クラックリード講習の卒業者を対象に、ときどき掃除講習を実施しています。
最初は、私から「掃除初心者向けのラインがありますが、いかが?」とお誘いしたものですが、特に気に入った方からは毎年依頼があります。
大体、1回か2回を講習で行い、残りの数日間はご自身で掃除を完成させていただく、というものです。
「掃除が経験として良い!」と思われるポイントは、大きく分けて3つです。
A:ルートに対する敬意が増し、クライミングの歴史の一部を実感できる。
B:オブザベ能力が上がる。
C:ロープワーク作業に強くなる。
<昨年、掃除講習で使ったエリア>
A:ルートに対する敬意が増し、クライミングの歴史の一部を実感できる。
①手間への敬意
割と手間の掛かるラインだと、FIXロープ設置、浮き石の撤去、土の除去、苔のブラッシング、などに数日間を要します。
掃除初心者、FIXロープ作業初心者である講習生ならば、その倍以上の時間が掛かることもあります。
その作業中に、一人黙々と物思いにふけることになるのですが、これがまた良い時間です!
②設計への敬意
お客さま気分で岩場に来ていると、「なんでここにボルト打たないの〜。」とか、「終了点の位置が高くて、小さい人への気遣いが足りないよ〜。」などと安易に発言しがちです。
(その発言に、一理ある場合もある・・・。)
しかし、実際に自分が作業すると、考えさせられます。
終了点を低くすると、終了点クリップは快適、ロワーダウン時のロープの擦れも少ないです。一方で、最後のマントルムーヴをやらない再登者が続出し、それが当たり前のルートになってしまいます。
よりナチュラルな岩場として、終了点の残置も残さないという方針もあります。
一方で、立木があっても、残置ロープに残置ビナを設置し、クリップだけでロワーダウンできる岩場にする方針もあります。
カムが効かないセクションにボルトを打つかどうかも、相当悩みます。
●核心部のグレードの割に易しいセクションか?
●スポート的なルートにするか、冒険的なルートにするか?(グラウンドアップトライを前提とする範囲内での冒険的ルートか?トップロープリハーサルを前提とするか?)
●小さい人でもマスタースタイルで取り付けるボルト位置か?
●脆い岩、などへの配慮。
<小さいエリア>
③開拓方法の違いを体感
1、オンサイトグラウンドアップ開拓
掃除前に、最初からオンサイトトライします。
ほとんど掃除不要のライン、汚くてもどうにかオンサイトできるぐらいのラインで行います。
脆い、汚い場合は、完登後にFIXロープを張り、数日間の掃除をして、多くの人に登ってもらえる状態になります。
2、グラウンドアップだが、エイドでFIXを張りに行く方法
掃除しないと完登できないレベルのラインで行います。
場合によっては、クラック内の土を掻き出しながらカムを決めてエイドして行き、とにかく作業用のFIXを張りに向かいます。
3、ラッペルダウンの開拓
岩場の裏から回り込み、懸垂下降でFIXロープを張ります。
掃除が完了してから、初めて自身でもトライをします。
ボルトを打つか迷うぐらいのラインだと、そのセクションを掃除してから最終判断をしたいので、必然的にこうなるかと思います。
上記3つの開拓方法を全て講習で体感してもらうには、最低でも3クールは受講してもらう必要があります(笑)。
B:オブザベ能力が上がる。①登るラインの選定
最初は、私が「このラインとかは、いかが?」と数本を提示して、その中から選んでもらう場合もあります。
慣れてきたら、講習生の方から「ここは行けると思うんですが、プランニングとか相談して良いですか?」と質問していただけるようになります。
この際の、「ここは行けると思うんですが・・・」というのが、いわゆる「岩を見る目」に相当します。
プロテクション、大雑把なムーヴ、大雑把な難易度予測、作業内容の予測、などを考えます。
これが、トポとグレードを見て取り付くのとは全然違います。
②掃除作業中も、登る人のプロテクションやムーヴを考え続ける
「ここは、プロテクションはこんな感じで、この態勢だとすると、ちょっと嫌だろうなー。いや、こっちのムーヴの方が安定するかな?」
などと想像しながら、クラック内、フェースのホールドを掃除します。
これが、実際に掃除後トライすると微妙に想像と違ったりします。
普段は、オンサイト中の行きつ戻りつであれ、ハングドッグであれ、「ちょっと考えたら岩を触って検証」という感じです。
しかし、この作業は「自分の身体での検証作業」までの勿体ぶり方が半端じゃないです。
通常、ルートセットでもしない限り、ここまで時間をかけてムーヴやプロテクションを考える機会はないので、良い経験になります。
<今年の掃除講習、ISさんのオンサイトグラウンドアップのトライ>
FIXロープの張り方、ユマグリなどの登下降、振られ止め、終了点残置ロープの設定、などなど考えることは山積みです。
結果としては、マルチピッチ、城ヶ崎や大堂海岸などのトップダウンエリアでのFIX張り、セルフレスキュー技術、などへの対応が良くなっていきます。
もちろん、既成ルートを登る際にも、残置ロープなどを今までより観察するようになるでしょう。
●本気トライの質の向上
●トポなどの文章の理解の向上
●オブザベ能力の向上
●ロープワーク技術の向上
●リスク管理能力の向上
などが望めるのではないかと考えています。
もちろん、これらを向上させる方法は掃除に限る必要もないかなと思います。
ただ、これらの向上こそが、クライミングの筋トレ以外の主たる楽しみだと思うんですよね。
余談ですが、「掃除は、意外と体幹トレになる」という話もあります。
事実ではありますが、ワイドクラックや、自宅での体幹トレには効率面で劣りそうなので、あくまで副次的な話かなと思います。