2012年1月27日金曜日

ヒヤリハット体験

1月25日(水)は、自分の山行にて八ヶ岳。
K口さん、女子登山ガイドツアーを主催していることで最近有名になったFEWの渡辺ユッキーさん、と行ってきました。
登山やクライミングは、危険は付きものです。
実は今回、相当「ヤバイ!」って思いました。

しかし、実際には事故には全く繋がらず。
いわゆる、ヒヤリハット体験というやつです。
この言葉の裏には、「1回事故があったら、その背後には9回のヒヤリハット体験がある」というメッセージがあります。
つまり、「事故に遭う人のほとんどが、そのヒヤリハットを見落として来たのだ」という理屈です。

登山では
・一瞬、滑落しそうになる瞬間

スポーツクライミングでは
・たぐり落ちしたけど、事故にならなかったとき

マルチでは
・ロープワークの致命的なミス(セルフビレイの取り忘れ、など)

なんかが代表的です。
それぞれ、
「確率は0にならないけれど、事故を減らす努力が足りなかったんじゃないかと自分を疑いなさい!」
って、警告と受け止める訳です。

今回が、どのくらいヤバかったかについては後述いたしますが、専門用語を沢山使いますので、ご容赦ください。
・場所
八ヶ岳石尊稜の右側壁
(一般的なラインでは無く、適当に登っていた)

顕著なリッジラインの2P目
(ボロ岩だが草付き豊富、という感じ)

・状況:一瞬、リードで落ちかける(というか、よく止まったというレベル)

これから垂壁のマントル的な乗り越しがあり、ダブルアックスを緩傾斜の草付きに刺している。
が、バランスも悪く、マントルするにはアックスの効きも甘いので何度も振り直す。
しかも、そこまでのプロテクションがイマイチだったので、とても心配。
安定したムーブを探りに探っている最中。(イボイボを、足下2mくらい下、その4mくらい下に甘めに決めた状態)

そのとき、アックスを振っていたら、保持している側のアックスが感触もなくすっぽ抜ける!
「エッ!?」という感じで、体はゆっくりと壁から離される。

その瞬間、アックスを手から離し、マントルしようと思っていた胸元左くらいのパーミングガバに渾身のデッド!
気合いで振られを止めて、事なきを得る。
「あっっ!ぶねー!」と、渾身の吠え。

(あとで聞いたら、パートナーも僕が壁から離されるのが見えて、「落ちるな」と思ったらしい。)

ちなみに、この日はシーズン最高レベルの大寒波で、大怪我をしたらレスキューされている間に死にそうな日。
しかも、ビレイ点も100%の信頼度ではなかったので、最悪のケースもあり得た。

しかも、悪いことにこれで完全にビビって脱力が難しくなった上、振られを止めたときにスタンスが欠けてクライムダウン敗退がさらに困難に。

「このマントルさえこなせば、少なくとも敗退できる支点はありそう」と踏んで突っ込んでいたので、必死に脱力してレスト。
あとは、数分だけ素手になったりしながら、ようやくマントルをこなす。

そして、なんとか支点を構築して敗退。
反省点
・草付き混じりの雪壁にアックスを刺していたのだが、抜けたアックスは草にはほとんど絡んでおらず、甘い雪に引っ掛かっていた。
・「あのマントルさえこなせば、大丈夫そう」と思って突っ込んだのだが、そもそも、これがこの日の天候の割には死亡リスクが高過ぎた。
自分の実力からすれば、2P目の途中で、敗退すべきだったかも。
・実は、マントルムーブのあとも、1mほど相当悪くて焦った。
「ヒヤリハット」の後に、頑張ってクライムダウン敗退した方が安全率が高かったかも。
具体的な行程
5:15 美濃戸を出発
7:30 阿弥陀北西稜(当初予定)の入り口
    準備しているうちに、本日の寒さを実感、風の強い北西稜は不可能と判断。
9:00 石尊稜へ行く入り口の橋
10:30 石尊稜lの右側壁をクライミング開始
 1P目(石田リード、55m、Ⅳ級):見た目以上にボロ岩。草付きと灌木だのみで、だましだましのクライミング。
 2P目(石田リード、15mで敗退。Ⅳ級+):こちらは、1P目より簡単そうに見えたが、さらに悪かった。
例のヒヤリハットを体験し、敗退。

15:00 取り付き
17:30 美濃戸 

いやあ、アルパインクライミングは本当に危ない!
正直、帰り道もモチベーション落ちまくりでした。
実際、ヒヤリハット体験や友人の死亡事故で、クライミングをやめる人も多いくらいです。

ただ、小さな冒険に多少の危険が付きものであることも事実。
今後は、今よりレベルを落としたりしつつ、もう少し慎重にやっていきたいと思います。

2012年1月26日木曜日

クライミングガイド?クライミングインストラクター?

