2018年5月25日金曜日

ビレイ点崩壊は死の香り

5月24日(木)は、マルチピッチリード講習にて、小川山。
女性HMさん、男性SGさんのペア。
<取り付きにて>

マルチピッチにおいて、複数支点を連結して、ビレイ点を作ることについて。

流動分散か固定分散か、みたいな連結方法の話ではありません。
そもそも、各々の支点の信頼度に関して。
<1P目>

状況を分かりやすくするために、カム3本とします。
(1本では不十分と感じる潅木、ナッツ、ハーケン、冬山の支点各種、なども全て同じですが。)

ここで、1つ目のカムがバチ効き、2つ目もほぼ自信あり、3つ目が不安とします。
ここで、無理やり感覚を定量化してみます。

リードの墜落など、動荷重でカムがしっかり止まる、という可能性に置き換えます。

1つ目:99.9%
2つ目:90%
3つ目:40%
<立木でビレイ>

すると、ビレイ点の崩壊は3つともが抜けた場合のことなので、
0.1%×10%×60% = 0.006%

という評価になります。

イメージとしては、命を掛けたリスク分散です。
<楽しそう>

2つのバチ効きカムならば、どちらも99.9%で止めてくれると評価しています。

0.1%×0.1% = 0.0001%
と評価します。

そんな訳で、バチ効き2つのビレイ点は、生半可な3点や4点よりも信頼度は高いと感じています。
<2P目>

ちなみに、この感覚的な議論には突っ込みどころ満載です。

①抜ける確率を評価できるのか?
カムに限って言えば、クラックで実際に本気トライを繰り返す人であれば、ある程度は大丈夫だと思います。

ちょっと不安なカムで落ちたときに、「いやはや、ちょっとフレアしていたけど、案外止まるもんだね(汗)。まぁ、1個抜けても下のは自信あったんだけどさ。」と言った経験をするものなので。
もちろん、「あー、やっぱ抜けるよね。」と思うこともあります。

ハーケン、アイスクライミングのスクリューとかだと、ちょっと経験が積みにくいとは思います。
<岩稜帯に出た>

②ビレイ点は、動荷重用のリスク評価が必要なのか?静荷重用で十分では?

これは、難しい問題です。
ビレイ点に命を託す場面を、3つ想定してみます。

A フォローのフォール
これは、静荷重+αになるでしょう。
ただし、1本目が抜けた場合は、2本目には動荷重になるでしょう。

B リードが1つ目のプロテクションにクリップする前のフォール
これは、動荷重です。しかも、いわゆる墜落率2というケースで、通常のプロテクションよりも大きな荷重になるでしょう。

C ビレイ点のセルフビレイにぶら下がる
これは、静荷重です。足場の良いテラスならば、体重の半分程度しか掛からないかもしれません。
ただし、セルフを延長した状態で足を滑らせた場合、1本目が抜けた場合、などは動荷重になります。

そんなことを諸々考えていくと、
「ビレイ点って、何事もなければ静荷重しか掛からないものだけど、動荷重でリスク評価しておいた方が良いだろう。」
というのが、私なりの経験則です。
③クライミングの難易度、ビレイ点を作るテラスの安心感、などによっては、やや信頼度の劣るビレイ点を許容できるか?

これまた、超難しい問題です。
どうしても自信あるビレイ点が作れず、フォローに「落ちんなよ。」と声かけしたことがある本チャン系のクライマーも多いことでしょう。沢でも、雪山でも。

でも、フォローというのはなかなかリードと同じ心持ちで登ることが難しく、リードでプアプロならば絶対に行きつ戻りつして絶対的な確実性を探るような場面でも、トップロープ的な気軽さが出てしまうかもしれません。
それ以前に、フォローにそういう声掛けできなくて、フォローは“知らぬが仏”でリスクに晒されることが多いような気がします。

ビレイ点が広いテラス、ってのも似たような難題です。詳しくは割愛しますが。

そんな訳で、
「絶対ダメ、とも言えない。ただ、ほとんどプロテクションを取らずに進むようなピッチでも、ビレイ点だけはなるべく手を抜かない方が、大抵の場合は吉。」
というのが、私の経験則です。
<本日は、ここで降りましょう>

リード中のプロテクションは、本人さえリスクを許容できればランナウトしても良いと思います。
ただ、ビレイ点や懸垂支点は、パートナーの命も託すことになります。

そう考えると、経験を重ねるごとに安全基準は厳しくなってくるような気がします。
<懸垂下降>

いつも同じような話をしているのですが、相手によって色々と教え方を変えたりしているうちに、自分の理解も洗練されるものですね。
何回か似たような話は書いていると思うのですが、ちょっとずつマシな文章になっていると感じます。