休暇村(5.10b、ワイド系) O.S.
   限定せずに登りました。
   これは、我ながら効率的な行きつ戻りつが出来たと思う。







<アドバンスクラック講習@野猿谷>