2026年3月28日土曜日

クラックの固め取り

クラックにおいて、プロテクションの固め取りという戦術があります。
1つのプロテクションが抜けても、直近のプロテクションがバックアップとなり、事故を免れる方法です。

プロテクションセットは、ヒューマンエラーをどうやって防ぐか?という戦いです。
もちろん、正常性バイアスとか、焦りとかへの対処も大切ですが、二重化というのは最もシンプルな対策です。

過去にも何度も書いており、さすがに書き飽きた感もあったのですが、未だに講習生とのディスカッション主要議題の1つです。

様々な観点がありますが、今回は網羅的に行きたいと思います。
<久々に岩場講習のMさん>

①具体的な戦略

A)核心部に入る前に、2つ連続して取る。
B)プロテクション間隔を短めにすることにより、結果的に固め取り相当にする。

Aは、核心前でしっかりとプロテクションセットできるルートで有効です。
Bは、難しさが連続するルート(例、ジャミング真っ向勝負の持久系)で有効です。

Aの場合は、ボルトルート並みにはランナウトすることを許容することが多いです。
Bの場合は、ジム程度、またはジム以上にプロテクション間隔を短くすることが多いです。(長いルートの後半は、もっと間隔を伸ばす)

そのため、Bの方が恐怖心は小さく抑えられます。
ただ、それはメリットでもあり、デメリットでもあります。
例えば、Bで最終プロテクションが腰(トップロープ状態の上限付近)でも、1つ下のプロテクションは足首というケースです。

この場合は、「いつでも、テンションギブアップできる」、「落ちても、ほとんど落ちない」といった安心感はあり、1つ下のプロテクションが足首であることが意識の外になりがちです。
特に、ルート下部では固め取りの意味が無くなってしまうミスが散見され、下地が悪いルートでは重大事故に繋がりやすいです。

かと言って、難しさが連続するルートでAを選択すると、ジャミングやフットジャムの場所を埋め過ぎてしまうという問題も発生します。

つまり、AとBの使い分け、Bを選んだ場合の1つ下のプロテクションからのランナウト意識、という2つの問題は、大変ですが永遠のテーマとなるかと思います。

<城ヶ崎、クラックリード講習>

②固め取りをすべき場面

A)できれば、常に
B)自分が落ちる可能性があると感じた場面で

これは、Bが一般的だと思います。
ボルトルートでも、そのルートに取り付く人なら当然安定して登れそうなセクションはランナウトしており、絶対に墜落が許されないケースがあります。
同様に、クラックでも本人が落ちそうもないと感じるのであればプロテクションは不要というのが一般的です。

また、ごく僅かにスリップフォールや岩が欠けるリスクを感じる場面では、念のために1つだけプロテクションを決めるというケースもあります。

つまり、「固め取り、1つだけ、プロテクションなし」の3択をしながら前進していきます。

私自身の例を挙げます。
多くの講習生の場合、これを3〜4つぐらいグレードを下げて読み替えると、私と近い考え方になるかと思います。

5.8ぐらいのクラックだと、プロテクションなしで進む距離も長いです。
少々バランスを崩してもジャミングで落ちそうも無いと感じていたり、チムニーで落ちそうも無いと感じているケースが多いからです。
また、クライムダウン敗退の余裕もあります。
ただ、所々に不安箇所がある(万が一のスリップ、など)ので、カムを決める場所が出てきます。
多くの場合、固め取りまでは行いません。(グレードの辛さ、苦手系などで不安を感じれば、別です。)

5.10前半のクラックでは、大抵の場合は核心部で固め取りを行います。
核心以外は、プロテクション無しで進む場所もあり、カム1つで進む場所もあり、という感じです。
3つの使い分けが、最も分散するグレード帯だと感じています。

5.11a以上のクラックでは、ほとんど常に固め取り状態になります。
非常に持久力の要求されるクライミングになりますが、これをしないと怖くて登れません。
所々、易しいセクションが出てくれば、他の2つの作戦も使用します。
もちろん、5.11以上のクラックでも、半分以上は5.10aというルート構成もあり、対応策はルート毎に異なります。

