2025年4月18日金曜日

心に潜むタイパ思考

例によって、写真とは全然関係ない話で恐縮です。

近年(?)、コスパ(コストパフォーマンス)の仲間のような言葉で、タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉を、耳にするようになりました。

批判的な文脈で、「タイパを意識すると、活動・思考の豊かさが失われる。」という感じで聞くことも多いです。
一方で、「時間あたりの効率」は無視できない問題です。

このあたり、どう考えるべきでしょうか?
今回は、ジムでのリードを例にして、考えてみます。
<林智加子さんとのコラボ企画・岩場基礎トレ>

例1) オブザベ

クライマーなら、ある程度はオブザベするのが当然だとは思います。
そんな人でも、オブザベを早々に切り上げたくなるタイミングが、2つあります。

①どうせオンサイトは無理そうだから、とりあえずホールド触りたい。
②数回オブザベしたら、これ以上に深読みしても情報が得られそうにない。

非常によく分かります。
ここで、敢えてタイパを無視したら?

①オンサイトが無理そうでも、相当しつこくオブザベする。
②数回オブザベしたものを、暗記できるまでオブザベを繰り返す。(トライ前に、目をつぶっても大部分の情報が思い出せるぐらい。)

そこまでやったら、良いトライができる可能性が高まります。
しかし、散々オブザベした挙句、やっぱり出だしでフォールするという可能性も否めません。

両者は、5〜10年先に、どんな技術や心構えを身に付けているかが変わると思います。
「タイパ VS 時間を掛けて得られる豊かさ」という構図にピッタリの内容です。

補足)
タイパ重視でオブザベを一定時間で切り上げたとしても、その余った時間を何に使ったかによっては、5〜10年先に良いことがあるかもしれません。
余った時間を何にも使わないとしたら、5〜10年先も同じようなことをしているでしょう。

※コンペティターは、短時間でオブザベするトレーニングも積んでいることは、反論としては意識すべき。
<浮き石の説明>

例2) 課題を選ぶとき

自分に登れそうな課題を選ぶことは、悪いことではありません。
全く登れそうにない課題は、ムーヴ自体が起こせないために筋トレにすらなりません。

一般的には、「頑張ればオンサイトできそう」〜「頑張ればR.P.できそう」の間を本気トライとして位置付けます。

登れそうな課題探しのために、グレードだけでは飽き足らず、ジムの常連さんの評価を聞いて回る人もおります。

ただ、ときには全然無理そうな課題に触るのも、プラスがあるかもしれません。
また、自分でオブザベして難易度予測した方が、長い目で見たら経験が豊かになるかもしれません。

補足)
ただし、私がよく行くジムで課題について聞いてもらったらコミュニケーションのネタとして色々とお話しはします。
「なるべくムーヴを聞かないで自力で考える。」というクライマー的に良い振る舞いをする人が、スタッフと気軽に話すネタを失うのと同じで、程度問題もあるかと思います。

適度な頃合いが難しいですね。
<ムーヴの基礎練習>

例3) 完登への過程

「自分が登れそうなルートを、早くコンプリートしたい」という気持ちはよく分かります。
一方で、それを意識するあまり、「やりたいリードルートが多すぎて、ボルダーまで手が回らない。」という人もおります。

中長期的なトレーニング効率よりも、R.P.ゲームとしての効率を重視した結果ですね。

スタイルの話でも時々触れていますが、上記のR.P.効率を意識しすぎると、5〜10年先の自分へのデメリットが大きいと感じています。
<チカさん>

例4) 疲れた後

頑張って本気トライで完登した後、帰り際に疲れた状態で別のルートを「お触り」するという方法があります。
次回へのモチベーションを高める効果もあり、多少なりともトレーニングになるため、必ずしも悪癖とは言い難いです。

一方で、そのルートが「フレッシュな状態ならば、オンサイトで勝負になる」ぐらいの難易度だったら、貧乏性で貴重な機会を失っているかもしれません。

じゃあ、余った時間は何をするのが良いのでしょうか?
・次回に向けてのオブザベ?
・基礎練習?
・筋トレ?
・ボルダー?(リードで疲れた後は、課題によっては全然ダメなので、課題選びなどに工夫が必要。)
・アイシングやストレッチ?
・早めに帰宅?

