2025年3月27日木曜日

2025年4月、岩場基礎トレの御案内

ガイドの林智加子さんと一緒に「岩場基礎トレ」という企画を行います。

4月12日(土)小川山
4月27日(日)城ヶ崎

登山道を登るためのクライミング講習というテーマなので、普段ジムで講習しているような内容を易しい岩場(登山道で出てくるレベル〜プラスアルファ)で行います。

当塾では、岩場の講習はジムでリードできる人向けに、「岩場でもちゃんとリードできるようになるため」というコンセプトで行っており、講習としては少々レベルが高めの内容となっております。
そのため、こういった企画は依頼されたものだけを行っており、年に1〜数回程度になります。
ご興味ありましたら、是非ともどうぞ。

オススメのレベル感
「全くのクライミング素人さんだが岩場歩きに問題意識がある方 〜 当塾の岩場リード講習は(現時点では)ちょっと厳しすぎると感じる方」
ぐらいの間の方であれば、ちょうど良いかなと思います。

今回は、企画が林智佳子さん、外部講師として私なので、以下の林智佳子さんのページから詳細を確認してみてください。
申し込みも、こちらのページから可能です。

2025年3月19日水曜日

スタティック

今さらですが、「スタティックが大切だ」という話をしたいと思います。

ダイナミックムーヴは、デッド、ランジなどの反動(勢い、スピード)を必要とする動きです。
「どの程度のスピードからがダイナミックなのか?」
という疑問があると思うのですが、「動かすべき1点を完全にフリーにした状態で完全静止できること」を、スタティックとしておきましょう。
(もう少し厳しい定義はありうるが、緩い定義はあり得ないはず。)

ジムでのリード、スポートルート、クラック、マルチ、アイス、沢登り、などを全部混ぜて書くので、未知の分野は読み飛ばしてくださいませ。


A)なぜ大切か?

①安全のため
・クリップ態勢は、片手フリーで5秒ぐらいは静止する必要があります。
カムセット、スクリューセットとなれば、この何倍もの時間を要することも日常茶飯事です。

・レスト態勢も同様です。
これができなければ、「ほとんどノーハンドになれるようなテラスや、ぶら下がって休めるようなガバでない限りレストできない。」という登りになってしまいます。
レストと言っても、次のホールドを取りに行く瞬間に1回だけシェイクするようなものではなく、なるべく悠然とレストして作戦を練れるぐらいの時間的猶予が必要です。
この時間を利用して、ムーヴを考えるだけでなく、リード中のリスク管理についても考えます。

・ダイナミックムーヴは、ターゲットにしているホールドが思ったよりも悪かった場合、ホールドが欠けた場合に、一般的にはフォールします。
岩場においては、「落ちてはいけないセクション」が存在する方が一般的ですし、場合によってはそれが結構微妙なバランスだったりするので、ついつい安易なデッドポイントに走りがちです。

・ダイナミックムーヴは、逆再生がしづらいため、敗退できなくなります。
やはり「落ちてはいけないセクション」において、敗退を意識して登ることは基本です。
ボルトルートでの初見リード(トップロープ、チョンボ棒を用いずに、普通にトライする)、マルチピッチ、アイス、沢登り、などで共通です。

※この議論が、分かった気になった方の落とし穴。
「自分はスタティックをしているつもりでも、実はダイナミックである(スタティックではない)。」
という現象が、最大の問題です。
特に、足のデッドポイントに関しては、私より難しいルートが登れる人でも無自覚な人が多いと感じます。
(自覚を持った上で、足デッドを使っているなら、一つの選択です。)
結果として、「落ちてはいけないセクションを、逆再生可能なムーヴで登るなんて、机上の空論でしょ?」という発想になっていると思います。

②スポーツとしてのリードが得意になるため
スタティックであれば、かなり厳しい一手を出す過程においても、どうにかチョークアップをしながら進むなどの小さい省エネが可能になります。
こういった積み重ねが、ルート上部でのパンプ具合に影響します。

デッドを極端に嫌うリードクライマーが、この手の技術に長けてくるのは、必然でしょう。
「ボルダーが極端に苦手なのに、5.13を登るような方」が存在する一要因、として挙げられます。

