2022年6月13日月曜日

ヒヤリハットから学ぶ難しさ

GWツアー終盤は、5月5日(木)、6日(金)で、京都笠置。
最近、ボルダーにハマっているという狂祖さまに案内していただいて。
<1日目の偵察>

1日目はレスト日がてら偵察、2日目にちゃんと登るという計画です。
このとき、一緒に行った2人に反省すべき出来事がありました。
ともに、2日目のこと。

1件目は、カメチヨ。
朝イチで登った課題で、下降路の確認をしておらず、ボルダーの上で降りられなくなるという事態に。
この課題は、1mちょっと登ったところまでで核心終了。後は、易しいスラブを数歩登ると、ガバを取って岩の上に立てるというものです。
で、この岩では、この課題が最も易しく、かつ裏から歩いて降りられるようなラインもありません。

僕も、この課題は少し前に登っていました。ただ、そういう課題だと思って取り付いたので、最後の数歩はクライムダウンできるムーヴで登り、完登してから降りられるところまで降りて(そのムーヴを逆再生して)、1mほど飛び降りました。

その後、カメチヨは岩の上で途方に暮れつつ、30分以上経った頃に、ようやく数歩のクライムダウンムーヴを成功させ、飛び降りました。
高さ数mの岩なので、その気になれば何かしらの救助も可能な気はしましたが、自力解決できて何よりでした。

そして、「〇〇さんとかと一緒に来てたら、めちゃくちゃ怒られて、馬鹿にされまくったのは間違いない。」みたいな雑談混じりの反省会。
高さが低い岩だったのと、最近トライしている多くのボルダーが裏から回れるので油断したのでしょうね。
<転がる狂祖さま>

2件目は、狂祖さま。

1つ目の動画の落ち方も、やや無用心気味ですが、これぐらいは時々やってしまうのも分かります。
2つ目、その課題の完登動画。こちらが問題です。
マントル直後、本人が予期しない形で足がスリップしたため、「こえっ!死んだと思った今。」と解説しています。
おそらく、ここで予期しない形でコントロールできない落ち方をしていたら、マット外に落ちるでしょうし、態勢も悪くなって怪我していた可能性もあります。
僕とカメチヨも、ドキッとしたことが音声からも伝わってきます。

しかし、その直後、完登を確信した途端に、大喜びへと変わります。

あそこは、警戒してトライをやめるべきだったのか、足のスリップは許されないという覚悟を持って慎重に登るべきだったのか、行きつ戻りつできるムーヴでのみ進むべきだったのか、足がスリップした場合のフォール姿勢やマット位置を考慮して突っ込むべきだったのか、反省はシンプルではありません。

しかし、それ以前に「喉元すぎれば熱さ忘れる」という人間心理を、奇しくも見事に捉えた動画になってしまいました(笑)。
<同じ課題を登る私>

この人間心理、自分の過去と照らし合わせるまでもなく、日常的に見かけます。

・危うい手繰り落ちしたら、本来はクリップ中止の判断を誤ったという話なのに、「次は〇〇すれば登れそう。」といったR.P.への道のりにフォーカスしてしまう。「さっきはパンプしていただけだ。パンプさえしなければ、手繰り落ちしない。」という別のルートに活きない言葉を口に出す人もいます。

・ロープをかなり危うく足に絡ませて登ったのに、「やったー!」と喜んでいる人には、誰も注意しづらく、本人もすっかり忘れている。

・クリップ忘れして注意されてどうにか事なきを得て、それから次のムーヴでテンションが入ると、トライ終了後もテンションしたムーヴの検討会をしてしまう。

・カムが抜けて、グランドすれすれまで落ちた上、落ちなければもう数歩上がるつもりだった(つまり、もう数歩上がってから落ちていたらグランドだった)パーティが、「やっぱクラックって怖いね。」と一言二言交わしただけで、落ちたムーヴの検討会をしてしまう。
(プロテクションセット技術の見直しとか、固め取りをサボったことへの反省とかは、無い。)

あえて挙げませんが、山でこそ、ちょっと危ない目にあったけど登頂(登攀、遡行)を完遂できたから「やったー!」みたいな話は、際限なく出てくるでしょう。
<オマケで、狂祖さまの勇姿>

少し俯瞰して、ヒヤリハットから学ぶ難しさの要素は何でしょうか?
講習で、そんな話ばかりをしているので、講習生のつまづきポイントを並べてみます。

①そもそも指摘されないと、それが危険なことに気付けないこともある。

②気付いても、喉元すぎれば熱さ忘れる。

③「もう登れたんだから良いじゃん。」、「次のトライで登れそうだから、そんな細かい話は良いじゃん。」といった、思考に陥る。
クライミングは、登れた登れないがルールとして明確なのが良いところでもあるが、それしか見ないという浅はかさも生み出す傾向がある。
→講習生には、このタイプは少ない。それ以外の登山者・クライマーに、よく見かける。

④「こんなことを繰り返していたら、確率問題で事故る!」という問題意識まで至ったとしても、的を得た分析をして、次のルート、似た状況に活かすことが難しい。
初級者の場合、メンター的な存在がいないと現実的には困難。

⑤誰かを責める議論、あるいは責められている気分になりやすく、あまり突っ込んだことを言わない方が、人間関係に傷が付かない。
この数日前に、僕自身が足を切株に打ちつけたという反省がありました。
日々ヒヤリハットだらけで大丈夫なのかと不安にもなりますが、細かいことを気にしまくればこそ今日まで生き延びている部分もあり、何とも言えません。

完登を本気で目指しつつも、リスクを学んだり、故障しにくい登り方を学んだり、ムーヴを考えたり、本気トライの心構えを学んだり。
実際、完登はオマケなのかもしれません。
<偵察中>

●追記
数日後、狂祖さまは反省を活かし、この課題を考えうる限り安全に再登し、色々なことを噛み締めたそうな。
午後から雨になりそうな日に、一人で向かったというから、さすがですねー。
<クラシックな河原エリアも見に行く>

<顕著なクラック>

<シットダウンしないと意味がないくらい短い4番サイズ>

<レスト日じゃないときにトライしてみたいのがゴロゴロ>

<傾斜の寝たハンドクラックくらいは、登っておきます>

<2日目の本気トライ(スラブ)>

<諦めて自らフォール。その後、完登しました。>