2026年5月29日金曜日

山屋系リードクライマーは、ボルダリングに挫折しやすい

「リード上達のため、ボルダリングが必要だと感じたが、ボルダリングで挫折した。」という人は、非常に多いと思います。
特に、山屋系で「リードクライミングは中級レベルに達した自負があるが、ボルダリングはどうも好きじゃない・・」という人が多いです。

私自身もそうでしたし、講習生にも多いです。
講習生の中には、「私は、最初からボルダリングも楽しかった。」という全く問題が無い人もおりますが、それはラッキーな例です。

挫折ポイントを列挙して、何が大切かを考えてみましょう。
①落ちるのが怖い

タイプは様々です。

・リードだと、テンションによるギブアップができるが、それが不可。
・リードのハングドッグだと、他のホールドを持ってチョンボクリップしてトップロープ状態でムーヴを探る習慣があったが、それが不可。
・リードだと、腰から落ちてハーネスにぶら下がる感覚だが、ボルダーは足から着地せねばならない。
・リードのちょっとしたフォールより、ボルダーの着地の方がちょっと衝撃が強い。
・ボルダーで骨折した話を聞いて、何となく避けている。(落ちる態勢に応じたリスク分析など、頭脳戦は苦手)
・リードでも、垂壁やスラブでは着地姿勢が問われるので、実のところ強傾斜しか本気トライができない。

分析していくと、
「そもそもリードの本気トライも、ショボいんじゃないか?」
という感じが見てとれます。

だからこそボルダーに向き合うべきなのか?
それとも、ボルダー以前に「リードで落ちる練習」に向き合うべきなのか?

そこは、どちらから始めても良いと思います。
とりあえず、どっちかは改善を始める方が良いですね。

<クラックリード講習@城ヶ崎>

②できないムーヴに打ち込むのが、精神的にキツい

リードは、多くの場合は「部分的には、ムーヴができる」ぐらいの難易度のルートをトライします。

本気トライの例)
・オンサイトで良い勝負だった。
 → 作戦ミスなど、様々な反省点を考える。

・オンサイトには失敗したけれど、ハングドッグして数回練習したらムーヴはこなせた。
 → 数トライでのR.P.を目指そう。

・テンションかければムーヴはできるんだけど、なかなか繋がらない持久系ルート。
 → 体調を整えて本気トライに臨む日を作る。
   核心部or別パートの省エネを考える。
   全パートに身体が慣れるまで、日数や回数を打ち込む。(最終手段)

「ムーヴができない」例として、以下のケースは私は時期尚早と考えます。

   1本のハングドッグで核心部を、10〜20回練習するとします。
   これを、×3本やってダメだった。

大きな理由は、2つ。

⚫︎ハングドッグが、ボルダーの練習として見ると非効率。
(ビレイヤーも大変。テンション中も、地面に座っているときと比べ、完全な回復が見込めない)

⚫︎持久系のルートの場合、あまりに厳しいムーヴが連続すると、R.P.まで繋げられる見込みが薄い。

だからこそ、ボルダーをやって、色々な「できないムーヴ」を試行錯誤すべきです。
しかし、リードに慣れている人ほど、「できないムーヴ」に向き合う機会が少なく、精神的に追い込まれやすいです。

ここの精神的安全性を保つため、私なりに考えた方法は後述
<ボルダーで練習>

③雰囲気が苦手

ジムのリードエリアの休憩時間は、山の話が割と多かったりします。
「先週末のアイスクライミングは・・・」
「こないだの事故は・・・」
「〇〇のクラックエリアへのアプローチは・・・」
「こないだ、ワイドクラックを初めてやって・・・」
「八ヶ岳の積雪状況は・・・」

山のサロン的な雰囲気もあります。

一方で、ジムのボルダーエリアは違います。

いわゆる街の世間話をしたり、ストレッチ・筋トレなどのメニューを話していたり、他のボルダージムの話をしたり。
岩の話も、岩場ボルダーの話だったりします。

ここに、何となく居場所が無いと感じるのも、メチャクチャよく分かります。

特に、ボルダリングがそれほど好きでない状態で、意を決してボルダリングに打ち込み始めた頃は、1つのハードルになりやすいです。
私は、今となってはボルダリングも結構好きなので問題ないのですが、昔はキツかったです。