また、無意識の足デッドを避けることで、不意落ち確率を低減し、ムーヴもより省エネになってきます。
※足デッドは恐怖心が無い場合が多いため、「デッドなんか(落ちても大丈夫な場面でも)したくない!」という発言を憚らないような方でも、普通に行っているのが難しいところ。

③クラック、アイスが得意になるため
ジャミング、アックスを振る動作には、どうしても片手フリーで静止する必要があります。
しかも、保持している方の腕を曲げた状態(ロックオフした状態)で、場合によっては数十秒の静止時間が必要です。

④フォーム改善・バランス習得の基礎練習を行うため
上述3項目と異なり、自分にとって十分易しいルートを基礎練習する際に、意図的にゆっくり登ることで自分のフォームやバランスを内省し、改善する効果が期待できます。

ダイナミックムーヴの練習も大切なのですが、ダイナミックムーヴの中でフォームを改善するのは、かなりの経験者向けです。
初級者のデッドポイントでは、ターゲットのホールドが取れたか否かで判定するのが関の山で、「綺麗に決まったか?」、「何がイマイチだったか?」を意識することは相当困難です。
フォーム・バランスの基礎練習はスタティックで行い、ダイナミックムーヴはスイングの軌道だけを意識するぐらいが現実的だと思います。

※ジムなどで行うと迷惑になりやすいので、人気の壁を避ける、状況を見て行うなどの配慮が必要です。



B)混乱ポイント

①本気トライにおいて、ダイナミックムーヴを禁止する訳ではありません。

これは、私の講習生が時々陥る混乱です。
核心部などの勝負所でダイナミックムーヴは、是非とも活用してください。
そして、勝負のムーヴに入る前に、「落ちても大丈夫な状況だな。(墜落距離の予測、ロープの足絡み、落ちる態勢、などなど)」と考え、覚悟を決めて一手出します。

ジムのリードであれ、岩場であれ、ダイナミックムーヴ主体での登りは辞めた方が良いという話はしました。
一方、勝負所でのダイナミックムーヴは、スポーツとしてのクライミングの醍醐味だとも思います。

そのために、
●しっかりしたビレイ(弛ませすぎず、それでいて登りやすいを理想に)
●プロテクションが膝程度でも過剰にビビることなくフォールできる程度の自信
●核心部でもロープを絡ませない足捌き
●直前のレストポイントで状況観察と覚悟を決める時間的余裕
などをしっかり学びましょう。

※ジムのボルダリングなどでは、ダイナミックムーヴを禁止したら4級(辛くないジムを想定)すら登れない課題が多いぐらいでしょう。
これは、ボルダリングがリードの核心部だけを取り出したような遊びで、動きを楽しむことに特化したゲームだと考えると、納得できます。

「スタティックが省エネに感じない現象」との向き合い方が難しいです。

一般的に、登り方を変更すると成績は下がります。
ダイナミック主体で登っていた方は、それに慣れており、スタティックに不慣れなので当然疲れます。
肩や肘を壊した方などは、フォーム改善を行う難しさを嫌というほど味わったかと思いますが、それと同じです。

基本的に、本気トライ中の修正は、よほどのクライマーでない限り不可能だと思います。
少なくとも、私にはできません。

理由①  意識できない
理由②  意識できたとしても、慣れた方法(ダイナミック主体)を選択した方が登れる(疲れない)

そのため、基礎練習の時間が必要です。
自分にとって絶対に登れるぐらいの課題、課題を無視して色々なホールドを触りながらのウォームアップ、などが最適なタイミングです。
この時間を、長めに取ることを私は推奨しています。

もうちょっと頑張りたい人は、すでに登り終えた○級までを続けざまに何本も登るようなサーキットトレーニングで行うという方法もあります。
「落ちても、あまり悔しくない」課題のため、理由②がそれほど気にならないのがポイントです。
ただ、私自身は意識が難しいと感じているので、サーキットよりも「基礎練習+本気トライ」という方法を自分のルーティンにしています。
サーキットは、ごく一部に行う日もある、という程度。

こういった登り方の矯正期間中も、私はジムでの本気トライは行なって構わないと思っています。
理由①および②から、これまでの登り方をせざるを得ないのですが、それでも基礎練習さえ辞めなければ段々と修正されていく(私自身も講習生も)と感じているからです。