この話がちょっと面白いのは、何の効率を重視するか?という点です。

前述のR.P.ゲームとしての効率を無視すると、その日は余剰時間が生まれるので、ちょっと手持ち無沙汰になるという構図です。

<最後に、トップロープ体験>

例5) できないムーヴの試行錯誤で、無理っぽいアドバイスを受けたとき

私も、これは大の苦手です。
無理っぽいムーヴに1〜数トライを費やして、その日の体力を消費するのが勿体ないと感じてしまうのです。

①「それは考えたんですけど、無理っぽいからやめときまーす。」
②「やるだけやってみまーす。」

という選択肢で、どうしても①を取りがちだと自覚しているので、あえて時々②を取るように心掛けています。
経験を積むほど、自分のムーヴ解析が合っているケースが増えていくので、アドバイスを取捨選択したい気持ちが強くなります。

しかし、ベテランであっても、ときどき「それは無理でしょー。」と思ったアドバイスがハマることがあります。

私自身、頭が固いオジサン・オバサンにならないために、なかなか有効な心理トレーニングにもなるように思われます。
キャリア10年以上のベテランクライマーには、オススメです。
その意味では、ジムボルダーが最も良いように思います。
少し話は逸れますが、夕方のベスト時間帯(日が陰って、ホールドがヒンヤリする)を狙って昼間は大休憩する(お昼寝などで数時間を潰す)というのも、ちょっとした我慢強さが必要なります。
ボルダーとか、顕著です。

開拓作業とか、自分が苦労した割に発表されているグレードが低いとかも、人によっては嫌な気持ちになるでしょう。

タイパ思考って、一つの貧乏性なんでしょうね。

効率を考えるとき、
①クライマーとしての良い習慣を身に付けるための時間の贅沢な使い方
②R.P.効率
③トレーニング効率
などを総合的に判断できるようになりたいものですね。
<ファンタジー岩>

①と③のどちらを重視するかは、良いクライマーになりたいか、強いクライマーになりたいかにもよるように思います。

②は、人間の欲の現れ(いわゆる煩悩)みたいなところがあり、放っておいても自然と湧いてきます。
僕も、登れそうなルートのコンプリートは大好きですし、完登を目指すからこそ頑張れるというのも真実です。

そういう意味では、②に対しては抑制的にして、①や③を優先する態度が大切なのではないかと思います。
<1年半越しの宿題、ベヒーモス(1級)が夕方ようやく登れた。3日半は打ち込んだと思われる。>

2025年4月11日金曜日

意外と身近な“ブリティッシュスタイル”

イギリスのトラッドは、非常に難しくて危険なルートを登るイメージが強いと思います。
日本のグレードに換算すると、5.14,R/Xとか。
もはや、異次元過ぎますね。

もちろん、経験者の話を聞くと、裾野は結構広くて
・超低グレードの危険なルート
・普通のクラックルートのように信頼できるプロテクションの取れるルート
なども結構あるようです。

ただ、歴史的背景なのか、「日本だったら通常はスポートルートの岩場にするよね?」と思うようなプロテクションの取りづらい岩場でも、普通にトラッドの岩場となっているケースが多いそうです。
そこまでしてトラッドに拘る強烈な文化なのか、開拓者優位の原則から今更変更はできないのか、現地でも色々な人がいるのかもしれませんが。

当然、カム・ナッツだけでなく、ハーケンはもちろん、様々なギア(エイドの前進用のものも含む)を使用するようです。
そこまで頑張った上で、「落ちたら死ぬかもねー。」、「静荷重も、どうだろうねー。」ということになるので、R/Xという話です。
<湯河原の梅>

その際、高難度開拓で問題になるのがスタイルの限界です。
大きく分けて、ギアのプリセット(ピンクポイントなど。今回は触れない。)、トップロープリハーサル、の2点です。

1級以上のムーヴ、取り先を知らないデッドポイント、スラブっぽい微妙なバランス、などをリハーサル無しでフリーソロに近い状態でこなすことは、いかにトップクライマーでもリスクが高すぎるようです。

そうなると、高難度ルートの初登はトップロープリハーサルが当然になり、グランドアップによる再登は、「未来のトップクライマーに期待!」という感じになります。
(実際、再登者によってオンサイトされたり、おっかなビックリのテンションを交えつつ数撃で登るなどの情報もあるようなので、期待はある程度まで達成されるようです。)

これが、いわゆる「UKトラッドが抱えるジレンマ」という話です。
「よりナチュラルに岩を登る。(ボルトを打たない)」ということを重視しまくった結果、「下から攻める。(グラウンドアップ)」を相当なレベルで犠牲にしている、という感じです。

このように、トップロープリハーサルして、フリーソロに近い状態を許容するリード方法を、“ブリティッシュスタイル”と呼ぶ人もいます。
(この呼び方に異論もありそうなので、鍵カッコ付きにしておきます。)

じゃぁ、何が正解なんでしょうか?

