講習では、岩場でのムーヴ練習は極力ボルダリングで行うことにしています。
これは、岩場リード講習、クラックリード講習、アドバンスクラック講習、アイス講習など、全てに一貫した考え方です。
メリット
①落ちたらどうなるかを想定しながらムーヴを行う習慣付け
トップローパーの人に、「落ちたらどうなるかを意識して、どんな行動をするかを判断せよ。」と言うと「(トライ中は)そんな余裕が無いから無理。むしろ反対に、なるべく怖いとか考えないようにして登っている。」みたいな発言をします。
落ちた場合の状況は大きく分けて下記の3パターンがあり、それに応じて「落ちるかもしれないムーヴを繰り出すか、戻れないムーヴを許容するか、ちょっと欠けそうなホールドを許容するか」などの総合的な判断を行います。
A)落ちても、ほとんど怪我をする可能性が無い。
B)気を付けて落ちれば大丈夫(高さ、下地に若干の不安要素があるが、自ら飛び降りるぐらいの余裕があれば問題ない)
C)落ちたら事故(事故の重大性に対して、Cを2〜3段階に分けることも可)
さらに、講習では同じボルダーで何回も繰り返しムーヴ練習を行い、さらに私から「もっとこうやった方が良いムーヴ習慣になりますよ。」という指摘も繰り返します。
さらに、講習では同じボルダーで何回も繰り返しムーヴ練習を行い、さらに私から「もっとこうやった方が良いムーヴ習慣になりますよ。」という指摘も繰り返します。
結果的に、10回以上も同じボルダーを登ったり、クライムダウンしたり、トラバースしたりするため、「ちょっとリスクを感じたけど、通過できちゃったから、もうやらなくて良いよね?」みたいな登りを、最小化していきます。
「同じ場面を100回やっても、そんなにストレスが無い。」というリスクレベルで、クライミングを楽しめるようになって欲しいと考えています。
そのリスクレベルで行動する習慣こそが、リードクライミングにおける最も基礎的な考え方であると私は感じています。
<今回でクラックリード講習を卒業にした、HGさん>
トップロープでの練習に比べて、交代などの手間が無いため、練習量が増えます。
<湯河原でのムーヴ練習>
③難しいルートをトップロープで触りたがる悪癖からの脱却
「ボルダリングorリードしか選択肢が無い。」という環境こそが、まともなリードクライマーを育てると考えています。
そういう意味では、もはやそういうレベルに越えた講習生であれば、トップロープをしても構わないはずです。
しかし、人間は弱いものなので、すぐに悪い習慣へと流れるものだと思っています。
そこで、「完登済みのルートで納得いかなかったムーヴ検証&反復練習」といった、ごく一部の条件下でのみ、トップロープ練習を行うことにしています。
このあたりの考え方が理解できるまでには、それなりに時間と心構えが必要なので、岩場リード講習やクラックリード講習では、原則トップロープでの反復練習は行わないようにしております。
アドバンスクラック講習では、その条件下でのトップロープ練習を行います。
<アドバンスクラック講習で、FIXロープの張り方、ユマグリの練習>
そんな訳で地上50cmとかで、そもそも突破できる箇所を「より良いムーヴへと洗練させる」練習を徹底的に行います。
この地味さが、クライミングの一つの端っこであると思います。
ホールディング・姿勢・足置き・ムーヴ選択(手足の位置関係)の考え方といった、ジムでのムーヴ講習と同様の内容を、岩場で行います。
そこで、安定して登る必要性に対し、理解を深めて欲しいと思います。
<FIXの練習中>
一方で、クライミングは総合的な遊びであり、それ自体を楽しんで欲しいと考えております。
クラックリード講習であれば、エイドダウン敗退。
残置無視・トポ無視のマルチピッチ講習であれば、そもそも敗退プランを練りながら登ることが、楽しみの1つと言えます。
自立したクライマーを目指す上で、総合力が問われる場面です。
こういった総合力を他人に依存したり、トップロープやチョンボ棒に頼っているようでは、何とも寂しいものです。
<アドバンスクラック講習にて、城ヶ崎の懸垂エリア「ばったり」>
その意味では、城ヶ崎もなかなか良い練習場です。
今回のアドバンスクラック講習では、エリアを私が指定し、トポも見せずにFIXを張ってもらいます。
(そもそも、100岩場とか魅惑のトラッドには載っていない。)
どこのテラスからスタートするか、どのルートで遊ぶかも、自分たちで決めてもらいます。
ほとんど開拓と同じ作業で、この手の能力が、もう一つのクライミングの端だと思います。
<ビレイ点もカムで作成>
プロテクション、難易度、脆さ、などを勘案し、ルートを決めます。
スタート地点となるテラスを選び、2人ともO.S.、フラッシュを成功。
これも、なかなか良いトライでした。
そこから、日暮れまでの残り時間を勘案し、もう1本の候補ルートをトライするかを相談。
そこから、日暮れまでの残り時間を勘案し、もう1本の候補ルートをトライするかを相談。
かなり厳しいと判断して、完登済みのルートでワイドパートのトップロープ反復練習を選択されていました。
そして、夕暮れ前に予定通りユマグリして、荷上げ。
暗くなった遊歩道を帰る、という流れです。
細かい指摘(リスク管理、作業効率、ムーヴ、など)は色々としましたが、大筋の流れは自分たちでコントロールできており、2人とも大したものだと感心しました。
<オンサイトするHSさん>
「残置も何も無いエリアで、オンサイトグラウンドアップで普通に楽しむ。」という総合的な遊びに至る過程も、結局は基礎が大切だと思います。
(トップダウンのエリアなので、下降中に浮き石除去とかでルートは多少触ってしまいますし、軽くオブザベも出来ちゃいますが。)
「人気ルートだから安全」とか、「グレードが〇〇だから安全」とか、そういうフワフワした感覚は、早く捨てましょう。
「こういうルールを自分に課して登っていれば、初登攀だろうが難しいルートだろうが、許容リスク範囲内でトライ・敗退をする判断ができるはずだ。」
という自信を身に付けていただきたいものです。
今回は、2つの端についてお話ししました。
ある程度整備されたショートルートの本気オンサイトトライ、というのが丁度中間ぐらいかなと思っています。
「ボルトルート、クラックの〇〇っていうルートを本気オンサイトトライする。」など。
講習では、両方の端を丁寧に扱うことが大切な気がしています。
どうしても、自分が主にやっているものだけを「クライミングって(山って)、こういうもんでしょ。」と語りがちになるし、それが成長を疎外することにもなります。
全体を見渡して、「今は〇〇が特に重視される場面だな」という感覚で行動できるようになると、クライミングや登山がもっと楽しく上達できるのではないでしょうか。
<ISさんもフラッシュ成功>
<完登済みのルートでの、トップロープ練習。石田によるムーヴ解説。>
<夕方の登り返し>