2025年3月7日金曜日

5月分の予約受付

3月10日(月)の夜21時より、5月分の予約受付を開始いたします。

●ジム
これまで通り、定期講習も含めて講習場所はランナウト・ストーンマジックなどに変更可能です。
最初に申し込んだ方の希望になるべく合わせますので、メールにて希望を教えてください。


●変更点
ジムリード講習は①〜③のクラス分けでしたが、今後は②と③を統合します。

リード① エイトノット、クリップ、ロープ畳み、ATCを落とさない方法、墜落距離の計算の初歩編、などのリードの基礎技術を学ぶ

リード② 落ちる練習・止める練習を通して、受け身姿勢、クリップのタイミングの安全上の重要性、ダイナミックビレイ、ビレイの立ち位置などを学ぶ
     実践本気トライ(フォールする可能性の十分にあるルートを、テンションギブアップなしでトライする)

※どちらも、前半の時間をムーヴの安定性を高めるための基礎練習の時間に充てています。ある程度は安定できてくると、私の言っているリスク管理方法(例として「レストしながら考える習慣」、「スタティック主体で動き、勝負所でデッドする習慣」)が身に染みて理解できるためです。
そのため、リード講習に進級後もムーヴ講習を継続的に受講してくださる方の場合は、その後の進級がスムーズになる傾向にあります。

では、どうぞよろしくお願いします。

2025年3月5日水曜日

行きつ戻りつによるルートファインディング

マルチピッチでは、ラインが複数通り考えられ、どれがベターかは「行ってみないと分からない。」というケースが多いです。

右上するのか、直上するのか、左トラバースしてから直上するのか?
といった具合です。

実際、「違うな。」と思って、分岐点まで戻り、リスタートすることも多いです。

この作業に、気持ちが負けてしまう人は結構多いと思います。
<最近行った、城ヶ崎ボルダー。そこに居た強い人。>

当塾の講習では、こういった状況を念頭に置いて、「易しいセクションは、戻れるムーヴで登ること」というコンセプトを徹底的に練習しています。

マルチピッチリード講習まで受講している人であれば、当然理解していることですし、ボルトルートやクラックでも、プロテクションが取れない(落ちてはいけない)セクションでの行きつ戻りつは相当数を経験してきているはずです。

しかし、「やっぱりこの状況は嫌だ、避けたい。」という気持ちも理解できます。
具体的に、どの辺が嫌なのでしょうか?
<湯河原での岩場リード講習>

①ムーヴの選択肢ではなく、ラインに選択肢がある

前者であれば、数歩の行きつ戻りつで絶対に落ちそうもないムーヴ探しをすれば良いです。
典型的には、ボルトルートの1本目が高い場面、ボルト間が遠い場面、など。

後者の場合は、「ラインが違った」と思ったら数メートル以上のクライムダウンが必要になります。
いわゆる、「リードしながらの偵察」ですが、これを複数ラインに対して行うのが、精神的にもキツいという話です。

また、クライムダウンをする際に、プロテクションが取れるなら回収しながら戻るのにある程度の時間を要します。
一方で、ノープロテクションでの行きつ戻りつであれば、相当に易しくても(岩場の5.6、Ⅳ級程度のセクション)相当な緊張を強いられます。

さらに、数メートル分のムーヴを暗記しながら登るのは極めて困難なので、最低限覚えておくべきホールドとかスタンスを、完全なる自己責任で選択する必要があります。
<プロテクションの悪い1P目をリードするYZさん>

②失敗した場合
ボルトルートで1本目が高い場合の行きつ戻りつは、失敗した場合は大怪我というケースが多いです。
一方で、マルチピッチのノープロセクションは、失敗した場合は死亡というケースが多いです。
③その他
マルチピッチの高度感・ロープワーク・時間管理に不慣れであるため、「そこまで頑張らなくても・・・」という気持ちになります。

実際、本気トライという観点では、ショートルート(1ピッチのルート)の方が遥かに集中して取り組めます。
<2P目の出だしが、まさにラインが複数通りあって悩ましい状況>

こういう状況に、ISさんは苦手意識があり、YZさんは「山って、そういうもんでしょ。」という感じの受け入れがありました。
この差は、どこから来るのでしょうか。

A)興味の主体がショートルートなのか、ロープを使用する登山なのか。

山では、歩きとクライミングの中間ぐらい(5.4、Ⅲ級ぐらいなど)をノーロープで通過したり、数十メートルをノープロでリードすることもあります。
「これを安全にこなせないと、山では話にならない。」という意識があるのも理解できます。

B)リスクに対して悲観的に色々なことを想定する習慣(「戻るときにムーヴが分からなくなったら・・・」など)なのか、楽観的な習慣(「行き詰まったら、戻れば良いでしょ。」)なのか。

C)戻れるムーヴを組み立てるスタティックな能力、安定感、戻るために暗記すべきポイントを選択する能力、などの基礎技術。(当塾で、最も重視しているムーヴ能力の1つ)
なかなか興味深いのは、Cの能力には大差ないように見える点です。

強いて言うなら、スタート時点ではYZさんのムーヴが雑だったので、私から「もう少し丁寧さを思い出して!」と指示を出し、その結果として2人のCの能力は同程度に見えました。
仮に、私が居なければISさんの方が安定したムーヴで登っていた可能性が高いです。
ただ、YZさんの方が体幹が強そうなので、同じムーヴを選択してもグラつきは少なそうです。
両方の要素を勘案して、Cの能力は五分五分かなという私の評価です。

