2024年12月23日月曜日

安定感と省エネが、引き換えになる場合

最近、マルチピッチ受講者レベルしか理解できないような記事しか書いていないので、たまにはジムリード受講者・岩場リード受講者も分かるぐらいの内容で。

A:手(や足)をバッと出しちゃうと、不確実だが楽。
B:手(や足)をソーッと出すと、確実だが疲れる。

という場面があります。
ある程度登っている人であれば、以下に分類した方が分かりやすいです。

Aは、ダイナミックムーヴ(デッドやランジ)または、不完全なスタティック(スタティックなんだけど完全静止できていない)、というイメージです。
Bは、スタティックムーヴです。

ジムの本気トライであれば、どうしてもAを選ぶことが多くなります。
なぜなら、本気トライのルートでは、自分にとって筋力的な余裕が少ないため、Bが不可能だったり、できたとしても非常に疲れてしまうからです。

しかし、トレーニングとしてはBが有効です。
理由は、以下になります。

①正しい筋トレの姿勢

グラつかないバランスと体幹。
ちょっと変な感じがすると思いますが、ギリギリ普通の呼吸ができるぐらいに体幹に力を入れたスタティックは、とても良いトレーニングになります。

つまり、「これを繰り返していくと、“安定しているし、そんなに疲れない。”と感じる日が来るはずだ!」と信じて行う必要があります。

※今回は割愛しますが、ダイナミックムーヴもコントロールされた振り子運動であれば、筋トレになると思います。あくまで、グラつきながら手を出すのは、腕ばっかり疲れてトレーニングとしてはイマイチという話です。

②リード能力の向上

リードは、「スタティック主体で登り、いざと言う場面で伝家の宝刀のようにダイナミックムーヴを繰り出す」というのが基本になります。
(ジムのリードでは、稀に「ムーヴの半分くらいがデッドポイントになる設定」というルートもありますが。)

レスト、チョークアップ、クリップなどを、ガバ以外のホールドで行うためには、この能力を上げていく必要があります。
また、ホールドのどの部分が掛かるか確認、行きつ戻りつによるオンサイト成功、などにもスタティックが有効です。

③ダイナミックムーヴも、振り子運動直前に完全静止できる安定感が肝

これも、割愛します。
ただ、これを考えると、結局はボルダーが強くなるためにも、安定感が必要なのだなと分かると思います。

④岩場でのリスク管理能力の土台となるのは、スタティック能力

当塾講習メインテーマの1つである「戻れるムーヴ」の重要性です。
特に、落ちてはいけないセクションでは、足のスタティックが大事です。


例えば、講習で易しいルートを基礎練習してもらう際に、私が「こっちの方が安定すると思いますよ。」と提案したときに、「石田さんが言ったようにやると、かえって疲れます。」という反応が返ってくることが、頻繁にあります。
「提案した動きの方が安定してはいるんだけど、疲れちゃう。」という状況に見えるのですが、本人は「疲れちゃう!」しか感じていないことが多いのです。

これを、「体格・筋力・柔軟性・得意不得意によって、楽なムーヴが異なる。」という一般論で片付け、僕の提案を切り捨てるのは、少々残念です。
もちろん、その場でそういう態度を取る講習生は少ないです。まぁ、お互いに大人ですからね。
ただ、結果として私の提案を採用していないことは、講習外でも登りを見ていれば分かります。

僕も伝え方を日々考えて、
「安定感と省エネが引き換え(トレードオフ)になる場合は、なるべく安定感を優先させる習慣が有効。」
という話をしてみたりはしますが、なかなか伝わりづらいとも感じます。

特に、初級者は安定感を評価するセンサーが非常に鈍いため、相当意識してトレーニングメニューを考えないと、「不安定で省エネな動き」で易しいルートを登って基礎練習した気になってしまいます。

そして、この練習は前述の通り、本気トライのときはAを選ばざるを得ないために、普通に登っていると悪癖が強化されます。

ジムでは、本気トライは本気トライで非常に重要な練習です。
(フォールする練習、ビレイで止める練習、墜落距離の予想、本気トライ特有の駆け引き、新しいムーヴ習得、などなど)
しかし、この問題の改善には全く向かないのです。

書いているうちに、結局熱くなって専門的になった感もありますね・・・。

マルチピッチでの微妙なランナウト判断

ヨセミテから帰国してから、岩場の講習はマルチピッチ講習中心でした。

マルチピッチで、「ランナウトを許容せざるを得ない」という大問題があります。
よくあるシチュエーションを1つ挙げますので、このときのリードクライマーの心理、葛藤を考えてみましょう。

