2025年6月27日金曜日

ジムリードの本気トライ

最近、岩場でのリードについて書くことが多かったかなと思っています。
「落ちても大丈夫な範囲」or「クライムダウン敗退できる範囲」のどちらかで登りましょう!
というのが、私の推奨です。

クラック・マルチ・アイス・沢登り、何でも通じる考え方だと思いますが、ボルトルートが一番分かりやすいと思います。
微妙なプロテクション(本当に止まるか判断つかない)というのものが、ほとんど存在しないため、グレーな判断をする必要がほとんど無いためです。

ちなみに、微妙なプロテクションを取った場合は、「自信のあるプロテクションまでクライムダウンできる範囲」で登る(≒プロテクションを取らない場合と判断自体はほとんど変えない)というのが、私の推奨です。
「微妙なプロテクションのお陰で登れました!」と発言してしまうぐらいなら、敗退や別の突破方法を探る習慣を付けた方が良いんじゃないでしょうか?という趣旨です。

今回は、切り口を変えてジムリードについて考えてみます。
ジムリードは、プロテクションの信頼度・プロテクション間隔という観点で見て、最上のコンディションとなります。

「非常に整備された、(通常は考えられないほど)ボルト間隔の近い岩場」と見なすことができます。
そこに適した本気トライの方法を考えてみます。
<ジムリードのオンサイトトライ①>

まずは、安全にトライするための基本事項。

「落ちてはいけないセクション」を、可能な限り作らない。
・1本目は、自分が床に着地できる範囲までの間にクリップする。
・2本目は、自分が1本目でフォールを許容できる範囲までにクリップする。
・以下、同じ。

②クリップムーヴは、攻めすぎない。
手繰り落ちのリスクがあるため。

③ロープの足絡みに注意する。
特に、フラッギングや壁スメアしている脚は、目視しないので要注意。

④ビレイヤーのロープの弛ませ具合、立ち位置に注意。
「落ちても大丈夫なセクション(安全圏)」のはずなのに怪我をしてしまった、ということを減らすため。

⑤反転フォールしそうな場合などは、例外的にギブアップフォールを許容することもある。
※トップロープ状態などであれば、リスク無しと判断して突っ込むことが多い。

⑥どのラインにクリップするか?などをオブザベに含める。
オブザベがある程度できる人は、クリップ態勢、ロープが足に絡みそうな場面もなるべくオブザベに含めます。
<ジムリードのオンサイトトライ②>

上記が守れたら、以下の状況が完成しているはずです。
手繰り落ちをしない限り、どのムーヴでフォールしても、事故になる可能性はほぼゼロ。

これが完成すると、ようやくスポーツとしてクライミングを楽しむ下地が出来上がります。

・クライムダウン敗退を考慮した登り
・落ちないことが最大のリスク管理

といった場面から解放され、「落ちるときは、ダメもとでも一手出して落ちろ!」といったジムでの本気トライにおけるスタートラインに立つことができます。

その上で、私がトライを成功させる上で重要だと考えている事項。

①岩場に比べて、トライのテンポ感が大切。
岩場だと、難しいセクションと易しいセクションの差が激しい、何分でも滞在可能なレストポイント、などが散見されるため、行きつ戻りつが功を奏することが多いです。
一方で、ジムは5.12のルートで5.10のセクションが出てくることが滅多にないため、行きつ戻りつすると消耗してトライ失敗するケースが多いです。

ただ、テンポ感を意識しすぎて雑になったり、ムーヴ選択がグチャグチャになったりすることも多いので、適正なテンポを心掛けます。

②岩場に比べて、ホールドが見えるため、オブザベが一層有効。
トライ前のオブザベはもちろん、レストポイントでのオブザベも大切です。
レストポイントでオブザベしてアタック開始したら、通常はレストポイントに戻ることはありませんので、覚悟を決めましょう。

③デッドポイントなどのダイナミックムーヴも、積極活用。
スタティックよりダイナミックの方が省エネであれば、核心部でない場面でも使用します。
ただ、次のホールドの掛かりが不明な場合などは、ギャンブル性は否めません。

もちろん、岩場の「落ちてはいけないセクション」のように、ギャンブルに負けたら事故というほどのリスクは無いのですが、「オンサイトが一生で1回だけのチャンス」という要素もあり、ギャンブル性は減らしたいものです。
「どの程度までデッドポイントを織り混ぜて行くのが、オンサイト勝率を高める上策なのか?」
といった試行錯誤は必要でしょう。

④多少の消耗をしてでも、クリップ先行を心掛ける。
クリップができなくなり、「これ以上、クリップせずに進んだら危険すぎる!」と判断してギブアップフォールせざるを得なくなることがあります。
こんなとき、「下から頑張ってクリップしとけば良かった〜!」と後悔することになります。
もちろん、一歩上がってからクリップの方が楽な場面など山ほどあるので、判断には迷います。

そもそも論として、下からのクリップに慣れるためにも、リードクライマーこそロックオフトレーニングをすることを推奨しています。

「テクニカルなムーヴでの省エネ狙い」VS「シンプルな真っ向勝負ムーヴでのムーヴ迷い時間短縮」の判断に迫られることを、あらかじめ予想しておく。

キョン、ヒール、凹角でのノーハンドレスト、ニーロック、などで省エネができるケースは多いです。
一方で、オンサイトトライ中に、これらを一生懸命探しているうちに消耗してしまう、という問題はあります。