1月24日(火)の昼は、ランナウトにてジム講習。
本日は、新規の女性ODさん、女性KMさん。

お二人とも、他のガイドを何人か経験して、「クライミングの基本だけは、別の人に教わりたい」と考えての問い合わせでした。

以前にも書きましたが。
山岳ガイドの主たる能力は
・安全管理
・登頂させること
・ある程度の接客(楽しませたり、最低限不快な思いをさせないように)
にあります。

それに比べて、ジムでの講習は真逆に近い。
安全管理はあるにはありますが、冬山バリエーションなどのそれに比べれば100分の1です。
むしろ、お客様も「自分が上手くなるか」だけてインストラクターを選んでいるでしょう。

ぶっちゃけて言ってしまえば、ガイドは必ずしも教え好きとは限らないって訳ですね。

そこで、山屋さんの中でもフリークライミングは専門のインストラクターに習う方もいます。
そういう意味では、僕みたいな中間型も重宝されたり。

ガイドとお客様が徒弟制度っぽかった時代から、文字通り「お客様がガイドを上手く利用する時代になった」ということかもしれません。

ただ、この2人が今までガイドを受けてきた方々は、ガイドとして僕より遥かに優秀な方々です。

どうして優秀だと断言できるかに関しては、別のネタとして、またの機会に話すとしましょう。

具体的な講習内容
・登る前の安全確認(ダブルチェックを、声だし指さし確認でやるのがオススメ)
・ATCなどを落とさないように扱うコツ
・ネコ足
・肩の脱力
・オープンハンド
・チョークアップ
・レスト

講習で扱う内容は、すぐにはグレードに現れません。
講習では、突破力よりも省エネや丁寧さを中心に扱いますので。

ただ、この基本が後々に活きてきますので、しばし頑張っていきましょう。

2012年1月24日火曜日

無料体験講習会のリマインド

今月の無料体験講習会は、1月31日(火)になります。
昼の部は15時から、夜の部は20時から。

全くの初心者の方、講習選びで迷っている方は、もちろん歓迎。

すでに講習を受けられた方のパートナー探しにも、是非ご利用ください。
余裕があれば、ワンポイントアドバイスもいたします。

詳しくは、ホームページにも記載があります。

参加希望の方は、なるべくメールにて御連絡ください。
特に、初めて参加される方は、連絡先などを伺うためにも必ず連絡お願いします。

2012年1月23日月曜日

足尾、松木沢黒沢でアイス

1月22日(日)は、牛社長の付き人。
この企画、講習でもガイドとも言い切れません。
それどころか、当日までどこに行くか知らされないミステリーツアー。

ただ、易しめのアイスクライミングに行くということだけは定例化してきているので、装備の準備だけは楽になってきました。
僕は、無心の黒子と化して付き人になり、ときにはリードするのみです。
さて、本日は足尾銅山で有名な足尾。
一度はハゲ山になってしまったものを、現在は植林しているそうです。

以前も、雪の無い時期に歩きに来たことがあります。
ハゲ山の雰囲気も、そこに至る足尾銅山の歴史も相まって、あまり明るい気持ちになれない山域です。
さて、本日は初心者ゲレンデの松木沢の黒沢に行ってきました。
本当ならロープ無しでも登れそうな滝でロープワークをしていたり、トップロープで初アイスを堪能していたり。

なんだか和気あいあい。
栃木クライマーのホームゲレンデ、と言った雰囲気です。

おかげで、足尾に対する個人的なイメージもちょっとアップしました。
今回も、我々は適当なところで切り上げて、早々に下山。
夕方まで頑張ってる初心者さん、その先輩には、心の中でエールを送りました。
具体的な行動
前日のうちに足尾の国民宿舎かじか荘へ。

6:50 宿を出発
7:40 ゲート下の駐車場を出発
9:20 黒沢出合

F1は、ほとんど歩きで通過

F2は、先行パーティがベルグラと格闘するも敗退している。
どうやら、かなり悪いようだ。
そこで、我々は右から高巻き(体感Ⅲ級、45m。20mの懸垂)

続くF3は、ベルグラ状のナメ滝。ただ、結構厚いベルグラで、アックスを刺す分には快適。
(体感Ⅳ級マイナス、50m。ただしスクリューは全て浅め。)
ナメ滝なので、前日の降雪を払い落としながらの地道な前進。

12:30 下降開始(黒沢は、まだ上にも続いているが)
15:15 駐車場
前日が大雪っぽくて、ほとんど敗退のつもりだった割りには、行動できた一日。
付き人としては、ボチボチでした。

2012年1月20日金曜日

アイスクライミングリード講習(南沢小滝)

1月19日(木)は、八ヶ岳の南沢小滝というアイスクライミングエリアにて、リード講習。
今回は、最近ワイドクラックにはまっている女性TMさん。
アイスクライミングというのは、文字通り氷を登ることです。

沢筋を登って頂上を目指すようなルートなら、途中の滝をクライミングで越えて行きます。
(アルパインアイスルート、などと呼ばれる)

あるいは、今回の滝のように、林道や登山道からほど近くに練習場のように滝だけがあったりもします。
(ゲレンデアイス、などと呼ばれる)

今回は、とりあえずゲレンデアイスの登り方を講習です。
実際の登り方は、両手にアックス、両足にアイゼンを装着し、フリークライミングと全く同じ要領で登って行きます。
それ自体にコツはあるのですが、フリークライミングで5.11くらいが登れれば、トップロープはすぐに上手くなります。

問題は、そこから先。
リードを覚えることです。
アイスクライミングは、岩よりも不確定要素があるため、リードだと思いっきり慎重になってしまいます。
さらに、パンプとの戦いなだけに、慎重すぎると登れません。

しかも、リードはプロテクションセットの時間、場所選びがあるため、パンプとの戦いはさらに厳しい。

しかもしかも!
プロテクションセットそのものが、クラックのカムセット以上に大変!