下図参照
・リードクライマーの位置はプロテクションP。
・ここまでは、そこそこにプロテクションの取れるクラックが繋がっていた。
・ここから、クラックが途切れるため、ランナウトになる。
・幸い、少し上がると緩傾斜になり、ホッと一息つける。
・緩傾斜の上部には、細い立木Aが見える。
ボルトルートであれ、クラックであれ、「落ちてはいけないセクションは、戻れるムーヴで登るのが基本です。」というのは前提知識として必要です。

●リードクライマーの葛藤
「パパッと行っちゃえば、楽にはなる。細い立木Aで、気持ちも楽になる。」
「とは言え、もし緩傾斜で良いプロテクション(P以外のカムなど)が取れなかったら、Pまで戻ることになるか・・・。あるいは、Aで決死のロワーダウン敗退か・・・。」
「一応、マントルっぽいムーヴは易しそうなんだけど、本当に戻れるかなぁ。」
「戻るムーヴって、スタンス探しに下を覗き込むときにインカットホールドを外向きに引っ張るから、ホールド欠けやすいんだよなぁ。」
「緩傾斜は横幅も広いから、ウロウロ探せばどこかにはプロテクション取れそうには見えるんだよなぁ。」
●さらなる葛藤
例1)
「いやいや、自分って考えすぎなのかなー。みんな、もっと楽観的どうにかなるさ思考でアルパインとか沢登りをやっているんじゃないのかなー。とりあえず、突っ込んじゃおうかなー。」
「いやいや、命は一つだよ。敗退も勇気。慎重さが山では大切だよ。とは言え、簡単そうではあるんだよなー。」

上記2つは、永遠に結論が出ません(笑)

例2)
「このルート、きっとみんな登っているんだから、行けば何か出てくるよ。(ガバとか、プロテクションとか・・・)」
「(講習であれば)石田さんが何も口出ししないってことは、そんなに危なくないんでしょう!」

これは、物事を良い風に考えようと思うことで、思考停止していく典型例です。
残置無視・トポ無視の初登攀ごっこには、もちろん反するリスク管理方法で、まるで講習の意義が損なわれます。
そもそも、こういう他責的な考え方で痛い目を見る登山者・クライマーが数多いことは、皆さんご承知のはず。
例3)
「あー、自分って優柔不断で決められない人間なんだなぁ。だから登るのが遅いんだよなぁ。こんなだと、〇〇ルートも登れるようにならないし、〜〜さんにも遅すぎるって言われたよなぁ。」
「ジムとかでも、もっと素早くパパッと登るトレーニングした方が良いのかなぁ?」

気持ちは、痛いほど分かりますが、今この場面で考えるべきことでしょうか?
最初の葛藤は、
・リスク要素の洗い出し
・「もし突っ込んで〇〇だったら・・・」という戦略的思考
なので、リード中に考える意味があります。

その後の葛藤は、ほとんど人生のお悩み相談レベルで、今考えるべきことかは疑問です。

ちなみに、私も散々こういう意味のない葛藤はリード中に行ってきました(笑)。
そして、本当に意味のない時間で、リードの集中力は削がれ、さらに登りはスローダウンします。
さて、ここから本当に時間を割いて考えるべきことは、以下だと思います。

①マントルムーヴは、本当に戻れるか?
・自分がスタティックなつもりになっているだけで、実は勢いを付けてしまって逆再生不可能になっていないか?
・もしクライムダウンになった場合、ムーヴの暗記or肝になるホールド・スタンスの暗記は、どの程度必要か?
・クライムダウンのスタンス探しのために、壁から身体を離そうとして、ホールドを欠けさせてしまうリスクは高いか?
・マントルムーヴを、念のために行きつ戻りつしながら突破して、ムーヴ暗記・ムーヴの最適化をした方が、クライムダウン敗退の保険になるか?

②マントルムーヴ以後の緩傾斜は、本当に戻りやすいか?
・歩きと見せかけて、意外と下りは怖いというパターンはないか?

