2023年8月15日火曜日

富士山ガイド 2023

今年も、富士山ガイドに行って来ました。
7月1〜2日の研修で1回登り、7月11日〜31日の3週間で8回登り、8月6日〜7日で個人ガイドを頼まれて1回登りました。

大変充実した反面、例年通り一年で一番の疲労感を引きづっております・・・。
ジムから少しずつ体調を整えて行こうと思います。

さて、よく聞かれる富士山ガイドのモチベーションについて、再度まとめてみます。
クライミング講習と富士山ガイドの実態を両方イメージできる人じゃないと、伝わらない気はしますが・・・。

①ガイド同士の切磋琢磨
毎年、登山経験のある学生、フリーター山屋、その他が新人ガイドとして入って来ます。
彼らに最低限覚えさせることや、少し長い目で見た伸びしろを伝えることも、興味深いです。
しかも、ガイド仲間同士でも、何を重視するかが微妙に異なるので、ちょっとした意見の相違を感じながらも行うことも良いです。

また、ガイド同士で何を重視するかが微妙に異なるために、ちょっとした出来事へのディスカッションも興味深く、一方で非常に疲れます。
しかし、興味分野がそれぞれ異なるために、自分が習う立場として考えるとガイド仲間は情報の宝庫でもあります。
典型的には、富士山の歴史に詳しい人、山小屋の実務に詳しい人、旅行業に詳しい人、ガイド組織運営に詳しい人、そして私なんかより余程真面目に登山に取り組んでそうな人、山道具屋で働いている人、などがおります。

つまり、普段はクライミングや登山の技術についてディスカッションすることは多くあれど、「ガイドとは?」について同業者とディスカッションすることは、少なくとも私には無いのです。

②後手に回りがちな分野への注目
ガイド同士の研修では、ファーストエイドの練習機会もあります。
また、富士山ガイドは登山ガイドと観光ガイドの中間であるため、富士山の歴史や自然に関する勉強の機会もあります。
苦手分野に関して、本を読むのが好きな人は少ないと思いますので、こういう機会に身体を動かして学ぶのは良いことだと思います。
例えば、富士山の麓に富士山ミュージアム、世界遺産センター、浅間神社いろいろ、など様々に社会科見学できそうなものがあります。毎年足を運び、スマホ片手に色々深掘りしたり、ガイド仲間に質問したり、ときには学芸員さんに話を伺えるのも、面白いです。

これに関して、実際に使う場面が多いというのも、一つの価値です。
ファーストエイドを使う場面が多いのは良くないことですが、ちょっとした体調不良者が多いのも、登山未経験者による富士登山の特徴でもあります。
また、登山ツアー中に、大声で自分の観光知識を喋るというのも、知識のインプットとアウトプットの関係では、刺激的です。

③全力を尽くす経験
普段の講習は、自分自身が全力を尽くすことは滅多にありません。
例えば、教えたいことが山ほどあったとしても、それを時間内に教え尽くすことが良い結果を生むとは考えられないためです。
反復練習に付き合い、ときには講習生の腑に落ちるのを数時間でも待ち、本日中に完全理解してもらうのは諦めて一旦はスルーする、といった姿勢も重要です。
もちろん、講習前に「〇〇を教えたいが、実際に練習メニューをやったら××っていう反応が返って来そうだから、そうしたら・・・。」というイメトレは行っているので、手を抜いているつもりはありませんが、講習開始直後に練習メニューを大幅変更するのは日常茶飯事です。
ただ、講習中に全力を尽くす、ということは正解ではない場合がほとんどだと思っています。