(こういう事情もあり、私は5.10後半以上のクラックは十二分に難しいと感じている)
<カムで落ちる練習 & エイドダウン敗退の練習>

③いわゆる核心部ではなさそうだが、不安を感じた場合

原則、固め取りを行います。

直前にムーヴが読めなかったが、突破してみたら余裕だったというケースも多いです。
それで毎回固め取りなんてキリが無いと思う方もいるでしょうが、不確定要素への判断は安全側に寄せる必要があります。

直後のムーヴ自体はカム1つでも良さそう(ムーヴで落ちる可能性は、ほぼ無い)だが、突破した後にカムセットできずにギブアップフォールする可能性(もしくは、それが怖くてプルプルしながらカムセットを頑張っている自分の未来)が想定されるケースもあります。
これも、固め取り推奨です。

この観点は、オンサイトトライをする上で非常に重要です。
これを面倒くさがる人は、トップローパー(この場合、トップロープリハーサルをしてからリードしたがる人)への道を辿るか、単なる怖いもの知らずだと思います。
<アドバンスクラック講習1日目@城ヶ崎ボルダー>

④あえて固め取りをしない戦術をどう考えるか?

完全にボトミングでカムが効いたケースなど、「これが抜けるぐらいなら、もう何も信じられないよ。クライミングなんて辞めた方が良い。」と感じることもあるでしょう。
その場合は、1つで突っ込むことも考慮に入れます。
ただし、私は可能な限り固め取りを探し、固め取りが非常に難しいケースに限ってリスク受容しています。

また、地面から非常に近く、下地も平らな土などのケースでは、最悪グランドしても怪我の程度が比較的マシという判断で、カム1個で突っ込むこともあります。
<洞窟ボルダー>

⑤「カムが足りなくなるので、固め取りを避けたい」という心理はどう考えるか?

物量作戦、バッククリーニング(クライムダウンなどして、手前のカムを回収して登り直す方法)、どちらも非常に持久力が要求される作戦です。

どちらも出来ない(疲れて登れない)のであれば、自分にはそのルートにトライする資格なし、と考えます。
持久力と安定感を磨いて、出直しましょう。
<アドバンスクラック講習2日目@城ヶ崎の「あかね」>

⑥ワイドクラックの「ズラっしんぐ」
 
5番以上のサイズでよくある、カムをズラすことによってプロテクション位置を変える方法があります。
私も許容していますが、ズラしたらカムがスタックしてしまった(しかも、フレアー部分とかで効きが不安あり)などの怖い目に遭ったこともあります。
また、ズラしている最中はノープロテクションの状態となるため、ムーヴが完全に安定している必要があります。

その際は、同じサイズのカムを2つ持っていき、2つを交互にズラしていく(上の6番をさらに上にズラす、下の6番を上のカムを追い越さない程度に上にズラす)という方法をよく使います。
これであれば、「ズラっしんぐ」の最中でもカム1つは効いており、ムーヴ中は固め取りされている状態です。

あるいは、途中で出てきた他のサイズのカムが効く場所を最大限活用し、バックアップにする方法もあります。特に、ルート全長が長い場合は、それだけでも死亡・重大事故の可能性が防げることもあります。

前述のグレードイメージの通り、自分にとってほぼ安定して登れそうな課題では、そこまでせずに5番、6番を1つずつしか持たずに、通常の「ズラっしんぐ」を許容することも多いです。
<ISさんのリクエストにより、振れ止めありのフィックスロープ練習>

「そこまで手間をかけていたら、登れる課題も登れなくなっちゃう。」と思う人もいるでしょう。
あるいは、「そんなこと考えるなんて、無理じゃない?(オブザベであれ、トライ中であれ)」と思う人もいるでしょう。

ただ、やっぱりカム抜けで死んだり、大怪我をしている人は結構おります。
<初ユマグリのYIさん>

あなたのリードそのもの・カム抜け・墜落姿勢に対する恐れが、あなたのリスク管理能力を高めるエンジンとなってくれることを願います。

その恐れが、トップロープや、強い人に連れて行ってもらう、などの思考停止の方向性に行かないように、細心の注意、深い洞察力が必要です。
<本日の講習は、作業系の練習に絞って>