③最悪、Aだけにクリップしてクライムダウン敗退してPに戻るというオプションは、どの程度のリスク低減になるか?
・Aにスリングとカラビナは残置する。
・それをダブルロープで行う場合、Pまでをクリップしたロープと、Aをクリップするロープは、別々にした方がAが折れた場合の墜落距離低減になる。

④A以外に、緩傾斜をウロウロしたらプロテクションが取れる可能性は、どのぐらいありそうか?
・見えているクラックは何本ある?綺麗なものでなくても、なるべく隈なく探す。

⑤緩傾斜でAしか取れなかった場合、さらに登り進めることでプロテクションは取れるか?
・そこでプロテクションが取れなかった場合、まず「緩傾斜までクライムダウン。」、続いて「
Pまでクライムダウン。」という恐怖展開が予想されるが、それに耐えられそうか?
上記を総合的に判断して、
●Pまでクライムダウンとなった場合のリスク
●A以外にまともなプロテクションが取れない確率

を感覚的に数値化します。

で、「このぐらいのリスク(死亡を含めた大事故の確率)なら取れる。」と感じたら、突っ込むことにします。
とまぁ、ここまでが理論的な話です。

実際は、これでクライムダウン敗退の失敗確率1%以下、緩傾斜でまともなプロテクションが取れない確率1%以下と感じて、大事故の確率0.01%以下と算出したとしても、身体がマントルムーヴを渋る現象があります(笑)。

本能が嫌がっている感じです。
これは、僕は身体の重要なサインだと捉えることにしています。
(「落ちるまで頑張るべき場面で、恐怖心で身体がムーヴを渋る」のとは本質的に異なり、自分を鼓舞してはいけない。)

・脳内計算ミスを恐れて、検算するように要求
・さらなるムーヴの安定度要求(究極のスタティックムーヴ追求)
・Pの場所に、固めどりなど、サブ的な状況良化案の要求

などで、さらに身体を安心させてあげないと、この渋る現象が抑えられません(笑)。

現実的には、理論+身体の恐怖センサーの両面で、安全マージンを取って行動せざるを得ないのです。
ここまでやって、ようやく突破する気持ちと身体が出来上がりました。
どうしても出来上がらないときは、敗退で良いと思います。

初登攀ごっこですので、リード敗退はクラックと同様にクライムダウン&エイドダウンによる敗退です。
で、突破してからビレイ点でパートナーを待つ間にでも、前述の人生の葛藤を考えれば良いと思います。
何なら、下山中や車の運転中でも良いことです。
ただ、そういう葛藤を相当数味わってきた私なりに、ある程度の結論はあります。

結局は
・スタティック、戻れるムーヴなどの基礎練習の徹底
・プロテクション技術の向上
を今よりもっと高めたい、という思いが年々強くなっていきます。

だって、現場でリスク計算に頭をフル回転させているときに、
「もしも、上記2項目が今より少しでも高いレベルであれば、そもそも今の場面でそんなに困らないのでは?」
という仮定を考えずにはいられないからです。
この問題に対する普段の取り組みとしては

・ジムで易しいルートなどでを丁寧に登る時間
・クラックなどでプロテクション技術を洗練させていく時間

などの練習時間が肝となっていくのだろうと思います。

特に、1つ目はやっているつもりに陥りやすいので、是非ともムーヴ講習を月1〜2回継続されることをオススメしています。



2024年12月16日月曜日

ヨセミテ日記⑤ ジョシュアツリー

11月15日 クライミング15日目(ジョシュア1日目)

2日前は本気マルチ、前日は車移動で、もはやボロボロ。
本日は、5.9以下だけを登って、どんなエリアなのか様子見という気持ちで。
・Gem(5.8、ハンド系) オンサイト。
割と普通・・・。
フリクションが良いし、ヨセミテより日本的な花崗岩・・・。

・Colorado Crack(5.9、ハンド〜フィンガー系) フラッシュ
終盤、苦戦しました。

本日は、2本で終了。

終了点は無いので、リード&フォローして、歩いて裏から回るとか、カム数個を終了点として残置して後から回収しに行くか、といった感じ。
ジョシュアツリーは、こういう感じのナチュラル志向ルートが多い。

ルートによって、裏から回るのが非常に厄介そうであれば、(トップアウトしたにも関わらず)エイドダウン回収ということもある。
トポには、このルートはどのように回収せよ、とまでは書いていない。

つまりは、「自分で考えてやりましょう。(それがクライミングってもんでしょ?)」という岩場。
ナチュラル志向といより、冒険志向といった方が適切だろうか。

※クライミングには、スポーツと冒険という2側面があり、どちらが濃厚なルートもあり、エリアの特徴や開拓者の意向などが出やすい。
(Colorado Crack,5,9を登る桂くん)

ヨセミテもハンマードリル禁止らしいので、結果的にボルトは少ないが、ショートルートの終了点は普通に存在することが多かった。
それに、所々にはスポートルートも存在した。
(Spiderman,5.10aをオンサイトする桂くん)