限られた時間内に、どちらかに腹を括るのは難しいので、あらかじめ「判断に迷いそうな場所」を予想しておくと良いです。

ちなみに、「オンサイト中は考えるのが面倒だから、ほぼシンプル一択。ハングドッグして初めて省エネムーヴを探り始める。」という、やや脳筋の人も結構います。
実際、そういう人が僕なんかより相当強かったりしますが、他の点が優れているということなんでしょう。


最後に。
ジムリードでスポーツ的な本気トライができるようになると、岩場での登りも大きく変わります。

・岩場でも、ジム的なスポーツのトライが有効な場面は、局所的には出てくる。
・岩場だからこその行動指針の違いが、今までより分かる。
・落ちる前提のトライに心身を慣らすことで、カムセット・カムの固め取りなども一層慎重になる。

そう考えると、講習生全員にジムでのまともな本気トライができるようになって欲しいものだと思います。

2025年6月25日水曜日

「ワイドクラックも、特別なものではない」と考える

「ワイドクラックを教えてください。」というリクエストは多く、その希望は大変嬉しいものです。
その一方で、「原理原則は、フェース(もっと言えばジム)と大差ない。」という思いもあります。
<岩場リード講習@小川山>

まず、何よりも本気トライの方法が最重要です。
その他のクラックと同様に、初心者のうちから必ずリードした方が良いでしょう。
トップロープリハーサル、トップロープ癖は、クライミング初心者のうちに排除した方が良いです。

「チムニーだと5.8でもランナウトするから。」などという言い訳が聞こえてきそうですが、何とかする方法を考えるのが、最大の肝です。

A)5.7以下を探す。
チムニーのセクションに、ホールド・スタンスが豊富なら問題ない。
ルートにならないほど易しいチムニー、トポに載せる価値のないようなチムニーで、十分です。

※これだと、「自分は全くチムニー登りをしないで、無理矢理でもフェース登りで突破するので、練習できない。」という人は、思考方法に問題があります。易しいグレードでこそ、色々と試行錯誤する習慣を考えましょう。ジムの5.8や8級は、「どんなにバタバタ登っても登れたらO.K.で次に進もう」ではイマイチだったことは、すでに経験しているはずです。岩場であれば5.7以下こそが、あなたにとっては最適な実験場かもしれません。

B)プロテクションの取れそうなライン(奥にジャミングが効くサイズのワイド、オフウィズス、など)から先にトライして、本格的なチムニーは先延ばしにする。
私は未だに購入していませんが、キャメ7番、8番などを購入するのも、1つの選択肢だと思います。

C)ジムの凹角ハリボテ課題、ジムのチムニーなどで、ニーロック・プッシュ・バック&フットなどの断片的な要素を学ぶ。

D)それ以外のフェース課題の中でも、省エネ技術の練習も兼ねて積極的にワイドっぽい技術を使うように心掛ける。
<怖さを理解した上で、5.8を再登するNZさん>

これらに通じる考え方を、いくつか提示します。

①垂直以下のチムニーは、クライムダウン敗退が容易なことが多い。

チムニーでは、推進力が問題になります。
垂直以上でない限り、ワイドクラックから吐き出されることは考えにくいです。

●チムニーで進めずに敗退
●チムニーの抜け口でクラック・フェースとの混合ムーヴになるセクションがプロテクションに不安があって敗退
の2つのシナリオが頭をよぎります。
もし、そうなったらチムニーをズルズルとクライムダウンすれば良いでしょう。

さらに、「チムニーの動きを勉強したいから、まずはトップロープで・・・。」という言い訳が聞こえて来そうですが、これも推奨しません。

やりたければ、ボルダーのハサマリングorジムのトップロープチムニーを推奨します。
これならば、「やっぱり怖いからトップロープで!」みたいな逃げ癖を付ける心配がありません。

あなたが、ボルトルートでちゃんと下積み(トップロープリハーサルやチョンボ棒を行わないリード)を積んできたのなら、すでに以下のことを何度もやって来たはずです。

・スラブの登り方も、(今から考えると)ほぼ理解していない状態で、小川山の5.8のスラブを恐々と行きつ戻りつしてリードする。そして、時には直近のボルトまで敗退して来て、敗退ビナで下降する。
・ハングの登り方も、(今から考えると)ほぼ理解していない状態で、奥多摩の5.9のハングを・・・以下同文。

行きつ戻りつで敗退することは、ムーヴ理解が甘くても可能です。
まずは、「敗退できる範囲で登る」という意識が大切です。

そういった思考ができなければ、あなたは新しいことにチャレンジするときに必ずガイドツアーに長い年月で参加する羽目になり、よほど根性のある人を除き、ガイドツアー(orそれもどき)に安住することになります。
<アドバンスクラック講習@小川山>

