2024年6月3日月曜日

スポートと山っぽい場面でのムーヴ、登り方そのもの、ビレイ、プロテクション戦略、などの考え方

7月、8月の予約受付は、6月5日(水)の21時スタートです。
念のために再掲します。

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表題で言うスポートは、ボルトルートのスポートだけでなく、ジムリード・ジムボルダーをイメージしています。
落ちるまで手を出すことが善、とされる環境です。

一方で、山っぽい環境は、沢登り、本チャン、ゲレンデ的なマルチピッチではあるがプロテクション状況などから考えて、落ちるまで突っ込まずにダメそうなら戻るべき場面、などです。

ボルトルートやクラックのショートルート(1ピッチのルート)、ボルダーでは、実際には上記2つの状況がどちらも出てくると思います。
ボルトルートではグレードの割に核心部でないと判断されるセクションにボルトが無いことが多々ある、クラックでもプロテクションが悪いセクションは多々ある、プロテクションはあっても振られ落ちなどで激突必死な場合、など。

今回は、簡潔に書くことよりも、何度も重複しながら書いていきます。
同じ話を何度も書くのも恐縮ですが、色々な角度から話すことで、ようやく伝わることもあると感じる日々です。
<掃除講習@瑞牆>

さて、まずは一般論を抑えておきましょう。

①スポートでは、原則として落ちるまで頑張るべき。
②山っぽい場面では、落ちない方が良い。特に、落ちたら絶対に大怪我or死亡につながる場面も多い。

ゆえに、スポートではダイナミックムーヴが頻出します。

山っぽい場面では、もし次のホールドが欠けたら、もし次のホールドが持てなかったら、などを考えると、ちょっとしたデッドポイントすら極力避けるべきとなります。
さらに、山っぽい場面では、戻れなくなって「行くしかない・・・」という特攻隊になることを避けるべきで、行きつ戻りつできるムーヴ選択が大原則となります。
このため、スタティックムーヴ、レストなどを学ぶことが中心となります。
では、例えば以下のような質問にどう答えますか?
「私はマルチをやりたいから、落ちる必要は無い。だから、ジムでも落ちなくて良いですよね?」

私の経験から言って、これは間違いです。
理由を、何点か挙げてみます。

●落ちるまでトライすることで、ムーヴが理解できてくる。余裕があるグレードを、山っぽい登りで極めて慎重に登る練習だけで、クライミングのムーヴを理解していくのは、ほぼ不可能。

●落ちることによって、ビレイ技術・落ちる態勢・墜落距離の予測、などが上達していく。マルチなどであっても、落ちた場合のリスクは状況によって大きく異なる。そのリスクレベルを把握した上で、どこまで慎重な行動を取るべきかを判断するべき。

●落ちることで、スポートとしての楽しみ方が実感できてくる。本気のオンサイトトライ、ボルダーで何度も落ちてムーヴを解決していく、など。これにより、ジムクライマーともセッションが可能になる。

●落ちることで、クライミングの上達がしやすくなる。結果、山のための義務的なクライミング練習が、それ自体楽しくなってくる。
別の言い方をしてみます。

「落ちないとスポートが楽しめないし、上達もしない。結果、練習が嫌になってジムから足が遠のく。また、ビレイも落ち方も、リード中のリスク予測も、全部がフワフワしてしまうので、その状態で山っぽいクライミングとか、危ない。」

落ちない人のビレイは信用できない、落ちない人のカムは信用できない、なんて言い方をする人も居ます。
<GWは、狂祖様とボルダー>

講習生などからの質問の形に落とし込んでみます。

「山では戻ってテンションなのだから、ジムでもそうして良いですよね?」
「山では落ちちゃいけないのだから、ジムでは他のホールド使ってチョンボクリップしても良いですよね?」

どう思いますか?
<この日は、野猿谷>

もちろんダメだと思うのですが、山っぽいクライミング以前に、ジムですらダメなトップローパーも多いです。

例えば、ジムでチョンボクリップをしまくっていて、R.P.トライになるとロープが足に絡んでいる人、リハーサル済みで安心していることを良いことにランナウトしている人、下部のビレイがダラダラの人、などは散見されます。

