2023年1月24日火曜日

リードが得意、とは何か?

リードが上手くなりたいと思ったとき、フィジカル向上やムーヴ習得を考えると、ボルダーをやるべきなのは、一般的だと思います。
ハングドッグでムーヴ練習をする、というのが非常に効率が悪いため、「リードではムーヴ上達を期待するのではなく、その他の上達のためにリードを練習する」と割り切る方が良い、と思います。
(練習うんぬんではなく、単純にハングドッグしているルートをR.P.するため、という欲の話は一旦脇に置きます。)

では、その他が上達しまくった「リードが得意な人」とは、どういう状況なのでしょう?

一般的には、
・レストが得意
・持久力がある
・土壇場の頑張り、じっくり丁寧に登る慎重さ、などの駆け引きが上手い
・リードでのフォールに慣れている
などが挙げられます。

そして、これらはリードを練習する場合の目標になります。
ただ、目標とするには、あまりにもフンワリした概念ばかりで、練習に行き詰まりそうです。

練習に行き詰まると、闇雲に登れそうな課題をR.P.して塗りつぶしていく作業だけしかしなくなります。
それでも、少しずつは伸びるのですが、しっかり考えた方が弱点に対して網羅的に練習できるはずです。

そこで、目標を幾つかにブロック分けしてみます。

①完登率
仮に、同じボルダー能力の2人が居て、1人がリードが得意な場合、リードの完登率には大きな違いが出るはずです。
・O.S.率の違い
・R.P.までのトライ数の違い
・R.P.できる最高難度の違い

これについては、以下の例で考えます。
「ジムボルダー4級が50%一撃できて、3級がコンスタントに1デイで登れる人が、リードが得意になったと仮定すると、どこまでグレードを伸ばせる可能性があるか?」

まず、この人は核心部3級以上のルートをO.S.することは、ほぼ不可能です。
同様に、核心部2級以上のルートをR.P.することも、ほぼ不可能です。(めちゃくちゃ通う、という話は一旦置いておきます。)

・スラブ、凹角など、大レストできるタイプ
⇨4級が核心部のルートでも、直前が大レスト可能ならO.S.率が30%。
 5級が核心部のルートなら、90%以上のO.S.率。
 1〜2日間でのR.P.では、3級が核心部のルートがコンスタントに登れる限界。

・120°以上のハング
⇨4級が核心部のルートは、ごく稀にO.S.可能。
 5級が核心部のルートは、70〜80%を目指せる可能性あり。
 1〜2日のR.P.では、4級が核心部のルートがコンスタントに登れる限界。(例外的に、核心部3級が登れる場合もある)

これが、目指すべき最終形だと思います。
(上記の例で2級が核心部のルートを、死ぬほどハングドッグを繰り返してR.P.するというミラクルも存在し得ますが、今回の「リードが得意になる」という主題とは異なります。)

逆に言えば、ここに漸近してきた人は、リード技術の伸びしろが非常に小さい状態です。
練習の比率を、ボルダー主体にすることを一考すべきでしょう。

②リスク管理
・ビレイ(下部での際どいフォールに対応できる、ロープの弛みが絶妙、立ち位置の工夫が良い、自分より登れる人に対してもムーヴやクリップ態勢の予測をしている、など)
・手繰り落ちの可能性が低いクリップ態勢を作ること
・全般的に、安定感のあるムーヴであり、岩場でも安心したトライができそうなこと(これを意識的に練習しているクライマーは、超少数。最近は、プリクリやTRリハーサルが当然のようになってきたのも、ここに一因があるように思います。
・フォールに対する慣れ(フォール姿勢の上手さ、フォール距離の予測、ロープと身体との位置関係、などへの予測。ジムの場合、オブザベの段階で、かなりの精度で予測できるはず。)

③その他
・ビレイのロープを絡ませない
・ハングドッグの作法
などなど

で、①〜③に関して、何を伸ばしたいかを考えて、自分でメニューを組みます。
本気トライをすべきなのか、何かしらのメニューを行うべきなのかは、コーチが居ない限り自分で考える必要があります。

最後に、僕自身への当てはめ。
①で目指すべき最終形に相当漸近しているかもと感じつつも、まだまだ細かい伸びしろは感じています。グレードを上げるという観点では遠回りでも、①を意識することの価値はありそうです。

②は、「自分は安全だ。と思ったら、それがリスクの始まり。」という恐ろしいジレンマがあるので、生涯に渡って追求を止めることができない分野です。幸い、講習などでディスカッションする機会に恵まれているので、考える機会は豊富そうです。

③は、ジムではメインの練習内容では無いですが、作業形のクライミングでは意識しまくることになるので、常に心の片隅に置くべし、という感じです。

これって、ボルダーをやるからこそ、①〜③が相対化されて見えてくるという話でもあります。
講習生の皆さんは、とりあえずボルダーを楽しめないところからの脱却が第一歩でしょうか。