②チムニーでも、奥にプロテクションが取れることはあるが、行ってみないと分からない。

これは、オブザベでは分からないことが多いです。
マルチピッチなどで、フェースの中でも所々にカムが効くのと同じです。

「敗退できる範囲で登ろう!」という腹を括った人間にだけ訪れる、ご褒美だと考えれば良いと思います。
<5.6くらいのチムニー>

「敗退できる範囲で登る」「初心者なりにカムセット態勢を工夫する」ことの2つが初心者にとっての最大のムーヴ学習

ワイドクラックは、非常にスタティックなクライミングです。
スタティックなクライミングを学ぶ上で、恐怖心やリスクは非常に良い薬になります。

トップロープでのワイドムーヴ学習は、どうしても雑になります。
トップロープで練習するとしたら、自分自身がO.S.やR.P.を済ませたルートで、「何かしらの反復練習」「他のムーヴの可能性を探る実験」という明確な目的を持って部分的に行うのが良いでしょう。
繰り返しますが、「ワイドは慣れてないからトップロープで〜」という逃げ癖を付けると、あなたの将来が大変です。

これは、スラブでもハングでも同じだったということは、下積みを積んで来た方なら理解できることでしょう。
さらに、これは雪山でもアイスでも同じだと思います。

もちろん、アームロックやニーロックなど、部分的には人から教わった方が良いムーヴもあります。
これに関しては、ボルダーまたはリードルートの出だし(実質的にマットなしの低いボルダー)での反復練習がオススメです。
④ワイドとフェースの境界線は曖昧

典型例を幾つか挙げます。

・オフセットクラック、コーナークラックは、アームロック・バック&フットを活用する場面が非常に多いです。
部分的にレストのためだけ、というケースもあれば、突破するムーヴに活用することもあります。

・奥にジャミングが効くが手前がフレアーしている形状では、必然的に肘・膝・腰がフレアー部分に当たるため、上手にやれば大きな助けになることが多いです。

・石灰岩やジムの凹角ハリボテ課題などの立体的な形状では、ニーロック・バック&フットが有効になることが多いです。
場合によっては、肘でのプッシュ・膝でのプッシュも非常に有効です。

・ジムのルーフでヒール・トウフック(場合によってはニーロック・ヒール&トウ)を連発する課題と、ルーフワイドのインバージョンは境界線がよく分かりません。

このような典型例でなくても、ちょっとワイドムーヴを使うと省エネ(or突破できる)という場面は多いものです。

この話に関して、あるとき悟りを開いたような感覚に入った講習生が「全てはワイドである」という名言を残しています。
<アドバンスクラック講習@瑞牆ボルダー>

⑤ムーヴの法則性も、結局は同じ

ムーヴ詳細は文章での解説が困難なので、軽く触れる程度にします。

・スタティックに動く
・オポジションを意識する
・回転モーメントを意識する
・足の移動時は壁から身体を離す、手の移動時は壁に腰を入れる
・極力、大きな筋肉で動く(フォームの話)

などの原理原則をワイドクラックを教える際には最も大切にしています。
(相当講習に通っている方でも、意味がよく分からないと思いますので、是非とも講習にご参加ください。)

ニーロック・アームバー・ダブルスタック(リービテーションやTスタック)などの技は、フェースで言えばヒールフックみたいなもので、必要な要素だけれどベースの能力ではないと感じます。
むしろ、ベースが多少なりともできないと、技の話を聞いてもチンプンカンプンな講義に終わってしまいます。

※ベースの能力を身に付けるのは、上記のムーヴ理解と、「初心者なりに戻れる範囲で低グレードをリードし続ける」という強い意志だと思います。もっと言えば、ジムやボルトルートでのリードクライマーとしての下積みが、すでにベースの能力を形作っていると言っても良いでしょう。
<ルートにならないほど易しいチムニーで反復練習>

色々と書きましたが、ワイドクラックだからと言って特別なことはないと思っています。

「〇〇なムーヴが出てくることが多い。」
「リード中に、〇〇な状況が発生しやすい。」
「〇〇の筋肉が疲労しやすい。」

という程度の差だと考えた方が上達しやすいんじゃないか、という提案です。
<5.9の核心ぐらいのハサマリング>

<典型的なO.W.で反復練習>

2025年6月6日金曜日

マルチピッチのレスキュー講習

ここ1ヶ月半ほどバタバタしていたので、まとめて色々と更新しています。
これで、ようやく最近の写真は使い切りました。
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STさんの呼び掛けで、マルチピッチのレスキュー講習を行いました。

対象は、マルチピッチリード講習の卒業者。(アドバンスマルチは、未卒業でO.K.)
「意識付けのために、1年に1回だけでも毎年やろう!」というSTさんの声がけです。

マルチ卒業生で興味をもった方は、是非お問い合わせください。
<越沢バットレス2P目で、リードがフォールして負傷したという設定>

1日目は、ストーンマジックにてロープワーク講習。

マルチピッチリード講習で教えるような基礎、懸垂下降の登り返しまでは、「一応はできる。」という前提で、一般的なロープレスキュー手法を確認していきます。

※実際は、結構忘れている部分が大きいと思うし、習熟度の問題もあります。上記の基本も、復習受講して欲しいとは願っています。

・リードビレイからの脱出
・ムンターヒッチの仮固定
・セカンドビレイからのロワーダウン
・介助懸垂
・引き上げ
など。

1日で講習しても全然反復の時間が無いのですが、とりあえず手持ちの選択肢を増やしていただく、という程度です。
普段のロープワーク講習なら、上記1つを選んで様々な検証作業などを行うところですしね。
ただ、一応はマルチ卒業者対象なんで、山岳会とかで頼まれる団体向けレスキュー講習よりは理解してもらえていると感じます。
来年以降も継続実施の予定なのが、私としても救いですね。

