「ワイドクラックを教えてください。」というリクエストは多く、その希望は大変嬉しいものです。
その一方で、「原理原則は、フェース(もっと言えばジム)と大差ない。」という思いもあります。
<岩場リード講習@小川山>
まず、何よりも本気トライの方法が最重要です。
その他のクラックと同様に、初心者のうちから必ずリードした方が良いでしょう。
トップロープリハーサル、トップロープ癖は、クライミング初心者のうちに排除した方が良いです。
「チムニーだと5.8でもランナウトするから。」などという言い訳が聞こえてきそうですが、何とかする方法を考えるのが、最大の肝です。
A)5.7以下を探す。
チムニーのセクションに、ホールド・スタンスが豊富なら問題ない。
ルートにならないほど易しいチムニー、トポに載せる価値のないようなチムニーで、十分です。
※これだと、「自分は全くチムニー登りをしないで、無理矢理でもフェース登りで突破するので、練習できない。」という人は、思考方法に問題があります。易しいグレードでこそ、色々と試行錯誤する習慣を考えましょう。ジムの5.8や8級は、「どんなにバタバタ登っても登れたらO.K.で次に進もう」ではイマイチだったことは、すでに経験しているはずです。岩場であれば5.7以下こそが、あなたにとっては最適な実験場かもしれません。
B)プロテクションの取れそうなライン(奥にジャミングが効くサイズのワイド、オフウィズス、など)から先にトライして、本格的なチムニーは先延ばしにする。
私は未だに購入していませんが、キャメ7番、8番などを購入するのも、1つの選択肢だと思います。
C)ジムの凹角ハリボテ課題、ジムのチムニーなどで、ニーロック・プッシュ・バック&フットなどの断片的な要素を学ぶ。
D)それ以外のフェース課題の中でも、省エネ技術の練習も兼ねて積極的にワイドっぽい技術を使うように心掛ける。
<怖さを理解した上で、5.8を再登するNZさん>
これらに通じる考え方を、いくつか提示します。
①垂直以下のチムニーは、クライムダウン敗退が容易なことが多い。
チムニーでは、推進力が問題になります。
垂直以上でない限り、ワイドクラックから吐き出されることは考えにくいです。
●チムニーで進めずに敗退
●チムニーの抜け口でクラック・フェースとの混合ムーヴになるセクションがプロテクションに不安があって敗退
の2つのシナリオが頭をよぎります。
もし、そうなったらチムニーをズルズルとクライムダウンすれば良いでしょう。
さらに、「チムニーの動きを勉強したいから、まずはトップロープで・・・。」という言い訳が聞こえて来そうですが、これも推奨しません。
やりたければ、ボルダーのハサマリングorジムのトップロープチムニーを推奨します。
これならば、「やっぱり怖いからトップロープで!」みたいな逃げ癖を付ける心配がありません。
あなたが、ボルトルートでちゃんと下積み(トップロープリハーサルやチョンボ棒を行わないリード)を積んできたのなら、すでに以下のことを何度もやって来たはずです。
・スラブの登り方も、(今から考えると)ほぼ理解していない状態で、小川山の5.8のスラブを恐々と行きつ戻りつしてリードする。そして、時には直近のボルトまで敗退して来て、敗退ビナで下降する。
・ハングの登り方も、(今から考えると)ほぼ理解していない状態で、奥多摩の5.9のハングを・・・以下同文。
行きつ戻りつで敗退することは、ムーヴ理解が甘くても可能です。
まずは、「敗退できる範囲で登る」という意識が大切です。
そういった思考ができなければ、あなたは新しいことにチャレンジするときに必ずガイドツアーに長い年月で参加する羽目になり、よほど根性のある人を除き、ガイドツアー(orそれもどき)に安住することになります。
<アドバンスクラック講習@小川山>
②チムニーでも、奥にプロテクションが取れることはあるが、行ってみないと分からない。
これは、オブザベでは分からないことが多いです。
