7月に3週間ほど、富士山ガイドに行ってきました。
今も残っているガイド仲間の皆さん、本当に頑張ってくださいませ!
自分の中で、良かった点、イマイチだった点を書き出してみます。
●良かった点
①全体説明中に、自分が注目を集めきれていないことに気づいた際に、「Are you O.K.?」みたいな内容を一言喋り、笑いを取りながら注目を集め直すテクニックに習熟してきた。
(実際には、日本語で行う。)
②登りの歩行技術、下りの歩行技術に関して、日常生活の姿勢との関連を、お客さまに分かるように説明できるようになってきた。ただし、本人が実際にツアー当日中に修正できるかどうかは別問題で、実際には相当難しいことが多いが、修正してくる人もいる。
③登りの歩行技術、下りの歩行技術、耐風姿勢の説明が、ごく僅かにレベルアップした。
④休憩中に、肩回しや伸びをさせて、高山病対策をさせることを、僕自身が忘れにくくなった。
⑤お客さまの水分補給量が少し増えた。(五合目で原則1人1リットル程度を持たせる。七合目で水が足りなくなって、購入する人が増えた。)これによる、高山病の予防と脱水予防。
⑥7月の富士山と天気図の関係の理解が、少し深まった。
⑦観光ガイドで、笑いが取れているとき、「へー」と思ってもらえたときは、もともと満足感があった。
今年は、「何の反応も無いけれど実はよく聞いてもらったとき、というのも結構あるはず。」というのも意識してみたら、実際やりやすくなったし、後々そういう感想ももらえた。
⑧足首を捻った程度のお客さまで、その場で歩けたとしても、「一応オタワアンクルルールをやっておこう。」という意識が染み付いてきた。小雨の下山道で、正直かなり面倒ではあったが、2人ガイドで他のお客さまを待たせる必要の無い場面だったので、面倒がらずにやって良かったと思う。
●イマイチだった点
①よく理解してもらうことに重きを置きすぎて、短時間で説明を終える工夫に至れず、過去シーズンより下手だった気がする。
(初心者ツアーで、2日間の中に伝えたいことをギュッと詰め込むのは、かなりの難題。)
②強風の日にお鉢巡りを決行したが、帰りの大沢崩れ上部通過のリスクが高かった。
→
・添乗員さんが耐風姿勢が甘かったことに強風帯を抜ける頃に気づいたため、ヒヤリハット体験の気持ちになった。
・そもそも、風向きを考えると、お鉢一周ではなく剣ヶ峰往復にすべきだった。
・耐風姿勢よりも帽子が飛ばされないことに意識が注目してしまう人がいたので、帽子を脱がせてスタートすべきだった。
③ツアー終盤に話している「できれば、これを機に登山や運動習慣を!」という話の反応が、過去シーズンよりも悪かった気がする。原因は、歩き方の姿勢矯正の話とかまで踏み込んだ結果、話が難しくなったり、実現可能性が遠のいたためと思われる。
④いつもながら仕事の合間に余裕はなく、博物館などに行けたのは初仕事の前日だけだった。後は、ネット調べや、他のガイドから聞いた知識で、わずかばかりの観光ガイドの補強をした程度。
オフシーズンに勉学モチベーションが上がらないことが最大の問題・・・。
同様に、仕事の合間にクライミングジムに行けたのも、3週間で1回だけだった・・・。
⑤高齢層が多いツアーで寒い日に、トイレマネジメントが全く上手く行かなかった。
休憩の最後に、やっぱり今からトイレに行って良いですか?という人が現れる。トイレが2時間無いセクションで、「トイレ我慢できないんです。」という人が現れる。などなど。
→
水分補給量が増やせた、他に色々とアドバイスする項目が増えたためお客さま目線でトイレマネジメントの優先度が下がった、などの可能性あり。
●興味深かった点
①経験の多いガイドと2人仕事ができて、単純なダメ出しではないレベルの議論ができたこと。
例)
・(弱めのお客さまを何とかしてでも)全員登頂を目指すこと、ツアー中の個別ケアの限界、時間の制約を、その日の具体的事例の中で。
・ツアー運行や説明で、あえてやっていること、あえてやらないでいることの意味。
・各自のガイドスタイルのメリット、デメリット。
※新人教育とかを話し合う機会はあるが、ガイド個人技の悩みを共感できる機会は、意外と少ない。
②吉田ルートから登り、富士宮5合目に下山するという、縦走形式のツアーで、富士山を少し別の側面から見られたこと。
例)
・山頂宿泊小屋の雰囲気
・リタイヤの出しにくさを実感(初心者が多く、高山病も多い富士山で、リタイヤを出しづらいのは非常に厄介な問題。)
・夏山期間中の御殿場口と富士宮口の雰囲気(山小屋、ガイド、登山道、など)
変わりゆく富士山というのも、実感します。
10数年前の大混雑時代(1日あたり7,000〜12,000人)を知っているガイドは、
●多少荒っぽくても山頂御来光に間に合わせること
●時短の技術
●40人ツアーを1人でガイドすること
などが最低条件で、この上に各自の個性がありました。
とにかく荒っぽい時代で、他の小屋のガイドから怒号が飛んだり、山小屋の人から怒鳴られたりも頻繁にあり、とても平成とは思えない雰囲気でした。
その後、世界遺産登録やスバルラインのマイカー規制の影響なのか、年々と登山道は空いて行きました。
さらに、コロナで山小屋の宿泊者数を絞ったことも重なり、去年と今年は、1日あたりの登山者数は1,000〜3,000人程度です。
ツアー上限も30人が主となり、2人ガイドもメジャーになりました。
登山道も山小屋も余裕が生まれて、山頂直下の渋滞もごく限定的です。
だからと言って、世界文化遺産の広報とばかりの観光ガイドが好まれるかというと、また少し違う気がします。
●天候が悪い日も多く、並の登山ガイドよりもシビアに天候判断やお客さま説明を経験する
●程度の差はあれ、高山病の症状はほとんど毎ツアーある
●同じ旅行会社ツアーでも、参加者層が高齢化、登山未経験者化していく傾向を感じるため、全員登頂のハードルが上がっていく
●持病や軽い怪我を含めれば、ガイドが初期対応する事案も多い
大混雑時代でなくなったとは言え、やっぱり若手ガイドが
・20〜30人という人数
・時間通りの運行
・全体説明
・山小屋やガイド同士の調整
などに脳のキャパを大部分持っていかれるのは、昔と同じかなぁとも思います。
個人的には、天気や状況次第で、臨機応変にやること・説明内容を変えられる裁量が、ガイドの面白さでもあります。
そういう意味では、時代の変化は感じつつも、普段はツアー毎・天気毎の臨機応変の対応に追われて毎シーズンを終えています。
つくづく富士山は、短い期間に凝縮された人生経験の宝庫だと思います。