2026年3月28日土曜日

クラックの固め取り

クラックにおいて、プロテクションの固め取りという戦術があります。
1つのプロテクションが抜けても、直近のプロテクションがバックアップとなり、事故を免れる方法です。

プロテクションセットは、ヒューマンエラーをどうやって防ぐか?という戦いです。
もちろん、正常性バイアスとか、焦りとかへの対処も大切ですが、二重化というのは最もシンプルな対策です。

過去にも何度も書いており、さすがに書き飽きた感もあったのですが、未だに講習生とのディスカッション主要議題の1つです。

様々な観点がありますが、今回は網羅的に行きたいと思います。
<久々に岩場講習のMさん>

①具体的な戦略

A)核心部に入る前に、2つ連続して取る。
B)プロテクション間隔を短めにすることにより、結果的に固め取り相当にする。

Aは、核心前でしっかりとプロテクションセットできるルートで有効です。
Bは、難しさが連続するルート(例、ジャミング真っ向勝負の持久系)で有効です。

Aの場合は、ボルトルート並みにはランナウトすることを許容することが多いです。
Bの場合は、ジム程度、またはジム以上にプロテクション間隔を短くすることが多いです。(長いルートの後半は、もっと間隔を伸ばす)

そのため、Bの方が恐怖心は小さく抑えられます。
ただ、それはメリットでもあり、デメリットでもあります。
例えば、Bで最終プロテクションが腰(トップロープ状態の上限付近)でも、1つ下のプロテクションは足首というケースです。

この場合は、「いつでも、テンションギブアップできる」、「落ちても、ほとんど落ちない」といった安心感はあり、1つ下のプロテクションが足首であることが意識の外になりがちです。
特に、ルート下部では固め取りの意味が無くなってしまうミスが散見され、下地が悪いルートでは重大事故に繋がりやすいです。

かと言って、難しさが連続するルートでAを選択すると、ジャミングやフットジャムの場所を埋め過ぎてしまうという問題も発生します。

つまり、AとBの使い分け、Bを選んだ場合の1つ下のプロテクションからのランナウト意識、という2つの問題は、大変ですが永遠のテーマとなるかと思います。

<城ヶ崎、クラックリード講習>

②固め取りをすべき場面

A)できれば、常に
B)自分が落ちる可能性があると感じた場面で

これは、Bが一般的だと思います。
ボルトルートでも、そのルートに取り付く人なら当然安定して登れそうなセクションはランナウトしており、絶対に墜落が許されないケースがあります。
同様に、クラックでも本人が落ちそうもないと感じるのであればプロテクションは不要というのが一般的です。

また、ごく僅かにスリップフォールや岩が欠けるリスクを感じる場面では、念のために1つだけプロテクションを決めるというケースもあります。

つまり、「固め取り、1つだけ、プロテクションなし」の3択をしながら前進していきます。

私自身の例を挙げます。
多くの講習生の場合、これを3〜4つぐらいグレードを下げて読み替えると、私と近い考え方になるかと思います。

5.8ぐらいのクラックだと、プロテクションなしで進む距離も長いです。
少々バランスを崩してもジャミングで落ちそうも無いと感じていたり、チムニーで落ちそうも無いと感じているケースが多いからです。
また、クライムダウン敗退の余裕もあります。
ただ、所々に不安箇所がある(万が一のスリップ、など)ので、カムを決める場所が出てきます。
多くの場合、固め取りまでは行いません。(グレードの辛さ、苦手系などで不安を感じれば、別です。)

5.10前半のクラックでは、大抵の場合は核心部で固め取りを行います。
核心以外は、プロテクション無しで進む場所もあり、カム1つで進む場所もあり、という感じです。
3つの使い分けが、最も分散するグレード帯だと感じています。

5.11a以上のクラックでは、ほとんど常に固め取り状態になります。
非常に持久力の要求されるクライミングになりますが、これをしないと怖くて登れません。
所々、易しいセクションが出てくれば、他の2つの作戦も使用します。
もちろん、5.11以上のクラックでも、半分以上は5.10aというルート構成もあり、対応策はルート毎に異なります。

