11月13日 クライミング14日目
East Buttress(エルキャピタン、5.10b、11P)
最高グレードは5.10bだが、他のピッチは全て5.9以下。
日本によくある岩稜マルチと、本格的な壁(平均傾斜が70度以上とか)の中間ぐらいの内容だ。
エルキャプ本体は1,000mのビッグウォールだが、その右側稜で傾斜の緩いラインが当ルートだ。
実は、16年前に登ったことがあるのだが、ルート情報はほとんど覚えていない。
指の変形のマイナスと、この16年の僅かばかりの成長で、どうせ感じ方も全然違うと予測。
しかも、この16年で登りがだいぶ慎重になったので、リスクとか怖さはだいぶマシになったが、登攀スピードは遅くなった。
その慎重さで登り切れるかどうかは、結構怪しい。
しかしながら、今さら昔の雑な登りには戻れないため、時間切れとの戦いが予想される。
<1P目のスタート>
2:30 起床。
3:00 キャンプ4を出発。
3:30 車を出発。アプローチ開始。(アプローチは、レスト日に下見済み。)
4:15 取り付き。
4:40 スタート。
暗いが、チムニーで直線的なラインなので、ヘッデン向きのピッチ。
2P目が核心の5.10b。
薄明るくなった所を、桂が無事にオンサイト。
最初の2ピッチは、ほぼ完全な壁に感じたが、ここからは岩稜っぽく数ピッチ進む。
ただ、5.6のピッチが5.8に感じるなど、岩稜にしてはポイントポイントが充実の内容なのだが、比較的スムーズに登れる。
そこから再び、壁の傾斜になって3ピッチほど。
ライン取りが複数考えられる上、トポ上の現在位置把握がイマイチできず、ルートファインディングでのタイムロスも発生。
体感30分ぐらい粘って、やっぱり別ラインが正解だと思って戻った、という感じ。
ただ、このルートファインディングミスは、トポに踊らされた感があり、精神的にツラいものがあった。
というのも、自分としてはAラインのクラックが登路に見えているのだが、トポを読むと迂回するBラインが正解のように見え、ちょうどBラインの上に残置終了点が見える。そして、Aラインには残置終了点が見えない。
迷いどころなのは、どちらのラインにもチョーク跡がある。
ここでは、「今回は、トポをガンガン見る前提なのだから!」と割り切ってトポを信じてBラインを追ったのだが、しばらく進んで違うと思って、Aラインに戻った。
これに対して、
①自分の眼を信じるべし
②トポの現在位置把握をもっと完璧に行うべし
という2方向の反省があると思う。
今回はトポを見ているのに、①を押し通して間違っていたら、リードとして立つ瀬が無い。
しかし、②はいかにもショボい。
とは言え、時間に追われている中で、リード中の大幅タイムロスとなり申し訳ない気持ちでいっぱい。
何とも煮えきらないシーンとなった。
<岩稜っぽく見えるが、ここは結構な傾斜がある>
ちなみに、このぐらいのグレードだと、フォローが荷物を背負うのが一般的かとも思うのだが、我々は半分以上のピッチで荷上げになった。
理由
①ヨセミテの5.9は、我々にとって普通に難しく、リードが「ビレイよろしくお願いします!」と宣言して「うっ!」と唸りながら越えていくことが多い。
核心1箇所だけが難しいなら、「フォローは、フリー完登を諦め気味で突っ込んで最悪テンション」(フリー完登は、リードだけが拘る)というプランも念頭にはあった。
さすがに、積極的にA0の連発で登るとツマラナイ思い出になりそうだが、上記ぐらいならギリギリ妥協可能と思っていた。
実際、岩稜っぽい傾斜はそれもアリという感じだが、壁の傾斜だと普通に30m以上の区間に何パートも難しそうである。
あとは、ちょっとしたワイドムーヴを多用するので、ザックは非常に邪魔。
そうなると、「ザックを背負うよりは、荷上げの方が時間的にもマシかな。」という雰囲気に。
<岩稜っぽい区間は、フォローがザックを背負う>
②フォロー途中で荷上げへの変更が難しい。
