何度か書いていると思いますが、ときどき講習で話すので、また書いてみます。
リードトライ中に、
「自分のパワーゲージ(残存のクライミング体力)がどの程度あるのか?という意識を持ちましょう!」
という話です。
話を単純化するため、いくつかの整理をします。
①トライ対象
ジムのリードルートにします。
トライ中のリスク管理とか、クラックでは腕より体幹のヨレが大事、とかの要素を除外して考えます。
②何のパワーゲージか?
初級者は「パワーゲージ=腕のパンプ具合」と考えてください。
ジムでも、体幹・脚力のヨレもトライには大いに影響するのですが、トライ中に自分のヨレ具合を意識することが困難です。
つまり、「100%=全く腕が疲れていない。」、「0%=何も持てないほどに腕が疲れている」とします。
③パワーゲージを測る方法
ボルダリング3級の核心が、腕がフレッシュなときギリギリでこなせる人を想定します。
(話を単純化するため、パワーはほとんど使わないテクニカルな3級とかは除外して考えます。)
この人の場合、例えば以下のようにパワーゲージを考えます。
100% 3級の核心がこなせる
90% 4級の核心がこなせる
80% 4級の中でも易しい課題なら、核心がこなせる
70% 5級の核心がこなせる
・・・・・・
50% 6級がギリギリこなせる
・・・・・・
30% 100度傾斜のガバガバ課題なら、ギリギリ登れる(ジムの5.8など)
20% 垂壁のガバガバ課題なら、ギリギリ登れる(ジムの5.6など)
10% スラブのガバガバ課題なら、ギリギリ登れる(課題として存在しないジムもある)
0% スラブのガバガバ課題でも、登れない
これで、自分のパワーゲージを、ある程度は客観的に評価できます。
もちろん、自分の能力によって100%が変わるので、それによって全てのデータが変動します。
あくまで、自分用の評価表を作ることが大切です。
<ボルトルートだが、オールNPで登ろうと頑張る桂くん>
実際の考え方
ウォームアップ後の最初のトライであれば、スタート時点のパワーゲージは100%です。
スタート後、一手ごとに消耗して行きます。
レストポイントで少し回復することも多いですし、大レストポイントで90%以上まで復活できるルートもあります。
上手なクライマーであれば、省エネ技術を駆使して、一手ごとの消耗をセーブして行きます。
この際、どこまでセーブが必要なのでしょうか?
「リード後半の核心がこなせる程度のパワーゲージを残せれば及第点!」
と考えると、話はシンプルになります。
例)
最上部に4級難しめのムーヴが出てくるルートであれば、その直前に90%のパワーを残しておく必要がある。
最上部に6級のムーヴが出てくるルートであれば、その直前に50%のパワーを残しておく必要がある。
<クラックの新ルート(5.12a)にトライするが、2人とも敗退>
一般的なR.P.トライ
最上部のムーヴはハングドッグの際に確認済みのはずです。
まずは、そこに必要なパワーゲージをイメージします。
「このルートは、最終クリップをした時点で70%のパワーゲージを残しておかないと、登れないタイプだな・・・。」
と、自分の実力とルート難易度を、相対評価します。
実際のトライをすると、結果は以下の3パターンになります。
A)80%のパワーを残すことに成功し、余裕を持ってR.P.できた。
(最終ムーヴにミスらないようには気を配り続けた。)
B)70%台のパワーが残っており、最終ムーヴがギリギリの戦いになった。
B)70%台のパワーが残っており、最終ムーヴがギリギリの戦いになった。
(精神力で押し切ろうとしつつも、ムーヴにミスらないようにも気を配るという、本気トライの見せ場になった。)
C)70%未満のパワーしか残せず、最終ムーヴが始まる時点で敗戦が確定していると感じた。
(場合によっては、最終ムーヴを起こすことすら不可能。)
<いつも良い笑顔です>
もしあなたが、上記ルートで以下のような取り組みをしているなら、少し考えた方が良いかなと思います。
●トライ毎の休憩時間が短か過ぎて、2トライ目のスタート時点で80%でスタートしている。
⇨ルート中に、完全回復できるような大レストポイントがない限り、R.P.できるとは思えない。2トライ目でも、スタート時点では90%以上の状態でスタートしないと、最終盤で70%が残せるとは思えない。
●「テンション掛ければ、ムーヴは出来るんだけどなー。」、「いつか登れるよー。」くらいしか考えておらず、漫然とR.P.トライを続けている。
●トライ開始時点は、100%。途中の省エネが下手で、Cの状況になって最終ムーヴがこなせなかった。しかし、本人は「なんで、頑張り切れなかったんだろう・・・」と、落ちた場面だけを嘆いている。
→ポイントは、最終ムーヴではなく、下部の省エネ。
<アドバンスクラック講習@瑞牆>
もちろん、Cの状況でも奇跡を信じて一手出して行く姿勢は素晴らしいと思います。
実際、ハングドッグでは思い付かなかったような別ムーヴで奇跡的にR.P.を決めた経験は、多くの方が味わっていることでしょう。
ただ、フォールした後に反省すべきは、奇跡を起こせなかったことではなく、下部の省エネ・レストの改善です。
<10トライぐらいで完登した、超低空のハサマリング>
ちなみに、オンサイトトライの場合は、最上部の難易度は不明です。
ただ、やることは同じで省エネしつつ高度を稼ぎます。
1つ難しいのは、行きつ戻りつでの消耗です。
省エネや成功確率の面でベストムーヴを探したいけれど、探し過ぎると消耗することも多いです。
だからこそ、戦略ゲームとしてはオンサイトトライが一層面白いです。
次にトライするルートで、最上部に何%を残せば良いのか不明なだけに、日常の省エネ技術トレーニングも終着駅がありません。
当然、そもそもの100%のレベルを上げるのが大切なので、ボルダーを頑張るのも並行したいところです。