一方のジョシュアツリーは、不動沢上部の趣きで、終了点すらボルトが無いルートも多め。

フリクションも良く、巨岩が積み重なった20〜70mぐらいの小さい岩峰を、割れ目を縫って登るような印象。
結果として、奥はパラレル、手前はフレアー、そしてフリクションが良いので片手はジャミングしつつワイド系技術が楽しめる、という瑞牆でよく見る形状が散見。

色々と不動っぽい・・・。
いや、歴史的にはこちらの方が先なので、日本がこういうスタイルに影響を受けたんでしょうが。
<ルートは長いので、桂くんは遥か上部>

11月16日 クライミング16日目(ジョシュア2日目)

残り2日間で、迷いどころ。
1日レストにして最終日に難しいのをトライするか、3連登にして余裕のあるグレードだけで流すか?

ジョシュアツリーの雰囲気、不動沢っぽさ、スポーツというよりも冒険的に楽しむことを重視で、3連登を選択。
<キャンプサイトで日の出>

<「もったいない」と思うぐらい、ちょっと遊べる程度の岩がある>

<公園内は、砂漠>

さて、この日のアップで選んだルートは、なんとも細いクラック。
いや、所々は閉じている・・・。

Yaborrhea(5.8) オンサイト
フリクションが良く、テラスが多いので、神須ノ鼻を思い出させる。
<Yaborrhea,5.8>

Yabo Phone Home(5.10c) 敗退
出だしのワイドは、5.10cにしては易しめだが、後半がやっぱりシンクラック・・・。
かなり粘ったが、プロテクションが取れず敗退。

個人的には、プロテクションが取れない部分が5.10cなんじゃないかという印象。
<強風の中、北面の5.11bにトライし、さすがに敗退してくる桂くん>

昨日と今日は、とにかく寒い。
ヨセミテに居続けるよりはマシなんだろうけど、日陰に滞在していると、徐々に体温を奪われる。

夕方は、桂くんが希望のボルダーへ。
<Descent Crack,5.7>

ボルダーだけれど、デジマルグレード。
クラックだからその方が馴染むのか、ハイボルダーだからか、歴史的経緯か・・・。
<同ルート下降する私>

講習でやっているような、足移動のスタティック、戻れるムーヴ、要所要所のムーヴ暗記、といったリスク管理技術が使えるぐらいの難易度で、自分としては丁度良い緊張感。
<False Up 20(5.9)にトライする私>

続いて、桂くんお目当ての5.9。
先ほどの5.7は、こちらの下降路でもある。

2人揃って敗退。

まぁ、最上部(しかもマントルよりも少し手前)に戻れないムーヴが出てくるんで、ギブアップフォールでも骨折しそうな気配を感じます・・・。
もちろん、マットがあれば少し話は変わると思いますが、初登もジョンバーガーだし、年代的にもそんなものは一般的ではないでしょう。

日本でも、核心部でプロテクションの取れない5.9は登れない可能性がある(フリーソロするほどは安定して登れない)と自己認識しているので、仕方ないかなと。

5.9の怖い系 → 核心がフリーソロ状態なら敗退、核心は比較的安全でアプローチセクションがフリーソロ状態なら許容できるケースも多い。結果的に、トライしてみたら登れることが多い。
この自己認識は、グレード感が日本と同じ岩場ならば、海外でも使える公式なのだなと確認。
<現在、最終レストポイント。この上で、しつこく行きつ戻りつして、敗退することに>

11月17日 クライミング17日目(ジョシュア3日目)

前日の夕方、総合案内に寄り、登攀禁止の岩の確認をした。
というのも、これだけ岩がゴロゴロと転がっているし、車からでもクラックは目白押しなので、トポを見ないで登る方が楽しそうである。

一方で、何点かの懸念がある。

①登攀禁止の岩を登ってしまう可能性。
このエリアでは、先住民の壁画があるところが登攀禁止。
   →この問題は、クリアした。

②脆い岩、実際に登ったらショボい岩である可能性。

③終了点がなく、フォロー回収が必要となる可能性。
  場合によって、歩いて下降もできず、下降も岩稜縦走のようにロープが必要になる。
  捨て縄、エイドダウンなどの可能性もある。

②と③は、両方セットで現れることも多い。
そして、②と③は遊びの重要な味付けでもある。

一方で、ショートルートとして美しいクラックを登りたいパートナーの理解を得ることは難しい。
正確には、理解してはくれるんだけど、付き合わせるのが何とも心苦しい。
ちょうど妥協点として、インターセクションロックという大駐車場に面した岩があった。

トポを軽く見たが、私が下から見て気になったクラックラインはどうやら判然としない。
ショボい可能性は高いが、トポに載っていない可能性もありそうだ!