岩稜の傾斜だと、テラスが豊富なので、ワンポイントだけ荷上げとかも可能だ。
が、下部2ピッチ分、中間部の3ピッチ分は、壁の傾斜なので、荷上げするなら1ピッチ丸々やってしまった方が効率が良い。
5.8とか5.9で荷上げを連発するのは違和感満載だが、自分たちの登攀力を嘆きつつ行うしかない。
(特に、周りの日本人が強かったこともあり、一層そんな気分になった。)
③荷物が重い。
2日前に降雪もあり、ヨセミテもシーズン終盤。
我々が遅いこともあり、防寒具も充実させざるを得ない。
下降が初見だと迷いやすいということもあり、ビバークになっても死なないため、ツエルトも持っている。
当然ながら、アプローチシューズも2足入っている。
さらに、夕方から翌日のどこかで雨または雪の可能性がある予報となり、防寒具を多少削って雨具を入れることに。
こうなると、ゲレンデマルチというよりは、日本で言えば本チャンと変わらない装備。
とはいえ、リードを空身にするため、ザックは2人で1つ・・・。
<対岸は北面なので、2日前の雪が残る>
<エルキャプの本体?を横目に見て登る>
後半は、トポの現在位置同定がよく分からなくなったが、とりあえず一番合理的っぽいラインを登り続ける。
<結果的に、5.9+のワイドを登ったようだ>
今回、ビレイ点は残置使用し、さらにトポも熟読するというスタイルだったが、この現在位置同定に迷子になったあたりは残置ビレイ点も見当たらず、なかなか分かりづらい。
ただ、この瞬間が本日中で最も楽しいクライミングであったことは間違いない。
時間的な不安もあるし、夜の天気も心配だけれど、そこでトポを見るのも諦めて岩の形状だけを見て、ロープを進めていく・・・。
1つ前のビレイ点もカムだし、次のビレイ点もカムだろうから、残量把握やバッククリーニングも、めちゃくちゃ頭を使う。
チョーク跡はあるが、中間部で別ラインに進んだときにもチョーク跡はあったので、確証にならないことは数時間前に再確認済み。
(とは言え、チョーク跡は相当助けになっている。)
<ハーフドームが見える>
超が付くほどのメジャーなクラック系の岩稜ルートを、残置ビレイ点も使って、トポも追い掛けていると言えばその通りだが、先ほどの煮えきらない思いと真逆の楽しさが瞬間的に存在した。
1〜2時間ばかり、登山的なアドレナリンが湧き立ち、楽しくなっちゃっている自分を感じた。
結果的に、トポとピッチの切り方が違うものの、ラインは合っていたようだ。
<終盤>
夕方、暗くなる40分くらい前にトップアウト。
懸案の下降は、大の苦手である「ちょっと危ない歩き」。
ワンポイントであれば、「そこは手を使ってクライミング技術でスローに通過。」で何とかなるのだが、10〜30mとか悪場歩きが続くと途方もなく感じる。
実際、桂くんがスタスタ歩くところを、僕は四つん這いで3〜4倍の時間を掛けることになる。
さらに、それでも怖いところは立木などで懸垂させてもらうことになる。
この弱点は、山岳ガイドのショートロープやらを僕に諦めさせた原因なので、もう20年来の付き合いである。
ヨセミテのツルツル花崗岩スラブには、僕の歩行技術は全く歯が立たない・・・。
とにかく、ここでも時間を掛けさせてもらう。
<下降路>
そんなことを、暗い中でヨロヨロやっているうちに、エルキャプ本体を登ってきた強い方々が5人、6人と追い抜いて行った。
この寒い時期、エイドパーティは基本居ないらしいので、フリー主体で登る人ばっかり。
しかも、2日前は大荒れの雪だったので、昨日からの2日間でビッグウォールをこなす超人集団であろう。
(エルキャプのビッグウォールフリーは、最高5.12dの30ピッチとか、最高5.14の30ピッチとか・・・。)
その中には、アレックス・オノルド先生も居た。
道を教えてくれたり、日本語の話をしたり、スローに英語を話してくれたりと、良い人だった。
で、暗い中でようやく駐車場に戻り、キャンプ4に戻り、長い一日を終えた。
<翌日はレストしつつ、ジョシュアツリーへの移動日に>