2025年2月19日水曜日

ジムでの練習時間の使い方

講習生には、色々な人がいます。

A)山から入って、なかなかクライミングの練習に馴染めない人。
僕も学生時代はそうでした。

B)クライミングの本気トライは楽しいが、基礎練習は続かない人。
基礎練習は講習のときだけしか行っていない、という事実に気付いていない人もいます。

C)ジムに行って、基礎練習ばかりを行いたがる人。
易しいルートなどで、スタティック縛りで登る、姿勢を意識する、特定のテクニックを意識する、などなど。

さて、今回はCの人のお話。
Cの人は、非常に真面目だとは思う反面、実際にはジムに通えなくなります。

理由
・ジムの常連さん、スタッフとは全く話が合わない。
「〇〇ルート、登れましたー!」、「あそこのムーヴが分からないんだけどー。」、「あそこが、△△でムズイよねー。」と言った会話が成り立ちません。

・一人での基礎練習は、飽きる。
講習後、数回の自主練習は、色々と意識することもあるでしょう。
しかし、それは徐々に失われ、「自分でやっていても上達を感じないし、面白くない。」という状況に早々に直面します。
もし、飽きない人がいたら、反省点抽出の天才でしょう。

結果として、CはBよりも登れるようになりません。
というか、ジムに来る頻度が上がらなくなります。
(そのため、「最初は、とにかくジムに通いまくれ。初心者は、練習の質よりも量だ!」というジムスタッフからの一般的な教えは、真実味があります。)

また、極端にBに寄っている人は、経済的・時間的に問題ないとしても講習には通常来ません。
本気トライ、常連さん同士のセッション、などだけで上達したいので。
(「練習量が最重要」という時期をとっくに越えているため、一番講習に来た方が良さそうに見えますが・・・。)

もちろん、Cの人も、ほとんどはクライミングを辞めてしまうのですが、一部に講習に残る人がおります。
それは、自主練習をほとんどせずに、講習だけに通う(登山には自分で通っていたりする)という人です。

「毎回の練習に、お金が掛かって大変じゃない?」、「(石田さんところの)自立したクライマーと反しない?」などの一般の方々からの目は重々承知ですが、私はなるべく諦めないで欲しいとも考えています。

例えば。
①登山の岩場通過などに役立つ練習としては、月2回程度の講習だけでも、数年続ければ相当なレベルになる。
くれぐれも、その練習量でバリエーションとかに欲を出さないで欲しい。

②クライミングの動きの原理原則が分かってきたら、いつか化けるかもしれない。
自分でジムに通って、基礎練習と本気トライを半々の時間だけ行う、という理想的な取り組みになっていく可能性もある。
そうなってきたら、リード、登山におけるクライミングなど、僕が本当に教えたいことを教えたいとも思う。

③老化対策の姿勢教室として、スタティック練習、フォーム練習は、効果がある。
これは、講習ならではの話です。
私自身も、これはすごく役立っています。
<今回とは、ほぼ無関係な挿絵的写真ですが>

さて、そんなCの方々にも、私は懲りずに一人でジムに通うことをオススメしています。
そんな方々の何名かに、昨夜作ったメールのご紹介します。

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●基礎練習は、一人で行うとどうしても飽きるので、いくつかのルールを決めて行う。

①最初の15分ぐらいは、「とにかく丁寧に」ぐらいの大雑把な意識で良い。
段々と身体が動いてくるに従って、講習ノートを見返したりして、色々と意識的に試してみると良い。
むしろ、最初から色々と意識し過ぎると、ロボットのような硬い動きになってしまう。(どんなスポーツでも講習生が陥りやすい姿)

②飽きないように、色々な壁の1番ないし2番目に易しいルートを、順繰りに行う。
次のホールドを追いかけることで、ついつい意識するのを忘れてしまったり、ホールドの形状で色々と考えさせられたりするので、練習の刺激になる。
手足限定だと、基礎練習には難しすぎると感じる場合は、足自由で練習しても良い。
飽きないならば、同じルートを何回か登っても良い。

③それでも飽きてくるので、ジムに滞在する時間の後半は「一般的なクライミングのゲーム(自分が登れるか登れないかギリギリ、ぐらいのルートのクリアを目指す)」を楽しむ。
基礎練習よりは難しめのルートにトライすることが可能。動きがグチャグチャになったとしても、突破できればオーケーなので。
そのため、トライできるルートの数は相当広がる。
とはいえ、グチャグチャの場面が多すぎると、さすがに疲れて上まで登れないので、色々と作戦を考えることが、クライミングのゲーム性の1つ。
1回目で登れなかったルートでも、反省点が見つかったり、ホールドを暗記することで2回目、3回目と繰り返しのトライで登れることもある。
一般的には、基礎練習よりも腕が疲れるため、1トライごとに座って休憩し、反省点や作戦を考える。

