2026年8月23日日曜日

反省の思考プロセス

講習生が「落ちてはいけないセクション(落ちたら事故になる可能性が十分あるセクション)」でフォールしたとします。
本来、講習では避けたい事態ですが、残念ながら起こることもあります。

事故に至らなければ、私は最初に以下の質問をすると思います。

A)
「落ちてはいけないセクション」であると認識していなかったんですか?

B)
「落ちないだろう」と思っていたムーヴで落ちたんですか?

原則、考えられるミスは、この2パターンです。

3つ目のパターンとして
★落ちてはいけないセクションに入る際に、戻れないムーヴで突入してしまい、最終的に「落ちるかも(ちょっと怖いな)」と薄々感じつつも、ついつい進んでしまった。
というのもあるでしょう。

これは、「落ちないだろう」と甘く考えて戻れないムーヴを選択したと見なして、Bに含むことにします。
講習生に考えて欲しいこと
  (反省の思考プロセス)

①「ちゃんと再発防止したい。」
    ↓
②「私の場合、AとB、どっちだんたんだろう?」
    ↓
③「Aだとすると(Bだとすると)、今後どういう風に取り組めば改善するんだろう?」
    ↓
④「具体的な取り組み改善は、
・トライ前、トライ中の思考の話だろうか?
・易しいムーヴの基礎練習の話だろうか?
・ジムで登るときの意識改革が必要なんだろうか?」
    ↓
⑤「自分なりに考えた反省点を石田さんに聞いてもらって、ブラッシュアップしてみよう。」
当塾では、素人さん相手であっても④と⑤をちょっとずつ教え込もうとしています。

改善案は突き詰めると
 ⚫︎ムーヴの安定感
 ⚫︎戻れるムーヴの選択
 ⚫︎考える余裕
 ⚫︎リスク管理も含めたオブザベ
といった内容になって来ます。
ただ、ときどき思うのは、講習生は①〜⑤のような反省の思考プロセスに慣れていないことも多いです。
「落ちちゃったから、次は気をつけよう。」くらいの会話で、「近いうちに、また落ちそうですね。」と私が感じてしまう場面もあり、議論の温度差を感じるものです。

登山関係者は、事故・ヒヤリハットがあるので、反省の思考プロセスは頻出項目です。
山岳会のリーダークラスであれば、「この思考に慣れていないなら、怪しいですね。」と私は思います。

講習生でも、お医者さん、消防士さん、弁護士さん、経営者さん、コンサル業の方など、明らかに慣れてそうな職業の方もおりますが、そうでもない方も沢山います。
思考プロセス自体を講習で説明することも、ときには有効だと思います。

ただ、この思考プロセスがなかなか馴染まない人も、本当に多いです。
彼らには、その思考方法に慣れている人と積極的に関わり、色々な議論をするが最良だと感じます。

・プロ意識を学ぶなら、その業界の本物と思われるプロに付いて修業せよ。
・トレーニング意識を学びたいなら、トレーニング意識が高い集団に入れ。
とかと似ています。

師匠に付いて一定期間を学ぶ意義は、意識改革にもあります。
しかも、この手の意識改革は、若い人でも数年間かかるのだということも理解しておいた方が良さそうです。

教わる側と教える側、どちらも長期戦の覚悟を持って接し、焦らず前を向き続けましょう。
ちなみに、今回の講習では「落ちてはいけないセクション」でフォールしたのではありません。
もうちょっと、話は微妙です。

「落ちても安全」なセクションと、「落ちてはいけない」セクションの中間ぐらい、「多分、落ちても大丈夫だけど、落ちない方が良いだろう」というセクションでの出来事でした。

具体的には、
「垂壁面でランナウトしていないんだけど、落ちたらぶつかりそう岩とか立木が見えている」
などの状況です。
実際、ランナウトしていないので、ちょっと痛いけど怪我しないで済む確率は高いように思います。
なので、「落ちてはいけないセクション」よりは、「わずかに落ちる可能性を感じつつも進む」という選択も、考えられます。