この岩のどの辺が妥協点かと言うと、そのクラックはトポに載っていなくても、岩場そのものは東西南北全方位にメジャールートがあり、エスケープラインも豊富だ。
岩塔の上には、懸垂下降用のボルトがありそう、ということで時間的なドハマリのリスクも小さめ。

この妥協の構図は、本当に開拓するのではなく、メジャーな入門バリエーションで残置無視をするのに似ている。割と岩が堅いのも、パートナーに迷惑が掛かりにくくて程よい。

で、この日は意図的にトポはあまり見ず。

・大凹角ライン(5.7ぐらい) オンサイト
このツアーでおそらく初めて、本当にストレスなくウォームアップだと感じる難易度の課題に出会った。
体操として、気持ち良い。
<桂くんが登ったラインも、楽しそう>

・例のクラックライン(5.10bぐらい) オンサイト(桂にフォローしてもらう)
高さ50m弱だろう。

被ったワイドに見えていたラインだが、近づいてみると奥にはトンネルがあり、容易に通り抜けられることが分かった。
なるほど、これがトポに載っていなかった理由かと理解しつつも、自分が見出したラインを登ることには抗えない!

トライしてみると、プロテクションがやや微妙で、ムーヴは5.10bぐらいって感じで、自分にとっては実に楽しめるぐらいの内容だった。
例によって、少々脆かったが・・・。

そして、しみじみ岩場ではこういうクライミングが好きなんだなと思った。

開拓ごっこという擬似的な遊びに過ぎないのだけれど、自分の眼で見て、敗退やら下降やらをプランニングする、というエッセンスが大切なのだ。
トラブル諸々、艱難辛苦、また楽しからずや。
ヨセミテのショートルートのエリアは、スケールの凄い湯川とか末端壁みたいな場所も多いので、そこではその遊び方(普通にアップして、1日に何回か本気トライする、というルーティン)に従った方が楽しいことも多い。
実際、そうやって1ヶ月過ごしたし、自分なりに良いトライも何回かあった。

ただ、1ヶ月でそれに飽きていたのもあるだろう。
<最後に、5.11aをR.P.する桂くん>

しみじみ思ったのだが、ジョシュアツリーは厳しい倫理観の岩場なのだが、トポに載っていないぐらいの低グレードクラック(5.7以下はクラックがあってもルートになっていないこと多数)や、岩稜縦走は無数に楽しめるように思う。

そういう楽しみ方であれば、講習生のレベルでも十分に楽しめる岩場だと思った。

沢登りや岩稜縦走的なロープの出し方なんだけれど、プロテクションのカムは本当にバッチリ効いて、ある意味では教科書的だ。
東京から近ければ、ここで講習をやりたいのに(笑)。
まぁ、雑多に色々と書いたのも、日記ということで御容赦ください。

今後の課題
①5.10b以下のムーヴを発見する時間
→岩場に行ったときに講習も含めて意識的に取り組むべきだが、すでに何年も同じことは考えている気もする。根本的には、諸々の基礎力不足か。

②足が悪い状態のロックオフ能力
→ジムでの基礎練習の重点メニューへ。

③生活力全般(日常から)

上記の冒険的な志向とは反するようだが、とにかくジムで快適に練習したい欲望が今は強い。
特に①と②は、自分なりに色々と工夫する必要がありそうだ。
お世話になった皆さま、ありがとうございました。

2024年12月4日水曜日

ヨセミテ日記④ East Buttress

11月13日 クライミング14日目
East Buttress(エルキャピタン、5.10b、11P)

最高グレードは5.10bだが、他のピッチは全て5.9以下。
日本によくある岩稜マルチと、本格的な壁(平均傾斜が70度以上とか)の中間ぐらいの内容だ。
エルキャプ本体は1,000mのビッグウォールだが、その右側稜で傾斜の緩いラインが当ルートだ。

実は、16年前に登ったことがあるのだが、ルート情報はほとんど覚えていない。

指の変形のマイナスと、この16年の僅かばかりの成長で、どうせ感じ方も全然違うと予測。
しかも、この16年で登りがだいぶ慎重になったので、リスクとか怖さはだいぶマシになったが、登攀スピードは遅くなった。

その慎重さで登り切れるかどうかは、結構怪しい。
しかしながら、今さら昔の雑な登りには戻れないため、時間切れとの戦いが予想される。
<1P目のスタート>

2:30 起床。
3:00 キャンプ4を出発。
3:30 車を出発。アプローチ開始。(アプローチは、レスト日に下見済み。)
4:15 取り付き。
4:40 スタート。