今は、モチベーションの高いボルダラーのトレーニング談義も聞けるし、雰囲気の違いは良さでもあると感じます。
<チムニーの練習>

④プライドが砕かれる

・ちょっと運動神経の良いビギナーには、すぐに抜かれます。
・「リードではあり得ない不安定さ。」、「山屋の登り方としては、危なっかし過ぎる。」と思うような登りの人にも、課題では全く敵いません。
・週2以上でボルダリングしているジムの常連さんには、全く敵いません。
基本的に雑な登りなんだけれど、核心部だけは繊細なテクニックを駆使するボルダラーに対して、全面的に尊敬する気にもなれずに戸惑います。
・苦手な課題は、低グレードでも一撃できないどころか、ムーヴ分解すらできないこともあります。(「5級でも全然ダメ!」などと騒ぎたくなる)
・「山では、絶対使わないでしょ。」と思うような課題を避けまくっていると、後ろめたい気持ちになったりします。

要するに、山屋であり、リードではそれなりに登れるというプライドが、邪魔をする訳です。
<ハサマリング>

②の続き

最後に、「できないムーヴ」の精神的安全性を保つコツを、いくつか考えます。

ボルダラーと言えども、やっぱり登れる課題が好き

⭐︎1〜2箇所のできないムーヴであれば、そこに何十回も打ち込んだとしても、ムーヴができたら完登できることが多いです。
それは、リードより遥かに「繋げやすい」からです。
これぐらいの成功体験を積むと、モチベーションを保てます。

⭐︎数回の練習でできる程度のムーヴだけのボルダリングも、十分に練習になったと考えます。
この難易度は、ハングドッグでも「よくあるレベルの難易度」なので、「こんなんじゃ、頑張りが足りない?」みたいな自問自答をしがちです。

リードクライマーで、ボルダリングも頑張ろうと意を決したくらいだと、ストイックな気持ちだけが先行し、自分を追い込みがち!

が、このレベルであれば、1日に何本も遊べるのがボルダリングの効率良さを示しています。
ボルダリングで、ホールド替え直後の壁が賑わうのは、このぐらいの難易度のルートが大量あるから、みんな楽しいのです。

リードは中級レベルでボルダリングが好きになれない場合、最初はこのぐらいのボルダリングを大量に楽しむことをオススメします。

⭐︎頑張って一撃を狙うぐらいの課題も、練習になったと考えます。
これは、リードで言えば、核心部のオンサイトトライに役立ちます。

<野猿谷で、ボルダーで講習>

そして最後に、経験上は最重要なポイントです。

⭐︎⭐︎⭐︎オーバーグレード気味な課題では、一手でも進んだら進歩だと考える。

例えば、普段4級をトライしている人が、3級に取り付くと大抵の場合は完登には至りません。
しかし、何回かやっていると、スタートから2手しかできなかったのが、「3手目ができるかも?」という気配が漂うケースがあります。

もちろん、それによって3級の完登に至るケースは稀です。
だから、「こんなの出来ても意味ない。」と思いがちです。

が、もともとの自分の原点を思い返してみると変な話です。
ボルダーは、「できないムーヴ」を効率的に練習するのが嬉しいポイントなのですから。

<天王岩で落ちる練習など>

とは言え、こればっかりだと流石に辛くなってくるとも思います。
なので、私は以下のようにしています。

プラン1)
十分に課題が豊富な壁では、出来そうな課題を触る。
  (頑張ってオンサイト〜1時間以内に完登、の間ぐらい)

結果として、全然歯が立たない課題だと分かったら、すぐに別の課題に転進したくなるが、進捗がありそうなムーヴであれば、しばらくは粘る。
  (例えば、3手目が取れたら、満足して別の課題に転進などと、自分ルールを決める。)