あと、一番厄介なリードレスキュー(ロープ半分以上出たリード中に、リードが負傷して云々・・・)には今回は触れません。
<とりあえず仮固定して、今後の方法の検討に入る2人>

2日目は、越沢バットレスで実地訓練です。

あまりにビショビショだったので、1P目は私がリード。
2P目を途中までリードしていただき、フォールしてカムが抜けて負傷、という想定でロープにぶら下がってもらいます。
<傷病者役も、声の届く範囲にいるので、一緒にプランニングが可能>

今回の設定

①傷病者
・右足が非常に痛い(荷重不可、曲げるのも不可、押すのも痛い)
・動いてみたら左肩が痛い(その腕でホールドが引けない)
・若干のパニック気味(見えないところで、一人でロープ作業などをさせるのはリスクが高い)
★上記3点以外は、おおむね元気

②壁の状況
・壁には、残置支点が一切ない。
※「残置無視で登っていたが、事故後は残置利用に切り替えて脱出にフォーカス。」という非常手段は使えない壁。

・天候、時間帯、アプローチ、携帯の電波状況、などは全て現場の通り。
<リードに使用したカムの回収に向かうSTさん>

解法は、もちろん色々あると思います。
3人パーティ設定なのも、選択肢に幅を広げます。

今回の方々は、「どうにか傷病者をビレイ点に引き戻し、介助懸垂して地上に降りる」という流れを選択しておりました。

その際、傷病者の緊急度(ショック症状が出ている、低体温症が出ている、などの時間的制約が大きい)は低いという設定で、日没までも十分に時間があったのでリードに使用したカムはクライムダウン回収していただきました。
<まずは、トップで1人目が懸垂下降>

今回3人が選んだ方法は、効率面でベストではないと思います。

その一方、兎にも角にも「自力で問題を解いた。」という経験で、得るものは大きかったのではないでしょうか。
※作業中に小技・リスク要素などのアドバイスはしますが、「なるべく大方針には口を出さない」というのは、マルチ講習・読図講習・雪山講習などと同じスタイル。
<残りの2人が、「トップが設定したロープで介助懸垂する」という方法を選択>

まだ日暮れまで時間もあったので、取り付きで反省会を1時間ほど。
それからアプローチも救助訓練をやりたいという話で、頑張って2時間ほどで林道まで戻りました。
<背負って渡渉したり、3人パーティなのを利用してロワーダウンしたり、色々大変>

ちなみに、足を骨折していたと仮定すると、本来は固定して担架搬送がセオリーになります。
そうなると、3人パーティでは不可能なので、周囲に助けを求めるか、救助要請になります。

ただ、「正直、この状況なら僕なら背負っちゃいますねー。」というSTさんの意見もあり、「じゃぁ、どこまで現実的に可能か、実際にやってみましょう!」というのが後半の講習内容。

実際、
・渡渉、鎖場などで、リスクも実感。
・ロープ確保の有効性と限界を実感。
・傷病者が脚をぶつけて悪化しそうなことを実感。
・背負う人、傷病者、サポートの人、などの心情や動きの難しさを実感。
・講師から、背負いやサポートの小技アドバイス、焦りで妥協しがちなリスク要素諸々の説明。
などと盛り沢山で、充実しました。

どの程度のアプローチまでなら背負い搬送が有効か、などの判断材料にもなったかと思います。

ここまでの想定訓練をやる機会は、なかなか無いですよね。
普通は、背負い搬送も30分とか運んで終わりだし、本当にロープ確保が必要な状況で訓練するのはリスクもありますから。

今回講習した技術は、どれも習得までには時間が必要で、正直すぐに忘れてしまうものが多いとは思います。
ただ、とりあえず「実際は、こうなるのか!」というイメージが深まったのは、第一歩としては良かったかと思います。
<マルチピッチリード講習@小川山>

<メインロープによるビレイ点作成。こういう基礎も、やっぱり大切。>

<1P目>

<アドバンスマルチ@小川山>


<「めっちゃ、悪いじゃないですかー」>

<3P目のチムニー>

<リード交代>

弱点の克服に関して

弱点克服は、かなり難しいものです。

A:完全克服できるもの
B:身体的特性などを理由として、ほぼ不可能なもの
C:かなりの程度、軽減できるもの

まず、この3つに分けて考える必要があります。
キャリアの浅い人は、Aを何個も克服することで目に見える成長を実感し、さらにモチベーションを高める傾向にあります。
ベテランは、Cを考えざるを得ません。ただ、考える要素が豊富で、ベテランだからこそ楽しい分野かなと思います。
<城ヶ崎の橋立で見つけたインバージョン課題、まさかの完登を決めたFZさん>

A:完全克服できるもの

例)
・ハンドジャムが全く効かなかった → 垂壁ぐらいなら大ガバに感じるようになった
・チムニーが全然ダメだった → 5.8ぐらいだったら、割とスイスイ行けるようになった
・懸垂が全くできなかった →連続5回ぐらいならできるようになった
・足置きが酷すぎた → 爪先周辺でスタンスを捉えられるようになった、低グレードなら足音が立たなくなった、など
・柔軟性が無さすぎた → ストレッチしたら、運動していない人の平均よりはマシになったと思われる
・全くオブザベできなかった → ジムならば、ある程度まで読めるようになった
・リードで全く落ちることができなかった → 膝下程度までなら落ちられるようになった