暗いが、チムニーで直線的なラインなので、ヘッデン向きのピッチ。

2P目が核心の5.10b。
薄明るくなった所を、桂が無事にオンサイト。
最初の2ピッチは、ほぼ完全な壁に感じたが、ここからは岩稜っぽく数ピッチ進む。
ただ、5.6のピッチが5.8に感じるなど、岩稜にしてはポイントポイントが充実の内容なのだが、比較的スムーズに登れる。

そこから再び、壁の傾斜になって3ピッチほど。
ライン取りが複数考えられる上、トポ上の現在位置把握がイマイチできず、ルートファインディングでのタイムロスも発生。
体感30分ぐらい粘って、やっぱり別ラインが正解だと思って戻った、という感じ。

ただ、このルートファインディングミスは、トポに踊らされた感があり、精神的にツラいものがあった。
というのも、自分としてはAラインのクラックが登路に見えているのだが、トポを読むと迂回するBラインが正解のように見え、ちょうどBラインの上に残置終了点が見える。そして、Aラインには残置終了点が見えない。
迷いどころなのは、どちらのラインにもチョーク跡がある。
ここでは、「今回は、トポをガンガン見る前提なのだから!」と割り切ってトポを信じてBラインを追ったのだが、しばらく進んで違うと思って、Aラインに戻った。

これに対して、
①自分の眼を信じるべし
②トポの現在位置把握をもっと完璧に行うべし
という2方向の反省があると思う。

今回はトポを見ているのに、①を押し通して間違っていたら、リードとして立つ瀬が無い。
しかし、②はいかにもショボい。

とは言え、時間に追われている中で、リード中の大幅タイムロスとなり申し訳ない気持ちでいっぱい。
何とも煮えきらないシーンとなった。
<岩稜っぽく見えるが、ここは結構な傾斜がある>

ちなみに、このぐらいのグレードだと、フォローが荷物を背負うのが一般的かとも思うのだが、我々は半分以上のピッチで荷上げになった。

理由
①ヨセミテの5.9は、我々にとって普通に難しく、リードが「ビレイよろしくお願いします!」と宣言して「うっ!」と唸りながら越えていくことが多い。

核心1箇所だけが難しいなら、「フォローは、フリー完登を諦め気味で突っ込んで最悪テンション」(フリー完登は、リードだけが拘る)というプランも念頭にはあった。
さすがに、積極的にA0の連発で登るとツマラナイ思い出になりそうだが、上記ぐらいならギリギリ妥協可能と思っていた。

実際、岩稜っぽい傾斜はそれもアリという感じだが、壁の傾斜だと普通に30m以上の区間に何パートも難しそうである。
あとは、ちょっとしたワイドムーヴを多用するので、ザックは非常に邪魔。

そうなると、「ザックを背負うよりは、荷上げの方が時間的にもマシかな。」という雰囲気に。
<岩稜っぽい区間は、フォローがザックを背負う>

②フォロー途中で荷上げへの変更が難しい。

岩稜の傾斜だと、テラスが豊富なので、ワンポイントだけ荷上げとかも可能だ。
が、下部2ピッチ分、中間部の3ピッチ分は、壁の傾斜なので、荷上げするなら1ピッチ丸々やってしまった方が効率が良い。

5.8とか5.9で荷上げを連発するのは違和感満載だが、自分たちの登攀力を嘆きつつ行うしかない。
(特に、周りの日本人が強かったこともあり、一層そんな気分になった。)
③荷物が重い。

2日前に降雪もあり、ヨセミテもシーズン終盤。
我々が遅いこともあり、防寒具も充実させざるを得ない。
下降が初見だと迷いやすいということもあり、ビバークになっても死なないため、ツエルトも持っている。
当然ながら、アプローチシューズも2足入っている。
さらに、夕方から翌日のどこかで雨または雪の可能性がある予報となり、防寒具を多少削って雨具を入れることに。

こうなると、ゲレンデマルチというよりは、日本で言えば本チャンと変わらない装備。
とはいえ、リードを空身にするため、ザックは2人で1つ・・・。
<対岸は北面なので、2日前の雪が残る>