(こういう事情もあり、私は5.10後半以上のクラックは十二分に難しいと感じている)
<カムで落ちる練習 & エイドダウン敗退の練習>

③いわゆる核心部ではなさそうだが、不安を感じた場合

原則、固め取りを行います。

直前にムーヴが読めなかったが、突破してみたら余裕だったというケースも多いです。
それで毎回固め取りなんてキリが無いと思う方もいるでしょうが、不確定要素への判断は安全側に寄せる必要があります。

直後のムーヴ自体はカム1つでも良さそう(ムーヴで落ちる可能性は、ほぼ無い)だが、突破した後にカムセットできずにギブアップフォールする可能性(もしくは、それが怖くてプルプルしながらカムセットを頑張っている自分の未来)が想定されるケースもあります。
これも、固め取り推奨です。

この観点は、オンサイトトライをする上で非常に重要です。
これを面倒くさがる人は、トップローパー(この場合、トップロープリハーサルをしてからリードしたがる人)への道を辿るか、単なる怖いもの知らずだと思います。
<アドバンスクラック講習1日目@城ヶ崎ボルダー>

④あえて固め取りをしない戦術をどう考えるか?

完全にボトミングでカムが効いたケースなど、「これが抜けるぐらいなら、もう何も信じられないよ。クライミングなんて辞めた方が良い。」と感じることもあるでしょう。
その場合は、1つで突っ込むことも考慮に入れます。
ただし、私は可能な限り固め取りを探し、固め取りが非常に難しいケースに限ってリスク受容しています。

また、地面から非常に近く、下地も平らな土などのケースでは、最悪グランドしても怪我の程度が比較的マシという判断で、カム1個で突っ込むこともあります。
<洞窟ボルダー>

⑤「カムが足りなくなるので、固め取りを避けたい」という心理はどう考えるか?

物量作戦、バッククリーニング(クライムダウンなどして、手前のカムを回収して登り直す方法)、どちらも非常に持久力が要求される作戦です。

どちらも出来ない(疲れて登れない)のであれば、自分にはそのルートにトライする資格なし、と考えます。
持久力と安定感を磨いて、出直しましょう。
<アドバンスクラック講習2日目@城ヶ崎の「あかね」>

⑥ワイドクラックの「ズラっしんぐ」
 
5番以上のサイズでよくある、カムをズラすことによってプロテクション位置を変える方法があります。
私も許容していますが、ズラしたらカムがスタックしてしまった(しかも、フレアー部分とかで効きが不安あり)などの怖い目に遭ったこともあります。
また、ズラしている最中はノープロテクションの状態となるため、ムーヴが完全に安定している必要があります。

その際は、同じサイズのカムを2つ持っていき、2つを交互にズラしていく(上の6番をさらに上にズラす、下の6番を上のカムを追い越さない程度に上にズラす)という方法をよく使います。
これであれば、「ズラっしんぐ」の最中でもカム1つは効いており、ムーヴ中は固め取りされている状態です。

あるいは、途中で出てきた他のサイズのカムが効く場所を最大限活用し、バックアップにする方法もあります。特に、ルート全長が長い場合は、それだけでも死亡・重大事故の可能性が防げることもあります。

前述のグレードイメージの通り、自分にとってほぼ安定して登れそうな課題では、そこまでせずに5番、6番を1つずつしか持たずに、通常の「ズラっしんぐ」を許容することも多いです。
<ISさんのリクエストにより、振れ止めありのフィックスロープ練習>

「そこまで手間をかけていたら、登れる課題も登れなくなっちゃう。」と思う人もいるでしょう。
あるいは、「そんなこと考えるなんて、無理じゃない?(オブザベであれ、トライ中であれ)」と思う人もいるでしょう。

ただ、やっぱりカム抜けで死んだり、大怪我をしている人は結構おります。
<初ユマグリのYIさん>

あなたのリードそのもの・カム抜け・墜落姿勢に対する恐れが、あなたのリスク管理能力を高めるエンジンとなってくれることを願います。

その恐れが、トップロープや、強い人に連れて行ってもらう、などの思考停止の方向性に行かないように、細心の注意、深い洞察力が必要です。
<本日の講習は、作業系の練習に絞って>

<クリップだけで振れ止めにしたり、ロープを固定したり、色々やってみる>

<ハング越えに苦戦するYIさん>

<トラバースに苦戦>