正直言って、僕も苦手な分野です。
ただ、アルパインを目指すなら、最低限の心得としておきたいところでもあります。
本日は、トップロープでのムーブのコツから始めて、一通りを復習。
スクリューをプリセットした状態でリードしてみたり、トップロープ状態でスクリューセットしてみたりもしました。

相当なドキドキクライミングが堪能出来ました。
最後に、小滝上の緩傾斜帯を初見リード!(Ⅱ級くらい)
あまりの美しさの中を駆け上り、感動して終わった一日でした。
具体的な講習内容
・支点にしているアックスの下に、重心を持ってくると良い(次のアックスが振りやすい)
・短期レストが有効な場面が多い(アックスが刺さったら、ササッと腕を振る、など)
・長期レストしやすい体勢(両足が効いていて、両手のアックスが同じくらいの高さにあるとき、など)
・スクリューセット(壊れにくそうな場所を選ぶ、出だしはセットしてもあまり意味が無い、抜け口は取った方が良い、回し方のコツ)
・疑似リード、スクリュープリセットのリード、などで反復練習。
・Ⅱ級のオンサイトリード!
ちなみに、僕にとっても今シーズンの実質初アイス!
正直、本日の南沢小滝は結構悪い・・・。
朝イチのリードで滅茶苦茶苦戦してしまい、お恥ずかしい限りでした。

とりあえず、アイゼンの前爪を新調して出直そうと反省しました。

2012年1月19日木曜日

ムーブ用語は大事

1月18日(水)の夜は、ランナウトにてムーブ講習。
本日は、ムーブ講習2回目の女性ARさん。

ムーブ講習で扱う内容というのは、大抵はフリークライミングの入門書に書いてあることです。
オープンハンド、脱力、持ち替え・飛ばし等の名称、ピンチ・ラップ等の名称。

初心者が本を読むと
①もともと出来ていないことは意味が分かりません。
(例えば、オープンハンドとか、脱力とか、分からないでしょうね。)

②逆に、出来ていることは分かるのですが、それをわざわざ名付ける意味が分かりません。
(例えば、ピンチとか、アンダーとか、持ち替え、とか名付ける意味が分からないでしょう。)

「じゃあ、本を読んでも意味無いじゃん!」
ってことはありません。

前者に関しては、自信が無いことを意識できただけでもプラスです!
そして、後者だけでもちゃんと覚えた方が良いです。

というのは、用語があれば動きを整理することが出来ます。

慣れた人ならば、
「そこは持ち替えじゃなくて、クロスの方が良いんじゃない?」
なんて会話も日常茶飯事。

中級者ならば、
「そこは順足で行った方が反動は付けやすいけど、逆足で行った方が腰が壁に近づくんじゃない?」
なんて込みいったアドバイスの応酬が期待できます。

一人で闇雲に練習するよりも、上手い人にアドバイスを受けながら練習するのでは、効率が違う訳です。
というわけで、アドバイスを受ける効率を上げるためにも、用語は沢山覚えておきましょう。

具体的な講習内容
・オープンハンド、肩の脱力
・飛ばし、中継、持ち替え、マッチ、クロス、寄せ、といった手順に関する用語
(これを使って、足自由課題をオブザベーションしてみる練習)
・ピンチ、プッシュ、ラップ、といったホールディングに関する用語
・ダイアゴナル、バックステップの2つのフォームを徹底練習

とりあえず、5.8以下の足自由課題を“歩くように”登れるようになりましょう!

2012年1月18日水曜日

錫杖岳、ニュー左方カンテ(敗退)

1月17日(火)は、静岡のOさんという知り合いと、自分のクライミング。
前夜発で、北アルプスの前衛峰の錫杖岳に行って来ました。
この日、予定していたのは、上の写真の中央。
1ルンゼというアイスクライミングルートです。

が、肝心の氷が貧弱な上に、チリ雪崩が凄い日だったので、別ルートに転戦。
右往左往して、最終的に“左方カンテ”というルートに取り付きました。
さて、この左方カンテ。
岩は、小川山並に硬く、アルパインルートとしては最高レベルの快適さを持っています。

以前は、残置ハーケンが多く、夏は初級者にとって最初の本番マルチピッチとして、冬は冬壁の最初の1本として、大人気でした。
ただ、残置にクリップするだけだと、フリーマルチと変わらないという憂いは囁かれていました。

が、まだ残置を掃除するには時期尚早なんだろうと、放っておかれたルートです。

そして、それが近年、残置ハーケンが綺麗に撤去され、ついにリニューアルオープン!
本当にオススメな、アルパイン入門ルートになっておりました。
恥ずかしながら、僕も残置を使ってこのルートを登ったことがあります。
夏も、冬も。

当然、そのときは、それなりに嬉しかったです。
しかし、今時のスタイルに共感を持つに連れ、段々と自分の登山歴から抹消したい記録になっていきました。
(「やっぱ、あれは山に対してフェアじゃない気もするなあ・・・」という感覚)

とはいえ、残置の無くなった左方カンテを、今の自分で完登できるのか?
正直、自信も無くて放置していた課題でした。

そして、何度もトレースしたルートを再チャレンジするのは、やっぱりワクワク感も足りないし。
しかし、本日トライしてみたら、思った以上に面白かった!
プロテクションが取りにくいと言われる核心も、思ったよりカムが効きます!