マルチピッチなどで、フェースの中でも所々にカムが効くのと同じです。
「敗退できる範囲で登ろう!」という腹を括った人間にだけ訪れる、ご褒美だと考えれば良いと思います。
<5.6くらいのチムニー>
③「敗退できる範囲で登る」、「初心者なりにカムセット態勢を工夫する」ことの2つが初心者にとっての最大のムーヴ学習
ワイドクラックは、非常にスタティックなクライミングです。
スタティックなクライミングを学ぶ上で、恐怖心やリスクは非常に良い薬になります。
トップロープでのワイドムーヴ学習は、どうしても雑になります。
トップロープで練習するとしたら、自分自身がO.S.やR.P.を済ませたルートで、「何かしらの反復練習」や「他のムーヴの可能性を探る実験」という明確な目的を持って部分的に行うのが良いでしょう。
繰り返しますが、「ワイドは慣れてないからトップロープで〜」という逃げ癖を付けると、あなたの将来が大変です。
これは、スラブでもハングでも同じだったということは、下積みを積んで来た方なら理解できることでしょう。
さらに、これは雪山でもアイスでも同じだと思います。
もちろん、アームロックやニーロックなど、部分的には人から教わった方が良いムーヴもあります。
これに関しては、ボルダーまたはリードルートの出だし(実質的にマットなしの低いボルダー)での反復練習がオススメです。
④ワイドとフェースの境界線は曖昧典型例を幾つか挙げます。
・オフセットクラック、コーナークラックは、アームロック・バック&フットを活用する場面が非常に多いです。
部分的にレストのためだけ、というケースもあれば、突破するムーヴに活用することもあります。
・奥にジャミングが効くが手前がフレアーしている形状では、必然的に肘・膝・腰がフレアー部分に当たるため、上手にやれば大きな助けになることが多いです。
・石灰岩やジムの凹角ハリボテ課題などの立体的な形状では、ニーロック・バック&フットが有効になることが多いです。
場合によっては、肘でのプッシュ・膝でのプッシュも非常に有効です。
・ジムのルーフでヒール・トウフック(場合によってはニーロック・ヒール&トウ)を連発する課題と、ルーフワイドのインバージョンは境界線がよく分かりません。
このような典型例でなくても、ちょっとワイドムーヴを使うと省エネ(or突破できる)という場面は多いものです。
この話に関して、あるとき悟りを開いたような感覚に入った講習生が「全てはワイドである」という名言を残しています。
<アドバンスクラック講習@瑞牆ボルダー>
⑤ムーヴの法則性も、結局は同じ
ムーヴ詳細は文章での解説が困難なので、軽く触れる程度にします。
・スタティックに動く
・オポジションを意識する
・回転モーメントを意識する
・足の移動時は壁から身体を離す、手の移動時は壁に腰を入れる
・極力、大きな筋肉で動く(フォームの話)
などの原理原則をワイドクラックを教える際には最も大切にしています。
(相当講習に通っている方でも、意味がよく分からないと思いますので、是非とも講習にご参加ください。)
むしろ、ベースが多少なりともできないと、技の話を聞いてもチンプンカンプンな講義に終わってしまいます。
※ベースの能力を身に付けるのは、上記のムーヴ理解と、「初心者なりに戻れる範囲で低グレードをリードし続ける」という強い意志だと思います。もっと言えば、ジムやボルトルートでのリードクライマーとしての下積みが、すでにベースの能力を形作っていると言っても良いでしょう。
<ルートにならないほど易しいチムニーで反復練習>
色々と書きましたが、ワイドクラックだからと言って特別なことはないと思っています。
「〇〇なムーヴが出てくることが多い。」
「リード中に、〇〇な状況が発生しやすい。」
「〇〇の筋肉が疲労しやすい。」
という程度の差だと考えた方が上達しやすいんじゃないか、という提案です。
<5.9の核心ぐらいのハサマリング>
<典型的なO.W.で反復練習>