<クリップだけで振れ止めにしたり、ロープを固定したり、色々やってみる>

<ハング越えに苦戦するYIさん>

<トラバースに苦戦>

2026年3月26日木曜日

名張、3回目

3月10日(火)〜12日(木)は、自分のクライミングで名張へ。
桂くんと。
Campagne(5.10a)を登る私

看板ルートのモスラパワー(5.11c)をトライする桂くん

名張は、クラック主体の岩場です。
柱状節理で、柱と柱の間を登っていくようなイメージです。

垂壁主体になりますが、柱を折ったような部分にハングやテラスが出現するという感じです。

フリクションは、小川山・瑞牆などの花崗岩のようにザラザラでも、河原の岩のようにツルツルでもない、丁度中間といった感じです。
さらに、同じカムのサイズが何メートルも続くパートが頻出、ルート全長も30mを越えるものが結構あり、ジャミングの練習場として有名です。

また、カチが少ないためにフットジャム以外のスタンスは非常に悪いと感じます。
さらに、フリクションの関係で外傾スローパー(テラスなどの水平スローパーは流石に保持できるが)が極端に悪いと感じるため、柱状節理のカンテ部分がホールドとして使いづらく、フェースとクラックのミックス系のムーヴを封じてくる傾向にあります。
ガンバ

当然、得意なサイズであればガバガバ、苦手なサイズ(一般的には、シンハンドと膝が入らないオフウィズス)は四苦八苦となります。

例えば、
・手はシンハンドだけど、フットジャムはワイドハンド部分でバチ効きだからどうにかなる
・フェースミックスのムーヴで解決
・ワイド技術も駆使して、どうにか突破
などの選択肢が使いづらい訳です。
無事にR.P.

個人的には、指の変形の影響で苦手サイズ(というか物理的に無理そうなサイズも結構ある)が広範囲な私は、積極的に向かわないタイプの岩場ではあります。

とはいえ、せっかく誘ってもらったことだし、苦手なりにグレード落とせば登れたりするものもあるし、ワイドハンド以上のサイズなら指の影響も少ないので普通に登れるし、といった感じで再訪しました。
それがどうした(5.10c)を登る私

さて、初日は極寒・・・。

・Get Wild(5.9、フィンガー〜ワイド) O.S.
アップからして苦戦気味
寒さも相まって、名張のスベスベのフリクションを再認識・・・。

・Paprika(5.10b、OW) オンサイト失敗。エイドダウンして、2トライ目でR.P.。
いわゆる膝が入らない5番サイズが、自分としては核心になる。
ただ、5番セクションは短いので、色々と駆使して登ることは出来た。

・Free Stone(5.11a、フィンガー〜ワイド) 敗退
ミックス系のルートかと期待したが、苦手サイズのジャミング真っ向系になった。
やっぱり、どうしようもなくて敗退。

・Campagne(5.10a、ハンド〜ワイド、27m) O.S.
あまりにも寒い・・・。
終盤のチムニーに入ると、ようやく風が避けられて、体幹が冷える心配が無くなったが、抜け口のムーヴで結構苦戦した。
密林(5.10a)をO.S.する桂くん

2日目
本日は、桂くんのモスラパワーをビレイがてら、軽めに流す方向で。

・Crack Baby(5.7) 再登
・名張入門(5.9) 再登、こちらはちょっと苦戦

・それがどうした(5.10c、凹角ミックス系、38m) O.S.
せっかく名張に来たんだけれど、やっぱり指が気になって、ムーヴ構成がミックス系の課題ばかりに目が向く私。

下部のラインは、パンピングアイアン下部を登った。トポのラインは、途中で左に行くような書き方だが、パンピングアイアン下部からアプローチした今回のラインの方が自然に思えた。
最上部で、パンピングアイアン終了点まで繋がる5.10aの8mも含めて、38mのピッチとして登った。
最後の8mで相当苦戦した。

・密林(5.10a、ミックス系、29m) フォロー回収
これは、かなり辛い気がした。
しかも、終了点直下が・・・。
もいち(5.10b)を敗退する桂くん

3日目
本来はレスト日であったが、天気予報が4日目の雨を告げており、止むを得ない連登。
指は随分と腫れているし、全身疲労もあるので、ワイドの垂壁系に絞って登る方向で。

・だんだん(5.8、ワイド系) O.S.
・New Wave(5.9、ワイド系) O.S.
・チビゴジラ(5.10d、フィンガー〜ワイド、ミックス系でもある) O.S.
やっぱり大苦戦。ギリギリ登れた。