要するに、「落ちそうもなければ何やっても良いのか?」という問題があります。
<ダイアナをトライする狂祖さま>

では、「岩場でも落ちそうもない時にランナウトしちゃダメですか?」という質問があります。

例えば、クラックでは、常にどこでも落ちて良いようにプロテクションを取り、全てのセクションで固め取り推奨。
ボルトルートでは、「落ちてはいけないセクション」が存在するルートはトライせず。
マルチピッチや沢登りには行かない。
という話になります。

これも、現実的では無いです。
やはり、「落ちてはいけないセクション」なりのスタティックムーヴ、行きつ戻りつ、丁寧さを習得しつつ、なるべくカムなどのプロテクションを決めていくという判断にせざるを得ません。

スタティックムーヴ、行きつ戻りつ以外にも、
・ジャミングが効いていれば、多少身体がブレても落ちる気がしない
・チムニーなどで、多少足が滑っても落ちる気がしない
などの判断でランナウトを許容することも、クライミング界では一般的だと思います。
<インバージョン>

また、「戻れるムーヴなんて、無理じゃない?それに、自分が選択したムーヴなんて覚えられませんが。」という諦めに似た意見もあると思います。

これは、僕の講習を実際にしつこく受講していただかない限り、現実的に可能であることが伝えられないと思います。
僕は、スタティックムーヴを含む様々な基礎練習してから、本気トライを行うというのが、ジムでのルーティンです。
<動画撮影のため、落とし止めの細引きも活用>

「山をやりたいんで、ボルダリングはやらなくて良いですか?」という質問もあります。
やりたくないので、講師に「やらなくて良いですよ。」と言って欲しいだけの会話にも感じますが・・・。

当然、やった方が良いです。
ただ、取り組み方はある程度考えて、控えめに取り組んでも構いません。

ボルダリングをやった方が良い理由。

●一人でジムに行く習慣が付き、練習を継続しやすい
●リードだけやっていると、テンション癖、チョンボクリップ癖などが付きやすい人も多い。その是正になる。
●フォール姿勢、現在の高さを嫌でも考える。
●初級リードクライマーが嫌がるムーヴに対して、抵抗が減る。(距離出しデッド、ヒール、ちょっとだけランジ、などなど)
●ウォームアップなどで、スタティックムーヴの練習をゆっくり行うのは、リードでパートナーにビレイされて行うよりは、遠慮しなくて良い。ジムの混雑状況にもよるが。

一方で、たしかに難しいと思われる点もあります。

●ジムによっては、終了点付近で落ちると本当に危ない。脚力がしっかりしている人なら、足から着地できれば問題ない、ぐらいの高さ&マットの堅さに設定されていることもあり、自分の脚力や落ちる姿勢のコントロールなどをよく考える必要がある。場合によっては、「ガンバ!」と言われてもトライを諦める必要もある。

この点から、やや低いボルダリングジム(あるいは壁面)を選んだり、リードで落ちられるようになることを優先課題としてボルダリングは将来の課題とするなど、その人なりの上達過程への判断はあっても良いと思います。
特に、年配になってから山っぽいクライミングを志す方、足を怪我している方などは、考慮して良いと思います。

しかしながら、ボルダリングをやらないリードクライマーは、ムーヴ分析が荒く、ひたすら言い訳が多いという苦言は書いておきます。
<レスト日に数学書を読む人>

「山っぽいクライミングだけやりたくて、ボルトルート、クラックはやりたくないんですが、良いですよね?」

これも、実質的に議論済みですね。
ショートルート(1ピッチのルート)の方が落ちる確率が高いので、ちゃんとしたリード技術・ビレイ技術が身に着きます。
ムーヴも、よく考えます。

グレードを上げることよりも、むしろこちらが目的なのですが、グレードが上がらないとモチベーションが下がりやすいというジレンマもあります。
実際、岩場で5.10aぐらいを頑張ってやっているグループで、トライや練習がグダグダでない人達を見つける方が難しいので、せめて5.○○までは登りたいみたいな気持ちも理解できます。
<肉離れのため、最終日はトライを諦めて易しい課題で基礎練習する狂祖さま>

