残念ながら、講習中に怪我を負った講習生は何人もおります。
中でも、「リードで落ちる練習」はリスクが高めです。
<結び替えの練習>
個人的には、「リードの落ちる練習」はリスクの前借りという側面があると感じています。
「リードに不慣れな人にフォールさせる訳なので、着地ミスなどで怪我をする可能性アリ。」
という話です。
落ちる練習により、
・墜落距離の計算に現実味が湧く
・フォール姿勢への慣れ
・落ちたらいけないセクション、手繰り落ちの危険さが身に染みる
・ビレイ技術に現実味が湧く
など、様々な効用があります。
また、「ここでのフォールは、さすがに怪我しないでしょう!」という自信があるからこそ、勝負の一手が出せます。
だからこそ、テンション癖がこびり付く前、なるべく早期の段階で落ちる練習をしてもらいたいものです。
<午前中のムーヴ練習>
一方で、落ちる練習のリスク管理をすることは、非常に難しいと感じています。
講師がコントロールできるもの
①墜落距離
一般的に、墜落距離は「2X+α」(最終プロテクションからの距離の2倍、+α)で表されます。
初級者であれば、X=50cm程度(ハーネスの腰とクリップ済みカラビナの距離)で落ちることが問題なくなれば、ジムでは本気トライが楽しめそうです。
ジムの中級グレードや岩場リードを見据えると、X=80cm程度までは落ちられると、だいぶ楽しめます。
また、トラバースに関しては、X=0で構わないので、100cm強のトラバース(ジムで隣のボルトラインに入るぐらい)で振られ落ちするぐらいは、あまり恐怖心を感じないぐらいまでに慣れると良いでしょう。
講習の初期段階では、X=0(トップロープ状態)から初めて、少しずつ距離を増やしていきます。
<やわらかソラマメ(5.8?)>
②壁の傾斜
一応、ハングしている方がフォールは易しいのです。しかし、多くの講習生はハングのガバガバルートを登るだけで疲労するため、講習生がXの距離を考える余裕がありません。
そのため、理想は垂壁ガバガバルートだと考えています。
とはいえ、様々な事情(講習生の能力、ジムの空いている壁、垂壁にガバガバルートが無い場合、など)からスラブで行わざるを得ないこともあります。
特に、岩場では垂壁ガバガバルートは滅多に存在しないため、原則としてスラブでXの距離を小さめに抑えて行います。
<ロングロングアゴー(5.10b)>
A)フォール姿勢
もちろん、フォール姿勢は教えますが、講習生はある程度の確率で失敗します。
「ハーネスに腰掛けるように。」
「足は壁を押すために、少し高めに。」
「懸垂下降の姿勢。」
「オートビレイで降りる際の姿勢。」
「ロワーダウンされる際の姿勢。」
「スタンスに頼らず、コンパネでも押せるぐらいの足の高さを意識する。」
などと、様々な表現があります。
また、「テンションを掛けた状態で後方にジャンプを繰り返して着地姿勢に慣れる練習」などの独自メニューも色々とあります。
さらに、トラバースの振られ落ちでは、可能な限り「振られる方向(最終プロテクションの方向)に腰(おへそ)を向ける」と言ったアドバイスをすることも多いです。
しかし、こういった「動き」へのアドバイスは、1回聞いて納得しても体現できるものではありません。
数百回のフォールの中で、慣れて行く必要があります。
スクワットの能力、骨密度です。
・低めのボルダリングジムで、ゴール落ちができる。
・テント装備などを背負って、冬山登山ができる。
のどちらかが可能な脚力であれば、問題ないでしょう。
※「スクワットのフォームが悪いと、長期的には膝を痛める」と言った話は、一旦脇に置くとして
スクワットのフォームのコツなどは、ある程度は伝えられます。しかし、姿勢矯正みたいなおのなので、一朝一夕には治りません。
骨密度に至っては、クライミング以前の生活習慣によるところも大きいでしょう。
ほとんどの場合、講習生の「もともと持っている能力」に依存して落ちる練習を実施することになります。
最終的には、「講習で落ちる練習するんだから、大丈夫でしょ。」という気持ちもあるかと思います。
私もある程度はリスクを考えてメニューを組んでいるので、信頼してもらいたいし、その信頼の上に講習生が踏み出せる一歩もあります。
しかし、リスクがあるのも事実です。
具体的に、事故が起こりそうなパターン(実際のものを含む)を考えてみます。
⚫︎「この講習生は、このぐらいの距離なら、フォール姿勢は問題ないだろう。(絶対ではないが、リスク低い)」と、私が判断したが、実際には着地姿勢を大きく失敗した。
⚫︎「Xが50cm以下なら、フォール姿勢を少々ミスっても怪我をしない。」という経験則はあるが、その講習生の骨密度が低かった。
⚫︎「本日は、Xが30cm以下のフォールだけを練習してください。」と私が指示していたが、講習生がうっかりX=100cmでフォールした。
⚫︎「手繰り落ちは、絶対にしないでください。」と私が指示していたが、講習生がうっかり手繰り落ちの練習もするものだと勘違いして、意図的に手繰り落ちした。
⚫︎講習生が、何か他のことを考えたり、講習という安心感に惑わされて、フォール姿勢を意識せずに落ちた。
そして、実際には単一の条件で事故が起こるとは限らず、複数要素が絡んでいる場合もあります。
落ちる練習は、やっぱり必要なので止める気は全くなく、ムーヴ講習と並んで当塾の根幹をなすメニューだとすら考えています。
講習生におかれましては、用心深くメニューへの参加をお願いします。
もちろん、「今日は体調が悪い」、「今日は頭がボーッとする」などの理由で、落ちる練習や本気トライの辞退(別メニューを私に依頼する)を申し出ていただくことは、全く問題ありませんし、数多くの講習生がそのようにされています。
体調の良い日に、改めて行いましょう。
用心深さは、落ちる練習に留まらず、実際にリードやボルダーで「落ちそうなとき」に考慮すべき項目への気配りです。
落ちる練習が不十分な人は、本気トライもダメダメです。
そして、この「リードクライミングの用心深さ」が、巡り巡って滅多に落ちることのないマルチピッチや登山におけるリスク管理にも役立つと思います。