例は、
〇〇(全然ダメな状態) → 〇〇(初級レベルであれば、あまり問題にならない程度に解決済み)
という感じで書いています。

問題は、「この→に相当する部分で、何をやるか?」ですが・・・。
自分が継続しやすく、トレーニングとして合理的な方法を探す必要があります。
ここが自力解決できそうにない方は、是非とも講習へどうぞ。

もちろん、これらも練習を継続すれば、弱点どころか強みに変化します。
※「初級者の割には、〇〇は得意な方だ。」といった具合。

B:身体的特性などを理由として、ほぼ不可能なもの

例)
小さい人には、絶対に不可能なムーヴ。
大きい人には、絶対に不可能なムーヴ。

典型的には、以下です。
●小さい人には、絶対に届かない位置にスタートホールドがあり、何らかの事情で地ジャン不可。
●大きい人には、絶対に通り抜けられないトンネル。

<同じく、橋立で見つけたルーフクラック>

C:かなりの程度、軽減できるもの

これは、考察が難しいです。
例えば、僕の場合は185cmなので、狭いムーヴは不利になります。

まずは、一般論。
手足の距離が近いと壁から身体が離れるため、保持力が一層必要になります。
しかし、大きい人は体重が重い傾向にあるため、保持力の強化に重点を置いたトレーニングは指の故障リスクが高過ぎます。
※極端な例として、狭いカチ課題をイメージすると分かりやすいです。
※実際、私は若い頃に指を盛大に壊しており、指には不利を抱えています。

「じゃぁ、狭いムーヴはもう無理なのか?避けて生きて行くしかないのか?」
と考えてしまうと、なんだかクライミング生活が暗くなります。

次に、ある程度まで弱点をカバーする方法を考えます。

①体幹を強化して、ガバならば狭くてもグラグラしないようにする。
②指の力ではなく、ホールドを効かせる圧力(スローパー対策の圧力)の強化により、カチでもある程度までは保持できるようにする。
③ヒールフックなど、一般的に狭いムーヴ対策として有効と言われるムーヴに習熟する。
④片足は切ってフラッギングする、他人より1つ下の足からランジする(巨人でありながら、あえて距離出しで補うという発想)、凹凸を利用してニーロックなどの多用、などの他人とは異なるムーヴ選択肢を強く意識する。
⑤リードであれば、その他の部分の省エネを強化して、狭いムーヴでの消耗を補う。

まぁ、これらの大部分を封じてくる課題もあるのですが・・・。
・手がカチで、狭い。
・足が悪く、重心の選択肢が少ない。
・ヒールに適したスタンスが無い。
・SDスタート、低空トラバースなどで、片足を切ると地面に付いてしまう。
といった要素が3つ4つと並ぶと、「強くなってから出直させてください!」という状態になります。
この場合、①や②を僅かずつ強化して、数年後に再トライするしか無いかなと考えています。

この考え方は、小さい人にとってのリーチ不利問題、クラックのサイズ不利問題、もともと運動神経に自信がない人の努力方法、などへの応用が可能です。

ときどき、「リーチ不利な課題の対策を教えてください。」みたいな質問をされるのですが、この構図なので、「初心者への説明が複雑すぎるなー。」と感じます。

「不利な課題は、不利。」
「どうにかする方法は、課題による。(保持、足置き、体幹、ダイナミックムーヴ、別ムーブの発案、柔軟性、などなど)」
「不利さを軽減する一般的なトレーニング方法を私から提示するのは現時点では時期尚早なので、目の前の課題ごとに頑張ってください。」
「現時点の講習では、課題ごとの有利不利は一旦置いておき、誰にとっても必要な基礎トレーニングをしていきましょう。」
という回答が、精一杯です。

問題は、
根本解決は不可能だが軽減できそうな弱点 → 上記①〜⑤に相当する改善案の導出 → 実行&継続
という流れをどこまで作れるか、という話です。

あまりにも頭を使うし、根気も必要です。
例えば、講習生のレベルであれば、Aを中心に克服していき、Cはムーヴとトレーニングの理解が進んでから開始する方が現実的な気もします。

実際、①〜⑤のうちの半分くらいは、他の弱点を克服する際にも多少はやることになります。
そうすると、キャリア5〜10年目には相当なムーヴ理解度になっているはずなので、それからスタートしても良いかなと。

キャリア10年でモチベーションがそこそこあれば10年先を見据えることは可能でしょうが、キャリア1年で10年先を見据えるのは相当すごい人だけな気がします・・・。
<こちらは、普通の課題>

最近、小川山のエイハブ船長(1級)がようやく登れました。

こちらは、
●15年ぐらい前に何日もトライして全然ダメ。
当時は、エクセレントパワーを目標にして、ボルダーだけを行っていた期間中。

●数年前にトライして割と良い感触だが再現性が低過ぎる。

という思い出深い課題で、核心のカチを利用し、ある程度までムーヴが起こせたことに感慨深いものがありました。
まぁ、他人との相対評価では永遠に弱点なのですが、自分なりの成長を楽しむゲームとしては、割と満足行く結果です。