ただ、「ダイナミック主体を直さないと、私には岩場は危なすぎる!」と問題意識を感じた方は、「肩・肘が痛すぎて、登るのが辛い!」という方と同じです。
そこまで強い問題意識があるのなら、一定の修正完了までは本気トライを控えるのも一案だと思います。
唯一の問題は、本気トライを数ヶ月とか1年とか禁止した状態で、モチベーションを保つのが、なかなか難しいことです。やはり、「〇〇ルートが登れた!」というシンプルな達成感は、定期的にあった方が良いものです。
そのためには、問題が深刻化する前からコツコツと修正作業を始めるべきなのですが、人間とは怠惰な生き物ですよね。
つくづく、故障と同じ構図です。

このあたりは、ご自身の性格・クライミング経験・ムーヴに対する洞察力、などに合わせてメニューを考えていただければと思います。
基本的には独学が難しい話なので、ほとんどの方には講習を定期的に受けることをオススメします。

2025年3月14日金曜日

卒業後問題

近年、「講習卒業後に通い続けられるかどうかが、最大の才能かもしれない」という風に考えるようになりました。

例えば、講習生として、
●理解が速い
●弱点の指摘に対して素直
●体力・根性がある
などの色々な要素があります。

こういう方は、私としても教えがいを感じます。

しかし、これは受講初期(月1〜2回程度で1年とか)〜中期(月1〜2回程度で3年とか)までの能力でしかない、という気がします。

別の言い方をすれば、30回ぐらい受講すれば、ほぼ誰でも「私の真意を想像しながら指摘を聞けるようになるし、ある程度の素直さ・自主練習の必要性は痛感できる」からです。
<ワイドクラックの練習>

頭が良くて覚えが早く、弱点の指摘に素直で、講習以外も確実に自主練習を積んで来る体力と根性がある模範的な講習生は、ごく一部に存在します。
それこそ、ほとんど素人さんだった40代とかでも、3年ぐらいでマルチピッチリード講習まで到達してしまいます。

これは、極めてすごいスピード感です。
そもそも月1〜2回の受講を数年維持しつつ、自主練習を続けるというのが最大の核心です。
それが出来るだけの環境を作れたとしても、3年は速いです。

講習生の中では「神童」的な感じです。
<デッドポイントの基礎練習>

しかし、そこで受講が途絶える方が多い、とも感じています。

私の卒業基準は、「そろそろ自力で岩場に行ってみたら?」、「そろそろ友達同士でリードしてみたら?」という見立てレベルで、「もはや教えることは何も無い。」ではありません。

つまり、「自立してから講習に通うことができるかどうか?」こそが最大の才能ではないかと思うのです。
<姿勢を意識しまくるISさん>

卒業後に講習に通いたくない理由は、いくらでも想像できます。

●さすがに飽きた。
●卒業まで頑張っただけでも、十分えらいでしょ?(実際、マルチ卒業まで残るのは、それだけでも偉いと思います。)
●そろそろ別の人に習った方が伸びる気がする。
●石田さんは、グレードを上げたりすることよりも、ひたすらリスク管理的な登り方(落ち方、戻れるムーヴ、などなど)を講習してくれる気がする。
●ワイドクラックとかは、石田塾だとオンサイトリードで超低グレードから下積みさせられるだろう。もっと、一足飛びに上手くなりたい。(トップロープで難しいのを触るとか・・・)
●ムーヴ講習では、さすがにグレードを上げるためのこと(フォーム、色々なムーヴ、トレーニング、など)を教えてくれそうなのは分かるんだけど、すぐに成果が出ないような超基礎を反復することになるんだろうな。
●今は調子が良い(どこも痛くない)から、講習なんかに行くよりも色々なルートを登りたい。
●今は調子が悪い(どこかが痛い、リハビリ中、など)から、基礎練習みたいなつまらないことをやっても飽きそう。
<5.8の核心ぐらいあるワイドボルダー>

また、以下のような意見もあります。

●せっかく自力で行けるようになったのだから、とりあえず色々行って、経験を積んでからまた受講しようかな。

これには一理あり、実際に数年後に戻って来て年間数回ずつでも受講を続けてくれる方も、数名はおります。

一方で、
●一度数年離れてしまったら、今から自分のやり方を色々と批判されに行くのはツラくなってしまった。

という感情が、むしろ一般的かなと思います。

これは、マルチピッチリード講習卒業者に限らず、途中で講習を離れた方には特に多いです。
<ワンポイントのハングだが、ガバがある。これを、いかにグチャグチャにならずにムーヴを組み立てるか?>