A)現状通り、開拓すべし
B)グラウンドアップできるものだけ開拓すべし
C)十分な力量を持つクライマーが再登に訪れた場合のみグラウンドアップでトライできるように、最小限のボルトを打つべし(NP &ボルトのイメージ。イギリスの文化的に受け入れられるのかは私は知りませんが、日本では割とよくある構成。)

などと、人によって思想が分かれそうです。
<上に活路を見出す登り方を直し中の、Mさん>

一応、私の感覚としては、Cが良いクライマーを育成するように考えています。

過去に120mぐらいのマルチ(最高ピッチグレード5.11a)を開拓した際に、「核心部にカムの効きが超微妙」という場面で、僕はボルトを打ちました。
120mのマルチで、たった1本というのは何ともルートを汚すような感覚ですが、それを打たないとトップロープリハーサル無しでのトライが難しいルートになってしまったからです。

もちろん、私なんかより遥かに強い友達が、5.11a,R/Xぐらいはオンサイトするのも目に浮かびましたし、私と同じか弱いぐらいの友達でもトップロープリハーサルを重ねてでもオールNPで登りたい人もいるかと思います。
(マルチなんで、マニア向けになること請け合いですが・・・)

実際、私自身は核心部の掃除のためにグラウンドアップを放棄しましたから、「そのままトップロープリハーサルしまくってボルトを打たない。」という選択肢も存在しましたからね。
(開拓に手間が掛かるルートは、通常はグラウンドアップ開拓できないというジレンマ。)

沢登り・冬壁などの山登りの本番では、核心部が落ちてはいけないというのも納得できます。
「大自然なんだから、それが登れる人だけが登れば良い。」という感覚です。

一方で、小川山・瑞牆のようなゲレンデマルチでは、以下のような構成が教育的かなと思っています。
相対的に易しいパートを落ちてはいけないセクションとして設定して「ムーヴの安定感の足切り試験」とする。その代わり、核心部はちゃんとプロテクションが取れる状態(カムが効かないならボルトも許容)にして、落ちる覚悟で頑張らせる。
<読図講習@奥多摩>

ここまでは、「私自身を最低レベルとして、中上級者層を見上げた世界観」という話でした。

ここから、講習生レベルも含めた初級者が「すでにある課題」にどう取り組むべきか?を考えます。
<色々と考えて登山道の無い尾根を下る>

例題1) ボルトルート

ボルダー4級が核心部のボルトルートで、6級セクションがボルトが無いとします。
あなたはどうしますか?

①「ボルトが無いのが悪い。」と考えて、超長ヌンチャクなどで仮想的に1本ボルトを増やした状態にする。1本目までの区間であれば、プリクリを許容する。(岩場のジム化、という方向性)

②“ブリティッシュスタイル”を採用し、トップロープリハーサル(チョンボ棒も含む)でホールドを確認し、その後に真っ当に(?)リードする。

③グラウンドアップを採用し、行きつ戻りつで「ほぼ絶対落なさそう。かつ、いざとなったらクライムダウン敗退できそうなムーヴ。」を探し尽くす。見つからなければ一旦敗退し、トレーニングを積んでから再訪する。
<裏から回ってヌンチャクを回収する練習>

例題2) 岩場ボルダー

ボルダーで、核心部(4級)を越えた後の易しい(6級)が落ちてはいけないセクションで、怖がって登れなかった岩場初心者の友人がいます。
あなたはどうしますか?

①「こんな危ない課題やらなくて良いよ。」と言う。

②「気持ち、気持ち!突っ込んじゃえば、核心なんかより易しいから大丈夫だよ。」と言う。

③「あなたのリスク感覚は正しいよ。」と肯定する。
その上で、
「もうちょっと安定して登れる方法を考えるんで良いと思うよ。この後に何回かトライして、どうしても思い付かなければ、またジムで色々とトレーニングしてから再訪すれば良いよ。安定して登るのも、大切な技術だから。」
とグラウンドアップのリスク管理へと誘導する。
例題3) ジムのリード

下部5mのセクションにおいて、クリップのタイミングが明らかに遅く、自ら「落ちてはいけない状態」を作っている友人がいます。
ただ、本人はそのセクションのムーヴは(トップロープやチョンボクリップによるリハーサルの結果)完成されており、全く落ちる気がしていません。
さらに、そのムーヴ中にクリップ動作を入れる方が手繰り落ちのリスクがあると考えています。

※この手法を採用している人は、なまじ登れる人が多く、5.12台のルートをやっていたりします。

あなたなら、どうしますか?