AとBは、能力というよりも興味とか性格に近いものですね。
2人が対局とまでは言いませんが、グラデーションの割と離れた地点にいるように思えます。
ある程度は楽観的でないと山は楽しめない気もする一方、楽観主義のリスクは否めません。
また、経験を積むほどに事故例を身近に知っていくため、一般的にはベテランほど悲観的です。

この話って、「もっとこうした方が良いですよ。」という単純明快な終着点が無いですよね。

究極、「自分を知りましょう。そうすれば、基礎練習中やリード中に意識することも少し変わって来ます。」ぐらいでしかありません。
でも、こういうことを考えずにいられないところが、山とかクライミングの面白さだなと思っています。

2025年2月19日水曜日

ジムでの練習時間の使い方

講習生には、色々な人がいます。

A)山から入って、なかなかクライミングの練習に馴染めない人。
僕も学生時代はそうでした。

B)クライミングの本気トライは楽しいが、基礎練習は続かない人。
基礎練習は講習のときだけしか行っていない、という事実に気付いていない人もいます。

C)ジムに行って、基礎練習ばかりを行いたがる人。
易しいルートなどで、スタティック縛りで登る、姿勢を意識する、特定のテクニックを意識する、などなど。

さて、今回はCの人のお話。
Cの人は、非常に真面目だとは思う反面、実際にはジムに通えなくなります。

理由
・ジムの常連さん、スタッフとは全く話が合わない。
「〇〇ルート、登れましたー!」、「あそこのムーヴが分からないんだけどー。」、「あそこが、△△でムズイよねー。」と言った会話が成り立ちません。

・一人での基礎練習は、飽きる。
講習後、数回の自主練習は、色々と意識することもあるでしょう。
しかし、それは徐々に失われ、「自分でやっていても上達を感じないし、面白くない。」という状況に早々に直面します。
もし、飽きない人がいたら、反省点抽出の天才でしょう。

結果として、CはBよりも登れるようになりません。
というか、ジムに来る頻度が上がらなくなります。
(そのため、「最初は、とにかくジムに通いまくれ。初心者は、練習の質よりも量だ!」というジムスタッフからの一般的な教えは、真実味があります。)

また、極端にBに寄っている人は、経済的・時間的に問題ないとしても講習には通常来ません。
本気トライ、常連さん同士のセッション、などだけで上達したいので。
(「練習量が最重要」という時期をとっくに越えているため、一番講習に来た方が良さそうに見えますが・・・。)

もちろん、Cの人も、ほとんどはクライミングを辞めてしまうのですが、一部に講習に残る人がおります。
それは、自主練習をほとんどせずに、講習だけに通う(登山には自分で通っていたりする)という人です。

「毎回の練習に、お金が掛かって大変じゃない?」、「(石田さんところの)自立したクライマーと反しない?」などの一般の方々からの目は重々承知ですが、私はなるべく諦めないで欲しいとも考えています。

例えば。
①登山の岩場通過などに役立つ練習としては、月2回程度の講習だけでも、数年続ければ相当なレベルになる。
くれぐれも、その練習量でバリエーションとかに欲を出さないで欲しい。

②クライミングの動きの原理原則が分かってきたら、いつか化けるかもしれない。
自分でジムに通って、基礎練習と本気トライを半々の時間だけ行う、という理想的な取り組みになっていく可能性もある。
そうなってきたら、リード、登山におけるクライミングなど、僕が本当に教えたいことを教えたいとも思う。

③老化対策の姿勢教室として、スタティック練習、フォーム練習は、効果がある。
これは、講習ならではの話です。
私自身も、これはすごく役立っています。
<今回とは、ほぼ無関係な挿絵的写真ですが>

さて、そんなCの方々にも、私は懲りずに一人でジムに通うことをオススメしています。
そんな方々の何名かに、昨夜作ったメールのご紹介します。

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●基礎練習は、一人で行うとどうしても飽きるので、いくつかのルールを決めて行う。

①最初の15分ぐらいは、「とにかく丁寧に」ぐらいの大雑把な意識で良い。
段々と身体が動いてくるに従って、講習ノートを見返したりして、色々と意識的に試してみると良い。
むしろ、最初から色々と意識し過ぎると、ロボットのような硬い動きになってしまう。(どんなスポーツでも講習生が陥りやすい姿)

②飽きないように、色々な壁の1番ないし2番目に易しいルートを、順繰りに行う。
次のホールドを追いかけることで、ついつい意識するのを忘れてしまったり、ホールドの形状で色々と考えさせられたりするので、練習の刺激になる。
手足限定だと、基礎練習には難しすぎると感じる場合は、足自由で練習しても良い。
飽きないならば、同じルートを何回か登っても良い。

③それでも飽きてくるので、ジムに滞在する時間の後半は「一般的なクライミングのゲーム(自分が登れるか登れないかギリギリ、ぐらいのルートのクリアを目指す)」を楽しむ。
基礎練習よりは難しめのルートにトライすることが可能。動きがグチャグチャになったとしても、突破できればオーケーなので。
そのため、トライできるルートの数は相当広がる。
とはいえ、グチャグチャの場面が多すぎると、さすがに疲れて上まで登れないので、色々と作戦を考えることが、クライミングのゲーム性の1つ。
1回目で登れなかったルートでも、反省点が見つかったり、ホールドを暗記することで2回目、3回目と繰り返しのトライで登れることもある。
一般的には、基礎練習よりも腕が疲れるため、1トライごとに座って休憩し、反省点や作戦を考える。