・ジュマンジ(5.10b、ワイドハンド〜フィスト主体) O.S.
奇跡のように、指の変形を気にせずにジャミングを連続できるセクションがあり、楽しい。
たまには、こういうので気持ちよくなると、何かを思い出せる気がする。
<チビゴジラに向かう桂師匠>

チビゴジラ(5.10d)をR.P.する桂くん

2026年3月16日月曜日

5月の予約に関して

5月16日(土)、23日(土)、24日(日)に関しては、どれか1〜2日間で予定が入る見込みになってしまいましたので、カレンダーに「未定」としておきました。

今夜から5月の予約開始のところ、お騒がせして申し訳ありません。

2026年3月11日水曜日

5月の予約受付

3月16日(月)の22時から、5月分の予約受付を開始いたします。

岩場リード講習は小川山、クラックリード講習は瑞牆、マルチピッチリード講習は小川山、瑞牆、三ツ峠などを予定しています。
ただ、東京周辺も登れる時期なので、相談には対応いたします。

ジム講習は、Dボルダリングプラスリード立川、ランナウトを基本としつつ、相談には対応いたします。

では、よろしくお願いします。

2026年2月24日火曜日

守破離(しゅはり)

先日、読図講習を行った際に、私自身が登山の基本を「分かった上で破る」というシーンがありました。
<アイスクライミング講習@醤油樽>

⚫︎場面①
計画段階では、登山道を歩くのみの予定であったが、講習生の読図レベルが思ったよりも高いことがアプローチの林道時点で分かったので、登山道が無い尾根を登りに使用することに変更した。

⚫︎基本を破っている点
計画段階と異なるルートを取ったこと。

理由1)
一般的には、登山計画書と異なるルートを取ると、遭難した際に捜索してもらえない。
登山計画書のルートを遂行しようとした上で、ルートを間違えてしまったり、滑落したと思われる範囲を捜索することになる。

理由2)
計画段階で、リスクと対策を想定しているため、当日変更を行う場合はダウングレード(縦走途中でエスケープして後半パートを割愛する、など)は許容できるが、アップグレードは判断がいい加減だと見なされる。

ちょっと極端な例を挙げると。
大学の部活などで計画書を顧問やOBが審議して許可するという制度の場合、顧問やOBが居ない現場でアップグレードなんぞした日には・・・、という話です。

⚫︎とはいえ、実行した理由
十分にリスクが小さく、ほとんどの困りごとをイメージしてみたときに対処可能と考えた。

※捻挫、骨折、講習生の体調不良、現在位置が分からなくなってしまったと仮定した場合のリカバリー、万が一救助要請したい際に携帯電波が繋がらなかった場合。
これらが起こる確率と、起こってしまった場合の死亡確率を考えて、十分低いと見積もった。
<側壁にある滝をリードするTGさん>

⚫︎場面②
下山路も、登山道の無い尾根に変更。

⚫︎基本を破っている点
理由1)
ケース①と同じ。

理由2)
尾根の分岐を誤ると、沢に降りてしまい、若干だが「沢の下降」になる。

<解説>
「迷ったら沢を降りてはいけない」という登山常識があります。
道迷いをした際に、沢を下降して命を落とす登山者がいるからです。
登山者の心理としては、「もうすぐ麓町に到着できるんじゃないか?」という期待でどんどんと降りてしまう。
実際に、沢沿いは「河原状になっており、ほどほどに歩きやすい」区間が多く、尾根に登り返すのは「非常にしんどい」と感じて、引き返す気持ちになれないという話です。
一方で、沢には側壁が存在することが多く、「水に濡れて歩く」or「側壁を頑張ってトラバースする(高巻くorへつる)」というシーンが出てきます。
濡れながら強行突破すると、ビバークする際に低体温症で死亡する可能性が非常に高くなります。
側壁を高巻く際に、ロープも持たず、クライミング技術もない一般登山者の死亡リスクは著しく高いでしょう。
その意味で、道なき尾根を下降する場合は、「濡れても低体温症にならない服装」と「少々のロープワークが出来る程度のギア」などを携行した上で、さらに登り返すだけの時間・体力の余裕を持った上で行うのが、最も無難な方法でしょう。

