2024年12月23日月曜日

安定感と省エネが、引き換えになる場合

最近、マルチピッチ受講者レベルしか理解できないような記事しか書いていないので、たまにはジムリード受講者・岩場リード受講者も分かるぐらいの内容で。

A:手(や足)をバッと出しちゃうと、不確実だが楽。
B:手(や足)をソーッと出すと、確実だが疲れる。

という場面があります。
ある程度登っている人であれば、以下に分類した方が分かりやすいです。

Aは、ダイナミックムーヴ(デッドやランジ)または、不完全なスタティック(スタティックなんだけど完全静止できていない)、というイメージです。
Bは、スタティックムーヴです。

ジムの本気トライであれば、どうしてもAを選ぶことが多くなります。
なぜなら、本気トライのルートでは、自分にとって筋力的な余裕が少ないため、Bが不可能だったり、できたとしても非常に疲れてしまうからです。

しかし、トレーニングとしてはBが有効です。
理由は、以下になります。

①正しい筋トレの姿勢

グラつかないバランスと体幹。
ちょっと変な感じがすると思いますが、ギリギリ普通の呼吸ができるぐらいに体幹に力を入れたスタティックは、とても良いトレーニングになります。

つまり、「これを繰り返していくと、“安定しているし、そんなに疲れない。”と感じる日が来るはずだ!」と信じて行う必要があります。

※今回は割愛しますが、ダイナミックムーヴもコントロールされた振り子運動であれば、筋トレになると思います。あくまで、グラつきながら手を出すのは、腕ばっかり疲れてトレーニングとしてはイマイチという話です。

②リード能力の向上

リードは、「スタティック主体で登り、いざと言う場面で伝家の宝刀のようにダイナミックムーヴを繰り出す」というのが基本になります。
(ジムのリードでは、稀に「ムーヴの半分くらいがデッドポイントになる設定」というルートもありますが。)

レスト、チョークアップ、クリップなどを、ガバ以外のホールドで行うためには、この能力を上げていく必要があります。
また、ホールドのどの部分が掛かるか確認、行きつ戻りつによるオンサイト成功、などにもスタティックが有効です。

③ダイナミックムーヴも、振り子運動直前に完全静止できる安定感が肝

これも、割愛します。
ただ、これを考えると、結局はボルダーが強くなるためにも、安定感が必要なのだなと分かると思います。

④岩場でのリスク管理能力の土台となるのは、スタティック能力

当塾講習メインテーマの1つである「戻れるムーヴ」の重要性です。
特に、落ちてはいけないセクションでは、足のスタティックが大事です。


例えば、講習で易しいルートを基礎練習してもらう際に、私が「こっちの方が安定すると思いますよ。」と提案したときに、「石田さんが言ったようにやると、かえって疲れます。」という反応が返ってくることが、頻繁にあります。
「提案した動きの方が安定してはいるんだけど、疲れちゃう。」という状況に見えるのですが、本人は「疲れちゃう!」しか感じていないことが多いのです。

これを、「体格・筋力・柔軟性・得意不得意によって、楽なムーヴが異なる。」という一般論で片付け、僕の提案を切り捨てるのは、少々残念です。
もちろん、その場でそういう態度を取る講習生は少ないです。まぁ、お互いに大人ですからね。
ただ、結果として私の提案を採用していないことは、講習外でも登りを見ていれば分かります。

僕も伝え方を日々考えて、
「安定感と省エネが引き換え(トレードオフ)になる場合は、なるべく安定感を優先させる習慣が有効。」
という話をしてみたりはしますが、なかなか伝わりづらいとも感じます。

特に、初級者は安定感を評価するセンサーが非常に鈍いため、相当意識してトレーニングメニューを考えないと、「不安定で省エネな動き」で易しいルートを登って基礎練習した気になってしまいます。

そして、この練習は前述の通り、本気トライのときはAを選ばざるを得ないために、普通に登っていると悪癖が強化されます。

ジムでは、本気トライは本気トライで非常に重要な練習です。
(フォールする練習、ビレイで止める練習、墜落距離の予想、本気トライ特有の駆け引き、新しいムーヴ習得、などなど)
しかし、この問題の改善には全く向かないのです。

書いているうちに、結局熱くなって専門的になった感もありますね・・・。