GW合宿後半 2025

再びレスト日を挟み、クライミング3日目は甲府幕岩。
この日は、幻の右(ボルトルート、5.12c)をトライしたのですが、4トライして1箇所のクリップムーヴが解決せず、持ち越しになりました。

マスターでトライして、ヌンチャクだけは掛けられます。
「その体勢のバランスが悪いので、手繰り落ちのリスクが高過ぎるだけ。」という展開です。
そのため、3トライ目からはA0クリップして、トップアウトだけはしています。

ムーヴに関しては、再現性に難はありますが、一応は突破しました。

続きは、秋ですかね。
<1本目核心のルートで遊ぶ狂祖さま>

久々に、足首フォールや足元フォールを20回とかいうレベルで行い、これはこれで良い練習だなと思いました。

ジムリードだと、ハングドッグしても膝下程度までのフォールがほとんどですからねー。
私の場合、岩場でもオンサイト〜数トライの範囲での課題を好むので、ロングフォール経験は少なくなりがちです。

<「御座山はオグラサン」(5.12a)をビレイする狂祖さま>

再びレストを挟み、最終日(クライミング4日目)は桂くんと狂祖さまと小川山。

昔お世話になった塚越さんの5.11dの「スラブとフェースの中間ぐらいの傾斜」の課題を2撃になってしまい、なんとも力不足を感じます。
<無事にR.P.する桂くん>

ちなみに、「スラフェース」という概念がもっと一般的になったら便利が気がするんですが、どうなんですかね?

●70〜80度くらいで、「ノーハンド立ち込み」、「ノーハンドトラバース」に類する動きは、ほとんど無い。
理由:よほど条件の良いスタンスでない限り、後方に倒れてしまうから。

●垂壁同様に、ハンドホールドが必要。
ただ、後方への回転力が非常に小さいため、かなり特殊なムーヴが可能であったり、極小のハンドホールドに耐えられたりする。

60度以下とかでノーハンドに近い動きが連発する「The スラブ」(どスラブ)みたいなのと、「スラフェース」を分けて考えた方が、だいぶムーヴを理解しやすい気がします。

問題点としては、これだと岩場の高難度スラブの大部分が、「スラフェース」に分類されてしまいそうなことです。
ただ、私がよくやるぐらいの5.10〜5.11、8級〜3級ぐらいの範疇だと、両方が同じぐらいの比率で存在する気もします。

少なくとも、講習時はこの2つを明確に分けて説明した方が、講習生のスラブへの対応が良くなるように思っています。
実際、講習生にとって問題となるのは、5.9以下の「どスラブ」であったり、5.10前半のスラフェースであったりするので、
●ムーヴ中の意識も持ち方
●極端に苦手な場合の、基礎練習を行う考え方
も全く別になると思われます。

まぁ、ルートの途中で傾斜が変わったりして、両方の要素が出てくる場合もあるのは、当然あるという話です。
<「雨上がりは、意外と状態が良い」というマイブームを語る桂先生>

<フォックストンネル(5.10b)>

<ニャンドリー(5.11b)をトライする狂祖さま>

<よたきつね(5.11d)のオンサイトに失敗どころか、ここで何度もテンションする私>


<ニャンドリー、桂くん>

最終日に具体的に登ったルート
・クジラ岩周辺のボルダーで、色々とアップ。
ちなみに、スラブの4級が登れず・・・。
後日、再トライするも、未だに宿題。
現在、最も気になる宿題の1つ。

・フォックストンネル(5.10b、チムニー〜ボルトフェース) O.S.
チムニーのセクションまでは、NPとランナウトで登り、最終2本だけをボルト使用するというスタイルで登ってみました。
クラック好きには、こちらの方が自然だと思います。

・よたきつね(5.11d、スラブ〜フェース) R.P.(2トライ)
リボルトはまだ不完全で、核心部のボルトは錆びていました。
下から見える範囲がリボルト済みに見えたのですが、トライ開始してガッカリ、というパターンです。
これは初登者の責任ではないし、数本だけでもリボルトしてくれた方にも感謝しかありません。
ただ、現在の状況としては、よくあるトラップになっていました。

実際の判断:
1本下のボルトが近いため、ヘルメットなどの対策をしてトライする分には、核心部の最悪のボルト抜けでも大事故リスクはほとんど無いかなという判断でトライ続行しました。例によって、カムの固め取りと同じ理屈です。

ボルトが近いのは、小川山・瑞牆のような岩場だと「ちょっと緩いんじゃないのー。」という気持ちも湧く一方、こういう風にボルトに不安があるときは大いに助かります。
あと、ジム並みにボルト間隔で、恐怖感少なくガンガン落ちるトライを岩場でやるのも、ときには一興という気もします。
与えられた課題が求めるリスク管理要素に対して、なるべくポジティブな気持ちでトライするって感じでしょうかね。

参考:
ラインとしては、隣のニャンドリーに逃げられる(バイパスできてしまう)場所が何箇所もあるため、ボルトでラインを誘導しているルート。
ここが、唯一の残念ポイント。
とは言え、ムーヴは面白いので、タイミングあれば是非。