一方で、富士山は違います。
20人の素人さんを相手に、どうにか装備不具合に納得してもらって五合目レンタルにこぎつけ、大声で登山アドバイスを行い、少しでも洗練された説明を心がけ、先頭を歩くときはお客様の見本になるように心がけ、休憩場所・休憩のタイミングは登頂率が上がるようにその日のベストを模索し、メンタルが疲れて来たら観光ガイドで楽しませ、混雑時や悪天時には団体をどうやって統率するかを徹底的に考え抜く、といった具合です。
また、登頂ギリギリの人を登らせたら、その人が五合目に降りられるように責任を持たねばなりません。途中で膝が痛くなったり、心が折れたり、遅すぎる行動に他のお客さまが少々気を揉んだりする中を、死力を尽くして五合目を目指さねばなりません。

そのため、登頂ギリギリの人をリタイヤさせないのには、本人だけでなく、私にも覚悟が必要です。
「ガイドは本人が登れない山を登らせるのが仕事で、インストラクターは本人が登れるようにするのが仕事だ。」と私は思います。普段の講習では、下駄を履かせて登らせたり、各種チョンボには否定的な私ですが、富士山ガイドで素人さんを案内するときは徹底的にサポートしてガイド登山させようと思っています。
クライミング講習は、ややもするとチョンボっぽいクライマーを作り出す可能性がありますが、富士山ガイドは何か別分野だと感じていますので、そこの罪悪感はありません。

どうせやるなら徹底して行い、1%でも登頂率を上げて、ギリギリ登った人に極力膝のダメージを残さず下ろそうと思います。
そして、下山が余裕な方々にも、それが不快にならないように全力を尽くして楽しませようと思います。

④自分に対する定点観測
高山病の説明1つとっても、毎年説明の仕方は変わります。
もちろん、その日のお客様の雰囲気、天候などによって言い回しをアレンジするのはあるのですが、おおむね毎年自分の説明が良くなっていると感じます。
具体的には、お客様の納得感(表情、など)、水分補給や深呼吸への積極性、などから評価できます。

一方で、普段の講習は、そこは分かりづらいです。
講習生の理解が進むことで、以前は伝わらなかった内容が全く同じ言葉でさえも伝わるのですから。
まぁ、講師の成長速度はゆっくりですし、どんなに成長しても難しい内容を一瞬で理解させることは不可能なので、講師自身の説明の巧さに焦点化するのもナンセンスなのでしょう。

富士山ガイドでは、お客様の大半が富士山初めて、地元の高尾山ぐらいの山でちょっと練習して来た程度、という水準は毎年変わらないのです。
説明の巧さに限らず様々な点で、「変わったとすれば、自分だ。」ということを、良くも悪くも突きつけられます。

⑤社会勉強
富士山では、多くの職種の人と関わります。
山小屋、五合目売店、旅行会社。
また、直接の接点は少なくとも、ブルドーザー関係、馬方、パトロール、警察、誘導員、などなどの方々がいらっしゃいます。
それぞれの利害関係、人間関係、過去の経緯、あるいは行政との関係、などについて否応なく考えさせられます。

たとえば、ガイド自身にとってはガイドの本分は「お客様を登頂させる、安全に下ろす、その中でなるべく楽しませる」といった仕事ですが、関係業者にとってのガイドは「団体のお客様を交通整理・誘導する人間」という色合いも強いです。ガイドが休憩場所に選べばお客様が買い物するかもしれないし、ガイドの誘導が下手なら渋滞を引き起こすかもしれません。
そういう立場にあることを理解しつつ、ガイドの本分は自分達自身で評価していく、といった感じです。
最近は減りましたが、ガイド3年目〜8年目ぐらいまでは、毎年1回ぐらいは多少なり怒られていたような気もします。特に、3年目に一番関係の深い山小屋で、こっぴどく叱られたのが記憶に鮮明です。

考え方は孤独ですが、交通整理・誘導の仕事をしっかり行うようにすれば、関係業者もガイドの本分に対して気遣いをしてくれることが多く、プロ同士の暖かみを感じるものです。


長くなりましたが、今年も良い刺激になりました。
関係者の方々、まだ富士山シーズンが続いているかと思いますので、どうぞ身体に気をつけて頑張ってくださいませ。