また、別の観点で。

●これ以上続けたら、もう辞め時は無い。本当に、生涯学習になる。
(すでに岩場に自立して通えている状態なので、石田さんに習うことが無くなるか、それに近いところまで通うことを想定すると・・・。)

もちろん、講習と自主練習をちゃんと行えていた初期の3〜5年とは異なり、

・仕事や家庭環境の変化で、トレーニングに割ける時間が減った
・成長が停滞気味になったらモチベーションが下がり、他の趣味に軸足を移した

といった現象もあります。
<最後に、遊びでインバージョンを少々>

色々と書いていて思うのは、結局は講習に通うかどうか、ひいては真面目に登るか否かすら自由です。
(不真面目な状態でバリエーションに行くのとかだけは、本当に死ぬ可能性が高まるのでやめた方が良いと思いますが・・・。)

真面目に考えれば眉唾な理由も、至極真っ当な家庭環境などの理由もあるし、僕よりも他のインストラクターに習った方が良いこともあるでしょう。

ただただ、私の立場として思うのは、「本当は、ここからですよ!」ということです。

●最低限のリスク管理能力があってこそ、グレードに繋がるようなトレーニングを教えようかなという話になります。 
●卒業を心待ちにしない人だからこそ、教えるのに時間の掛かる難しい内容にもチャレンジできます。
●自分で弱点を見つける事は難しく、長い付き合いのコーチが居た方が良いです。
●リスク管理も、自己研鑽を続けることは難しいので、登り方やロープワークを批判される機会があった方が良いです。
●ワイドクラック、ヒールフック、デッドポイントの反動の付け方、などの普段の私がすごく考えているテクニカルな分野も、ようやく講習のスタートラインに辿り着けます。

最低ラインを越え、本当に上手に強くなって欲しいなと思います。
<ワイドクラックの基礎練習①>

<ワイドクラックの基礎練習②>

アイスとフリークライミングが繋がるタイミング

今シーズンも、3日間のアイス講習を受講していただいたTGさん。
多い年には、月2日間ずつの予約で、天候中止などを鑑みても6日間ぐらいは受講しています。
おそらく、20日間ぐらいはアイス講習を受講しているでしょう。

これが、本日ようやく
「普通のクライミング(無雪期のフリークライミング)と同じものだと感じられた。」
と感動していました。
<最初は、70度くらいで凹角あり、ガバ足ありの面で、ウォームアップと復習。このときは、写真で見てもフォームが今一歩。>

本人曰く

前回の講習で行った
①凹角の登り方

今回の講習で行った
②アックスが刺さったら、一度アックスから手を離し、通常のホールディングのように小指側で効かせること

の2つで、なんだか急激にフリークライミングっぽい登りが再現できるようになったようです。
<80度くらいの傾斜でガバ足も少ないので、基礎練習としては割とハードな面だが、ようやく長時間滞在できるようになった>

①凹角の登り方

これまでは、ひたすら「保持手に対してダイアゴナル気味の軸またぎを作る。」という連続だと感じていたらしく、単純作業の繰り返しのイメージがあったそうです。

これが、氷の形状によって、
●アックスの振りやすさ
●保持手のパワー消費量の省エネ
という2つのバランスを意識した足位置選択を考え始めたら、急激にムーヴが読めるようになったそうです。

そして、登る前のオブザベも、傾斜・凹角の有無・氷質の3点を見て、リードの大変さを想像できるようになったという感じです。
<しっかりした態勢なので、片手で高めにスクリューセットも可能>

②アックスが刺さったら、一度アックスから手を離し、通常のホールディングのように小指側で効かせること

これにより、未だに自分がアックスを握っていたことを実感できたようです。
ジムで行っている基礎練習のようなフォームが再現できるようになり、パンプの速度もここへ来て半減し、とにかく全てのムーヴが行いやすくなったそうです。
<凹角から緩傾斜に出るところ。氷質が悪いことが多いので、直前のプロテクションは慎重に。>