そして、アイゼン、アックスを駆使した岩登りのムーブも、久々にちょっと楽しい。
また来ようと思います。

夏は、初級者の方々も是非!
岩も硬いし、アルパインルート入門にオススメですよ。

行動記録
5:00 槍見温泉出発
8:00 クリヤの岩屋
9:30 1ルンゼの取り付き(雪崩が危険そうで転戦)
10:00 注文の多い料理店の取り付き(北沢のチリ雪崩がすごくて転戦)

10:30 左方カンテの左の凹各をクライミング開始(ちなみに、これは意図的ではなく、単純に記憶違い)

1P目(Oさんリード):30m、Ⅳ級。見た目より悪い。本格的なチムニー登り。
2P目(石田リード):25m、キノコ雪との格闘(グレード付けがたし!)。雪庇を落としながらの前進。左方カンテ2P目終了点付近に出る。
3P目(石田リード):40m、Ⅴ級。最初、Oさんが行くが、ラインを誤ってしまい、敗退してリード交替。そこから、久々の超本気クライミング。
素手になって、2時間近く掛け、さらにテンションまで掛けながら、ようやくトップアウト。
しかし、大充実。

“ニュー左方カンテ”、思った以上に良いルートじゃないか!

16:00 下降開始
17:00 下山開始
18:30 槍見温泉到着

この日はアプローチのトレース無しにつき、ラッセルだけで半日掛かりました。
ただ、今回は、自分より強いパートナーだったので、7割以上ラッセルしてもらっちゃいましたが。

ちなみに、左方カンテはトップレベルの方々も大好きみたいで、天気が悪くて目的のルートが登れない際に、トレーニングで登っていると伺いました。
吹雪の中、素手にも絶対なれない気温で登るなんて、僕には全く想像できませんが。

初級者からトップレベルまで楽しめる、良いルートですね。

2012年1月16日月曜日

富士塚

1月15日(日)は、富士山の信仰登山にまつわる勉強会。
富士山ガイドの有志で、ちょっと巡ってみました。
今回は、珍しく山の文化ネタです。

富士塚というものを知っていますか?
下の写真がそれで、江戸時代から明治時代くらいに主に作られたもので、東京に多くあります。
高さは10m以上のものから消滅寸前の小さなものまで、神社の境内の隅の方とか、公園の隅の方とかに隠れています。
これ、もちろん富士山を真似て作ったんですが、外見は富士山の美しさが再現されておりません(笑)。

しかし、当時のこだわりは外見じゃあありません!
まず、登山口のあたりには、富士山の溶岩を敷き詰めます。(多くは、本物を持ってきたと言われている)
山頂に、神社を再現するに止まらず、途中の名所旧跡までミニチュアで再現していたり!

名所旧跡というのは、「誰々という神様が祀られている神社」とか、「誰々という偉い方が修行した洞窟」とか、そういうものです。
当時の江戸では、富士信仰登山が大ブーム!
もちろん、江戸から歩いて富士の麓まで入り、そこから歩いて登ったというのですから、過酷なイベント!

そこで、村単位などでグループ(講)を作り、そこで毎年案内をするリーダー(先達)やお金を出し合ったりするシステムを組んだり。
どうにか、この登山を成功させていたそうです。
で、登れない人は当然現れます。
それどころか、江戸時代は女人禁制でした。

そこで、「富士山に登れない代わりに!」と富士塚が建てられたそうです。

そして、「これに登ったら富士登山と同じ御利益がある!」と・・・。
どの程度本気かは分かりませんが。
そして、7月1日の富士山の山開きに合わせ、グループみんなで山開きをやったりもしていたそうです。
知れば知るほどに、かなり本格的にやってたことが分かります。

そして、“登る”という行為そのものに込められた思いの違いも感じられます。

今の富士登山は、スポーツ、冒険、レジャーなんかを混ぜたような感覚です。
山を神様と思う気持ちとは違いますが、ヨーロッパの探検時代的な“征服”というのも、ちょっとピッタリ来ません。
僕にとって、得意ジャンルではありませんが、こういうことも知ってると、また別の角度から山が好きになるかもしれませんね。
実際、富士山ではお客様も興味を持つ話が多いものです。

この日は、午前中は大学の先生を招いての勉強会。
午後は、富士塚巡りでした。

今シーズンの富士山のために、もう少し勉強しておきます。
本で読んでも忘れてしまいがちなので、現物を見たのは良かった!