2025年6月4日水曜日

GW合宿前半 2025

もはや1ヶ月以上の時間が経ってしまいました。
7日間の合宿、1日目、3日目、5日目、7日目と登ったので、合計4日間のクライミングです。
<ちびまる>

1日目は、狂祖さまと瑞牆の黄金狂時代周辺のエリア。
僕は、このエリアは4回目ぐらい。

前回に来たのは、ヨセミテ直前でクロム1P目(ワイド系、5.11a)で、悲惨なまでの膝スタックを喰らったとき。

今回は、いよいよ「はやぶさ2」(ワイド系、5.11c)をトライです。
<クロム1P目>

何度も書いている気がしますが、ワイド系の5.11以上のグレードは、参考程度です。

垂壁の場合、サイズごとに大まかなセオリーがあり、「自分はちょっとサイズ的に有利(or不利)だけど、たぶん一般的には5.○○というグレードだろう。」というグレード評価に、ある程度の納得感があります。
そのため、「どこの岩場は甘め、辛め」とかを考慮しても、「5.10bなのに5.11aに感じる!」とかのバグはほとんどありません。
ほとんどアルファベット1つ(せいぜい2つ)程度の誤差です。

(個人的には、ワイドの5.10台は、アルファベット1つごとの格差が大きいと感じます。5.10aまでは技術主体のゲームという感じもありますが、5.10後半がフェースに比べて著しく強度が高い気もします。)

一方で、ハングしてくるとサイズの差があまりにも顕著になります。

●限られたジャミングポイントにハンドやフィストが効くか?
●膝は入るか?
●クラック外のホールド・スタンスに届くか?狭くないか?
●全身が入ってしまってチムニーとなり、ハングを全く感じない状況になってしまうか?
●ワイポイントのルーフ越えであるが故に、リーチがある人は核心が無くなってしまうか?
などなど。

極端な話、「5.11a〜5.12aのどこか」とグレーディングしたくなりますし、実際それに近い発表グレードもあります。
<クロム1P目を2撃する狂祖さま>

今回の「はやぶさ2」に関しては、おそらくは僕が有利になるというオブザベです。

ただ、フレアーしたセクションが何回かあり、ランナウト・固め取りの許容度が問題になりそうです。

具体的には、
「カムが足元なのに、ホールドが欠けそうで、ひっくり返ってフォールするリスクを感じる。」
「ランナウトする前に固め取りしたものの、下の緩斜面が割と近いため、複数決めたうちの一番上のカムが抜けたら大怪我しそう。」
「ランナウトして落ちられないが、実際にほぼ落ちそうにない。ただ、ハングしているので、1手1手は戻れるムーヴで構築していても、パンプして戻れなくなるリスクを考えて突っ込めなくなる。」
といった懸念事項があります。

これらは「クラックあるある」なのですが、パンプや体幹のヨレとの戦いの中で正常な判断を下すことは相当なプレッシャーです。
<野猿谷>

保守的な判断に振り過ぎれば、オンサイトトライなど形だけのテンション祭りになります。

突っ込み過ぎれば、事故リスクが飛躍的に高まります。
仮に登れたとしても、モヤモヤが自分に付きまとい、時を経るごとに「あれは登ったとは言えない」と感じることは、過去の経験からも明らかです。

ジムリードのオンサイトトライのようにスポーツ的に頑張るのも好きですし、余裕のあるグレードや傾斜でリスク管理的な登りをするのも好きですが、ミックスされた状況は判断ミスをしそうで一番嫌なものです。

そんな緊張の中、意を決してスタート。
何度もギブアップフォールがチラつきながも、思いがけずプロテクションが早めに取れる場面などに助けられ、息も絶え絶え1時間ほどでオンサイトできました。
<ルーフクラック>

リスク管理的にも、想定しまくった甲斐あって及第点かなと思います。
実際、多少リスクは取ったのですが、一応は計算範囲内かなと。

久々に、満足の行くリードの本気トライでした。
1日レストして、クライミング2日目は野猿谷ボルダー。

STさんも加わり、フェース・スラブ・クラックと色々と登りました。
STさんが見つけ、1時間ほど掃除して登ったルーフクラックが楽しかったです。
<STさん>

<足先行スタートでも遊んでみる狂祖さま>

140度くらいあるので、「通常の向きと足先行のどちらが楽なんだろうか?」という気もします。

クラック掃除の講習

クラックリード講習の卒業者を対象に、ときどき掃除講習を実施しています。
最初は、私から「掃除初心者向けのラインがありますが、いかが?」とお誘いしたものですが、特に気に入った方からは毎年依頼があります。

大体、1回か2回を講習で行い、残りの数日間はご自身で掃除を完成させていただく、というものです。

「掃除が経験として良い!」と思われるポイントは、大きく分けて3つです。

A:ルートに対する敬意が増し、クライミングの歴史の一部を実感できる。
B:オブザベ能力が上がる。
C:ロープワーク作業に強くなる。
<昨年、掃除講習で使ったエリア>

A:ルートに対する敬意が増し、クライミングの歴史の一部を実感できる。

①手間への敬意
割と手間の掛かるラインだと、FIXロープ設置、浮き石の撤去、土の除去、苔のブラッシング、などに数日間を要します。
掃除初心者、FIXロープ作業初心者である講習生ならば、その倍以上の時間が掛かることもあります。