<エルキャプの本体?を横目に見て登る>

後半は、トポの現在位置同定がよく分からなくなったが、とりあえず一番合理的っぽいラインを登り続ける。

<結果的に、5.9+のワイドを登ったようだ>

今回、ビレイ点は残置使用し、さらにトポも熟読するというスタイルだったが、この現在位置同定に迷子になったあたりは残置ビレイ点も見当たらず、なかなか分かりづらい。

ただ、この瞬間が本日中で最も楽しいクライミングであったことは間違いない。
時間的な不安もあるし、夜の天気も心配だけれど、そこでトポを見るのも諦めて岩の形状だけを見て、ロープを進めていく・・・。
1つ前のビレイ点もカムだし、次のビレイ点もカムだろうから、残量把握やバッククリーニングも、めちゃくちゃ頭を使う。

チョーク跡はあるが、中間部で別ラインに進んだときにもチョーク跡はあったので、確証にならないことは数時間前に再確認済み。
(とは言え、チョーク跡は相当助けになっている。)
<ハーフドームが見える>

超が付くほどのメジャーなクラック系の岩稜ルートを、残置ビレイ点も使って、トポも追い掛けていると言えばその通りだが、先ほどの煮えきらない思いと真逆の楽しさが瞬間的に存在した。

1〜2時間ばかり、登山的なアドレナリンが湧き立ち、楽しくなっちゃっている自分を感じた。

結果的に、トポとピッチの切り方が違うものの、ラインは合っていたようだ。
<終盤>

夕方、暗くなる40分くらい前にトップアウト。

懸案の下降は、大の苦手である「ちょっと危ない歩き」。
ワンポイントであれば、「そこは手を使ってクライミング技術でスローに通過。」で何とかなるのだが、10〜30mとか悪場歩きが続くと途方もなく感じる。

実際、桂くんがスタスタ歩くところを、僕は四つん這いで3〜4倍の時間を掛けることになる。
さらに、それでも怖いところは立木などで懸垂させてもらうことになる。

この弱点は、山岳ガイドのショートロープやらを僕に諦めさせた原因なので、もう20年来の付き合いである。
ヨセミテのツルツル花崗岩スラブには、僕の歩行技術は全く歯が立たない・・・。
とにかく、ここでも時間を掛けさせてもらう。
<下降路>

そんなことを、暗い中でヨロヨロやっているうちに、エルキャプ本体を登ってきた強い方々が5人、6人と追い抜いて行った。

この寒い時期、エイドパーティは基本居ないらしいので、フリー主体で登る人ばっかり。
しかも、2日前は大荒れの雪だったので、昨日からの2日間でビッグウォールをこなす超人集団であろう。
(エルキャプのビッグウォールフリーは、最高5.12dの30ピッチとか、最高5.14の30ピッチとか・・・。)

その中には、アレックス・オノルド先生も居た。
道を教えてくれたり、日本語の話をしたり、スローに英語を話してくれたりと、良い人だった。

で、暗い中でようやく駐車場に戻り、キャンプ4に戻り、長い一日を終えた。
<翌日はレストしつつ、ジョシュアツリーへの移動日に>

2024年12月3日火曜日

ヨセミテ日記③ 宿題回収の日々

1月・2月分の予約受付の記事が後ろに回ってしまいますが、12月4日(水)の21時スタートです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
11月2日(土)は、レスト。

11月3日(日) クライミング9日目
エリア:センチネルクリーク

本日は、桂くんがレストにつきビレイのみに付き合ってくれることに。
僕にとっては、序盤で5時間のドハマリになった、リンク(複数ピッチをつなげて登ること)ものをトライするチャンス到来です。

Brownnoser(5.8) アップ
そのままトップロープにして、プラス2回登って、身体を十分にほぐす。

Hari-kiri(5.10a、フィンガー、ハンド、コーナー、色々)+Ying-Yang(5.10a、ワイド系)

もはや70mクラスだと分かっているので、念には念を押したカムの量。
カムずらしが困難だと分かっている上に、ラストのチムニーもカムが欲しかったと分かっている分、ワイドギアもオンサイトトライ以上に増えてしまった。

結果、下部のフィンガーなどで大苦戦・・・。
バッククリーニングもあるため、結局は中間テラスまでで結構な疲労感。
ただ、後半はさすがに警戒しまくっただけあって、通常ペースに戻った。
しかし、乗っ越しのバッククリーニングで1箇所ミスをして、ロープがカムを押し出してしまい、キャメ5番を65mぐらいの高さから落としてしまった・・・。詳細は省くが、反省点として重要。

終盤、最後のチムニーから抜ける場面など、初見の部分で苦戦しつつ、どうにかR.P.。
桂くん曰く、3時間は掛かっていなかったそうだ・・・。
80mロープで、ロープの余りは3mほど。(77mかな?)

