「リードを教える」ことに主眼を置き、生活している私です。
しみじみ、2つのことが重要であると思います。
<岩場リード講習>
①安全な状況では、「一手出して落ちる」習慣を付けるべし。
典型的には、クリップを先行させることに成功した「トップロープ状態」です。
この状況で、「テンショーン・・・」などと言ってギブアップする癖を無くすことが、最初の一歩です。
(せめて、「落ちまーす」と言ってフォールしましょう。)
「だって、怖いものは怖いじゃん。」とか、「今はトップロープ状態でも、あと数手登って次のクリップまで行けなかったらトップロープ状態じゃなく落ちることになるから、もっと怖いじゃん。」とか、色々なボヤきは重々承知しています。
その一方で、これが出来るようにならないと、リードクライミングの安全管理の理解はボンヤリしてしまいます。
トップロープ状態、トップロープ状態+α(ちょっとだけリード状態)ぐらいのフォールを頻繁に繰り返すことで、リードの判断・落ちる姿勢・ビレイなどがようやく腹落ちしてくるのです。
<5.9以下でも、1本目が6mぐらいの高さにあることは日常茶飯事>
②「落ちてはいけないセクション(危険ゾーン)」では、「戻れるムーヴ」で登ること
・スタティックムーヴへの執着
・逆再生可能ムーヴの選択(稀に、スタティックでも戻りづらいムーヴが存在する)
・肝になる部分は、ホールドの暗記(クライムダウンしてくると、発見しづらいホールド・スタンスへの注意)
・特に気になる場所は、ムーヴの暗記(本人のオブザベ能力・ムーヴ暗記能力に、かなり依存する)
補足)
①が苦手だと、危険ゾーンと安全圏の境界線把握が曖昧になります。
①が苦手な人は、そもそも「恐怖とリスクの判別」という発想が弱いことが多いため、判断力が向上しづらいでしょう。
<マルチ講習@三ツ峠>
もう少し、別の角度から見てみます。
例えば、リード状態(トップロープ状態ではなく、腰位置が最終プロテクションより上)で行き詰まった(登れそうもない)とします。
取りうる選択肢は、2つしかありません。
●フォールする
●クライムダウンする
状況によっては、フォールは怖いだけ(どこにも激突しそうもない)でしょう。
状況によっては、フォールは死亡を意味するでしょう。
これを意識し、現状の安全度、数歩先の安全度、などを考慮して歩みを進めます。
これが、リードクライミングの思考です。
<今回で卒業とした、YZさん>
本当にリードを覚えたいなら、この思考に慣れる必要があります。
逆に、この思考を妨げる悪癖を考えてみます。
●ジムでリード中に、自分が落ちられないぐらいクリップのタイミングを遅らせてランナウトし、怖くなってルート外のホールドを掴んで、事なきを得た。
これを3本目ぐらいで行って、本当に危なっかしい人もいます。
ルート最上部で行うのは理論上は怖いだけですが、「その識別が怪しい」と見える人も多いです。
この習慣は、上に活路を求める登り(「上がっちゃえば楽になる」的な発想)を状態化させてしまいます。
リード状態では、潔くフォールするか、クライムダウンするかの2択です。(安全の担保は、上ではなく、下に求めましょう。)
他の選択肢を常態化させることは、思考力の成長を歪ませます。
大原則は、
「落ちられる範囲or戻れる範囲のどちらか一方でしか、ランナウトしない方が良い。」
という話です。
そもそも論として、ジムではボルトは十分な数だけ配置されているので、「常に落ちられる範囲」に収まるようにクリップのタイミングを調整すべきでしょう。
※「常にトップロープ状態」というのは無理でも、「常に落ちても危険でない状態」を維持することは、ほぼ可能。「初級レベルでも、膝下程度のフォールは許容する。」という前提条件があり、ここが成長の壁になりやすい。
<クラックリード講習@瑞牆>
この理念が骨身に染みてきて、「(この講習生は)リードの思考を理解したな。」と判断しています。
(実際には、歴代講習生の中でも理解度に相当なバラつきがあります。ほぼ完全理解と呼べるのは、未だ10人未満という気がするのは、私の胸が痛むところです。)
リードの思考は、あらゆるリードクライミングにプラス効果があります。
・ジムリードでは、落ちるまで頑張れる(結果として、ロープの足絡み・ビレイにも敏感になる)
・ボルトルートでは、「落ちてはいけないセクション」と安全圏を明確に意識した、メリハリのある登りになる
・クラックでは、プロテクション戦略がまともになる(核心で固め取り、落ちられる範囲のランナウト、など)
・クラックで、いい加減なカムセットをしなくなる(易しいセクションでランナウトする場面でも、セットする少数のカムは正確に!)
・本チャンや沢登りでは、ほとんどが「落ちてはいけないセクション」であると自覚して、戻れるムーヴに執着するようになる
思考の流れは説明を割愛しますが、上記を理解したことにより
・ボルダリングの重要さが腑に落ちる
という効果もあります。
つまり、リードの思考に慣れることは、安全管理のみならず、登りのレベルアップにも繋がります。
※リードの思考に慣れる過程で、トップロープの自制、ジムでルート外ホールドの自制などの禁欲的な行動を行う必要があります。その際に、一時的にR.P.を狙えるグレードが下がりますが、そこは耐え抜いてください。特に、「リードの思考」や「リードの登り」からかけ離れている人ほど、グレードは大きく下がります。
<チムニーの練習>
私にとっての課題は、この思考の枠組みを教える方法です。
経験によって分かる部分もある一方で、場数を踏んだことが悪癖に繋がって修正困難になっている人も多いです。
日々の講習の中でも考えますし、運転中や布団の中まで「あの人には、こういう順序で教えてみたら半年〜1年後(月1〜2回の受講を想定)には伝わるだろうか・・・」と作戦を練っています。
結局のところ、レスト、足置き、スタティック、オブザベ、落ちる練習、と言った基礎中の基礎が大事だと年々痛感しています。
現状で高グレードが登れることよりも、私の感覚としては遥かに将来的に大切です。
一例として
「健全な判断は、健全なレストに宿る」
という話が挙げられます。
<岩場リード講習@七賢の岩場>
補足として、リードの思考はグレード向上にも寄与します。
●まともなリードの本気トライができること
●ムーヴの基礎中の基礎の精度が上がること
●ボルダーの重要性が理解できて、実際にトレーニング時間の何割か(8割以上でも良い)をボルダーに割けること
の3点により、1〜数年後にはグレードも向上するはずです。
ちなみに、リードの思考が骨身に染みると、
・グレードが書かれていないルートへのトライ
・グラウンドアップのオンサイト開拓
などにも応用可能です。
登山業界におけるリードって「道を切り拓く」みたいな意味だから、当たり前なんですけどね。