その作業中に、一人黙々と物思いにふけることになるのですが、これがまた良い時間です!
②設計への敬意
お客さま気分で岩場に来ていると、「なんでここにボルト打たないの〜。」とか、「終了点の位置が高くて、小さい人への気遣いが足りないよ〜。」などと安易に発言しがちです。
(その発言に、一理ある場合もある・・・。)

しかし、実際に自分が作業すると、考えさせられます。

終了点を低くすると、終了点クリップは快適、ロワーダウン時のロープの擦れも少ないです。一方で、最後のマントルムーヴをやらない再登者が続出し、それが当たり前のルートになってしまいます。

よりナチュラルな岩場として、終了点の残置も残さないという方針もあります。
一方で、立木があっても、残置ロープに残置ビナを設置し、クリップだけでロワーダウンできる岩場にする方針もあります。

カムが効かないセクションにボルトを打つかどうかも、相当悩みます。
●核心部のグレードの割に易しいセクションか?
●スポート的なルートにするか、冒険的なルートにするか?(グラウンドアップトライを前提とする範囲内での冒険的ルートか?トップロープリハーサルを前提とするか?)
●小さい人でもマスタースタイルで取り付けるボルト位置か?
●脆い岩、などへの配慮。
<小さいエリア>

③開拓方法の違いを体感

1、オンサイトグラウンドアップ開拓
掃除前に、最初からオンサイトトライします。

ほとんど掃除不要のライン、汚くてもどうにかオンサイトできるぐらいのラインで行います。
脆い、汚い場合は、完登後にFIXロープを張り、数日間の掃除をして、多くの人に登ってもらえる状態になります。

2、グラウンドアップだが、エイドでFIXを張りに行く方法
掃除しないと完登できないレベルのラインで行います。
場合によっては、クラック内の土を掻き出しながらカムを決めてエイドして行き、とにかく作業用のFIXを張りに向かいます。

3、ラッペルダウンの開拓
岩場の裏から回り込み、懸垂下降でFIXロープを張ります。
掃除が完了してから、初めて自身でもトライをします。
ボルトを打つか迷うぐらいのラインだと、そのセクションを掃除してから最終判断をしたいので、必然的にこうなるかと思います。

上記3つの開拓方法を全て講習で体感してもらうには、最低でも3クールは受講してもらう必要があります(笑)。
B:オブザベ能力が上がる。

①登るラインの選定

最初は、私が「このラインとかは、いかが?」と数本を提示して、その中から選んでもらう場合もあります。
慣れてきたら、講習生の方から「ここは行けると思うんですが、プランニングとか相談して良いですか?」と質問していただけるようになります。

この際の、「ここは行けると思うんですが・・・」というのが、いわゆる「岩を見る目」に相当します。
プロテクション、大雑把なムーヴ、大雑把な難易度予測、作業内容の予測、などを考えます。

これが、トポとグレードを見て取り付くのとは全然違います。
②掃除作業中も、登る人のプロテクションやムーヴを考え続ける

「ここは、プロテクションはこんな感じで、この態勢だとすると、ちょっと嫌だろうなー。いや、こっちのムーヴの方が安定するかな?」
などと想像しながら、クラック内、フェースのホールドを掃除します。

これが、実際に掃除後トライすると微妙に想像と違ったりします。

普段は、オンサイト中の行きつ戻りつであれ、ハングドッグであれ、「ちょっと考えたら岩を触って検証」という感じです。
しかし、この作業は「自分の身体での検証作業」までの勿体ぶり方が半端じゃないです。

通常、ルートセットでもしない限り、ここまで時間をかけてムーヴやプロテクションを考える機会はないので、良い経験になります。
<今年の掃除講習、ISさんのオンサイトグラウンドアップのトライ>

C:ロープワーク作業に強くなる。

FIXロープの張り方、ユマグリなどの登下降、振られ止め、終了点残置ロープの設定、などなど考えることは山積みです。

結果としては、マルチピッチ、城ヶ崎や大堂海岸などのトップダウンエリアでのFIX張り、セルフレスキュー技術、などへの対応が良くなっていきます。

もちろん、既成ルートを登る際にも、残置ロープなどを今までより観察するようになるでしょう。
<今年のルートは長い>

A〜Cの総体として、
●本気トライの質の向上
●トポなどの文章の理解の向上
●オブザベ能力の向上
●ロープワーク技術の向上
●リスク管理能力の向上

などが望めるのではないかと考えています。

もちろん、これらを向上させる方法は掃除に限る必要もないかなと思います。
ただ、これらの向上こそが、クライミングの筋トレ以外の主たる楽しみだと思うんですよね。

余談ですが、「掃除は、意外と体幹トレになる」という話もあります。
事実ではありますが、ワイドクラックや、自宅での体幹トレには効率面で劣りそうなので、あくまで副次的な話かなと思います。
<無事にオンサイト成功し、再登者のための掃除を開始するISさん>

勘の良い人は、こんなことは自分でやれば良いと思うし、開拓とか掃除を金銭を払って習うということ自体に違和感を感じるのは、私も同じです(笑)。

しかし、勘の良い人(あるいは、根本を理解するまで根気強く続ける人)って実は数%とかで、大半の人は何も理解しないまま時が流れていくように思います。
「一般大衆から、ちょっと分かっている人」への一歩を踏み出すには、こういう講習も1つの選択肢かなと思います。