上記の流れで、疲れて③「一般的なクライミングのゲーム」が楽しめなくなったら帰宅、というのが一般的な流れです。
これは、オートビレイでもボルダリングでも同じです。

時間は、1時間でも3時間でも、休みの日にそれ以上滞在しても構いません。
ご自身の生活リズムの中で、行ってください。

ジムの一般的な常連さんだと、特に何も意識しないウォームアップと③「一般的なクライミングのゲーム」のみを行っている人が多いです。

それでも自主練習が難しければ、とりあえずは講習だけは続けてみましょう。
クライミングの動きが理解できてくれば、一人でも楽しめる日が来ると思いますので。

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改めて読み返すと、ブログよりも平易な言葉ですね。
普段のブログは、どうしても講習生の上位クラスの面々、感想をくれる知人をイメージして書いてしまうので、どんどん専門的になってしまいますね。

2025年2月17日月曜日

熱くなりすぎない

クライミングは、メンタルへの負荷が結構高いと思います。

・本気トライで、登れると思ったのに登れなかったとき。
・パートナーが、同じ課題をトライして、自分より先に完登したとき。
・リスク管理に関してディスカッションをしたけれど、上手く伝えられずに若干の険悪な雰囲気になったとき。
・自分の能力の低さ(〇〇が出来なさすぎる、など)を痛感させられたとき。
・最近練習を始めたことが、全く本番で活かされなかったとき。
・自分のリスク管理方法に誤りがあると、認めざるを得ないとき。
・自分の練習習慣に誤りがあると、認めざるを得ないとき。

これらは、ほとんどの人にとって嫌な場面だと思います。
実際、不機嫌になる人、これが嫌で真面目に練習しない人、一応本気でやっている風なんだけど悔しがることや反省点の抽出を思考放棄気味な人、など様々な人がいます。

人によっては、もっと些細な点でイライラしたり、落ち込んだりしています。
また、経験が浅いうちは、経験や技術を評価する尺度がグレードしかないため、グレードに振り回されることもあります。

・ホームジムのグレードが辛くなって、自分が退化した気分になる。
・グレードが辛めのジム、岩場に行って、自分でも理由がよく分からないぐらい落ち込む。
・自分が苦労して完登したルートを、周りの人が「グレード甘めだね。」とコメントしたことに怒ってしまう。
・「このルートが、いかに自分が不利か!(例えば、リーチ)」を力説しているところ、「でも、こういう要素も考慮すると、そうでもないんじゃない?」などと反対意見を言われて怒ってしまう。

また、スポーツ的な要素も見過ごせません。
・パートナーや同時期に始めた仲間の成長速度に付いていけない。
・成長どころか老化を感じる。


さて、これらの問題に対して、どう取り組むべきでしょうか?
まず、問題を3つに分類します。

①「スポーツの厳しさ」への心構え
・競争心の負の側面
・老化
・練習不足、的を得ない練習方法による、後々の成績不振
・体調不良とリハビリ期間
・成績への一喜一憂

②「リスク管理の厳しさ」への心構え
・自分は出来たつもり、によるツケが回る現象
・他人から指摘される不快感
・ディスカッションの難しさ(お互いに、ある程度の言語化能力がないとモヤモヤして終わる)
・勉強不足の後ろめたさ
・事故当事者パーティになったときの強烈な自責の念

③「人間関係の難しさ」への心構え
・同性パーティのデメリット、異性パーティのデメリット
・上下関係のデメリット(上は下をコントロール下に置きたがる、下は上に依存する、など)
・イコールパートナーの難しさ(過剰な競争心を制御する必要性、平和的にディスカッションする能力の必要性)
・パートナーへの過剰な期待
・練習方法、トライへの姿勢、リスク管理を指摘したが、ディスカッションが上手くいかなかったことによる人間関係の綻び

僕自身を振り返ると、①、②、③全てを登山とクライミングを通して学びました。
ある程度、落ち着いた考え方に至るまで10年以上は掛かったと思います。
同じ構図の不快感を2〜3回ずつぐらいは味わった結果、「こういうもんなんだな。」と諦めが付いたのかもしれません。

そして、講習生が落ち込んだり、仲違いする様を見てきて、さらに理解を深めています・・・。
一体、何周回っているんでしょうね?