「山で使わないから、コーディネーションはやりたくありません。」

これは、ちょっと微妙な問題です。

メリットとして
●デッドなどの軌道が良くなるため、リード上達への寄与がある。
●転石渡渉など、原理的には易しいコーディネーションというケースは山でも存在するため、身体で理解することが役立つ場面もある。
●ジムボルダラーと一緒にトライできるため、自分は違う目標を掲げてジムに来ていたとしても、一緒に楽しめる。
などが考えられます。

ただ、デッドが全くできないことで落ちるまで頑張れない人に比べると、遥かに傷は浅いように思います。

経験上は、「〇〇に関する練習は、やりたく無い。」などと頭が固くなるとどんどん年寄り臭くなっていくので、なるべく嫌がらない方が良いです。
一方で、ある程度のレベルまでは、練習への優先順位は下げても良いかなと思います。
<これは、ちょっと基礎練習の範疇を超えているような(笑)>

「デッドは嫌いなんで、練習しなくて良いですよね?」

前述の通り、山屋にとってもコーディネーションよりは不味い弱点だと思います。
<本日は、一人で野猿谷>

「岩場のボルダリングまでは、手を出さなくて良いですよね?」

本当はやった方が良いとは思います。
テンション癖、他のホールドでのチョンボクリップ癖、トップロープリハーサル癖、などが全て使えない環境です。
マットを使ってもジムよりは下地が悪いケースが多いので、嫌でも着地姿勢も考えます。
また、落ちてはいけないセクションも多く、山っぽいクライミングと大差ないと感じる場面も多いです。

山でのクライミングを学ぶ上で、ムーヴ面に関しては最善の練習環境とすら思えます。
また、スポートとしてクライミングを上達する(雑に言うとグレードを上げる)ためには、ボルダリングが最も効果的です。

一方で、マルチピッチや沢登りを楽しみたい初心者にとって、あまりにも遠い遊び方に感じてしまう気持ちも理解できます。
それに、岩場の8級って結構難しいです。

これらから、初級者が練習方法として優先順位を下げるという選択肢はあると思います。
「本当はやった方が良いけど、まだ今は良いかな。」ぐらいの話なら、頭が固い人にならずに済みます。
<この課題を、レイダウンスタートで遊んだ>

こういう話って、クライミングに後ろ向きになっている人には、いくら話しても追い詰めるだけです。

本当はやった方が良いことに対して、
「〇〇しなくても良いですよね?」
と聞いてくる時点で、私は厳しいことを言うか、嘘を付くかの2択を迫られます。
経験上、ボカしてスルーすると、変な勘違いを生むので、最近は「今の時点で完璧にやれとは言わないけど、本来はこうですよね。」と言う話し方にしています。

山のために、半ば義務的にクライミングを始めるというケースは数多いと思いますし、私も学生時代はそうでした。
そういう人間が、こういったことを達観するまでに、どれぐらいの時間が必要なのでしょうか?

もちろん、時間だけではダメです。
「練習してみてメリットを実感できた。」という積み重ねが無ければ、経験を積んだとは言えないからです。

真面目にやって、何年ですかね。
途中に嫌気がさしたり、サボったり、逆行した悪癖が付く時期を勘案すると、何年ですかね。
<野猿谷も、場所によっては綺麗です>

一人でも多くの方に、私なりの考え方が伝われば幸いです。

一方で、ムーヴ講習とか落ちる練習とかに参加していただかないと、実際には身に付かないとも思います。
文章で観念的なことだけを学んでも、メリットを実感できないと経験は積めないと思うのです。
<もはやハイボール?まずは下降路を登りクライムダウンし、次いで上部が易しい課題だけを選んで登った。>

<滝>

<こちらは、トポに無いクラック。5トライぐらいで完登。>

<たまたま、一人で登りに来ていた講習生と遭遇>