とはいえ、この状況で頻繁に落ちているようだと、怪我をする日も近いです。
実際、悩ましい点は多いのですが、ちゃんと考えたい話だなと思います。

2026年8月16日日曜日

ムーヴ用語は、基礎からつまづきやすい

本当は、動画にした方が分かりやすい内容なのですが、ご容赦ください。
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「ダイアゴナル」、「振り」という2つの概念をちゃんと理解している人は、結構少ないです。
私は「振り」は、用語には適さないと思っています。理由は後述します。

①ダイアゴナル

対角線という意味の英語です。
何が対角線かと言うと、右手&左足(あるいは左手&右足)。
つまり、身体の対角線上の2つの支点です。
  ※「右手と右足は、同則(対角線ではない)」と見なします。

典型的には、「右手でホールドを持ち、その真下ぐらいにスタンスがある場合は左足で踏む」2点支持で(右足はスタンスを踏まなくても)バランスが取れる、という意味です。
考え方としては、保持手+踏む足
  ※この際、右足は壁スメアor空中に投げ出す、というパターンが多い。

注)この説明を、「左手でホールドを取るときに、右足を遠くに投げ出す(壁スメアor空中に投げ出してバランスを取る)。」つまり出す方の手+投げ出した方の足だと考えても、対角線(ダイアゴナル)であると説明できます。
その方が、絵面として対角線っぽい(左手と右足を伸ばす写真を見ると、一本の線に見える)ので初心者が理解しやすいのでしょう。
しかし、ムーヴ選択のオブザベ、R.P.のためのムーヴ暗記、など実用上は不便だと思います。
右手でホールドを持ち、その真下ぐらいにスタンスがある場合は左足で踏むようにする。」
というムーヴを選んだ結果として、右足を遠くに投げ出すことになる訳です。


⭐︎初心者が混乱しやすいポイント
⚫︎「左手を出すのに、左足で踏んだら同則なんじゃないの?」
 → 保持手+踏む足で考えるべきところを、出す方の手+踏む足で考えると、真逆になってしまう。

⚫︎「もはや、自分がどのタイミングで何をしたのか全然意識していない。」
 → ムーヴ用語の以前に、登り方の基礎中の基礎(考えながらゆっくり登ること、など)を教えた方が良さそう。

⚫︎「右手保持、右足で真下のスタンスでもバランスが取れますが、何か?」
 → 実際に、同則のバランス(逆足:ぎゃくあし、などと呼ぶ人が多い)であっても、フラッギングなどを使うことでダイアゴナルと同レベル(あるいは場面によってはダイアゴナル以上)の安定感を得られることがある。そのため、「ダイアゴナルって、安定して結構便利だね!」という有り難みが感じられず、ムーヴ用語を理解する意味が感じられない。
とは言え、本来は2点支持を行うたびに、「ここはダイアゴナル、ここは敢えての逆足。」という具合にムーヴを理解した方が良い。
実用的には、オブザベや、R.P.のためのムーヴ暗記に使えます。

②振り

「そこは身体を振って(次のホールドを)取りに行った方が良いよ。」とアドバイスしている人がいますが、この「振る」というのが用語ではなく、イメージを表しているようです。

私の知っている範囲でも、3種類の意味で使われます。

A)側対
壁に正体するのではなく、レイバックなどの要領で、壁に対して腰を横に向ける。
正確には、「サイドホールドが保持手の場合に、保持手に対して正体する」ことで、壁に側対することになる。

B)ツイスト
次のホールドを取りに行く最後のタイミングで、身体を捻ることで距離を稼ぐ方法。
特に、強傾斜(大きくハングした壁)で使うことが多い。
これは、正体している場合も、側対している場合も使うことがある。

C)ダイナミックムーヴの「タメ」
典型的には、デッドポイントやランジに入る前の、身体をスイングする動作。

⚫︎個人的な印象では、30年以上のキャリアのあるクライマーはAのイメージで使う人が多いです。歴史的に、そういう使われ方をしていたのもあるでしょう。彼らは明確にAのイメージで使っているからまだ良いのですが、彼らに習った初級者たちは結構グチャグチャなイメージで使っているように思います。

⚫︎ボルダラーは、Cのイメージで使う人が多いです。「タメ」の動作について、方法論を喋りながらセッションするので、「もっと振って!」と言いたくなるのは自然なことでしょう。