また、講習生の場合、30〜50代でクライミングを始めるパターンが多いため、元々の人生経験にも左右されるように思います。

例えば、他のスポーツを真剣にやっていた人であれば、①だけは嫌と言うとほど経験あり、チームスポーツなら③もある程度は分かっているとか。
講習生には、医者、弁護士、エンジニア、などがおりますが、こういった方々は、②に対する心構えは良いようにも思えます。
他にも、仕事柄③は得意という人もいるように思います。

さて、「自分自身の精神的ダメージを減らすにはどうしたら良いか?」という、最も本質的な問題はどうしましょう?

A)俯瞰する
   上述の、どの状況にあたるのか?
   問題の改善点を提案する意識。(「悩むより考えろ」というイメージ)

B)極力、自責思考にする
   他責思考に陥ると、その場は自責の念が薄まるため、防衛反応として考えがち。
   しかし、そのツケはいずれ回ってくる。

C)同じ構図の不快感は、いつか再び訪れると覚悟しておく
   本気トライで、取りこぼす時などは、日常茶飯事。(そもそも、成功率20〜80%ぐらいだから本気トライなのです。)
   イコールパートナーとディスカッション失敗して微妙な空気になる時もある。
   心の準備がない突発的な不快感に対しては「一人になって頭を冷やす」ぐらいしか対策が難しいように思います。

こうやって抽象化すると、なんとも当たり前なのですが、その場になると結構難しいものです。しかも、一度不快になると、他人の些細な行動・言動にまでイライラしてしまうという悪循環もあります。

真面目にやるからこそ嫌な思いをするものです。
その気持ちは痛いほど分かるので、「いい加減にやれば良いや」という投げやりにはならないで欲しいものだと思います。

「スポーツ選手が小中学生の頃に味わうような挫折やメンタルコントロール体験を、我々は大人になってから味わっている。」
と考えれば良いかもしれません。

2025年2月11日火曜日

フリークライミングの端から端

講習では、岩場でのムーヴ練習は極力ボルダリングで行うことにしています。
これは、岩場リード講習、クラックリード講習、アドバンスクラック講習、アイス講習など、全てに一貫した考え方です。
<ボルダーでの基礎練習>

メリット
①落ちたらどうなるかを想定しながらムーヴを行う習慣付け

トップローパーの人に、「落ちたらどうなるかを意識して、どんな行動をするかを判断せよ。」と言うと「(トライ中は)そんな余裕が無いから無理。むしろ反対に、なるべく怖いとか考えないようにして登っている。」みたいな発言をします。

落ちた場合の状況は大きく分けて下記の3パターンがあり、それに応じて「落ちるかもしれないムーヴを繰り出すか、戻れないムーヴを許容するか、ちょっと欠けそうなホールドを許容するか」などの総合的な判断を行います。

A)落ちても、ほとんど怪我をする可能性が無い。
B)気を付けて落ちれば大丈夫(高さ、下地に若干の不安要素があるが、自ら飛び降りるぐらいの余裕があれば問題ない)
C)落ちたら事故(事故の重大性に対して、Cを2〜3段階に分けることも可)

さらに、講習では同じボルダーで何回も繰り返しムーヴ練習を行い、さらに私から「もっとこうやった方が良いムーヴ習慣になりますよ。」という指摘も繰り返します。

結果的に、10回以上も同じボルダーを登ったり、クライムダウンしたり、トラバースしたりするため、「ちょっとリスクを感じたけど、通過できちゃったから、もうやらなくて良いよね?」みたいな登りを、最小化していきます。
「同じ場面を100回やっても、そんなにストレスが無い。」というリスクレベルで、クライミングを楽しめるようになって欲しいと考えています。

そのリスクレベルで行動する習慣こそが、リードクライミングにおける最も基礎的な考え方であると私は感じています。
<今回でクラックリード講習を卒業にした、HGさん>

②圧倒的な練習回数
トップロープでの練習に比べて、交代などの手間が無いため、練習量が増えます。

<湯河原でのムーヴ練習>

③難しいルートをトップロープで触りたがる悪癖からの脱却
「ボルダリングorリードしか選択肢が無い。」という環境こそが、まともなリードクライマーを育てると考えています。

そういう意味では、もはやそういうレベルに越えた講習生であれば、トップロープをしても構わないはずです。
しかし、人間は弱いものなので、すぐに悪い習慣へと流れるものだと思っています。

そこで、「完登済みのルートで納得いかなかったムーヴ検証&反復練習」といった、ごく一部の条件下でのみ、トップロープ練習を行うことにしています。

このあたりの考え方が理解できるまでには、それなりに時間と心構えが必要なので、岩場リード講習やクラックリード講習では、原則トップロープでの反復練習は行わないようにしております。
アドバンスクラック講習では、その条件下でのトップロープ練習を行います。
<アドバンスクラック講習で、FIXロープの張り方、ユマグリの練習>