上記の流れで、疲れて③「一般的なクライミングのゲーム」が楽しめなくなったら帰宅、というのが一般的な流れです。
これは、オートビレイでもボルダリングでも同じです。

時間は、1時間でも3時間でも、休みの日にそれ以上滞在しても構いません。
ご自身の生活リズムの中で、行ってください。

ジムの一般的な常連さんだと、特に何も意識しないウォームアップと③「一般的なクライミングのゲーム」のみを行っている人が多いです。

それでも自主練習が難しければ、とりあえずは講習だけは続けてみましょう。
クライミングの動きが理解できてくれば、一人でも楽しめる日が来ると思いますので。

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改めて読み返すと、ブログよりも平易な言葉ですね。
普段のブログは、どうしても講習生の上位クラスの面々、感想をくれる知人をイメージして書いてしまうので、どんどん専門的になってしまいますね。

2025年2月17日月曜日

熱くなりすぎない

クライミングは、メンタルへの負荷が結構高いと思います。

・本気トライで、登れると思ったのに登れなかったとき。
・パートナーが、同じ課題をトライして、自分より先に完登したとき。
・リスク管理に関してディスカッションをしたけれど、上手く伝えられずに若干の険悪な雰囲気になったとき。
・自分の能力の低さ(〇〇が出来なさすぎる、など)を痛感させられたとき。
・最近練習を始めたことが、全く本番で活かされなかったとき。
・自分のリスク管理方法に誤りがあると、認めざるを得ないとき。
・自分の練習習慣に誤りがあると、認めざるを得ないとき。

これらは、ほとんどの人にとって嫌な場面だと思います。
実際、不機嫌になる人、これが嫌で真面目に練習しない人、一応本気でやっている風なんだけど悔しがることや反省点の抽出を思考放棄気味な人、など様々な人がいます。

人によっては、もっと些細な点でイライラしたり、落ち込んだりしています。
また、経験が浅いうちは、経験や技術を評価する尺度がグレードしかないため、グレードに振り回されることもあります。

・ホームジムのグレードが辛くなって、自分が退化した気分になる。
・グレードが辛めのジム、岩場に行って、自分でも理由がよく分からないぐらい落ち込む。
・自分が苦労して完登したルートを、周りの人が「グレード甘めだね。」とコメントしたことに怒ってしまう。
・「このルートが、いかに自分が不利か!(例えば、リーチ)」を力説しているところ、「でも、こういう要素も考慮すると、そうでもないんじゃない?」などと反対意見を言われて怒ってしまう。

また、スポーツ的な要素も見過ごせません。
・パートナーや同時期に始めた仲間の成長速度に付いていけない。
・成長どころか老化を感じる。


さて、これらの問題に対して、どう取り組むべきでしょうか?
まず、問題を3つに分類します。

①「スポーツの厳しさ」への心構え
・競争心の負の側面
・老化
・練習不足、的を得ない練習方法による、後々の成績不振
・体調不良とリハビリ期間
・成績への一喜一憂

②「リスク管理の厳しさ」への心構え
・自分は出来たつもり、によるツケが回る現象
・他人から指摘される不快感
・ディスカッションの難しさ(お互いに、ある程度の言語化能力がないとモヤモヤして終わる)
・勉強不足の後ろめたさ
・事故当事者パーティになったときの強烈な自責の念

③「人間関係の難しさ」への心構え
・同性パーティのデメリット、異性パーティのデメリット
・上下関係のデメリット(上は下をコントロール下に置きたがる、下は上に依存する、など)
・イコールパートナーの難しさ(過剰な競争心を制御する必要性、平和的にディスカッションする能力の必要性)
・パートナーへの過剰な期待
・練習方法、トライへの姿勢、リスク管理を指摘したが、ディスカッションが上手くいかなかったことによる人間関係の綻び

僕自身を振り返ると、①、②、③全てを登山とクライミングを通して学びました。
ある程度、落ち着いた考え方に至るまで10年以上は掛かったと思います。
同じ構図の不快感を2〜3回ずつぐらいは味わった結果、「こういうもんなんだな。」と諦めが付いたのかもしれません。

そして、講習生が落ち込んだり、仲違いする様を見てきて、さらに理解を深めています・・・。
一体、何周回っているんでしょうね?

また、講習生の場合、30〜50代でクライミングを始めるパターンが多いため、元々の人生経験にも左右されるように思います。

例えば、他のスポーツを真剣にやっていた人であれば、①だけは嫌と言うとほど経験あり、チームスポーツなら③もある程度は分かっているとか。
講習生には、医者、弁護士、エンジニア、などがおりますが、こういった方々は、②に対する心構えは良いようにも思えます。
他にも、仕事柄③は得意という人もいるように思います。

さて、「自分自身の精神的ダメージを減らすにはどうしたら良いか?」という、最も本質的な問題はどうしましょう?

A)俯瞰する
   上述の、どの状況にあたるのか?
   問題の改善点を提案する意識。(「悩むより考えろ」というイメージ)

B)極力、自責思考にする
   他責思考に陥ると、その場は自責の念が薄まるため、防衛反応として考えがち。
   しかし、そのツケはいずれ回ってくる。

C)同じ構図の不快感は、いつか再び訪れると覚悟しておく
   本気トライで、取りこぼす時などは、日常茶飯事。(そもそも、成功率20〜80%ぐらいだから本気トライなのです。)
   イコールパートナーとディスカッション失敗して微妙な空気になる時もある。
   心の準備がない突発的な不快感に対しては「一人になって頭を冷やす」ぐらいしか対策が難しいように思います。

こうやって抽象化すると、なんとも当たり前なのですが、その場になると結構難しいものです。しかも、一度不快になると、他人の些細な行動・言動にまでイライラしてしまうという悪循環もあります。