⚫︎側対とツイストを区別していない人も多いので、Bで使っている人も多いです。

基本的には、A〜Cのどの意味で使われたとしても、文脈から理解できます。
ただ、文脈から理解できずに混乱している人も見かけます。

結論として、「振り」という言葉は、クライミング用語としてはイマイチだと思います。
動きのイメージを、なるべく誤解ないように伝える」には不便なので、私の講習中は極力避けています。

側対ツイストタメの3つの方が、まだ用語として使いやすいです。
「振る」についても、擬態語みたいな位置付けで、場面と相手を選んで、伝わりそうな状況のみの限定的使用はセーフかなと思います。

2026年8月12日水曜日

9月、10月分の予約受付 & 今年の富士山

8月14日(金)の夜21時より、9月および10月分の予約受付を開始いたします。
いつもより、開始のタイミングが大幅に遅れて申し訳ありません。

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今年も、富士山に3週間ほど行ってきました。

富士山は、学びも多く、本当に刺激的な場所です。
毎年、富士山ガイドに熱中できる理由を書いていますが、あえて今年は「富士山ガイドの大変さ」について振り返ってみようと思います。

①事故

詳細は、事故当事者の許可を得づらいので割愛します。
今年は、私の遭遇率が高く、自分のツアーで1件、他の登山者で2件を対応しました。

落石、落雷、体調不良で突然倒れた、などの「想定トレーニングを積んでいた内容」とは言っても、やっぱり大変です。

  ⚫︎所属の異なるガイド同士、関係者同士も、以前より仲良くなってきた。

という時代変化を考えると、他の登山者への対応は、確率的に増加するような気がします。

②連続勤務

「富士山ガイドと言えば、連勤」と登山関係者に知られるほど、結構有名な話です。
午前中に五合目に下山してきて、昼から出発のツアーを再び担当するというものです。

特に、山頂御来光ツアーは山小屋で数時間しか寝られないパターンも・・・。

幸い、私の所属する太子舘では「山頂御来光ツアー」+「山頂御来光ツアー」という組み合わせの連勤は、原則行わないことになっています。
通常は、「山頂御来光ツアー(仮眠のみ)」+「山小屋2泊で日中のみ登山するツアー(通常の睡眠時間)」などの組み合わせです。

それでも、雨で濡れて下山してきたり、事故対応などで心身が疲れて降りてきたり、トラブル対応で睡眠不足が想定を超えている場合が結構多いです。
私は弱いので、「本当に連勤しなきゃダメですか?」という気持ちで五合目でバタバタ準備することも多いです。

※不思議なほど耐久力の高い同僚、睡眠不足に強い同僚などもおり、全員が連勤に苦しんでいるわけではありません。

私は、もうちょっと人手を増やして、連勤の頻度を減らしたいのですが・・・。

③新人教育

私の所属する太子舘ガイドは、山岳部・ワンゲルなどの大学生、山関連のフリーター(私もそうでした)などが多く在籍しているため、毎年多くの若者が新人として入ってきます。

「ガイドとは何か?」について、技術的にも職業倫理的にも常に考えさせられる機会なので、私自身にとって学びの多い場です。
これは、本当に良いことです。

ただ、前述の通りバタバタなので、新人や若手とのフィードバックなどの教育に注力するほど、忙しくなります。

④緊急交代

こんな状況なので、ガイドも発熱したり、寒暖差で体調を崩したりが、割と頻繁にあります。
そうなると、交代要員が必要になります。

⚫︎須走口五合目に昼前に下山するツアーを終えて、昼過ぎにスバルライン五合目スタートのツアーを担当するべく移動。
⚫︎宿泊中の山小屋で発熱したガイドの代わりに、深夜に五合目から山小屋へと出勤し、翌朝からガイドとしてお客さんの前に登場。

など、武勇伝になりそうな話も、ちょくちょく誰かが犠牲者になると、対策を考えたくなります。

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こうして書いてみると、私は個別の仕事の大変さ(大人数ツアー、素人さんが多い、天候の不安定さ、など)よりも仕事の合間が少なくて、休息と準備が不足するのが一番苦手なのかなと思います。

私は、のんびり生きたい大型動物なんでしょう。
(クライミングや日常生活でも、日々痛感しています。)

いやー、思い出しただけでも怖いし、気もそぞろになります。
それでも熱中してしまう富士山には、8月も働き続ける同僚たちが頑張っています。

本当に、お身体に気をつけて!