そんな訳で地上50cmとかで、そもそも突破できる箇所を「より良いムーヴへと洗練させる」練習を徹底的に行います。

この地味さが、クライミングの一つの端っこであると思います。

ホールディング・姿勢・足置き・ムーヴ選択(手足の位置関係)の考え方といった、ジムでのムーヴ講習と同様の内容を、岩場で行います。
そこで、安定して登る必要性に対し、理解を深めて欲しいと思います。
<FIXの練習中>

一方で、クライミングは総合的な遊びであり、それ自体を楽しんで欲しいと考えております。

岩場リード講習であれば、トップアウトできなかった場合のヌンチャク回収(敗退ビナ残置、クライムダウン回収、裏から回り込んで懸垂下降)といった作業や、それに伴うプランニングも大切です。
クラックリード講習であれば、エイドダウン敗退。
残置無視・トポ無視のマルチピッチ講習であれば、そもそも敗退プランを練りながら登ることが、楽しみの1つと言えます。

自立したクライマーを目指す上で、総合力が問われる場面です。

こういった総合力を他人に依存したり、トップロープやチョンボ棒に頼っているようでは、何とも寂しいものです。
<アドバンスクラック講習にて、城ヶ崎の懸垂エリア「ばったり」>

その意味では、城ヶ崎もなかなか良い練習場です。

今回のアドバンスクラック講習では、エリアを私が指定し、トポも見せずにFIXを張ってもらいます。
(そもそも、100岩場とか魅惑のトラッドには載っていない。)
どこのテラスからスタートするか、どのルートで遊ぶかも、自分たちで決めてもらいます。

ほとんど開拓と同じ作業で、この手の能力が、もう一つのクライミングの端だと思います。
<ビレイ点もカムで作成>

プロテクション、難易度、脆さ、などを勘案し、ルートを決めます。
スタート地点となるテラスを選び、2人ともO.S.、フラッシュを成功。
これも、なかなか良いトライでした。

そこから、日暮れまでの残り時間を勘案し、もう1本の候補ルートをトライするかを相談。
かなり厳しいと判断して、完登済みのルートでワイドパートのトップロープ反復練習を選択されていました。

そして、夕暮れ前に予定通りユマグリして、荷上げ。
暗くなった遊歩道を帰る、という流れです。

細かい指摘(リスク管理、作業効率、ムーヴ、など)は色々としましたが、大筋の流れは自分たちでコントロールできており、2人とも大したものだと感心しました。
<オンサイトするHSさん>

「残置も何も無いエリアで、オンサイトグラウンドアップで普通に楽しむ。」という総合的な遊びに至る過程も、結局は基礎が大切だと思います。
(トップダウンのエリアなので、下降中に浮き石除去とかでルートは多少触ってしまいますし、軽くオブザベも出来ちゃいますが。)

「人気ルートだから安全」とか、「グレードが〇〇だから安全」とか、そういうフワフワした感覚は、早く捨てましょう。

「こういうルールを自分に課して登っていれば、初登攀だろうが難しいルートだろうが、許容リスク範囲内でトライ・敗退をする判断ができるはずだ。」
という自信を身に付けていただきたいものです。

今回は、2つの端についてお話ししました。

ある程度整備されたショートルートの本気オンサイトトライ、というのが丁度中間ぐらいかなと思っています。
「ボルトルート、クラックの〇〇っていうルートを本気オンサイトトライする。」など。

講習では、両方の端を丁寧に扱うことが大切な気がしています。

どうしても、自分が主にやっているものだけを「クライミングって(山って)、こういうもんでしょ。」と語りがちになるし、それが成長を疎外することにもなります。
全体を見渡して、「今は〇〇が特に重視される場面だな」という感覚で行動できるようになると、クライミングや登山がもっと楽しく上達できるのではないでしょうか。

<ISさんもフラッシュ成功>

<完登済みのルートでの、トップロープ練習。石田によるムーヴ解説。>

<夕方の登り返し>

2025年2月5日水曜日

4月分の予約受付

2月10日(月)の夜22時より、4月分の予約受付を開始いたします。
開始時間が、普段と異なります。

講習場所は、定期講習では暫定的にDボル立川を表示してありますが、ランナウト、ストーンマジックでも対応可能です。
1人目に申し込んだ方の希望に合わせたいと考えておりますが、こちらで調整する場合もあります。
また、私のジム使用料を負担していただければ、ベースキャンプ入間、モリパークウォール&スタジオ、などのジムへは出張可能です。

4月の主な講習場所
岩場リード講習:天王岩、など
クラックリード講習:兜岩、など
マルチピッチリード講習:奥多摩、三ツ峠、など

気候が許せば、小川山・瑞牆などの標高の高い岩場にも行く予定です。

では、どうぞよろしくお願いします。