2023年2月21日火曜日

ムーヴを壊す

<城ヶ崎のトップダウンのエリアにて、ユマグリ練習中のNS夫妻>

写真とは全く関係ない話で恐縮ですが、考えさせられる問題が色々あります。

ジムで、「ムーヴを壊す」ことでの完登はせずに、ひたすら設定ムーヴに拘って、トライを続ける方がいました。

※ムーヴを壊す:明らかに設定ムーヴではない登り方をすること
 典型例
・悪いホールドを保持する課題で、そのホールドを使わずに登れた。
・左右にジグザグトラバースしながら登るセクションで、直上でショートカットできた。
・ランジ課題を作ったが、足用に付けたホールドを持てる女性が居て、ランジ不要になった。
・コーディネーション課題を作ったが、リーチがある人はスタティックに届いた。
・ヒール課題を作ったが、パワフルな真っ向勝負でも乗り切れた。

細かい足位置とかは人によって違うのは当然としても、「もはや、違う課題になったね」と思うことは多々あります。
本気かどうかは別としても、ブーイングが飛ぶこともあります。
私も身長が185cmなので、ジムでは頻繁に経験する話です。

もちろん、「ルール的にオーケーな登り方ならば、どんなムーヴであれ構わない。」というのが、一般的な共通見解です。そもそも、クライミングのルールですから。

ただ、ムーヴを壊すことが常態化するデメリットも理解できます。
①悪いホールドを、心理的にも避ける癖が付きそう
②設定者に対して、心情的に申し訳ない
③ランジ、コーディネーションなどは、易しいグレードでこれを常態化すると、難しいグレードのランジ、コーディネーションに一層対応しにくくなる
(クラックをジャミングやワイド技術を使わずに登る、なども同様)

個人的には、①と②は別口で考えた方が良いと思っています。
悪いホールドはグレードを1つ上げればもはや避けられない、設定者の教育的配慮はありがたく受け取りつつ別の形で活かすことを考える、とか。

ただ、③は相当重要な問題だと思いつつ、実際には壊して登ることが多いです。
その際、「苦手克服の練習方法を、自分なりにどう工夫できるか?」が、最重要な気がしています。

私の性格なら
・超入門のランジ課題を自作して反復練習する
・なぜランジが苦手なのかを解析して、その前段階であるはずのデッドポイントの動きを研究して洗練させる
などを考えます。

ただ、「壊して登ったら、もうその課題のことは忘れて、次の課題のことだけを考える」という方も多いでしょう。
そうなると、たしかに苦手は苦手のまま温存されます。

今回のご本人は
「とりあえず(何でもアリで)完登しておき、それから練習すれば良い。とか(皆が)言っても、結局登ったら(自分も含めて)やらないじゃん。だから、嫌なの。」
という問題意識です。
その昔、めちゃくちゃ登りが雑な私の先輩が「とりあえず、グチャグチャでも完登しておいて、洗練させるのはそれからだよ。」と話していましたが、彼が丁寧に登る練習をしているのを見たことはありませんでした。

今回の方もクライミング歴15年以上でしょうから、苦手の温存ということに対しては、骨身に染みているのだと思います。
実際、バラシ(パート練習)では、ときどき設定ムーヴで成功したりしているので、全くの夢物語を狙っている訳でもありません。

心情的にも理解できますし、練習としても考えられる方法の1つだと思います。
基礎練習メニュー考案は解析力が肝だとしたら、彼の方法はストイックさと諦めの悪さが肝です。
キャリアの長い方々なら、両方を試して一方を採用したり、どちらも挫折したりの経験があるかと思います。

ただ、登れる課題を登れない様子を見るのも、周囲の人には違和感があります。
反対に、私がコーディネーション課題を壊すときも、周りからは違和感と、「いや、人によってムーヴは違って良いんです!ガンバガンバ!」という心情の両方が聞こえてくることがあります。
どっちを選択しても、クライミングが人間社会の一部であることを痛感させられます(笑)。

僕個人は、
基礎練習のメニューはめちゃくちゃ考える。しかし、「オンサイトトライは設定ムーヴに拘る」などの本気トライが不利になる自主規制は極力しない。
という結論に落ち着いています。
ボルダーでは、例外的に設定ムーヴでしばらくトライを続けることもあります。トライを重視するか、そのムーヴをこなしたいか、という気分と状況で。

最終的な結論は人によって微妙に違うとしても、「うーん、それは自分はやらないけど、分かります。そんなに変じゃないと思います。」という範疇に収まってくると思うんですよね。