真面目にやるからこそ嫌な思いをするものです。
その気持ちは痛いほど分かるので、「いい加減にやれば良いや」という投げやりにはならないで欲しいものだと思います。

「スポーツ選手が小中学生の頃に味わうような挫折やメンタルコントロール体験を、我々は大人になってから味わっている。」
と考えれば良いかもしれません。

2025年2月11日火曜日

フリークライミングの端から端

講習では、岩場でのムーヴ練習は極力ボルダリングで行うことにしています。
これは、岩場リード講習、クラックリード講習、アドバンスクラック講習、アイス講習など、全てに一貫した考え方です。
<ボルダーでの基礎練習>

メリット
①落ちたらどうなるかを想定しながらムーヴを行う習慣付け

トップローパーの人に、「落ちたらどうなるかを意識して、どんな行動をするかを判断せよ。」と言うと「(トライ中は)そんな余裕が無いから無理。むしろ反対に、なるべく怖いとか考えないようにして登っている。」みたいな発言をします。

落ちた場合の状況は大きく分けて下記の3パターンがあり、それに応じて「落ちるかもしれないムーヴを繰り出すか、戻れないムーヴを許容するか、ちょっと欠けそうなホールドを許容するか」などの総合的な判断を行います。

A)落ちても、ほとんど怪我をする可能性が無い。
B)気を付けて落ちれば大丈夫(高さ、下地に若干の不安要素があるが、自ら飛び降りるぐらいの余裕があれば問題ない)
C)落ちたら事故(事故の重大性に対して、Cを2〜3段階に分けることも可)

さらに、講習では同じボルダーで何回も繰り返しムーヴ練習を行い、さらに私から「もっとこうやった方が良いムーヴ習慣になりますよ。」という指摘も繰り返します。

結果的に、10回以上も同じボルダーを登ったり、クライムダウンしたり、トラバースしたりするため、「ちょっとリスクを感じたけど、通過できちゃったから、もうやらなくて良いよね?」みたいな登りを、最小化していきます。
「同じ場面を100回やっても、そんなにストレスが無い。」というリスクレベルで、クライミングを楽しめるようになって欲しいと考えています。

そのリスクレベルで行動する習慣こそが、リードクライミングにおける最も基礎的な考え方であると私は感じています。
<今回でクラックリード講習を卒業にした、HGさん>

②圧倒的な練習回数
トップロープでの練習に比べて、交代などの手間が無いため、練習量が増えます。

<湯河原でのムーヴ練習>

③難しいルートをトップロープで触りたがる悪癖からの脱却
「ボルダリングorリードしか選択肢が無い。」という環境こそが、まともなリードクライマーを育てると考えています。

そういう意味では、もはやそういうレベルに越えた講習生であれば、トップロープをしても構わないはずです。
しかし、人間は弱いものなので、すぐに悪い習慣へと流れるものだと思っています。

そこで、「完登済みのルートで納得いかなかったムーヴ検証&反復練習」といった、ごく一部の条件下でのみ、トップロープ練習を行うことにしています。

このあたりの考え方が理解できるまでには、それなりに時間と心構えが必要なので、岩場リード講習やクラックリード講習では、原則トップロープでの反復練習は行わないようにしております。
アドバンスクラック講習では、その条件下でのトップロープ練習を行います。
<アドバンスクラック講習で、FIXロープの張り方、ユマグリの練習>

そんな訳で地上50cmとかで、そもそも突破できる箇所を「より良いムーヴへと洗練させる」練習を徹底的に行います。

この地味さが、クライミングの一つの端っこであると思います。

ホールディング・姿勢・足置き・ムーヴ選択(手足の位置関係)の考え方といった、ジムでのムーヴ講習と同様の内容を、岩場で行います。
そこで、安定して登る必要性に対し、理解を深めて欲しいと思います。
<FIXの練習中>

一方で、クライミングは総合的な遊びであり、それ自体を楽しんで欲しいと考えております。

岩場リード講習であれば、トップアウトできなかった場合のヌンチャク回収(敗退ビナ残置、クライムダウン回収、裏から回り込んで懸垂下降)といった作業や、それに伴うプランニングも大切です。
クラックリード講習であれば、エイドダウン敗退。
残置無視・トポ無視のマルチピッチ講習であれば、そもそも敗退プランを練りながら登ることが、楽しみの1つと言えます。

自立したクライマーを目指す上で、総合力が問われる場面です。

こういった総合力を他人に依存したり、トップロープやチョンボ棒に頼っているようでは、何とも寂しいものです。
<アドバンスクラック講習にて、城ヶ崎の懸垂エリア「ばったり」>

その意味では、城ヶ崎もなかなか良い練習場です。

今回のアドバンスクラック講習では、エリアを私が指定し、トポも見せずにFIXを張ってもらいます。
(そもそも、100岩場とか魅惑のトラッドには載っていない。)
どこのテラスからスタートするか、どのルートで遊ぶかも、自分たちで決めてもらいます。

ほとんど開拓と同じ作業で、この手の能力が、もう一つのクライミングの端だと思います。
<ビレイ点もカムで作成>

プロテクション、難易度、脆さ、などを勘案し、ルートを決めます。
スタート地点となるテラスを選び、2人ともO.S.、フラッシュを成功。
これも、なかなか良いトライでした。

そこから、日暮れまでの残り時間を勘案し、もう1本の候補ルートをトライするかを相談。
かなり厳しいと判断して、完登済みのルートでワイドパートのトップロープ反復練習を選択されていました。

そして、夕暮れ前に予定通りユマグリして、荷上げ。
暗くなった遊歩道を帰る、という流れです。

細かい指摘(リスク管理、作業効率、ムーヴ、など)は色々としましたが、大筋の流れは自分たちでコントロールできており、2人とも大したものだと感心しました。
<オンサイトするHSさん>