富士山ガイドの会議

1月14日(土)は、富士山ガイドの会議。

富士山の7月8月というのは、毎日がツアー運行に追われてしまうため、全体会議が全く行えません。
僕の所属する山小屋だけでも、ガイドは50人ほど名前を連ねており、多い日は20人以上が同時に出動しています。

とすれば、大小様々な問題が起こったり、改善案が出たりするのですが、それを話し合うのは全て後回し。
なんせ、7月8月は全員が集まるのが無理なのです。

全体会議は、シーズン終わり(9月頃)と今頃の2回だけ。
あとは、役職ごとに集まる機会があったり、5月と6月は新人採用と研修のために何回か集まる機会がある程度です。

今年も、多くの登山者で賑わうであろう富士山。
それを機会に、山を始める人が増えたら嬉しいですね。

2012年1月13日金曜日

クラック入門

1月10日(火)、11日(水)は、城ヶ崎にてクラック講習。
今回は、常連女性KKさんのマンツーマン講習。
アルパインクライミングを目指すなら、クラックをやっとくべき、という理由は前にも話して来ました。

とはいえ、クラック嫌いな人というのが世の中にはいます。
スポーツクライマーなら話は分かりますが、山屋の中にもおります。

実際に・・・

初心者クラスなら、クラックの必要性を知らない人も多いです。
初級バリエーションを登るくらいの人でも、半数くらいが苦手意識があるでしょう。
ただ、逆に中上級者には、クラックを避けるような人はほとんどおりません。
クラック嫌いは、ほとんどの場合「上手く出来ないから!」という言葉に集約されます。

「カムが怖い」、「ジャミングが決まらない」、「痛い」、・・・。

ジムでのクライミングと比べれば、そりゃあ不快指数は高いですからね。
ただ、その泣き言の裏に「カムもジャミングも、よく分からない!」という声なき声が聞こえてきます。

つまり、
「こういうカムは効いてますよ。それ以外はダメですよ。」
「ジャミングは、これが効いてる感覚ですよ。ズルズル滑ってきたら、効きが甘いってことですよ。」
ってのが、本で読んだくらいじゃあ理解出来ないんです。

それが解消されれば、かなりの人がクラック入門できると思います。
これには、講習がオススメです。
クラック嫌いになる前に、是非とも講習を!
次に、練習するルートが問題です。

初心者が最初に取り付く5.8の、敷居が高いこと高いこと!
クラックの5.8ってやつは、クラックをやっている人には湯河原あたりの5.8より易しいくらいです。

ただ、クライミングのグレードというのは、そのテクニックを持っている人が感じる肉体的な厳しさで付く印象があります。
つまり、そのテクニックに慣れていない人が取り付けば、途方もなく肉体的に難しくなります。

ということは、初心者は5.7以下で練習したい!
(ジムで5.10cくらい登れれば、5.8以上で始めても何とかなります。)
が、そんなルートは小川山・湯川にもほとんどありません・・・。

そんな方にオススメなのが、夏は三ッ峠、冬は城ヶ崎なのです。

具体的な講習内容
エリア:フナムシロック
ルート:名無し(Ⅲ級)、名無し(Ⅳ級)、鬼ころし(5.7)、パープルシャドウ(5.8)

1日目:
・ハンドジャム、フィストジャム、フットジャムの方法
・カムを使ってみる(とにかく、疑似リードしまくってみる)
・カムのセット、やってはいけない集
・鬼ころしをトップロープで一撃!
・掛け替え、懸垂下降での回収の復習

2日目
・疑似リードによるカムセット練習
・Ⅲ級、Ⅳ級ラインを実践リード!
・鬼ころしの再登!
・懸垂下降の実践

無事に効いているという感覚を知ることが出来たKKさん。
ジャミングは、慣れが重要。

少しずつ、慣れて行きましょう。

八ヶ岳で総合力ルート!

1月8日(日)、9日(月)は、冬山バリエーション体験で八ヶ岳の赤岳天狗尾根へ。
今回は、常連女性TZさん。

「バリエーションとはどんなものか、まずは経験したい!」
という熱い要望です。
TZさんは、本当にモチベーションが高いです。
バリエーションと一口に言っても、日帰り装備でクライミングをするルートもあれば、正月の槍ヶ岳のように縦走しながら部分的にロープを出すようなルートもあります。

TZさん、本を見ても全くイメージが沸かないということでしたので、まずは中間。
1泊2日テント泊で、部分的にクライミングが混じるようなルートにチャレンジしてもらいました。
さて、バリエーションの最初の関門は、ルートの取り付き探し。
一般道と違って、道標も少ない。

これは、
・一般登山者が誤って入山しないような配慮
・「バリエーションやる人は、自分で地図読んでルート探すもんでしょ」という意識

から来るものです。
逆に、妙に丁寧に取り付きが案内されていると、なんだか「人に登らされている」という感じがして、クライマーは興ざめするものです。

つまり、地図が読めなければ、入山すらも出来ません。
バリエーションの中では、あくまでクライミングは一部なんです。
さらに、この日はゆっくり11時間行動して、目的のテント場まで歩くという行程。
明け方はかなり寒く、水を凍らさないような工夫や、休憩を手早く出発する工夫が求められます。

そう、この日は全くクライミングはありません!
落ちたら危険という程度の歩きは出てきますが、普通の冬山登山そのものです。

やっぱり、バリエーションは登山が基本なのです。
そして、なんとか風を避けられる場所を見つけ、雪を使って適当に整地。
そこで、テントを張ったら、雪を溶かして水を作ります。
水は、夕朝食に、翌日の行動用まで。

で、この食事やら寝袋も、軽量化しておかないとバテてしまう訳です。

しかも、登山の軽量化というのは経験が要ります。
初心者ほど、「心配だからあれもこれも」と重くなります。

僕も、さして得意ではありませんが、やっぱり軽い方が良いですね。
そして、2日目は曇り強風の中、最初から核心部。
コンディションが悪かったので、講習は諦め、最初から最後までガイディングとなりました。

ガイディングと一般登山がどう違うかというのは、経験しないと説明が難しいでしょうね。
「ガイドが、持てる力の全てをお客様のケアに充てて、お客様の負担を究極まで減らす行動方法」とでも言っておきましょうか。

イメージとしては、お客様は危険箇所の間中、3時間ばかりトップロープに引かれ続けているようなものです。
そして、ダウンを着込みながらも核心部を越え、いよいよ登山道へ!

