アイスクライミングのムーヴ組み立ては、大きく分けて2つの考え方があると思います。
この2つ、「講習生に、どちらを先に教えるべきか?」という問題としても、僕の中では常々脳内にあります。
この2つ、「講習生に、どちらを先に教えるべきか?」という問題としても、僕の中では常々脳内にあります。
1つの考え方を習得するまでに、何日間も講習期間が必要だからです。
考え方①(ダイアゴナル気味の足位置でアックスを振る)
アックスを振るときに、三角形バランス(講習用語で言うところの軸またぎ)を作るが、アックスの振りやすさを最優先して、ダイアゴナル気味(※1)にする。
これに関して、動画や写真などが無いのが申し訳ないです。
(※1)ダイアゴナル気味とは?
「右手保持手にする場合は、左足を右手の真下にして、右足をスメアにするのが典型的なダイアゴナル。アイスの場合は、これと三角形バランス(軸またぎ)の中間ぐらいの足位置にすると、アックスが振りやすい。」
この場合、アックスを刺した時点で自然と逆三角形が完成するので、片足フリーのバランスが作りやすく、何歩か足移動を行った後に、再び考え方①の形に入ります。
延々とこれを繰り返して登る方法で、理解してしまえば最も単純なムーヴ組み立てです。
メリット:
●アックスが振りやすい。
●保持手の脇が締めやすい。
●一手一手の距離を稼ぎやすい。
●氷柱、カンテ状のように、凹角が無い形状でも使いやすい。
これに対して、もう1つの登り方があります。
考え方②(三角形バランスでアックスを振る)
アックスを振る際は、必ず三角形バランス(軸またぎ)。
典型的には、凹角を利用して登るような場合などに使います。
ただし、この場合は以下の問題が発生します。
「次のアックスを再び三角形の中に(底辺の上に来るように)打ちたくなるため、足移動の逆三角形が作れなくなり、足デッドを多用してしまいがち。」
この足デッドを防ぐための解説動画が以下。
プランA
肘プッシュなどを利用して、片足フリーのバランスを作り、再び三角形バランス(凹角の場合は、特にステミングと呼ぶことが一般的)に戻す。
プランB
一時的に、凹角の外にアックスを片手だけ刺し、逆三角形のバランスを利用して足移動を数歩行い、再びステミングに戻る。
メリット
●アックスを振っている時間中、パンプしづらい。
●左右どちらの手もレストできる。
●凹角であれば、スクリューセットなども容易になる。
初級者にとって難しいのは、プランAとプランBを臨機応変に使い分けるのが、やや頭を使うところです。
上手くやらないと、結局は足デッドの連発で登るハメになります。
(アイスにおける足デッドをどこまで許容すべきか?という問題は、一旦置いておきます。)
講習生がプランAの練習をしている動画が、以下。
もちろん、凹角でない平面的な氷であっても考え方②(三角形バランスの足位置でアックスを振る)を主体にムーヴを組み立てることも可能です。
ただし、平面の横幅が狭い(典型的には氷柱)と、考え方①(ダイアゴナル気味の足位置でアックスを振る)でないと、スタンス選びに窮します。
実際には、氷の形状、ガバ足がどこに存在するか、自分のパンプ具合に合わせて、考え方①、②を適宜選択、さらに考え方②の場合は足移動にプランA,Bを適宜選択、という流れになります。
<70度くらいの氷で、基礎練習中>
実際やってみると、状況に合わせてムーヴを選択するということの面白さが見えてきます。
●考え方①は、僅かに側対気味の方がアックスが振りやすい。
●今、この場面で考え方①、②のどちらをやろうとしているかの意図が不明瞭だと、すぐにグチャグチャになる。
●易しいグレード(Ⅳ級程度)だと、短い垂直近く(ざっと70度以上)凹角やテラスの存在しないパートは考え方①で突破、形状が豊富なパートは考え方②でパンプしないようにジリジリ高度を稼ぐのが得策か?
●やや難しいグレード(Ⅴ級以上)だと、短い垂直近く(ざっと70度以上)凹角やテラスの存在しないパートが5m以上とか続くため、考え方①だけで登るとスクリューセットやレストに窮する。そのあたりのトライ戦術が、テンションを入れずに登れるかの肝になってくることも多い。
<リードするTGさん>
文章で説明して、一体どれだけの人に伝わるのかは不明です(笑)。
まぁ、繰り返しムーヴ講習を受けてくれている方や、何度もアイス講習を受けてくれている方の復習ぐらいになれば、幸いでしょう・・・。
<今回は、本人なりにリスク管理(※2)が上手く行ったようで大変満足そうでした>
(※2)プロテクション戦略、アックスの深さの安全マージン、足デッドをどこまで許容するか、氷質の悪いセクションの安全確保をどうするか、などなどのリード中にTGさんが判断した諸々。