①「ジムの人に怒られるよ。」と言う。

②「ジムみたいにボルトが十分にあるはずの場所で、“ブリティッシュスタイル”じゃなきゃ完登できないルートは、あなたにとって時期尚早で、トライするべきじゃないと思う。」と言う。

③「本人なりに考えがあることだろうから。」と考え、何も言わない。

④モヤモヤしているが、何も言わない。
<無事に終了点に辿りつき、懸垂下降してヌンチャク回収>

例題3)は、人間関係とか指摘の上手さ、タイミングといった問題も絡むので、かなりの難問です。
まぁ、回答例はあえて書かないので、色々考えてみてください。


さて、初心者のうちからグラウンドアップを採用してトレーニングすることは、以下のメリットがあります。

●クラック、マルチ、沢登り、アイスなどとトライの手法が同じ(上に活路を求めない)なので、より一般的な「落ちたらいけないセクション」対策になる。
●ボルダーの落ちたらいけないセクションの対策にもなる。(ボルダーは、チョンボ棒やトップロープに相当することができない。)
●そのルートの足切り試験(このルートをトライするなら、このぐらいのセクションは安定して登れるでしょ?という開拓者感覚)を突破できているため、次のボルトルートをトライするときの下積みになる。

一方で、トップレベルのアルパインクライマーも“ブリティッシュスタイル”で、高難度のR/X課題を開拓する人もいます。
ハイボルダーでも、FIXロープで掃除がてらホールド探り・ムーヴ探りしてしまう実態もあるようです。
つまり、私には見えないようなレベル感の方々にとっては、これが何かしらのアルパインのトレーニングになっているという可能性もあります。
もしかしたら、スリルが織りなす極限の集中力を楽しんでいるだけかもしれませんが。

最後に。
“ブリティッシュスタイル”とグラウンドアップは、リスク管理の方法が根本的に異なります。
“ブリティッシュスタイル”は間違えない再現性が大切で、グラウンドアップは行きつ戻りつが大切です。
この思考方法が根本的に異なる2つを、初級者が意識的に使い分けるのは、私は無理だと感じています。
どちらかを本能レベルにまで習慣化することが、最も大切な練習かと思います。

少なくとも、フリークライミングの技術が初級レベルだと自覚しつつマルチ・沢登り・アイスなどを楽しみたいというのなら、どちらを採用すべきかは自明だと思います。

例えば、越沢バットレスとか三ツ峠で、一度トップロープやフォローでホールドや残置ハーケンの位置を記憶してからリードする、という初級パーティを見かけると、とても心が痛みます。
中途半端に“ブリティッシュスタイル”の甘い汁だけを吸うと、悪癖が強化されるだろうなと思うのです。

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この話も、もはや何回ぐらい書いたんだか分かりません。

今回は、批判にビビりつつも“ブリティッシュスタイル”という概念を文章に盛り込んだので、これで多少は構造が分かりやすくなれば、幸いです。

2025年4月2日水曜日

「美しい」、「カッコいい」という概念

6月分の予約受付は、4月4日(金)の21時スタートです。
よろしくお願いします。
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「綺麗」、「カッコいい」、などなど。
クライミングにおいて、「美しい」に類する言葉は、ちょくちょく口にするのではないかと思います。

主観が大きな部分を占めるので、「美しいムーヴ」、「美しいライン」と言っても、かなり評価が分かれます。

これに関して、僕なりに思うところを書いてみます。
<城ヶ崎>

●美しいライン
ボルダーからアルパインまで、古今東西され尽くした議論だと思います。

①合理的なライン
スタートしたらゴールまで自然に導かれる状態です。
つまり、「迂回ラインの方が本当は易しいのだが、それはナシで!」といった限定っぽさが無いことです。

ボルダーで「カンテなし」、「カンテの左側に出るのはダメ」、「リップはホールドとして使って良いけど、途中でマントルしたらダメ」ぐらいはまだ分かりやすい方で、「ボルダーならば許容できるか?」と思う課題も多いです。
(僕は、本当はこれも好きではありません。このレベルの課題ならトライすることも多いですが、ムーヴを探っている間中ずっと多少のストレスは感じています。ボルダーの場合、「書いてないけど普通こっちは使わないよね?」みたいなのが多いので、使用すると卑怯者な感じがします(笑)。)