しかし、例によって登山道が真の核心部!
強風吹きすさぶ中、どうにか赤岳の山頂へと到着したのでした。
そして、その後は夕方までかけて下山。
確実な歩行で、登山道で事故を起こさないように。
さらに、最後までバテないように。

安全圏に着いて、ちょっと一安心。

これで、バリエーションに必要な力が何か、イメージ出来たでしょうか?
具体的な行程
1月8日(日)
前夜のうちに清里駅へ。
3:20 起床
4:25 出発
9:00 出合小屋
15:00 森林限界手前にて幕営開始

1月9日(月)
時間を誤って、夜中に寝坊したと思いこみ、出発しかけて気付く!
そして2度寝した後の記録。
5:50 起床
7:10 出発
9:30 登山道合流
11:00 赤岳頂上(ここには、多くの人が居ました)
16:00 美濃戸口バス停

今回のルートは、八ヶ岳の中では総合力ルート!
本当によく歩き通しました!

それに加えて、TZさんに足りないものも見えて来ましたね。
これが、第2の目的と言えます。
来年は、自分で登るのを目指して頑張りましょう。

2012年1月7日土曜日

講習の速度(飲み込みよりも復習!)

1月6日(金)の夜は、ランナウトにてジム講習。
本日は、山岳会2人組ペアの女性Mさん、男性NKさん。

講習の速度というのは、お客様によって全く違います。

才能があれば速いし、そうで無ければ遅い、というのは当然あります。
その反面、速い人の方が登山やクライミングを楽しんでいるかと言えば、そうでもないでしょう。
なかなか身につかないものをコツコツやることも面白いですし、達成感も倍かもしれません。

ただ、同じ人でも復習いかんによっては、速度は上がるものです。
もともと、講習を受けに来るくらいですから、成長へのモチベーションはあるはず!

講習だけでも、自分で練習するよりは伸びるでしょうが、少し成長速度を上げてみませんか?

例えば
・ムーブを覚えたら、ジムに来て反復練習してみる(それが無理なら、代替案を!)
・ロープワークを覚えたら、家でロープを触ってみる
・講習時に書いたメモを、見返してみる(清書すればベスト!)
・講習前に読んで意味が分からなかった本を、もう一度見てみる

Mさんは家でロープワークを、NKさんはジムでムーブを復習して来たそうです。

「え?それだけ!?」と、思う人も居るかもしれません。
でも、そんなあなたも雪上訓練の後に、自分で雪山を歩く際、帰り際の余った1時間を復習に充てるくらいのマメさはあるでしょうか?
カムセットを習ったあとに、パートナーとカムをチェックし合うような練習時間を設けたでしょうか?

かく言う私も、野外救急法やらレスキュー技術やらの復習は十分でしょうか?

・・・そういうものですね。
復習には、常にハードルがあるものです。

ただ、教える側の印象からすると、復習の量によって、2回目以降の講習の進度が全く違います。
正直、ビックリするくらいあります。

実感としては、年齢差以上に大きく影響します!!!
たしかに若ければ、講習1回目での飲み込みは良いです。
が、2回目にその続きからスタートできる方は、やっぱり一部です。

お仕事を頂く立場上、あまり強くも言えません。
が、これを読んだ皆様が、少しだけでも復習のレベルを上げてくれたら幸いです。

具体的な講習内容
・手順に関する用語
(マッチ、持ち替え、飛ばし、中継、寄せ、クロス。これらを使って、手順をオブザベーションして、実際に登って検討する。)
・エイトノット、ATCの付け方の復習
・肩の脱力(NKさんのみ)
・足位置を下げた方が、腰が壁に近づく(Mさんのみ)
・胸を反らして腰を壁に近づける(Mさんのみ)

次回から、いよいよリード講習を始めましょう!

2012年1月6日金曜日

ジムのルートは遠目が多い?

1月5日(木)の夜は、ランナウトにてムーブ講習。
本日は、2コマ目。
お客様は、先日の谷川岳雪上訓練で頑張った女性ARさん。

ARさんは、飛び抜けてリーチがありません。
それに悩み、5.10aが登れないという壁を突破するための講習です。

実際、遠いホールドを取りに行くときに有効なムーブは数々あります。
(ダイアゴナル、ハイステップみたいな一般的なもの。
アンダーやサイドで目一杯上体を起こす、ヒールフック、反動を利用したムーブ。
そして、極めつけはランジ、などなど。)

実際に、僕がジムでルートを作ると、155~180cmくらいをターゲットにムーブを作っています。
つまり、150cm以下だと、そのムーブが物理的に無理な場合があります。
ただ、そういう人でも不可能だと面白くないので、小さい人でも何とかなるようには工夫しています。