プラン2)
ホールド替え直前の壁、よく行くボルダーの岩場など、煮詰まって来たら、この理念を強く意識して粘る。
結果的に、完登ゼロの日になったとしても、進捗に対して満足して帰る。

ごく稀ですが、完登は諦めて「一手前進だけを目標に」とトライしていた課題が、奇跡的に登れるケースがあります。
例えば、3手目を取れたら、後半は意外と易しめだったとか。

これに当たると、すごい成功体験になります。
だいぶ、ボルダリングが好きになれる気がします。


個人的には、こういった気の持ちようが全然分からない頃は、ボルダラーの皆さんから「もっと打ち込みなよー」という声援が非常に辛かったなぁと思い返します。

山屋 → クライミングも頑張ろう → 最終的にはボルダリングもやらないと

という流れの人は、悩みが尽きないかなと思いますし、講習生の相談にも頻繁に乗っております。

真面目に、楽しくトレーニングしたいものですね。


<小川山のスラブ>


<兜岩のクラック>


<瑞牆、地獄エリア>

<クラックの森、にて>


<瑞牆、熊岩の上部>

2026年5月13日水曜日

オンサイト練習法

「オンサイトに強くなる」みたいな記述は、溢れていると思います。
実際、オンサイトに弱い人は多いです。

何が問題なのか、考えてみましょう。
<瑞浪、ワイドマスター2>

①オンサイトに強いとは?

一般的な回答
「R.P.グレードに対して、O.S.グレードが近い」

コンスタントに2日間でR.P.することが多いグレード(たとえば、5.12a)の1〜2個下のグレード(この場合は、5.11c〜d)は、コンスタントにオンサイト成功(例えば、成功率30%など)している人もいます。

この人は、かなりオンサイトに強い方だと言えます。

(注)この場合のグレードは、最高R.P.グレード、最高O.S.グレードではありません。
自分がトライするべきルートを決めるための基準として、コンスタントにR.P.やO.S.できるグレードを考える必要があります。

(注)R.P.では、ハングドッグによるムーヴ練習ができるので、「コンスタントにR.P.できるが滅多にO.S.成功しないグレード」というのが存在するのは止むを得ない。多くの場合、このグレードが最高O.S.グレードとなる。

もうちょっと解析的に言うと、
「(本人にとって)核心部のムーヴが一発で成功するぐらいのルートであれば、どうにかオンサイトしてしまう確率が高い人」
ということになります。

・入念なオブザベ
・行きつ戻りつによるホールド探り
・クリップ、レスト戦略(クラックの場合は、プロテクション戦略)
・省エネムーヴ
・土壇場の粘り
・核心ムーヴの頑張り
などの総合力が問われます。

個人的には、この総合力こそがリード能力の本質で、R.P.能力に関してはボルダー能力の方が大切な気がしてなりません。
総合力の前段は、基礎力

・「クリップ戦略」
全然オブザベできない人には、厳しいです。

・「核心ムーヴの頑張り」
全くランナウトしていない状態なのに落ちるのが怖すぎて、一手を出せないようでは勝負になりません。

・「行きつ戻りつによるムーヴ探り」
5.11のルート中、5.9セクションで行きつ戻りつしただけでバテバテだと、厳しい戦いでしょう。

つまり、①で言うところの総合力は、諸々の基礎力を前提にしています。

ここで言うところの基礎力

・オブザベ能力
・入門ルートを安定して省エネで登る能力
・落ちることへの慣れ(ランナウトしていない状態でO.K.)
・落ちてはいけないセクションへの対応(クライムダウン敗退の考慮、など)
・(クラックの場合)プロテクション戦略への慣れ

などに当たります。

これら基礎力が最低限のレベルになっていないと、総合力は発揮しようがありません。
総合力がゼロに等しい初級者は、具体的にどうやって練習すべき?