もちろん、これまでもフリークライミングと共通するコツを講習してきました。

●レスト技術
●リードのリスク管理方法
●片手フリーのときは腰を入れて胸を開く
●ダイアゴナル気味の軸またぎがオススメな理由(アックスを振りやすいバランス作り)
●足デッドを避ける練習(逆三角形、など)
●アイゼンを蹴り込む方向(クライミングシューズのような、足置き後の「膝の方向転換」が難しい)
など

もちろん、アイス特有のコツもちょっとずつ説明してきました。

●靴紐の調整
●アックスの振り方
●アイゼンの蹴り込み
など
これらが統合されて、
「アイスも、結局フリークライミングと大体一緒なんだな。」
と感じられるタイミングが、ようやく来たようです。

私から見ても、前回でリードのプロテクション戦略が良くなって、今回で足運びやフォームがTGさんの本領が発揮されるように見えたので、「形になってきたな。」という感じが明らかに見て取れました。

今回はⅣ級〜Ⅳ級+程度のラインでしたが、ようやく「恐々のリード」ではなく、「パンプしそうでヒヤヒヤ」でもなく、普通にノーテンションリードになりました。

ここから、ちょっとずつ洗練させて、グレード向上を目指せる段階に入りましたね。
20日間近くのアイス講習期間を、長いと捉えるか、短いと捉えるかは人によりますかね。

TGさんのフリークライミング能力であれば、これを洗練させることでⅤ級のノーテンションリードまでは、確実に上達できると思います。

是非とも、頑張ってくださいませ。
<スクリューをまめに取って、ビレイしていても安心できる>

●Ⅴ級のイメージ
例えば、「80度、凹角なしで8mぐらい続くセクションがある。」など、ある程度のパンプしないで登る技術が必要。
当然、その8mの中で何本もスクリューセットをする必要があるため、セット態勢の技術も問われる。

※グレードは相対評価なので、70度主体や凹角主体でも40mのロングピッチだからⅤ級、完全な垂直(90度)が4mだけで途中のスクリューセットは1回だけのⅤ級、とかもある。

※顕著な凹角があると、たとえ90度(完全な垂直)でもパンプしにくい。また、スクリューセットも容易になる。

※70度程度だと、凹角が無くても最低限のレスト技術があればレストで粘りやすい。

2025年3月7日金曜日

5月分の予約受付

3月10日(月)の夜21時より、5月分の予約受付を開始いたします。

●ジム
これまで通り、定期講習も含めて講習場所はランナウト・ストーンマジックなどに変更可能です。
最初に申し込んだ方の希望になるべく合わせますので、メールにて希望を教えてください。


●変更点
ジムリード講習は①〜③のクラス分けでしたが、今後は②と③を統合します。

リード① エイトノット、クリップ、ロープ畳み、ATCを落とさない方法、墜落距離の計算の初歩編、などのリードの基礎技術を学ぶ

リード② 落ちる練習・止める練習を通して、受け身姿勢、クリップのタイミングの安全上の重要性、ダイナミックビレイ、ビレイの立ち位置などを学ぶ
     実践本気トライ(フォールする可能性の十分にあるルートを、テンションギブアップなしでトライする)

※どちらも、前半の時間をムーヴの安定性を高めるための基礎練習の時間に充てています。ある程度は安定できてくると、私の言っているリスク管理方法(例として「レストしながら考える習慣」、「スタティック主体で動き、勝負所でデッドする習慣」)が身に染みて理解できるためです。
そのため、リード講習に進級後もムーヴ講習を継続的に受講してくださる方の場合は、その後の進級がスムーズになる傾向にあります。

では、どうぞよろしくお願いします。

2025年3月5日水曜日

行きつ戻りつによるルートファインディング

マルチピッチでは、ラインが複数通り考えられ、どれがベターかは「行ってみないと分からない。」というケースが多いです。

右上するのか、直上するのか、左トラバースしてから直上するのか?
といった具合です。

実際、「違うな。」と思って、分岐点まで戻り、リスタートすることも多いです。

この作業に、気持ちが負けてしまう人は結構多いと思います。
<最近行った、城ヶ崎ボルダー。そこに居た強い人。>

当塾の講習では、こういった状況を念頭に置いて、「易しいセクションは、戻れるムーヴで登ること」というコンセプトを徹底的に練習しています。

マルチピッチリード講習まで受講している人であれば、当然理解していることですし、ボルトルートやクラックでも、プロテクションが取れない(落ちてはいけない)セクションでの行きつ戻りつは相当数を経験してきているはずです。

