ときどき、講習生から
「事故orヒヤリハットに対して、振り返りをしたい。」
という依頼があります。
本人なりの反省・パートナーとの話し合いもあるはずですが、講習にも意義を感じます。
私の講習中にも講習生の骨折・ひどい捻挫は、少なく見積もって過去十数年で4回あります。
知り合いでも、事故は毎年何件も耳にします。
ただ、諸々考えると書きづらいものです。
どうしても、僕が偉そうに反省点を挙げるような文章になりそうなので、実際の事故ではなく、ヒヤリハットを見聞きしたものを書くのが無難かなと思っています・・・。
特に、講習中の事故は、僕にも責任があり、当事者も登山やクライミング休止中だったりしますので。
今回は、ヒヤリハットに近い感じで軽傷で済み、かなり建設的な反省ができたため、参考記録としてまとめます。
すでに、「読みたい」というオファーもあり・・・。
3月26日(日)も、そんな講習をストーンマジックにて。
講習生が、友達同士で登りに行った際のヒヤリハットについて、詳細に検討していきます。
本日は講習生5人。
(様々な意見を聞きたいという本人希望もあり、人数制限は今回は無しにて。)
以下、本人からの聞き取り、講習生の意見、私の意見などは区別なく整理。
私も、そのルートは登ったことがありません。
①発生状況(ボルトルートのエリアにて)
1本目のボルトの高さが4mほどで、その前でフォールして地面に着地し、足首を負傷。
→反省 ★1本目の高さなど、主要ファクターが上手く言語化できず、ついついムーヴの詳細を先行して喋ってしまう思考。
※落ちる直前の必死さがホールドに向いているため、そればかり語りたくなる気持ちは重々理解できる。
②ファーストエイド
本人が捻挫と考えて、テーピングで可動域制限して、行動続行。
ただし、本人は負傷後に自重して登らず。
その後、自力下山のため30分ほど歩行。
→帰宅後、足首がパンパンに腫れる。
翌日、病院で診察を受け、ピンポイントペイン(圧痛)があり、剥離骨折と診断される。
ただ、数日の固定で支障なく歩ける程度になり、即座にクライミングは復帰。
数週間程度でほぼ完治しそうなペースで、むしろ酷い捻挫よりも軽傷。
(自力下山かつ軽傷なため、事故というよりヒヤリハットと呼ぶべきか?)
→反省
現場でも、オタワアンクルルールなどを利用して、捻挫・骨折の判定を試みるべきだった。
もし、その場でピンポイントペイン、顕著な腫れ、などがあれば、判断も変わってきたかもしれない。
特に、骨折後に歩かせるかどうかで予後が変わる場合もある。
例)
・固定して搬送(最も基本に忠実)
・固定部位を基本よりは限定して行った上で搬送
・固定せず搬送
・ザックは持たずに空身で下山
・肩を借りて、なるべく足を付かずに下山
③下地の状況
平らな土がメインだが、着地したい場所にちょうど岩があり、かなり気をつけないとダメ。
実際、フォールした際も、そこに足を付いた。ただ、負傷したのは、平らな土に着地した方の足。
④追い込まれるまでの判断
地上1.4mほどにスタンスがあり、そこまで立ち上がると、クリップホールドと予想されるガバ(横からインカット具合などを視認できる訳では無いため、確定情報では無い)が取れそう。
そのガバを保持して、足を1〜2歩上げると、1本目にクリップできそう。
→地上1.4mのスタンスに立てば、1本目は問題なくクリップできると断定し、トライ開始。
数回の行きつ戻りつをした後に、そのスタンスに立つことに成功。しかし、予定していたガバに届かず、クリップできない状況に追い込まれた。
さらに言えば、予定していたガバに届いても、思ったほどガバでなかった可能性も十分に考えられたため、その先にも想定外の可能性があった。
→反省 ★クライムダウン敗退、飛び降り敗退を考慮した登りが、どの程度できていたか?
・そのスタンスに立つまでは、恐怖心もあり、本人としても慎重に行動したつもり。
・一方で、そのスタンスに立ちさえすれば、ガバに届き、問題なくクリップ態勢に入れるという断定があったため、スタンスに立ってからの敗退は全く念頭に無かった。そのため、スタンスに立ち上がる動きは、戻れないムーヴであることを自覚して突っ込んだ。
⑤追い込まれてからの判断
※すでに焦っているため、記憶は不確実な可能性が相当ある
地上1.4mのスタンスから、飛び降りは自信が無い。
しゃがんで、片足だけでも降ろしてから飛び降りようにも、そんな想定なくスタンスに立ってしまったため、戻りづらい状況になった。
結果として、しゃがむことは(少ししか)出来ずに、自らフォール。
※講習中に実験した結果、しゃがむことが出来れば、地上50cmからの飛び降りぐらいになった可能性が高いため、問題なさそう。
→反省 ★戻れないムーヴを繰り出す前の、敗退シナリオの想定が不十分だった。
・しゃがめば、ギブアップフォールできた可能性が高い。
・ビレイヤーから十分に手が届く範囲での出来事なので、スポット、クライムダウンの補助(沢でのショルダーなども含む)、などをお願いできた可能性が高い。
⑥心構え
・「何年も事故を起こさずに登ってきた。」、「他人が危なっかしく見えてきた。」などの自信から来る油断。
→自信と慢心が紙一重である問題
・登ることに夢中すぎて、リスク判断が自分に都合良くなる状態。
→集中と無我夢中が紙一重である問題
本日の、講習生の例え話を挙げます。
「経験上、医師は8年目ぐらいの頃に、やや天狗になる。実際は、初期治療しか分かっていなくても、ほとんどのことに対応できるような気になってくる。しかし、そこで天狗の鼻を折られる機会があり、学びに終わりが無いことを再認識する。」
慢心も無我夢中も、どんなベテランでも起こりうることですが、特に起こしやすい時期があるという話。
自分を振り返っても他人を見ても、うなずけます。
⑦ディスカッション前後の講習内容
・ファーストエイド
・ザック担架搬送
・ボルダーの飛び降りの練習
・スポットの実験あれこれ
・被った壁での逆再生可能ムーヴの考察(特に、手はガバなのに足が戻せなくなるパターンについて詳細に。)
どれも、初めての内容ではないメンバーだからこそ、より一層深く考えることができたのではないかと思います。
ジム講習にしては珍しく、総合的な学習でした。
とは言え、どれも一朝一夕では身に付かないものばかりですね。
個別項目の反復練習は、また追々やって行きましょう。