A:それでも、オンサイトトライは頑張ってみましょう

まずは、ジムでホールド替えした直後の壁を、無節操に触り散らかす癖を止めましょう。
オンサイトトライは、一生に一度きりの大切なものです。

心構え
1)分からないなりに、オブザベは入念に行うべし

2)最高O.S.グレードの2つ下のグレードは、本気トライと認識してトライすべし
 最高O.S.グレードは、得意系・ラッキー・集中力が合わさって達成されたものである。再現性は、極めて低い。それより少し易しいグレードこそが、ちょうど良い戦いになる。

3)さらに易しいグレードも、オブザベや行きつ戻りつを行い、オンサイト(orフラッシュ)を取りこぼさないように留意すべし

典型的には、グレードから甘く考えて取り付き、「テンショーン」と気軽にギブアップして、「グレード〇〇にしては辛いよー。」というコメントを放ってしまう人が、あまりに多いです。
ちゃんと準備して取り付き、粘ったり頑張ったりで、きっちり一撃する習慣を付けましょう。

B:基礎力が向上する練習方法を行いましょう

基礎力は、本気トライを繰り返しているだけでは、なかなか身に付かないものが多いです。

たとえば、以下の習慣。

・「テンション」によるギブアップ癖が抜けない人
・「オブザベって、全然分からない」と喋っている人

こういった基礎力は、本気トライを「週に2日×数回×10年」行ったとしても、ほとんど変わらず、むしろ出来ないことに慣れてしまう人が大勢おります。
<ひばりチムニー>

Aは、自覚の問題である程度は改善できます。
少なくとも、ここまで熟読できた方なら、素養はあるかと思います。

Bは、独学では改善できないのも理解できます。

自分に足りない基礎力を発見するのが第一のハードル、それを改善する練習方法を考えるのが第二のハードルです。
講習では、第一のハードルは私からの指摘、第二のハードルは私からの練習方法の提案、といった具合でハードルを緩和していきます。

ちなみに、マルチピッチやバリエーションは、R.P.能力ではなく、O.S,能力が問われます。
当塾は、山で安全に登るためのクライミング技術というコンセプトがあるので、スポーツとしてのクライミングの中では「O.S.が得意」ぐらいになってもらいたいと思っています。

<ひばりチムニーは、基礎力を測るぐらいのルートかな?
チムニーの入門グレード、落ちてはいけないセクションでクライムダウン敗退の考慮>

<「アームロックききますか?」は、5.10aなので基礎力を測るには、ちょっと難しめ?>

3月23日〜24日:瑞浪
ウォームアップなどの記録は割愛

1日目:ワイドマスター2 丸一日費やして、R.P.
2日目:ワイドマスター(5.12a) またしても敗退
<講習生の間ではお馴染みらしい「神秘体験」>

<スカーレット(2級)は、10回以上かかった>

<スカーレットの裏側も面白かったです>

最近は、野猿谷に3回、城ヶ崎ボルダーに1回、という感じです。

ここ最近で、最も印象深かった課題。
長尺なので、気が向いたら鑑賞ください。
<野猿谷、ボルダーの抜け口で困る編>

動画を編集するのが大変そうなので、以下の解説文で何となくイメージが伝われば幸いです。

・野猿谷のルーフクラック課題で、ルーフ部分はバラシ済み、2日目のトライ。
・2日目も、相当やり込んで、ようやく突破。。
・そのままトップアウトするつもりだったが、上部が悪め。(絶望するほど難しくはないが、落ちるとマット外になることも含め、リスクあり。)
・トンネルを抜ける作戦に変更。
・トンネルは、身体のサイズ的に無理と悟る。
・ハング下の外傾スタンスしかないチムニーまで戻り、根性の大レスト。
・直上ラインにチャレンジするが、抜け口のホールドが欠けそうでビビり、根性のクライムダウン。(自分でも戻れるか怪しかったが、やや奇跡的に成功。ちなみに、足ブラ状態でもマット外ではあるが、ギブアップフォールなら許される程度の高さ&下地なので、マントル失敗だけが大事故のリスクあり。)
・再び、外傾スタンスしかないチムニーで、根性の大レスト。
・意を決して、直上ラインを完登。