「残置も何も無いエリアで、オンサイトグラウンドアップで普通に楽しむ。」という総合的な遊びに至る過程も、結局は基礎が大切だと思います。
(トップダウンのエリアなので、下降中に浮き石除去とかでルートは多少触ってしまいますし、軽くオブザベも出来ちゃいますが。)

「人気ルートだから安全」とか、「グレードが〇〇だから安全」とか、そういうフワフワした感覚は、早く捨てましょう。

「こういうルールを自分に課して登っていれば、初登攀だろうが難しいルートだろうが、許容リスク範囲内でトライ・敗退をする判断ができるはずだ。」
という自信を身に付けていただきたいものです。

今回は、2つの端についてお話ししました。

ある程度整備されたショートルートの本気オンサイトトライ、というのが丁度中間ぐらいかなと思っています。
「ボルトルート、クラックの〇〇っていうルートを本気オンサイトトライする。」など。

講習では、両方の端を丁寧に扱うことが大切な気がしています。

どうしても、自分が主にやっているものだけを「クライミングって(山って)、こういうもんでしょ。」と語りがちになるし、それが成長を疎外することにもなります。
全体を見渡して、「今は〇〇が特に重視される場面だな」という感覚で行動できるようになると、クライミングや登山がもっと楽しく上達できるのではないでしょうか。

<ISさんもフラッシュ成功>

<完登済みのルートでの、トップロープ練習。石田によるムーヴ解説。>

<夕方の登り返し>

2025年2月5日水曜日

4月分の予約受付

2月10日(月)の夜22時より、4月分の予約受付を開始いたします。
開始時間が、普段と異なります。

講習場所は、定期講習では暫定的にDボル立川を表示してありますが、ランナウト、ストーンマジックでも対応可能です。
1人目に申し込んだ方の希望に合わせたいと考えておりますが、こちらで調整する場合もあります。
また、私のジム使用料を負担していただければ、ベースキャンプ入間、モリパークウォール&スタジオ、などのジムへは出張可能です。

4月の主な講習場所
岩場リード講習:天王岩、など
クラックリード講習:兜岩、など
マルチピッチリード講習:奥多摩、三ツ峠、など

気候が許せば、小川山・瑞牆などの標高の高い岩場にも行く予定です。

では、どうぞよろしくお願いします。

2025年1月27日月曜日

アイスクライミングのムーヴ組み立て

アイスクライミングのムーヴ組み立ては、大きく分けて2つの考え方があると思います。
この2つ、「講習生に、どちらを先に教えるべきか?」という問題としても、僕の中では常々脳内にあります。
1つの考え方を習得するまでに、何日間も講習期間が必要だからです。


考え方①(ダイアゴナル気味の足位置でアックスを振る

アックスを振るときに、三角形バランス(講習用語で言うところの軸またぎ)を作るが、アックスの振りやすさを最優先して、ダイアゴナル気味(※1)にする。

これに関して、動画や写真などが無いのが申し訳ないです。

(※1)ダイアゴナル気味とは?
「右手保持手にする場合は、左足を右手の真下にして、右足をスメアにするのが典型的なダイアゴナル。アイスの場合は、これと三角形バランス(軸またぎ)の中間ぐらいの足位置にすると、アックスが振りやすい。」

この場合、アックスを刺した時点で自然と逆三角形が完成するので、片足フリーのバランスが作りやすく、何歩か足移動を行った後に、再び考え方①の形に入ります。

延々とこれを繰り返して登る方法で、理解してしまえば最も単純なムーヴ組み立てです。

メリット:
●アックスが振りやすい。
●保持手の脇が締めやすい。
●一手一手の距離を稼ぎやすい。
●氷柱、カンテ状のように、凹角が無い形状でも使いやすい。

これに対して、もう1つの登り方があります。

考え方②(三角形バランスでアックスを振る

アックスを振る際は、必ず三角形バランス(軸またぎ)。
典型的には、凹角を利用して登るような場合などに使います。

ただし、この場合は以下の問題が発生します。

「次のアックスを再び三角形の中に(底辺の上に来るように)打ちたくなるため、足移動の逆三角形が作れなくなり、足デッドを多用してしまいがち。」

この足デッドを防ぐための解説動画が以下。
プランA
肘プッシュなどを利用して、片足フリーのバランスを作り、再び三角形バランス(凹角の場合は、特にステミングと呼ぶことが一般的)に戻す。

プランB
一時的に、凹角の外にアックスを片手だけ刺し、逆三角形のバランスを利用して足移動を数歩行い、再びステミングに戻る。

メリット
●アックスを振っている時間中、パンプしづらい。
●左右どちらの手もレストできる。
●凹角であれば、スクリューセットなども容易になる。

初級者にとって難しいのは、プランAプランBを臨機応変に使い分けるのが、やや頭を使うところです。
上手くやらないと、結局は足デッドの連発で登るハメになります。
(アイスにおける足デッドをどこまで許容すべきか?という問題は、一旦置いておきます。)

講習生がプランAの練習をしている動画が、以下。
もちろん、凹角でない平面的な氷であっても考え方②(三角形バランスの足位置でアックスを振る)を主体にムーヴを組み立てることも可能です。

ただし、平面の横幅が狭い(典型的には氷柱)と、考え方①(ダイアゴナル気味の足位置でアックスを振る)でないと、スタンス選びに窮します。

実際には、氷の形状、ガバ足がどこに存在するか、自分のパンプ具合に合わせて、考え方①、②を適宜選択、さらに考え方②の場合は足移動にプランA,Bを適宜選択、という流れになります。
<70度くらいの氷で、基礎練習中>

