2026年2月7日土曜日

アイスクライミングのフォーム談義

今シーズン、現時点で5日間のアイス講習を行いました。
そこで、TGさんからの熱い突っ込みにより、非常に奥深いフォーム議論がありました。

このブログは、リスク管理の話が多めですが、たまにはフォーム(良い姿勢)の話も面白いかなと思います。
<状態が悪く、私はリードで相当苦労した南沢大滝>

「アイスクライミングでは、一般的に“腰をいれる”ことが推奨されているが、腰を入れてしまったら体幹に力が入らないからダメなんじゃないか?」
というTGさんの疑問が、スタート地点です。

結構、ハイレベルな問いです。
TGさんは、ここ何年もクライミングのフォームについて当塾とは異なる場所で学ばれているので、それと反するのではないか?という話。

この話をする前に、フリークライミングの前提知識が必要です。

①一般的な初級者に対する教え

A)足を動かすときは腰を壁から離す(スタンスを見やすくする、足の移動を行いやすくする)
B)手を動かすときは腰を入れる(腰を壁に近づけることで、スタンスに体重を乗せる)

注)アイスクライミングに変換すると、Aはアイゼンでキックステップするときの姿勢、Bはアックスをスイングするときの姿勢、になります。

②典型的な“理想のフォーム”

肩を下げる、骨盤は立てる、脇は締める、胸は若干開く、背筋は伸ばす(猫背の禁止)、顎は引く、腰を落とす(足は若干のスクワット状態、棒立ちしない)

注)いわゆる、体幹部に最も力を入れやすい姿勢と考えると良いです。
体幹部はしっかりと動ける状態(いつでも力を発揮できる状態)を保ちつつ、無駄な力を抜いてリラックスした状態です。
スポーツ全般、武道や演劇、さらには高齢者の生活姿勢(膝、腰、肩、などの故障予防)にまで当てはまる、美しい姿勢という考え方です。
ただ、スポーツによって、背中を丸めた姿勢で行うもの(スキー、野球の守備、など)もあるなど、状況に応じた応用はあります。
<アイスギャラリーでリードする、TGさん>

TGさんの質問は、

①を行うと腰が反ってしまい、②の「骨盤を立てて、若干のスクワット状態」が維持できないのではないか?
結果として、上半身だけで姿勢をキープしようとしても、いまいち力が入らず、チグハグになるのではないか?

と読むことができます。
<三ツ峠の堰堤>

私の回答としては、「腰を入れたとしても、ほぼ問題なく体幹部の固定力はキープできる」となります。

※私なんかより遥かに登れるけど、暇つぶしに記事を読んでくださった方へ。
とりあえず、ジムでも岩場でも実験してみてください。
大体の人は、やれば分かると思います。

※私と同レベル以下の方へ。
申し訳ありませんが、文章で身体感覚を説明するのは困難すぎるので書きません。
詳しくは、ムーヴ講習やアイス講習を受講してください。
継続受講によってしか見えない世界ですが、絶対に理解した方が良い話だと思います。
<金ヶ窪沢の滝をリードするTGさん>

一応、この問題のまとめ。

⚫︎垂直以下のアイスであれば、何回かキックステップすれば腰を入れて、重力方向に荷重しても壊れないだけのスタンスを作れることが多い。
    ↓
⚫︎これに対して、腰を離して理想のフォームだけを追求するのは、やっぱり不合理。
パンプが最大の敵であるアイスクライミングにおいては、特にそう。
    ↓
⚫︎腰を入れることで、理想のフォームが少々崩れたとしても、やはり腰を入れて省エネ登りをしたい。
    ↓
⚫︎実際に腰を入れるとき、理想のフォームに相当近い感覚で体幹部の安定感をキープし、アックスをスイングする姿勢が存在するので、実質的に問題にはならない。

これって、クライミングで比較的良好なスタンスに乗っているときと、全く同じ話です。
何なら、5.11ぐらいまでの持久系ルートでは、ほとんどのスタンスは重力方向に加重できると思うんですよね。
(1つ前の記事の、「Cの姿勢で懸垂力をサポートするのが、私は割と得意である」という話に通じます。)

この議論と同じ構図を、もう2例。

例1)
理想のフォームだと、究極的には「腕は伸ばすな!」ってことになるんですが、一般的な初級者に対する教えだと「腕は、曲げない方が楽」となります。
典型的には、大レストしているときに保持している方の腕です。

実際、めちゃくちゃ姿勢の良いトップクライマーだって、腕を伸ばしている場面はある訳ですから、悩ましいですね。
ここの両立についても、真剣に考えてみると、かなり興味深いですよ。

例2)
「若干のスクワット状態」VS「棒立ちでの脚力の省エネ」

こういう問題は、考えれば何個も作れると思います。
考え方のヒントは、下記になります。

「理想のフォーム」 VS 「体幹部の省エネ姿勢」という構図で考えて、使い分けを説明しやすい場合もあります。
※「理想のフォームだけで登ってもは、5分でクライミングの決着が付くなら、ほとんど問題は無いのだが、実際は・・・」という考え方。

「理想のフォーム」VS 「ムーヴへの適応(このムーヴは、あえて背中は丸めた方が良い)」という風に考えた方が自然な場合もあります。

書いていても、難解だなぁと思います。
理想のフォームだけでも他のスポーツを相当やり込んだ人でないと身体感覚が難しく、私自身も「理解した」とは一生ならない予感がしています。
そんな中でも、「応用まで考えないと、クライミングでは実用的でない」、というジレンマ。

ただ、クラミングを長く楽しむ上で、フォーム問題は故障問題とも直結し、本来は避けて通れません。
もちろん、中上級者にとっては、強くなるために避けて通れません。

でも、このパズル的な難しさがクライミングの面白さで、考えるべき項目も多岐に渡るだけに一生飽きないのかな、とも思います。