⚫︎とはいえ、基本を破った理由
沢の集水面積から考えて、十分に水量が少ないと推測したため、沢沿いの林道が出てくるまで沢の下降を強行することも恐らく問題はない。
沢に降りてしまってから、尾根に登り返す時間的猶予は十分にある。
何度も尾根の分岐を間違えて時間切れになった場合でも、登山道まで登り返すことも可能。

<続いて、醤油樽をリードするTGさん>

そんな訳で、基本は破って講習を実行しました。
この判断自体が誤りだとは思いませんし、講習生にも基本を破っている旨は説明しています。
ただ、基本もままならないうちから、応用をいくつも見せるのは心がチクチク痛みます。

ちょっと勘違いするだけでも、危険登山者に誘導しているようなリスクを孕んでいますので。
<読図講習@高水三山>

普段のクライミング講習でヘッデン下山をよくやっていますが、これなんかも登山の「早出、早着」の原則とは真逆です。
登山では、ヘッデンが必要なほど長い歩行時間が必要な場合は、歩き始めをヘッデンにして、テント場などへの到着は明るいうち、しかも「暗くなるまで数時間の余剰時間」を残すことで、遭難リスクを下げることができるとされています。

・山歩きで10時間行動するなら、「朝5時発、15時テント場」みたいな農家のリズムが推奨。
・フリークライミングで10時間活動するなら「朝8時に岩場、夕方18時に撤収」みたいな街での活動時間。
・バリエーションなどでは、「ルートに応じて臨機応変に判断」みたいな応用編。
という風に考えると、フリークライミングのヘッデン下山は基本編の範疇なのかもしれませんが。

他にも、雪山の入門書なんかには「無雪期のうちに偵察を行い、地形を把握しておけ」という基本が書いてあったりします。
地形を把握することにより、雪庇・ホワイトアウトなどに対応しやすい、という話です。
一方で、「じゃぁ、無雪期が存在しない海外登山は?」、「無雪期は歩く気になれないような、登山道の無いヤブ山は?」みたいな話も出てきます。
また、そういう山に将来行くことを見据えて、「雪山のオンサイトでのルートファインディング能力・判断力を高めるために、なるべく偵察山行はしたくない。」というのは、学生時代の私の考えでした。

いずれにせよ、登山入門者向けに語られる基本みたいなものは、一応は押さえておいた方が良いでしょう。
それなりの理由もあるので、基本を破る際に「考えるキッカケ」を私たちに与えてくれます。

ちなみに、「守破離」の意味から考えると、基本を忠実に守って何年も修行した上で、次の段階として基本を破ります。
となると、本来は一般登山者として基本を守る修行期間が何年もに渡ってがあった方が良いでしょうか?

これもまた、「基本はそうだけれど、〇〇さえ守っていれば、登山経験が浅いうちからバリエーションや雪山のトレーニングを始めても良いだろう。実際、そうじゃないと大学山岳部とか社会人山岳会も回っていかないし。」みたいな基本を破る考え方が色々ありそうだと思います。
実際問題として、私もそれに同意します。
ただ、多くの大学山岳部、社会人山岳会の実態は、こういう議論より遥かに低次元であったりすることも多いとは思いますが・・・。

・大学探検部
・クライミングから入って、登山経験ゼロに近い状態でバリエーションに連れて行ってもらう(沢・岩稜・雪山)
・ランナーから、登山を知らずにトレイルランナーへ
などなど、基本を守る期間がゼロに近いパターンもあろうかと思います。

これも、仕方ないとは思いつつ、周囲からは不安視されますよね。
ただ、最低でも自覚的でありたいものですね。

2026年2月18日水曜日

ジム講習の3本柱

今回は、講師側の思考整理(一人で行う講師会議、みたいなイメージ)です。

ごく一部の講習生には面白いかもしれない、ぐらいの内容です。
一般公開する意味は、不明です・・・。

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ジムで、ムーヴやリードを講習する際に、3つの柱があると考えています。

①丁寧さ、姿勢、小技       ( = 繊細な技術、身体感覚)
②回転の理論、力の釣り合いの理論 ( = 手順足順の理解、オブザベ)
③ルート攻略における作戦     ( = 全体的な作戦)