実際やってみると、状況に合わせてムーヴを選択するということの面白さが見えてきます。

考え方①は、僅かに側対気味の方がアックスが振りやすい。
●今、この場面で考え方①、②のどちらをやろうとしているかの意図が不明瞭だと、すぐにグチャグチャになる。
●易しいグレード(Ⅳ級程度)だと、短い垂直近く(ざっと70度以上)凹角やテラスの存在しないパート考え方①で突破、形状が豊富なパートは考え方②でパンプしないようにジリジリ高度を稼ぐのが得策か?
●やや難しいグレード(Ⅴ級以上)だと、短い垂直近く(ざっと70度以上)凹角やテラスの存在しないパートが5m以上とか続くため、考え方①だけで登るとスクリューセットやレストに窮する。そのあたりのトライ戦術が、テンションを入れずに登れるかの肝になってくることも多い。
<リードするTGさん>

文章で説明して、一体どれだけの人に伝わるのかは不明です(笑)。

まぁ、繰り返しムーヴ講習を受けてくれている方や、何度もアイス講習を受けてくれている方の復習ぐらいになれば、幸いでしょう・・・。
<今回は、本人なりにリスク管理(※2)が上手く行ったようで大変満足そうでした>

(※2)プロテクション戦略、アックスの深さの安全マージン、足デッドをどこまで許容するか、氷質の悪いセクションの安全確保をどうするか、などなどのリード中にTGさんが判断した諸々。

2025年1月11日土曜日

フナムシボルダーにてハサマリング

1月2日は、城ヶ崎ボルダーでフナムシロック周辺。
亀井兄弟と。
<カピパラ岩>

とりあえず、普段通り2時間ほどかけてウォームアップで基礎練習。

さて、この日はトポに載っていないラインを適当に物色するのが中心です。
目線は低く、ハサマリング主体で楽しみます。

一応、場所を紹介するので、興味のある人は探してみてください。

①カピパラ岩
高さ1mぐらいのルーフクラック。

色々とスタートを変えて楽しめるが、ルーフ下をトラバースするようにスタートを設定すると、案の定難しい。
5トライ以上かけて登ったので、2〜3級ぐらいあるかもしれない。
<カピパラ岩>

②文殊岩の左の左ぐらい(写真なし)
2.5mぐらいのコーナー。
レイダウンスタートにして、2トライで登れた。
たぶん4級ぐらい。

③河豚岩の右下にある高さ2mぐらいの岩(写真なし)
この岩が、地面から50cmぐらいで絶妙に地面から浮いている。
つまり、洞窟のように奥からスタートするとルーフクラックが楽しめる。
が、50cmなので例によってムーヴ制限が大きい。
(例えば、両足スタックでコウモリのように頭を下げるムーヴは、地面に身体が着いてしまうのでダメ、など。)

まるで、ジムボルダーの低空トラバースのような狭さで不快感は否めないが、ムーヴが楽しいので許せてしまう。

ムーヴのバラシを含め、2時間近くトライしたかな?

結構長くてリード的。
5.11cぐらい?

文殊(初段)

トポに載っている課題も、いくつかトライしました。

●文殊(初段)
2トライにて完登。超得意系な上に、グレード甘めなのか・・・。

●ハコフグ(2級)
敗退。見るからに苦手系。
「悪いカチを保持して、外傾スタンスを踏んで堪える。」という王道(?)ムーヴ。

●カピパラ(1級)
パッと見は、綺麗なカンテ。
ただ、いざトライしようとすると、ライン・スタートなど「これはアリ?」と色々と考えてしまう課題。
1時間ぐらいで一応は登ったが、設定と異なるライン・スタートだった可能性は大いにある。

●小潮日和(4級)
敗退。ムズイ・・・。

既成ラインに関しては、見事にグレードと結果が反比例するという一日でした。
ルーフクラックとフェースを半々で遊んだ結果、翌日は信じられないほどの筋肉痛に襲われました。
色々とトレーニングになりました。

常々思うことですが、ハサマリングはスタートの向きからしてギャンブル性が高いので、オンサイトが非常に難しいですね。
反転しているだけに、トライ前のオブザベも頭が大混乱するし。

登ってしまえば4〜5級という強度でも、オンサイト率がなかなか高まりません。

そういう観点では、このグレード感のルーフクラックは貴重な練習課題です。
が、想像を絶するほどショボいので、到底ロクスノとかに発表されないだろう、というのも理解できます。
発表されている課題は、大抵1m以上の高さがあって、割とカッコいいものが多い印象です。

お好きな方は、自分で探して遊ぶのが良いかなと思います。
岩さえ密集していれば、大抵どこでもあると思います。

2025年1月6日月曜日

3月分の予約受付

1月10日(金)の21時より、3月分の予約受付を開始いたします。

①マルチピッチリード講習・マルチピッチ体験講習は、3月より再開いたします。

②ジム講習は、最初に申し込んだ方の希望によって、ランナウト、Dボルダリングプラスリード立川、などの希望にある程度合わせます。
定期講習で、スケジュール上は講習場所を書いていても、相談可能です。

ストーンマジック、ベースキャンプ入間、MORIPARK Sports Wall&Studio、なども可能です。

※ランナウト、Dボルダリングプラスリード立川、ストーンマジックに限っては、講師分のジム使用料を、講習生にご負担いただく必要がありません。

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なかなか心に響かないだろうなとは思うのですが、2点のオススメがあります。

●マルチピッチ講習は、1〜2月は寒さにより休止していますが、この期間にアドバンスクラック講習で城ヶ崎のトップダウン(FIXロープを張って、懸垂下降してアプローチする)のエリアでの受講を1つの選択肢として推奨しています。

