2025年6月27日金曜日

ジムリードの本気トライ

最近、岩場でのリードについて書くことが多かったかなと思っています。
「落ちても大丈夫な範囲」or「クライムダウン敗退できる範囲」のどちらかで登りましょう!
というのが、私の推奨です。

クラック・マルチ・アイス・沢登り、何でも通じる考え方だと思いますが、ボルトルートが一番分かりやすいと思います。
微妙なプロテクション(本当に止まるか判断つかない)というのものが、ほとんど存在しないため、グレーな判断をする必要がほとんど無いためです。

ちなみに、微妙なプロテクションを取った場合は、「自信のあるプロテクションまでクライムダウンできる範囲」で登る(≒プロテクションを取らない場合と判断自体はほとんど変えない)というのが、私の推奨です。
「微妙なプロテクションのお陰で登れました!」と発言してしまうぐらいなら、敗退や別の突破方法を探る習慣を付けた方が良いんじゃないでしょうか?という趣旨です。

今回は、切り口を変えてジムリードについて考えてみます。
ジムリードは、プロテクションの信頼度・プロテクション間隔という観点で見て、最上のコンディションとなります。

「非常に整備された、(通常は考えられないほど)ボルト間隔の近い岩場」と見なすことができます。
そこに適した本気トライの方法を考えてみます。
<ジムリードのオンサイトトライ①>

まずは、安全にトライするための基本事項。

「落ちてはいけないセクション」を、可能な限り作らない。
・1本目は、自分が床に着地できる範囲までの間にクリップする。
・2本目は、自分が1本目でフォールを許容できる範囲までにクリップする。
・以下、同じ。

②クリップムーヴは、攻めすぎない。
手繰り落ちのリスクがあるため。

③ロープの足絡みに注意する。
特に、フラッギングや壁スメアしている脚は、目視しないので要注意。

④ビレイヤーのロープの弛ませ具合、立ち位置に注意。
「落ちても大丈夫なセクション(安全圏)」のはずなのに怪我をしてしまった、ということを減らすため。

⑤反転フォールしそうな場合などは、例外的にギブアップフォールを許容することもある。
※トップロープ状態などであれば、リスク無しと判断して突っ込むことが多い。

⑥どのラインにクリップするか?などをオブザベに含める。
オブザベがある程度できる人は、クリップ態勢、ロープが足に絡みそうな場面もなるべくオブザベに含めます。
<ジムリードのオンサイトトライ②>

上記が守れたら、以下の状況が完成しているはずです。
手繰り落ちをしない限り、どのムーヴでフォールしても、事故になる可能性はほぼゼロ。

これが完成すると、ようやくスポーツとしてクライミングを楽しむ下地が出来上がります。

・クライムダウン敗退を考慮した登り
・落ちないことが最大のリスク管理

といった場面から解放され、「落ちるときは、ダメもとでも一手出して落ちろ!」といったジムでの本気トライにおけるスタートラインに立つことができます。

その上で、私がトライを成功させる上で重要だと考えている事項。

①岩場に比べて、トライのテンポ感が大切。
岩場だと、難しいセクションと易しいセクションの差が激しい、何分でも滞在可能なレストポイント、などが散見されるため、行きつ戻りつが功を奏することが多いです。
一方で、ジムは5.12のルートで5.10のセクションが出てくることが滅多にないため、行きつ戻りつすると消耗してトライ失敗するケースが多いです。

ただ、テンポ感を意識しすぎて雑になったり、ムーヴ選択がグチャグチャになったりすることも多いので、適正なテンポを心掛けます。

②岩場に比べて、ホールドが見えるため、オブザベが一層有効。
トライ前のオブザベはもちろん、レストポイントでのオブザベも大切です。
レストポイントでオブザベしてアタック開始したら、通常はレストポイントに戻ることはありませんので、覚悟を決めましょう。

③デッドポイントなどのダイナミックムーヴも、積極活用。
スタティックよりダイナミックの方が省エネであれば、核心部でない場面でも使用します。
ただ、次のホールドの掛かりが不明な場合などは、ギャンブル性は否めません。

もちろん、岩場の「落ちてはいけないセクション」のように、ギャンブルに負けたら事故というほどのリスクは無いのですが、「オンサイトが一生で1回だけのチャンス」という要素もあり、ギャンブル性は減らしたいものです。
「どの程度までデッドポイントを織り混ぜて行くのが、オンサイト勝率を高める上策なのか?」
といった試行錯誤は必要でしょう。

④多少の消耗をしてでも、クリップ先行を心掛ける。
クリップができなくなり、「これ以上、クリップせずに進んだら危険すぎる!」と判断してギブアップフォールせざるを得なくなることがあります。
こんなとき、「下から頑張ってクリップしとけば良かった〜!」と後悔することになります。
もちろん、一歩上がってからクリップの方が楽な場面など山ほどあるので、判断には迷います。

そもそも論として、下からのクリップに慣れるためにも、リードクライマーこそロックオフトレーニングをすることを推奨しています。

「テクニカルなムーヴでの省エネ狙い」VS「シンプルな真っ向勝負ムーヴでのムーヴ迷い時間短縮」の判断に迫られることを、あらかじめ予想しておく。

キョン、ヒール、凹角でのノーハンドレスト、ニーロック、などで省エネができるケースは多いです。
一方で、オンサイトトライ中に、これらを一生懸命探しているうちに消耗してしまう、という問題はあります。

限られた時間内に、どちらかに腹を括るのは難しいので、あらかじめ「判断に迷いそうな場所」を予想しておくと良いです。

ちなみに、「オンサイト中は考えるのが面倒だから、ほぼシンプル一択。ハングドッグして初めて省エネムーヴを探り始める。」という、やや脳筋の人も結構います。
実際、そういう人が僕なんかより相当強かったりしますが、他の点が優れているということなんでしょう。


最後に。
ジムリードでスポーツ的な本気トライができるようになると、岩場での登りも大きく変わります。

・岩場でも、ジム的なスポーツのトライが有効な場面は、局所的には出てくる。
・岩場だからこその行動指針の違いが、今までより分かる。
・落ちる前提のトライに心身を慣らすことで、カムセット・カムの固め取りなども一層慎重になる。

そう考えると、講習生全員にジムでのまともな本気トライができるようになって欲しいものだと思います。