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

①丁寧さ、姿勢、小技( = 繊細な技術、身体感覚)
丁寧さ:
ホールドを握り過ぎない、足を丁寧に置く、ちゃんとフィットさせる、スタティックを正確に行う、などなど

姿勢:
肩を下げる、脇を締める、背すじを伸ばす、腰をいれる、などなど

⇨究極的には、「〇〇の筋肉を効かせるように・・・」と言ったムーヴの理解になってくる。

小技:
踏み替えを丁寧に行う、「ヒールのときは、ちょっと〇〇な感じにすると掛かりが良くなるよ」などのプチアドバイス、など

②回転の理論、力の釣り合いの理論( = 手順足順の理解、オブザベ)
三角形のバランス(講習中は、「軸またぎ」と呼ぶ)、ヒール・トウなどが要求される場面、デッドが要求される場面、足デッドを最小化するための足順やプッシュの活用、など

⇨究極的には、手順足順の意味を理解することが目標です。
 これにより、一挙手一投足に至るまでのオブザベができるようになることが目標です。

  ※オブザベなので、当然はずれることはあります。
   とはいえ、手順しか読んでいない初心者オブザベよりは相当に役立ちます。

③ルート攻略における作戦( = 全体的な作戦)
・墜落距離の計算
「あのムーヴで落ちても、せいぜいこのぐらいまでしか落ちないから、頑張って手を出してみるか。」
「2本目は、あのホールドまでにクリップしないと危なすぎるかな。」
「3本目までは真っ直ぐのラインでクリップ、4本目と5本目は左のラインにクリップするのが一番ランナウトしないだろう。」

・ロープの足絡み問題
・レストポイントの読み、核心部の予想
・どのセクションは丁寧に行き、どこは思い切り良く行くべきか?
・トライ前に、ちゃんと緊張して、心拍数が下がるのを待ってからトライする。(緊張する前に焦ってトライすると、より悲惨な結果になる、など。)


①〜③は相互に関連しています。

①:一般的なオブザベより、細部の話 
②:一般的なオブザベ(手順だけでなく足順も含めるため、初級者のオブザベではない)
③:一般的なオブザベより、大枠の話

という具合に、整理し直しても良いでしょう。

例)
②が初心者レベルだと、ムーヴ選択や足位置がメチャクチャなので、常に回転力を腕力・握力で抑え込んでいる状態になります。
したがって、①のスタティックや姿勢を意識しようにも、相当な無理が加わります。

「何が最優先だ!」という項目は存在せず、一つずつ改善していく必要があります。
相互に関連しているので、「自分が改善したい」と感じている項目を上達させようにも、他の項目の弱点が「足かせ」になっている場合もあります。

ジム講習では、私の判断で「本日は、この項目を少し改善してみよう!」と話を振って行きます。

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最後に、私が日々感じている感想を書いてみます。

②を苦手とする人が、圧倒的に多い。

要因:
最もパズル的なため、大枠を理解するレベルに達すると(自力で問題が解けるようになるため)非常に面白い。
しかし、入門するのが難しく、ストレスを感じやすい。
典型的には、「こんなことやって、意味あるの!?」などと、ちょっと怒る人もいる。

①は、身体感覚の話なので、パズルが苦手な方でも反復練習しやすい。
典型的には、性格が丁寧&怖がり&パズル的なことは苦手という3拍子揃った女性。このタイプの講習生は一定数おり、彼女たちは①に特化していく傾向にある。

③は、ビレイ中にも考えることになる。
③は、岩場リード、クラックリード、マルチピッチリード、アイスなどを志向する当塾講習生にとっては、必修項目になる。(リスク管理の作戦が立てられないなら、岩場でリードができないため。)

当塾の進級システムによる影響:
初心者レベルにおいては、①を講習することが短期的に成果が出やすい。
            ↓
①が最低レベルに達したら、ジムリード講習をスタート。
以後、リード講習の実践中は③を中心に講習していく。
            ↓
②は、岩場では教えづらい。
⚫︎岩場の下部でのムーヴ練習 ⇨ ①が中心(丁寧さ、スタティックの精度アップに注力)
⚫︎リードトライ       ⇨ ③が中心(クラックで言えば、墜落距離の計算、どこで固め取すべきか?などの話題が中心になる)
            ↓
この傾向は、岩場リード、クラックリード、マルチピッチリード、と連綿と続く。
 ※アイスクライミングだけは例外。
  アイスにおいては、②の重要性が高いため。