実質的に、マルチピッチ相当のリスク管理の考え方を講習できます。
また、城ヶ崎の人気のクラックエリアとは異なり、通常は誰もおらず、残置物もほとんどありません。
冒険的な楽しみ、本来あるべきクライマーの行動、などを強く感じることができます。

●ムーヴ講習の定期受講
講習している岩場(本来はジムリードでも)でのリスク管理方法は、ムーヴによる安定技術を前提にしています。
(落ちてはいけないセクションは戻れるムーヴで登れ!などなど。)
そのため、その前提が無いと、いくらリスク管理だけを習っても机上の空論に感じてしまいます。
(「ちょっとでも難しいと、戻れるムーヴなんて無理じゃん!」など)

また、故障しにくいフォーム、ムーヴ選択の原理原則(どういう状況だと回転してしまうか?など)なども、継続受講しないと理解しづらいものばかりです。

私だって、手っ取り早くグレードを上げられるものならそれを教えてあげたいし、ヒールフックとかランジとか見た目にも技っぽいムーヴを教えて満足して帰ってもらいたいとは思っています。
しかし、講習時にヒールフックを練習しても、それを自分がジムに行ったときに基礎練習できる(講習でやったようなヒールフック入門課題を無数に自作できる)までには、相当なムーヴの理解が必要です。
結果として、ムーヴの原理原則の理解に最大限に注力した期間が必要です。

どうか、そのレベルまで頑張って続けて欲しいと願っています。
そこまで続ければ、それ以降の継続は精神的な負担が軽減されてくるものです。
(数名ですが、そのレベルに達して楽しくムーヴ講習を受講できるようになった現役講習生がいるとも感じています。)

理想は、月1回のリスク管理系の講習、月1回のムーヴ講習を両方受講することです。
特に、これは最低限のリスク管理技術を学んだ、マルチピッチリード講習卒業生に対して、強く推奨しています。

それを続けるだけで、1〜2年後には別人のような視野が広がっていることと思います。

2025年1月1日水曜日

基礎

講習生との会話で、パターン化されたものの1つに、
「この練習が何に繋がるのか分からない。」
というものがあります。

例えば、
・足置きを丁寧にする
・姿勢を良くする
・一手一手レストする練習
・入門ルートをより合理的に登る方法(さらなる最適ムーヴ)を考える
・入門ルートを全てスタティックで登る
・ロープ畳みを徹底的に練習する
・カラビナやATCを落とさない方法を反復する
・クリップの反復練習
といった、いわゆる基礎練習です。

私から見て「基礎の出来が不十分」と感じたものを、ちょっとずつ改善していただく作業において、頻繁に起こります。

講習生にとっても、講師にとってもストレスの大きな問答の1つです。
私がどんなに言葉を尽くしても、真の意味で理解していただけることは無い質問だと思っています。

私の対応として、
①スルーする
②真っ向勝負で回答するが、伝わらないことは諦める

③変化球で回答する
(②だと心理的な反発が大きそうな場合)

④他の講習生は、どう考えているか意見し合う場を設定する
(そこを乗り越えた人間の言葉より、同じ目線で基礎練習に耐えられる仲間の心情を聞く方がプラスになりそうな場合)

などがあります。
基礎練習が楽しいのは、素人さんと中上級者である。初級者は最も嫌がる比率が高い。
という、登山・クライミングに限らない一般論があります。

この場合の、レベル分けはグレードでは表せません。
最高R.P.グレードが5.13でも初級者的な心構えの人もいれば、5.11でも心構えだけは中上級という人もいますので。

理由①
素人さんは、全て無意識。
初級者は、意識しているつもりが実はダメダメ。(自己認識が誤りであることが多い。)
中上級者は、自己認識の精度が高い。(または、自己認識がダメダメであることを俯瞰している。)

例えば、足置きに関して言えば、素人さんは全ての足置きが雑なことが多いです。
これは、
●足は爪先周辺で置いた方が、何かと便利
●入門ルートでドタバタ音を立てて登るのは、ちょっとバランスが変で強引に登っている証拠
といったことを全く意識していないからです。

そのため、意識して「たしかに〜!」と思うと、ちょっとメリットを感じるので、「これを癖付けた方が良いなぁ。」と思って練習に励むことが可能です。

次に、初級者です。
彼らは意識しているつもりが、実は出来ていないのです。
・全くダメ
・完璧からは程遠い
・基礎練習中は丁寧でも、本気トライ中はダメダメ
などのレベル差はああります。
この状況は厄介で、当人の安定感センサーが未熟なこともあり、講師が「今、出来てなかったですよ。」と言っても、ピンと来ないことが頻繁にあります。

もちろん、私としても基礎練習の方法や声掛けに工夫を凝らしますが、構造的に限界があり、講習生の謙虚さが試される場面となってしまいます。
ここは、初級者にとって1つの大きな壁と言って良いでしょう。

最後に、中上級者は自分の動作に対して非常に敏感です。
ときどき、非常にストイックなボルダラーが講習が来たりしますが、そういう方に「ここが雑ですので、こういう練習をしてください。」というと、ものすごい精度まで仕上げようとしてきます。
趣味で音楽とか釣りを相当のレベルまでやっていた人は、ロープやカラビナなどの道具の操作を「茶道みたい!」と思うようなレベルまで洗練したがる傾向にあります。
理由②
今の自分にとって、基礎がどれだけ大切かの理解度。

クラックを初めたての初心者で、ハンドジャムやカムセットを学びたがらない人は少ないでしょう。

一方で、初級者は、「ハンドジャムはもう出来ます。シンハンドを教えてください。」みたいな発言をしがちです。
実際には、シンハンドというのはハンドジャムと原理的には8〜9割は同じなので、シンハンドが全く出来ない人というのは、ハンドジャムのやり方にも大きな問題を抱えているはずです。