シングルロープ1本で登っているため、下降は2ピッチに分けて行うため、こちらも大変。

とにかく、ひたすら大変なルートだった。
いくらヨセミテが日本より難しいと言っても、ムーヴ強度は日本の5.10c以下だけれど、とにかく疲れた。

ただ、いい経験にはなった。

あとは、高難度マルチで、60mとか70mとかを登っている人って、本当に凄いんだな・・・ということが肌感覚で分かった。
繰り返しになるが、入門バリエーションなどで50m以上伸ばすのとは、ロープの重さも含めて質的に全く異なる。
11月4日(月) クライミング10日目
エリア:クッキークリフ

2日間レストで宿題回収に挑む桂くんが気合い十分。
僕も、前日は1トライで上がったので、まぁ多少は登れるかなという目論見。

Beverley's Tower(5.10a) フォロー
アップを兼ねたアプローチピッチ。
が、全身疲労が酷すぎて、指が岩を触りたがらない反応を強く示している・・・。

残念ながら、時間とともに指も腫れ上がってきた・・・。
前日、フィンガー系はほとんどやっていないのだが、全身疲労が思った以上だったようだ。

本日は、僕がレスト日でビレイのみをすることにした。
<Butterballs(5.11c)をトライする桂くん>

<例によって、このテラスで、ほぼ1日を過ごす>

11月5日(火)は、レスト。

11月6日(水) クライミング11日目。
エリア:クッキークリフ

Beverly's Tower(5.10a)
この日も、Butterballsへのアプローチ、と思っていたら、桂くんがリードを終えた時点で「本日は止めときます。」宣言。
中1日では、全然回復していなかったらしく、たしかに登りも辛そうだった。

というわけで、このルートをまだリードしていなかったので、R.P.しておく。
うーむ、改めて難しい5.10aだ・・・。
<右のラインが、Beverly's Tower>

Waverly Wafer(5.11a、コーナー)  R.P. 通算2トライ目。
先日フォールしたこのルート、ゆっくりになるのは承知の上で、意識的に慎重に登る。
結局、フォールした場所で吠えることにはなったが、リード中の落ち着きという点では満足いく結果になった。

ただ、この2本で疲労困憊になり、実質2日間レスト明けだというのに、もう打ち止めになった。
<半レストということで、Elevator Shaft(5.8、チムニー)を登る桂くん>

<Elevator Shaft>

<Elevator Shaftの回収作業中>

11月7日、8日は、2日連続で完全レスト。

疲れが溜まっているのもあるが、Butterballsをトライするなら、中2日にしないと全然ムリだと骨身に染みてきている。
僕も、登れるか分からないけれど、一応やるなら指の腫れが引いた状態でやりたい。
<またまたBeverly's Tower>

11月9日(土) クライミング12日目
エリア:クッキークリフ

Beverly's Tower(5.10a) フォロー

Butterballs(5.11c、フィンガー) R.P. 通算2日、4トライ。
この日の3トライ目、終盤はヘッデントライになって、どうにか完登。

ツアー中、オンサイトトライでは満足行くトライも無かったし、先日の77mルートもスポーツとは異なる趣きだったので、久々にスポーツ的なトライとして満足できた。

トライ自体は2日間なのだが、ここにパーティーとして来ようと計画した日は4日間もあり、レスト日もしっかり取ったため、ツアーのうち7日以上費やしたような印象だった。

あと、ここ5年以上避けてきたフィンガーだが、結構コツを思い出せたし、変形した指の処理にもいくらか法則性を見出せたのは良かった。
 <Butterballs>

<昼間にハングドッグ中の私>



<Midterm(5.10b)を登る桂くん>

11月10日(日) クライミング13日目
エリア:アーチロック

僕は指も腫れているし、全身疲労も酷いため、アクティブレスト。
English Breakfast Crack 1P目(5.9) たぶん再登。

下部のフィンガーで、やや苦戦。
ただ、珍しく日本グレードに感じた(笑)。

回収時に、途中デポしたヘルメットを回収忘れしてしまったため、夕方にもう一度登る。
<Midterm>

<その後、Leanie Meanie(5.11b)に挑む桂くん>

11月11日(月) はレストだが、桂くんのビレイに。
前日のLeanie Meanie(5.11b)を、R.P.するために、3連登するらしい。


<そして、無事にR.P.。しみじみ、真似はできないし、凄いなと思う。>

その晩は、予報通りの降雪となり、避難の様相。

11月12日(火)はレスト。
翌日のマルチに備えて、準備。

ありがたいことに、南面の雪は半日で溶けていき、どうにかトライはできそうだ。
<キャンプ4は寒いので、焚き火を常に欲していた>