先日、講習生から
「パートナーが登れなくて、自分が登れたりすると、露骨に機嫌が悪くなって困るんです。どうにかなりませんか?」
という質問をされました。
まぁ、ショートルートでのクライミングあるあるですよね。
もはや、登山やクライミングの技術論・スタイル論ではなく、個人のメンタルの話で、私が講習生より詳しいかどうかも定かではない議題です。
しかしながら、自身の経験から思うところもありますので、少し挙げてみましょう。
登れなかったときに、本来考えるべきこと
A.決めきれない場合
O.S.やR.P.トライで決めきれなかった場合(1〜数回テンションすれば、ムーヴは全てできた)
→ 途中の省エネ、レスト、ヨレヨレになってからの土壇場の頑張り、様々な意味での戦略に改善の余地はあったか?
→あったとすれば、それが出来なかったのは何故か?
(純粋に、思い付かなかった。トライ前からして、心構えがイマイチ。精神的にアップアップになって、冷静さが無かった。など)
B.ムーヴ、クリップ態勢ができない、繋げられそうな気配がなく近日中のR.P.が見えない場合
それでもハングドッグして、改善案を身体で実験していく。or一旦、封印する。
C.安全上に、問題があると感じた場合
クリップ態勢が危なっかしい。
ロワーダウン中に確認したら、カムが効いておらず、肝を冷やした。
落ちてはいけないセクションで、安定したムーヴが作れない。
→そのルートをトライし続けるか?基礎を見直すために、何から練習し直すべきか?
D.ムーヴはできて、R.P.の可能性が見える場合
ホールド、ムーヴの要点、カムを決める場所や態勢、などの暗記。
次に、週末クライマーを例として、再訪までに何をすべきか?を考えます。
①翌週に再訪すべきか、一旦封印して、他のルートで基礎を学ぶべきか?
封印=逃げ、という思い込みも良くない。
一方で、十分にR.P.態勢なのに、トライ前のプレッシャーが嫌で逃げてしまうのも良くない。
このあたりのサジ加減も、試行錯誤が必要。
②再訪までに、何を練習しておくべきか?
・ストレッチ、走り込み、クライミングの補助的トレーニングなどのフィジカル面
・足置き、ムーヴの丁寧さ、フォーム、スタティックなどの基礎技術面
・オブザベ(こういうホールドの配置だから、こうするのが良いんじゃないか?という仮説立案能力)
・ジムで、似たムーヴを再現して、色々と実験してみること
講習で初級者を見ていると、
「ハングドッグで何故かパニック気味で、非合理な行動を連発してしまうので、まずはこれを直した方が良い。」
などということも多いです。
これらを総合的に考えて、再訪は来週末なのか、1ヶ月後なのか、来シーズンなのかを検討します。
パートナーが登れた場合の心理
A.ポジティブな反省
パートナーの優れた点から、自分のトレーニングに活かすべき点を考える。
特に、前述の「②再訪までに、何をトレーニングしておくべきか?」への検討材料になる。
B.嫉妬心
・パートナーが、自分より登れないと思っていた場合など、特に発生しやすい。
・男女パーティで、男性の方が筋力も強く、ロープワークなどのリスク管理も主導していて、女性が連れられ気味だったケースなどが典型。クライミングは、丁寧さ・冷静さ・柔軟性などが重要なスポーツなので、女性の方がO.S.やR.P.を決めることも、しばしば。
・男性同士で同レベルのパートナーが苦手というのも、競争心や嫉妬心が顕在化するのを恐れての行動。実際、冬山や本チャン系の山行では、リスク因子として無視できない。
C.不甲斐なさ
自分がダメなだけで、その課題が超難しい訳ではない、という事実が突きつけられる。
例えば、自分が5.10bを登れないとして、「もしかしたら激辛で5.11a相当のものを頑張っている自分エライかも。仮に、もう諦めたとしても、自分のメンタルがゴミな訳じゃないよね?」という言い訳を、自分自身に対して行っている。これが、パートナーが登れたことによって、「辛めかもしれないけど、まぁこんなもんだよ。」という事実が再確認される。
ベテランの心理
ベテランであっても、嫉妬心や不甲斐なさは感じているはずです。
ただ、いくつかの点から、それが緩和される傾向にあります。
①似た場面に何十回も遭遇しているため、自分の心理を俯瞰して見ることに慣れている。
②本来考えるべきことを、考察する能力が高い。
(初級者は、考察する能力が低いために、とりあえず再訪する、という判断に偏る。)
逆に言えば、経験が浅いうちは、
「いくらでも改善すべき点があるにも関わらず、考えても仕方ない嫉妬心や不甲斐なさに脳みそのリソースを割いてしまう。」
というジレンマがあります。
私自身を例にとっても、登山やクライミングを始めて10年未満の頃(例えば、20代中盤くらいの頃)と現在では、明かにベテランの心理に近づいていると感じます。
もちろん、加齢による競争心そのものの低下もあるでしょうが、多くの講習生が私より年齢が上でも嫉妬心や不甲斐なさに苦しんでいるのを見ているのも、興味深いです。
同様に、個人の性格によっても、そもそも嫉妬心を感じにくい人もいるようです。
登山やクライミングを通して、これが実現できれば一番良いとは思いますが、なかなか難しいですよね。
広く見れば、「本気で何かの趣味を目指すことで、煩悩を1つ減らして、悟りに近づく」という感じです。
オリンピック選手なんかを見ていても、ベテラン選手はそういう雰囲気も感じますが、若手は結構大変そうです。
我々一般層がどこまでそれを意識できることやら、という話でしょうか。