例えば、大きい人には狭すぎるスタンスを配置しておくとか、反動を利用したムーブがやりやすいような蹴り足を付けておくとか。
時には、体重の軽い人しか持つ気が起きないような小さなホールドを間に挟む、なんて見え見えのルート作りまでします。

つまり、小さい人向けにホールドの距離を近くするばかりでは面白味に欠けるので、遠いんだけど“小さい人もどうにかなる”というのを目標にしています。

逆に言えば、小さい人、ときには大きすぎる人も、そのルートの難易度以上のテクニックを求められることがあるのです。
でも、ほとんどのルートは可能なように設定してるので、諦めずに頑張りましょう。

が、しかし。
彼女は、とりあえず夏に奥穂~西穂の縦走を夢見ています。
それなら、安全のためにも基本的なテクニックを優先して教えたいところ。

すぐにはリーチ差克服に繋がらないムーブ講習ですが、1つ1つ覚えて行きましょう。


具体的な講習内容
・不意落ちしないように足を意識する
・ダイアゴナル、バックステップ、正対の超基本ムーブの解説と練習

1日で、3つのムーブを覚え切れたのは快速ですね。
もう少し反復練習して、次々とムーブを覚えて行きましょう。

落ちる練習、再び

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

さて、新年1回目の講習です。

1月5日(木)の昼は、ランナウトにてジム講習。
今回は、常連女性KKさんと西国分寺女性KDさんのペア。

今回は、久々に落ちる練習をやりました。

落ちる練習の意味は、過去にも話して来ましたが、これ無しにはリードをすることはオススメしません!

まずは、落ちた場合の姿勢や、ビレイヤーの動きに実感を持つこと。
これでようやく、99%安全なジムクライミングが可能になります。

今回も、お客様自身が仰向けになるようにフォールして、自分でもビックリしたようです。
あれでは、ロープで確保されていても危険でしたね。
頭も打ちかねません。

もう1つは、そのことを通じて安全に自信を持ち、スポーツとしてのクライミングを楽しめること。
落ち慣れするくらいで、ようやくリードがスポーツになりますよ。
そして、アグレッシブにトライするくらいが、スポーツとしては最高に面白い!

それ以外にも、色々あります。
・落ちるまで頑張るくらいの人は、上達が速い。
・登山の落ちない前提のクライミングも、安全な環境で落ちた経験が大いに役立つ。(可能なバランス、無理なバランスを知る)
・ビレイの仕組みを体でしっかり覚えておくと、それ以外のロープワークにも実感が沸きやすく、覚えやすい。


「アルパインの入門を目指すなら、フリーはやっといた方が良い」と昔から言われています。

それは、ムーブだけではなく、実際のフォールをビレイする経験が積める、というのが大きいと感じています。

具体的な講習内容
・肩の脱力(KDさんの復習)
・不意落ちを減らす(KKさんの復習)
・リードのビレイの実践編(ロープのたるませ具合、実際の立ち位置)
・落ちる練習、止める練習
・実践本気トライ(KKさん)
 垂壁の5.10aを完登できました。

KKさんは、以前にも講習した内容ですが、ペアでやるとまた吸収が良さそうですね。

2012年1月4日水曜日

槍ケ岳硫黄尾根(5日目、6日目)

さて、あとは一般道に合流し、槍ケ岳へ。
しかし、一般道も3,000m近い稜線。

雪が深かったり、風が強くなったりで、思うようには進みません。
長期山行では、単なる体力やクライミング能力だけでなく、色々な力が問われます。

ルートファインディング、地図読み、生活、戦略、天気、モチベーション・・・。

当然ながら、全部が得意な人なんてなかなかおりません。
今回は、僕がラッセル、ルーファイ、戦略、などは得意でした。
が、ボロ岩、テントでの物の整理、行き帰りの電車やバスの手配、軽量化、などは苦手でした。

しかし、パートナーは幸いにもそれを得意としており、なんとか計画を遂行することができました。
週末山行は、体力やクライミングばかりに目がいきがちです。
実際、それこそが大切ですから、それも当然!

でも、僕らが山を好きになった理由は、こういう戦略、判断、パートナーシップを含めての総合的な山登りだったんですね。
今回の山行が大成功だったかと言えば、そうでもありません。

先行のトレースに大部分助けられ、さらに時間切れで槍ケ岳登頂は割愛。
僕がこだわる「自力で登った感」で言えば、70点の出来でしょうか。

それでも、成果だけではない充実感を思い出させてくれました。
ちょっと危うい場面もありましたが、また山が好きになる山行です。
行動記録
1月2日(月) 晴れ時々吹雪。風はやや強し。
4:30 起床
6:30 出発
石田のアイゼンのセンタープレートが壊れかけていることに気付く!
9:20 西鎌尾根到着
14:30 千丈乗越(ここで、一般道の中崎尾根に合流。槍ケ岳は割愛して、下山開始。)
17:00 槍平避難小屋に到着

1月3日(火) 晴れ時々雪
4:30 起床
6:30 出発
9:30 新穂高温泉に下山

槍ケ岳硫黄尾根(3日目、4日目)

さて、いよいよ核心部。
岩稜帯の通過です。

このルート、結果からするとリードしたのも懸垂下降したのも、それぞれ10回以下。
数だけ見ると、わりと易しい通過だったようにも思えます。

が、僕は大変に苦労しました。
ロープを出すか出さないかの境界線!みたいな危険個所が連続し、終始疲れさせられたからです。
 さて、アルパインクライミングでは落ちない前提、とよく言われます。
だけれども、怖かったら念のためにロープは出そうという話。
そして、判断がつかなかったら(迷いあぐねたら)、ロープを出しとけ、とも言われます。

しかし、この意味が本当に分かりにくい!
僕がやっても失敗する場面があるのに、講習生にその意味を伝えるのたるや・・・。
今回は、その意味について解説にチャレンジ!