講習生の気持ち:
半数以上の講習生は、岩場リード講習やクラックリード講習と並行してムーヴ講習を受講しないため、②を講習するチャンスが少ない。
しかも、1〜2回のムーヴ講習受講では概念の理解に至りづらいため、継続受講する必要がある。
(ときどきムーヴ講習を受講するぐらいであれば、①を講習した方が成果は出やすい。)

つまり、理想的には卒業後のムーヴ講習の継続受講によって「フリークライミングの技術向上!」を願っているわけだが、実践できる講習生が少ない。

「卒業したら、一旦は離れたい。」、「フリークライミングの本格的な技術向上は、別のインストラクターに習いたい。」、「グレード向上は、あとは自力で練習すれば良いかな。」
などの様々な思いがあるだろうし、それも一理ある。

ただ、②に自力で到達できる人は非常に少ない。
しかも、②こそがムーヴの本質とすら思う。
(クライミングの本質、と言うと①や③も含むし、ムーヴ以外の諸々も含みそう。)

②を学ばないことは、もったいないように思う。

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まとめると、講習生は全体的に①と③が得意になりがち、ということです。
「では、どうすべきか?」という答えは出ていません。

考えてみると、
  構造的な問題:50%
  講師の工夫の余地:25%
  講習生の意識レベルの高さ:25%
みたいな感覚になってきて、②の大枠まで学んでくれる講習生は一部になるのも止むを得ないかという気もしてきます。

それでも、折に触れて②を講習しようとしていますが、不快感を露わにする人が現れたりして、かなりの困難さを感じています。

とはいえ、私にできることは、
・講習方法の工夫
・タイミング選び
・言葉がけ
などの、一般論の組み合わせでしかないのかなぁ、と思っています。

2026年2月14日土曜日

「レストが苦手」という人の思考

クライミング中のレストは、当然大切です。

ただ、レストが苦手な人、あるいは苦手であることを自覚していない人が、講習生の中でも相当おります。
<湯河原>

最初に、レストの目的を思い出してみます。

①回復
ダラリンと降ろしている方の腕の血流を流す。

・チョークアップして、ヌメりの予防。
・深呼吸をして、心拍数を下げる。
なども含む。

②時間稼ぎ
作戦を立てる時間を取る。

例)
・O.S.トライであれば、直近のムーヴを読む。
・R.P.トライであれば、直後のムーヴを脳内で再確認。
・ジムリードであれば、クリップの計画を再考。
・岩場であれば、リスク要因やランナウト具合の予想。
・クラックであれば、プロテクション戦略を考える。
などを含む。
これで、「レストやんなきゃな。」ぐらいの気持ちにはなるのでしょうが、実際のトライではレストしない人が相当います。

そのパターンを見ていきます。
<ロープレスキュー>

パターン①
常に焦っていて、早く上に行こうという思いが強過ぎる。

対処法)
これは、厄介です。
まずは、自覚を促すことです。
練習方法の提案、言葉がけ、本人が登っている動画チェック、などなど。
<クラックリード講習>

パターン②
早く登った方が省エネである、という思いが強過ぎる。

対処法)
部分的には正しいだけに、厄介です。
少々時間をかけても、省エネムーヴを選択していくことがパンプ抑制につながる、辛抱強くレストすることがルート攻略につながる、という実感を持たせる工夫が必要です。
<こちらも城ヶ崎>

パターン③
過去に、ゆっくり登ってみたり、レスト多用して登ってみたことはあるが、かえってパンプしたので不採用にした経験がある。
(パターン②の強化バージョン)

対処法)
これも厄介です。
「新たな登り方に身体が馴染むまでは、かえって成績が落ちる」という一般原則があるため、この考え方だと一生自分の登り方を変えることができません。

つまり、自分のスタイル「特攻隊のようにガンガン突っ込んで、ダメなら落ちる。」のまま、伸びられる限り成長し、そこで行き詰まったら成長は終わり、という生き方になります。

ある特定のジャンルでは成果を残せるかと思いますが、オールラウンダーを目指すのは厳しいでしょう。
パターン④
できるだけ長い時間、4点支持で居たい気持ちが強い。

補足)
レストというのは、片手をフリー(ホールドから離した状態)で滞在する必要があるため、これが精神的に落ち着かなかったり、疲れると感じてしまったりする。

彼らの主張A)
片手フリーよりも、4点の方が支持支点が多いから安定する(落ちる確率が低い状態)じゃないか?

