2022年10月10日月曜日

ときどき落ちる、は可能か?

1つ前の記事と関連して、昔から興味深く考えている点です。
僕自身の中で整理しきれていない部分もありますが、書いて整理する意味も込めて。

落ちることは、一般的に怖いし、変な落ち方をすれば怪我をするリスクもあります。
そこで、“滅多に落ちない人”というのが初級者には散見されます。

これは、あんまり良くないでしょう、というのは前提として良いかと思います。
リードなら「テンション癖がある人」と言われますし、ボルダーなら「あんまり頑張らない人」と思われます。
ただ、彼らの多くは絶対に落ちない訳ではなく、ときどき落ちているように見えます。
これは、どういうメリットとデメリットがあるのか、という問題です。

彼らの気持ちを代弁してみます。
①単純に怖いから落ちたくない。
②落ちる時は、気づいたら落ちているから怖くない。
③たまにしか落ちないことは、落ちて怪我をするリスクを下げている。
④山では落ちないんだから構わない。(主には、マルチピッチや沢登り雪山をやる人の言い分)

僕の中で、一番興味深いのは③です。
一応、①、②、④についても簡単に触れます。

①を解消していく方法は、僕も様々な講習生相手に向き合ってきた課題ですが、今回は割愛。
②は、気持ちは十分に理解できますが、考えてみればリスクがあります。
「落ちるかも」と覚悟して一手出している人は、落ちた場合の脳内シミュレーションを繰り返してチャレンジしています。
が、気づいたら落ちている人は、シミュレーション無しなので、不意落ちという印象です。
数回前の、手繰り落ち問題でも書きましたが、不意落ちは反省し、チャレンジ落ちを許容するというのが、リスクを下げるコツだと思います。
④は、安全に行きつ戻りつできるムーヴを練習することも大切にしつつ、本気トライでは落ちるまで頑張る、という両輪を忘れないことが、リスクあるクライミングをする人のジム練習では重要だと思います。この問題も、ほとんどの初級者はできていないように思いますが、割愛。

さて、本題の③は、「状況にもよる」というのが現時点での私の結論です。

車の運転を例にしてみます。
運転の回数が少ないことは、生涯における交通事故リスクを下げると思います。
確率×回数という考え方によります。
一方で、たまにしか運転しない人の車に乗ることは、結構なリスクを感じると思います。
つまり、習熟度が1回あたりの事故リスクを下げている、という状況です。

つまり、よく落ちる人がよく怪我をする人かどうかは、相当難しい問題です。
実際、落ちたがらない人がたまに突っ込んで怪我をする、というパターンも見かけますし。

しかしながら、車の運転で以下の状況はどう考えるでしょうか?
A)運転の回数は多いけれど、荒っぽい運転の人には注意もしにくく、運転の回数を減らして欲しいと感じる。
⇨よく落ちるけど、フォール姿勢やリスク管理思考がイマイチなら、ダメです。

B)首都高速、都心部など、技量が低いとリスクが高いと思う道路は、なるべく運転を避けるようにしている。
⇨ボルト足下よりさらに進んだ状況でのフォール回数を減らすことや、岩場ボルダーで高めの場所からフォールする回数を減らすことも、良いことだと感じます。
ただ、ボルトが膝くらいでフォール、低いボルダーでのフォールを繰り返している人がそれをするからこそ説得力がある、という点は考慮すべきかと思います。

個人的に、このジレンマをすごく感じるのが、岩場ボルダーでのノーマット練習です。
ほぼ落ちる気がしないところで行っても、リスク管理能力やフォール姿勢の強化につながらない気がします。色々と慎重になるので、多少の意義は感じますが。
一方で、頻繁に落ちる課題でやると、そのうち足首を捻りそうだったりします。また、相当低い課題でも、膝やら腰にダメージが蓄積される感じも、困ります。
一撃は相当厳しいが、少ないフォール回数で完登できそうな課題、というのが色々とバランスが取れている気がしています。
もちろん、そのぐらいの課題でもマットを敷いてトライすることもあります。ギリギリの一撃を狙いたい場合など、特に。
僕の中で、ノーマットはスタイルではなく、技術的な練習方法なので。

他人にこの話をするときも、自分自身の練習を考える意味でも、なかなかスッキリしない問題です。
ただ、この問題を意識しているか否かで、リスクも取り組み方も変わるような気がします。