酷いのになると、「カンテはありだけど、カンテの奥のガバはダメ」、「このスタンスは禁止」というものまであります。

この点では、リードのクラックルートはムーヴだけでなくプロテクションの都合からも合理的なラインを突いているので、ほとんどのルートが最低要件を満たしています。

②見た目のかっこよさ

これは、めちゃくちゃ主観に基づくなと思っています。

僕は、凹角・カンテ・ワイドクラックみたいな、大きな形状を見ると「すごいの、あった。」と思いますが、人によってはボルトが打たれていなければラインとは分からないようなフェースにこそ「かっこいい・・・。」と吸い込まれていきます。
僕がオブザベでラインと判別できるものを好むのに対して、その友人は「こんな弱点の無さそうなフェースにラインが引けるなんて素晴らしい・・・」と畏敬の念を抱いているのかもしれません。

沢登りだと、水線から離れるほどボロ壁や草付きっぽくなるケースが多く、大高巻きなんかすると沢床すら見えないため「水線に近い方が美しい」という感覚があります。
一方で、クライミングや泳ぎを嫌う沢登り愛好家からは、「わざわざ大変なラインは、行かんで良い。」という反論もあります。たしかに、高巻きも立派な技術ですしね。

③ムーヴの面白さ

これも、めちゃくちゃ主観に基づくと思っています。

僕は、ヒールフックとかワイドムーヴみたいな工夫要素満載のムーヴの可能性を感じると「良いラインだな。」と思います。
一方、「カチで細かいスタンスで傾斜真っ向勝負!」みたいなのが核心の方が、「良いラインだ!」と感じる人もいます。
<最後の動画の課題は、実はインバージョンでスタートすると易しくなる>

●美しいムーヴ

①ムーヴの完成度

スタティックならビタっと静止する感じ、デッドなら反動の付け方、足置き、フォーム、などなど。
完成度が高いムーヴは、割と多くの人を納得させる力があると思います。

参考)
ムーヴ講習で行っているような練習は、結果として易しいグレードを美しく登れるように導いていると思っています。
ただし、美しさは合理性(省エネ・身体のコントロール・故障しにくさ、など)を追求した結果であって、「美しさを目指す」というのは変だなと思っています。
一方、「合理性のある動き」≒「美しい動き」(2つが、かなり近いもの)という感覚に自信が付いてくれば、ある程度は基礎練習の指標になるかと思います。

②ムーヴの派手さVS小技

足が切れるか際どいデッドポイントで、足ブラに耐える姿がカッコよく見えることもあります。
一方で、足を残した技術(場合によっては筋力)がカッコよく見えるのもあります。

真っ向勝負のムーヴもカッコいいですが、「そんな方法アリ?」と思うような足先行・軟体動物のようなムーヴで悪いホールドを処理するのをカッコいいと思う人もいます。

要するに、派手さ・潔さ・地味な技術・体幹・賢さ、といったファクターを見て、どれを美しいと思うかは人それぞれだと思います。

参考)
ときどき「そんなムーヴ(例えば足先行や軟体動物で悪いホールドを処理)は男らしくないから、真っ向勝負しなよ。」という意見の人がいます。
これには、「その方が強くなるよ。」という意味が暗に込められている場合も多く、その人なりの善意があるために反論しづらいと感じる場面が多いです。
「スルーするのも何だか感じ悪いし、かと言って真っ向勝負でやるよりこっちでトライしたいんだけど・・・」という微妙な空気に陥るためです。

私は、強くなるための練習方法はそれはそれで考えるとして、本気トライ中は「登れればどんなムーヴでもオーケー!」という方がアドレナリンも出るし、頭も使うので良いように思っています。
<野猿谷に向かう中、ツララあり>

●カッコいいトライ

これは、トライの完成度に尽きるように思います。

O.S.トライであれば、オブザベ、易しいセクションのスムーズさ、レスト中の作戦、粘り、土壇場の頑張り、などなど。
R.P.トライであれば、トライ前のイメトレ、ムーヴの再現性、丁寧さと思い切りの使い分け、などなど。