まず、難しくても、落ちても平気ならロープは不要です。
逆に、落ちたら死ぬような場所でも、非常に簡単で落ちそうもなければロープは時間短縮のために出しません。
(鎖場、ハシゴ、などでロープを出さないのと一緒)

で、この“落ちそうも無い”という感覚が、人によって異なるのこそが問題の核心です。

当然、熟練者と初級者では落ちそうもない難易度は変わってくるでしょう。
また、同じレベルの人でも、イケイケな人も、臆病な人もいるでしょう。

さらに、その日の気分によって、イケイケになってしまうこともあります。
じゃあ、クライマーたる者、危なっかしいのも仕方ないのか?
という話です。

その一方で、「計算されたランナウトは、危険では無い」なんてことを仰る先輩もおります。

一体、どういうこと?
そこで、僕は一つの基準として、
「落ちてはいけない場面ではスタティック且つクライムダウン出来るムーブなら、敗退を考慮しつつ前進してもO.K.」
というのを、講習生の方にお勧めしております。

これなら、少なくとも途中で行き詰って「もう降りられないから、この後がどんなに難しくても行くっきゃない!」なんてギャンブルは無くなります。

ただし、これでも不意落ちで死亡、という可能性はあります。
でも、これを言ったらアルパインは出来ないので、不意落ちは練習で減らしましょう、としか言えませんね。
さらに、本当のことを言いますと、実践はこの基準よりも+αの突っ込みをしています。
いよいよマニアックな世界に突入しますので、実践経験の無い方は読めないかな?

例えば、
「ここさえ越えれば、安定した大木があって大丈夫」というとき、「クライムダウンは無理だけど、このムーブでは落ちない自信はある」という条件が揃えば、行きます。

このとき、全身に悪寒が走るような緊張感が走り、アドレナリンは全開!
ただ、一応は計算されたランナウト、ということになります。
で、“ここさえ越えれば、・・・だから大丈夫”というのが、1歩の時もあれば、数メートルの時もあります。
さらに、大丈夫の基準も、安定したプロテクションの保障ならば確実ですが、安定しそうな緩傾斜帯となると、少しリスクが出てきます。

とはいえ、ここの+α基準を緩めてやらないと、不安定な雪や氷、草付きを登るのなんて無理なのが現実。
で、この+αが大きいクライマーを“キレてる”と呼びます。

講習生の方には、あまり“キレてる”クライマーにはなって欲しくありません。
が、“キレてる”やつほど、完登もしやすいし、あっという間に強いアルパインクライマーの仲間入りをしちゃうのも確か。

最終的には、本人のモチベーションに委ねられます。
今回は、この+αの判断を100回、200回と行いました。
一歩や数メートルで安定するくらいならロープは出さず、その先に行き詰りそうなリスクを感じるときはロープを念のために出し。

つまり、ほとんどの危険個所は数メートル以下で、自分たちの中では“計算されたランナウト”で行ける自信があったので、ロープを出さなかった訳です。

岩はボロく、新雪も不安定で、ザックも重い。
後半は、「殺す気か!?」と岩に悪態を付きながらの縦走でした。
それでも、ついに1回+αの判断を誤ってしまいました!

K島嬢がノーロープで突破したところが、もろに苦手系のボロ岩スラブ。
「リードしてもらえば良かった」と、後悔して出だしを試みるもリスキー過ぎて敗退。

そこで、ザックを一旦置いて、空身で行く。
(あとで、ザックはロープを使って回収)
「おー、これならスイスイ!」なんて調子に乗っていると、途中で行き詰る。

本当に行き詰る・・・。
降りることも、進むことも出来ない・・・。

K島嬢の立ち位置も不安定で、ファイト一発的なお助けも無理・・・。
「やばい、死ぬかも。」
と、何度もよぎりながら、ムーブを必死で探り、アドレナリン全開。
「うおーっ!」と、何度か吠えながら突破!

+αの判断は、本当に難しい・・・。
しかも、パートナーが自分よりもそこを安定して登れたりすると、なおのこと判断がブレてしまう。

その後は、10mくらいでも不安定なのが続きそうなら、即座にK島嬢にリードを懇願。
なんとか通過させていただきました。
アルパインクライミングは、やっぱり危ないですね(笑)。
ギリギリは攻めないように、経験を積んで行きましょう。
 行動記録
12月31日(土) 晴れ

3:30 起床
5:55 出発
16:00 赤岳手前の岩峰群の途中にて幕営開始

1月1日(日) 小雪、ときどき本降りの雪
4:00 起床
6:15 出発
17:00 白樺平にて、幕営開始

ちなみに、同日に入山した名古屋の先行パーティが強く、彼らのラッセル跡、ルートファインディング跡に終始助けられながらの行動でした。
ほとんどラッセルを交代できなかったのは、我々の弱さですね。