彼らの主張B)
片手フリーの状態は、ホールドを持っている方の手が消耗するから、4点の方が片手ごとの負荷は小さいから楽じゃないか?

もちろん、AもBも論破することはできるのですが、何となく腑に落ちないという彼らの気持ちも理解できます。

対処法)
・1点フリーの状態で安定させる練習。(手も足も全てスタティックで登る練習、など。)
・全てのホールドでレストする練習。
など
 ※どちらも、十分に易しいルートで行うこと。
<再び湯河原で、岩場リード講習>

パターン⑤(中級編)
全身脱力できるぐらいのレストポイントでしか、レストできない。

例)
ハングの場合:
ジムの5.10cを登っていて、5.9のような大ガバが出てきたタイミングでのみ、レストする人。
  酷い人になると、5.11をトライしていても、レスト技術は5.9の大ガバのみ、という状況になる。

垂壁〜スラブの場合:
スタンスが非常に良く、手の負荷が非常に軽くなったタイミングでのみ、レストする人。

考え方)
5.10cをトライするなら、5.10aぐらいのホールドでもレストできた方が良い。
5.12aをトライするなら、5.11bぐらいのホールド(あるいは微妙な体勢)でもレストできた方が良い。
レスト中、ダラリンと降ろしている方の腕は脱力しているが、体幹部をナマケモノのように脱力するのは非推奨。

※「体幹部は脱力し過ぎず、レストしている腕は脱力する」という感覚に慣れるのが難しいのですが、これができないとグレードが上がると全くレストできなくなっていきます。
<こちらも湯河原>

パターン⑥(中級編)
レストによく使うムーヴ技術の向上に、興味が薄い。

例)
・省エネのためのヒールフック。
・凹角でのワイド技術。(バック&フット、ニーロック、など)
・ステミング。
・微妙なバランスでのノーハンドレスト全般。

もう少し初心者向けに言うなら、ガバ足でも足指でスタンスを捉えた方が楽だとか、そういうレベルです。

補足)
本人の心理としては、省エネ技術なんかよりも、「突破できなかった、あそこのムーヴを教えててくれよ!」という話です。
実際には、省エネ技術が高ければ登れるルートも相当増えるのですが、そこには目が向きづらい人もいます。

「そういう思考なら、ボルダラーになれば?」という気もしますが、別の理由でリードが好きだったりするので、やっぱり直して欲しいところです。

対処法)
・ウォームアップを兼ねた基礎練習で、様々なテクニックを試行錯誤&反復練習。
・ワイドクラック、凹角課題、スラブ課題、ヒール課題、などに対して積極的に取り組む。
など
<城ヶ崎でワイドボルダー>

パターン①〜④は、ちゃんとできないとバタバタ登りにすぐになります。
ジムならともかく、岩場やクラック、マルチ、アイスなどでは、危険と言っても差し支えないでしょう。

速やかに、改善の必要があります。
<若干のインバージョン>

パターン⑤、⑥は、できなくてもそこそこ登れます。
岩場でも登山でも、危険というほどのケースは少ないかもしれません。

ただ、それゆえに「自分は、レストには自信がある方だ。」などと考えてしまう人も多いのです。
しかし、実際には同グレードをO.S.トライしている人たちに比べて、レストできる場所が少なかったりして、これこそが最大の伸びしろである可能性もあります。
<クラックリード講習>

他にも、
・パンプするまでレストしない人
⇨序盤は、まだパンプしていないので、レストを交えながら登る気持ちになれない。

・パターン①〜⑥の複数に弱点が散らばっている人
⇨「特定の1つが、徹底的にダメ」というほどではない。

など、色々いますよね。
<今回、ようやく手足の位置関係理論が腑に落ちたHSさん>

「キャリア後半に、ちょっとずつでも伸びる人」というのは、こういう弱点分析に長けた人なんだろうと思います。

<懸垂エリアの「あかね」>

<フィストクラックをO.S.するODさん>