当然、落ちても大丈夫な場面で、「てんしょーん!」などとギブアップするのは、カッコよくはないです。

今回の話の中では珍しく、人によって評価が割れにくいのが嬉しいところです。
まぁ、O.S.トライでは全然勝負にならなかったのに、2トライ目は割と余裕を持ってR.P.みたいなケースも頻繁にあり、1日のクライミングの中で一度も良いトライが出来ないということも頻繁にあります。
<野猿谷では「見ざる」(4級)という宿題を登れた。グレードが低くても課題名があると、便利ですね。>

●美しいスタイル

相対的に上位のスタイル、という概念はあります。
グラウンドアップ(下から攻める)の方が良い、事前情報は少ない方が良い、自力解決が良い、ギアは少ない方が良い、などの評価軸があります。
相対的に上位のスタイルが美しいか?カッコいいか?と言われると、手放しでそうとも言いづらい、というのが難しいところです。

例えば、いくつかの観点においてオンサイトフリーソロが最上位なのですが、それを美しいと思うかどうかは、やっぱり人によると思います。
オンサイトはともかく、フリーソロが厄介です。

フリーソロを理想だと考える人、そもそも行うのはダメだと思う人、入念に準備してトレーニングして自分なりの安全基準を満たす範囲でならやっても良いと思う人、色々います。

岩場やアイスで、稀にフリーソロをしている人を見かけますし、ハイボルダーでも実質フリーソロだと思う場面もあります。
これを、めちゃくちゃ安定して登っているクライマーが居たら、あなたはどう感じるでしょうか?
反対に、自分より技術不足な人がプルプルしながら登っていたら、あなたはどう感じるでしょうか?

上位のスタイルを意識した方が良いのですが、フリーソロしている人を「カッコいい」とは言いづらい気持ちになるかと思います。

つまり、スタイルの相対的上下は説明しやすいものの、美しさは安全性・潔さ・本人の姿勢などの総合評価になるので、結局は主観によるという毎度の結論に達ます。

また、自分にとって難しい課題に対してスタイルの妥協を行うのは、どうでしょうか?
特に、「〇〇すべきだ!」と主張していた人が、課題の完登のために妥協したとなると、有言不実行が否めないので、ダサいと見る向きが多いでしょう。

一方で、ルートの難易度によってスタイルを使い分け、色々なルートに対して本気で取り組めるようにする、という考え方もあります。
例えば、この課題は一撃に拘る、この課題は「バラし禁止」で毎回下からトライする、といったマイルールを課すことで、本気トライでトレーニングできるグレード幅を広げる方法もあります。
こういう人は、私たちにカッコいいトライを頻繁に見せてくれるでしょう。

つまり、スタイルの妥協1つとっても、何をどういう意図で行ったのかまで読み取らないと、「カッコいい」かも分かりません。

参考)
登山でプロテクションの悪いピッチを切り抜けていく場面、ボルトルートで1本目までが相当悪いルート、などと、フリーソロはしない人でも似たような場面には頻繁に遭遇するはずです。
「美しいか?」、「カッコいいか?」どうかは脇に置いても、易しいフリーソロ状態を安定して登る練習はした方が良いと思います。
<城ヶ崎、ハンド〜フィストのクラック、O.S.トライ>

おまけ
●カッコいいクライマー

ここは、私の完全な主観を書きます。

とりあえず、ジムでも岩場でも登山でも、自分より遥かに強ければ、大抵の人はカッコいいです。
真面目にトレーニングした成果であることが尊敬に値するし、前述の美しさ・カッコよさを相当なレベルで実践している人が比較的多い、という印象です。

また、ロクスノのトップクライマーのインタビューとか、山人生のインタビューを見ると、生き方レベルで感嘆させられます。

皆さん、本当に流石ですよねー。
<ラインの合理性はない(本当は左から逃げられる)ので、純粋にムーヴ練習として登ったもの。トライとしては結構良かったかな?マットに足が当たって減速したのが、何度見ても残念だが、トライに影響なしと判断して登り切った。1時間以上はトライしたと思われる。>

2025年4月1日火曜日

6月分の予約受付

4月4日(金)の夜21時より、6月分の予約受付を開始いたします。

ジム講習の場所は、最初の申し込み者の希望になるべく合わせる方式で行いたいと思います。
ランナウト、Dボル立川、ストーンマジックの3店に関しては、出張費用は不要です。
その他のジムでの講習希望の場合は、私のジム使用料を負担いただく形になりますので、ご相談ください。

また、7月のうち3週間は富士山に行きますが、8月は通常通り講習を行います。
その点もご承知おきください。