これが中上級者になると、ハンドジャムの基礎練習で「まだ自分にも改善の余地があるんだ!」、「そもそもハンドが下手だってことは、全てのジャミングに伸びしろアリってことかな?」と思って楽しんで取り組むことができます。
そして、それが長い眼で見るとグレードにも繋がることを、感覚的にも理解しています。

理由③
基礎練習のバリエーションが本格的に増えるのは、中上級者になってから。

クライミングで言えば、素人さんは足置き、スタティック、姿勢、入門ルートの最適ムーヴ探りなど、やれる基礎練習は限られています。

中上級者になれば、自分が弱点だと思うムーヴを考えて、その基礎練習になるような課題を自作して取り組む能力が付いてきます。
(ランジの超入門版を、何十個も自作してみるなど、色々とやり方はあります。)
また、「自分はなぜその動きが苦手なのか?」を自己分析して試行錯誤するのですが、それが正解に辿り着く確率が割と高いです。
また、自己分析を何度も方向修正する謙虚さを持ち合わせています。

その間の初級者が厄介なのは、素人さんと同じメニューを精度を高めてやるのが一番近道にも関わらず、飽きてしまうことです。

ただし、中上級者であっても、素人さん〜初級者とほとんど同じメニューを、ものすごい高い精度で行っていることも多いです。
相当に登れる人でも、最初の10〜20分は全てガバのルートで身体を解す作業が必要ですし、その登りが惚れ惚れするほど美しい人というのは、私もこれまでジムで何人も見かけております。
多くの場合は、20〜30代のベテランコンペ選手、とかです。
彼らは、アップ1本目からして、身体の制御に対して明確な集中力を感じさせます。

理由④
メンタルコントール

素人さんは、いわゆる初心者モチベーションがあります。
何もかもが新鮮、ゼロからの成長は実感しやすい、などがあります。

初級者は、前述の自己認識に誤りが多いため、基礎練習による上達を実感しづらい人が多いです。
この時期は、自分や他人をグレードで評価しがちです。「〇〇さんは、5.12だから。」、「〜〜さんは、本チャンの△△ルートを登っているから凄い。」などなど。
本気トライの成果を全否定するつもりはありませんが、自己や他者の評価軸がグレード頼みというのは、いかにも虚しいです。
そして、評価軸がグレードのみだと、基礎練習に飽きやすいのです。
少なくとも、僕の講習に通っている方には、この時期は是非とも超えて欲しいと思っています。たとえ、最高R.P.グレードが5.11であったとしても。

当然、中上級者は修行僧のようになって来るので、メンタルは比較的安定しています。
(人間なので、日常生活や仕事でのメンタル不調は仕方ないですが。)

理由⑤
一緒に登る仲間の理解レベル。

素人さんが基礎練習するのは、誰もが当然と思って見守ります。
登り方だけでなく、ビレイ技術やカムセット、ロープワークなどの安全管理技術は、最低ラインを下回るとジムでも怒られるレベルです。

中上級者は、「基礎は奥が深くて、一生極められないかもしれないもの」ぐらいの意識があります。
そのため、中上級者集団に所属していれば、自然とそういう会話もするし、「今日は、アップの時間を長めにとって、〇〇の基礎練習したい。」と言うのが、日常的に許容されると思います。
ジムの場合、リードの約束をしていたとしても、アップはボルダーやオートビレイで各々別々に行う、というチームも割とあると思います。

厄介なのは初級者集団で、「今さら、何でそんなことをするの?(私たち、基礎は習得済みだよ。)」と言った会話になって、練習しづらい雰囲気になることです。
入門ルートで丁寧に登る練習をするにせよ、リードのビレイで落ちる練習をするにせよ、何でも不思議がられたり、場合によっては「そんな(無駄な)ことしてないで、この課題を一緒にトライしよーよ。(その方が、グレード上がるんじゃない?)」みたいな会話になります。

※常々書いていますが、本気トライ自体を否定するつもりはありません。
講習生には、基礎練習と本気トライを半々の時間行うように、私は推奨しています。結局、どっちか好きな方に圧倒的に偏る人が多いのは知っていますが、これを修正するにも長年の付き合いが必要です。


さて、最初に戻って、
「なんで、この練習しなきゃいけないんですか?」
という質問は、上記どこかに該当するように思います。

メンタルコントロールで言えば、
「なんとなくやった方が良さそうなのは分かるんだけど、先が長すぎて嫌になります。私のクライミング寿命も残り僅かなので、もっと簡単に上手くなる方法を教えてくれませんか?」
という話を、本質的に質問しているのだなと感じたりします。

ただ、これらは多かれ少なかれ誰もが通る道かなとも思っています。
ブーブー文句を言う講習生(そして、その中には案外続ける人もいる)もいれば、不満を感じてをやめたんだろうなと思う講習生も数多くいます。
中級的な心構えに感じる常連講習生であっても、「初期の10〜20回ぐらいなど、ある時期は通うのがキツかった。」といった昔話をされる方も多くいらっしゃって「信じる者は救われる。」、「最初は、師匠の人間性を信じてトレーニング方法に従うしかない。」、「石田塾はスルメのように、噛めば噛むほど味が出る。」などと仰います。
もちろん、他の人生経験・スポーツ経験などから「トレーニングって、そういうもんだから。」という心構えバッチリな人もいるのですが、講習生の中には少数派です。

わざわざ金銭を払って、ここまで苦労して学ぶ必要がどこにあるのでしょうか?
でも、私としては学び続けて欲しいんですよねー。