しかし、「やっぱりこの状況は嫌だ、避けたい。」という気持ちも理解できます。
具体的に、どの辺が嫌なのでしょうか?
<湯河原での岩場リード講習>

①ムーヴの選択肢ではなく、ラインに選択肢がある

前者であれば、数歩の行きつ戻りつで絶対に落ちそうもないムーヴ探しをすれば良いです。
典型的には、ボルトルートの1本目が高い場面、ボルト間が遠い場面、など。

後者の場合は、「ラインが違った」と思ったら数メートル以上のクライムダウンが必要になります。
いわゆる、「リードしながらの偵察」ですが、これを複数ラインに対して行うのが、精神的にもキツいという話です。

また、クライムダウンをする際に、プロテクションが取れるなら回収しながら戻るのにある程度の時間を要します。
一方で、ノープロテクションでの行きつ戻りつであれば、相当に易しくても(岩場の5.6、Ⅳ級程度のセクション)相当な緊張を強いられます。

さらに、数メートル分のムーヴを暗記しながら登るのは極めて困難なので、最低限覚えておくべきホールドとかスタンスを、完全なる自己責任で選択する必要があります。
<プロテクションの悪い1P目をリードするYZさん>

②失敗した場合
ボルトルートで1本目が高い場合の行きつ戻りつは、失敗した場合は大怪我というケースが多いです。
一方で、マルチピッチのノープロセクションは、失敗した場合は死亡というケースが多いです。
③その他
マルチピッチの高度感・ロープワーク・時間管理に不慣れであるため、「そこまで頑張らなくても・・・」という気持ちになります。

実際、本気トライという観点では、ショートルート(1ピッチのルート)の方が遥かに集中して取り組めます。
<2P目の出だしが、まさにラインが複数通りあって悩ましい状況>

こういう状況に、ISさんは苦手意識があり、YZさんは「山って、そういうもんでしょ。」という感じの受け入れがありました。
この差は、どこから来るのでしょうか。

A)興味の主体がショートルートなのか、ロープを使用する登山なのか。

山では、歩きとクライミングの中間ぐらい(5.4、Ⅲ級ぐらいなど)をノーロープで通過したり、数十メートルをノープロでリードすることもあります。
「これを安全にこなせないと、山では話にならない。」という意識があるのも理解できます。

B)リスクに対して悲観的に色々なことを想定する習慣(「戻るときにムーヴが分からなくなったら・・・」など)なのか、楽観的な習慣(「行き詰まったら、戻れば良いでしょ。」)なのか。

C)戻れるムーヴを組み立てるスタティックな能力、安定感、戻るために暗記すべきポイントを選択する能力、などの基礎技術。(当塾で、最も重視しているムーヴ能力の1つ)
なかなか興味深いのは、Cの能力には大差ないように見える点です。

強いて言うなら、スタート時点ではYZさんのムーヴが雑だったので、私から「もう少し丁寧さを思い出して!」と指示を出し、その結果として2人のCの能力は同程度に見えました。
仮に、私が居なければISさんの方が安定したムーヴで登っていた可能性が高いです。
ただ、YZさんの方が体幹が強そうなので、同じムーヴを選択してもグラつきは少なそうです。
両方の要素を勘案して、Cの能力は五分五分かなという私の評価です。

AとBは、能力というよりも興味とか性格に近いものですね。
2人が対局とまでは言いませんが、グラデーションの割と離れた地点にいるように思えます。
ある程度は楽観的でないと山は楽しめない気もする一方、楽観主義のリスクは否めません。
また、経験を積むほどに事故例を身近に知っていくため、一般的にはベテランほど悲観的です。

この話って、「もっとこうした方が良いですよ。」という単純明快な終着点が無いですよね。

究極、「自分を知りましょう。そうすれば、基礎練習中やリード中に意識することも少し変わって来ます。」ぐらいでしかありません。
でも、こういうことを考えずにいられないところが、山とかクライミングの面白さだなと思っています。