2025年6月6日金曜日

マルチピッチのレスキュー講習

ここ1ヶ月半ほどバタバタしていたので、まとめて色々と更新しています。
これで、ようやく最近の写真は使い切りました。
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STさんの呼び掛けで、マルチピッチのレスキュー講習を行いました。

対象は、マルチピッチリード講習の卒業者。(アドバンスマルチは、未卒業でO.K.)
「意識付けのために、1年に1回だけでも毎年やろう!」というSTさんの声がけです。

マルチ卒業生で興味をもった方は、是非お問い合わせください。
<越沢バットレス2P目で、リードがフォールして負傷したという設定>

1日目は、ストーンマジックにてロープワーク講習。

マルチピッチリード講習で教えるような基礎、懸垂下降の登り返しまでは、「一応はできる。」という前提で、一般的なロープレスキュー手法を確認していきます。

※実際は、結構忘れている部分が大きいと思うし、習熟度の問題もあります。上記の基本も、復習受講して欲しいとは願っています。

・リードビレイからの脱出
・ムンターヒッチの仮固定
・セカンドビレイからのロワーダウン
・介助懸垂
・引き上げ
など。

1日で講習しても全然反復の時間が無いのですが、とりあえず手持ちの選択肢を増やしていただく、という程度です。
普段のロープワーク講習なら、上記1つを選んで様々な検証作業などを行うところですしね。
ただ、一応はマルチ卒業者対象なんで、山岳会とかで頼まれる団体向けレスキュー講習よりは理解してもらえていると感じます。
来年以降も継続実施の予定なのが、私としても救いですね。

あと、一番厄介なリードレスキュー(ロープ半分以上出たリード中に、リードが負傷して云々・・・)には今回は触れません。
<とりあえず仮固定して、今後の方法の検討に入る2人>

2日目は、越沢バットレスで実地訓練です。

あまりにビショビショだったので、1P目は私がリード。
2P目を途中までリードしていただき、フォールしてカムが抜けて負傷、という想定でロープにぶら下がってもらいます。
<傷病者役も、声の届く範囲にいるので、一緒にプランニングが可能>

今回の設定

①傷病者
・右足が非常に痛い(荷重不可、曲げるのも不可、押すのも痛い)
・動いてみたら左肩が痛い(その腕でホールドが引けない)
・若干のパニック気味(見えないところで、一人でロープ作業などをさせるのはリスクが高い)
★上記3点以外は、おおむね元気

②壁の状況
・壁には、残置支点が一切ない。
※「残置無視で登っていたが、事故後は残置利用に切り替えて脱出にフォーカス。」という非常手段は使えない壁。

・天候、時間帯、アプローチ、携帯の電波状況、などは全て現場の通り。
<リードに使用したカムの回収に向かうSTさん>

解法は、もちろん色々あると思います。
3人パーティ設定なのも、選択肢に幅を広げます。

今回の方々は、「どうにか傷病者をビレイ点に引き戻し、介助懸垂して地上に降りる」という流れを選択しておりました。

その際、傷病者の緊急度(ショック症状が出ている、低体温症が出ている、などの時間的制約が大きい)は低いという設定で、日没までも十分に時間があったのでリードに使用したカムはクライムダウン回収していただきました。
<まずは、トップで1人目が懸垂下降>

今回3人が選んだ方法は、効率面でベストではないと思います。

その一方、兎にも角にも「自力で問題を解いた。」という経験で、得るものは大きかったのではないでしょうか。
※作業中に小技・リスク要素などのアドバイスはしますが、「なるべく大方針には口を出さない」というのは、マルチ講習・読図講習・雪山講習などと同じスタイル。
<残りの2人が、「トップが設定したロープで介助懸垂する」という方法を選択>

まだ日暮れまで時間もあったので、取り付きで反省会を1時間ほど。
それからアプローチも救助訓練をやりたいという話で、頑張って2時間ほどで林道まで戻りました。
<背負って渡渉したり、3人パーティなのを利用してロワーダウンしたり、色々大変>

ちなみに、足を骨折していたと仮定すると、本来は固定して担架搬送がセオリーになります。
そうなると、3人パーティでは不可能なので、周囲に助けを求めるか、救助要請になります。

ただ、「正直、この状況なら僕なら背負っちゃいますねー。」というSTさんの意見もあり、「じゃぁ、どこまで現実的に可能か、実際にやってみましょう!」というのが後半の講習内容。

実際、
・渡渉、鎖場などで、リスクも実感。
・ロープ確保の有効性と限界を実感。
・傷病者が脚をぶつけて悪化しそうなことを実感。
・背負う人、傷病者、サポートの人、などの心情や動きの難しさを実感。
・講師から、背負いやサポートの小技アドバイス、焦りで妥協しがちなリスク要素諸々の説明。
などと盛り沢山で、充実しました。

どの程度のアプローチまでなら背負い搬送が有効か、などの判断材料にもなったかと思います。

ここまでの想定訓練をやる機会は、なかなか無いですよね。
普通は、背負い搬送も30分とか運んで終わりだし、本当にロープ確保が必要な状況で訓練するのはリスクもありますから。

今回講習した技術は、どれも習得までには時間が必要で、正直すぐに忘れてしまうものが多いとは思います。
ただ、とりあえず「実際は、こうなるのか!」というイメージが深まったのは、第一歩としては良かったかと思います。
<マルチピッチリード講習@小川山>

<メインロープによるビレイ点作成。こういう基礎も、やっぱり大切。>

<1P目>

<アドバンスマルチ@小川山>


<「めっちゃ、悪いじゃないですかー」>

<3P目のチムニー>

<リード交代>

弱点の克服に関して

弱点克服は、かなり難しいものです。

A:完全克服できるもの
B:身体的特性などを理由として、ほぼ不可能なもの
C:かなりの程度、軽減できるもの

まず、この3つに分けて考える必要があります。
キャリアの浅い人は、Aを何個も克服することで目に見える成長を実感し、さらにモチベーションを高める傾向にあります。
ベテランは、Cを考えざるを得ません。ただ、考える要素が豊富で、ベテランだからこそ楽しい分野かなと思います。
<城ヶ崎の橋立で見つけたインバージョン課題、まさかの完登を決めたFZさん>

A:完全克服できるもの

例)
・ハンドジャムが全く効かなかった → 垂壁ぐらいなら大ガバに感じるようになった
・チムニーが全然ダメだった → 5.8ぐらいだったら、割とスイスイ行けるようになった
・懸垂が全くできなかった →連続5回ぐらいならできるようになった
・足置きが酷すぎた → 爪先周辺でスタンスを捉えられるようになった、低グレードなら足音が立たなくなった、など
・柔軟性が無さすぎた → ストレッチしたら、運動していない人の平均よりはマシになったと思われる
・全くオブザベできなかった → ジムならば、ある程度まで読めるようになった
・リードで全く落ちることができなかった → 膝下程度までなら落ちられるようになった

例は、
〇〇(全然ダメな状態) → 〇〇(初級レベルであれば、あまり問題にならない程度に解決済み)
という感じで書いています。

問題は、「この→に相当する部分で、何をやるか?」ですが・・・。
自分が継続しやすく、トレーニングとして合理的な方法を探す必要があります。
ここが自力解決できそうにない方は、是非とも講習へどうぞ。

もちろん、これらも練習を継続すれば、弱点どころか強みに変化します。
※「初級者の割には、〇〇は得意な方だ。」といった具合。

B:身体的特性などを理由として、ほぼ不可能なもの

例)
小さい人には、絶対に不可能なムーヴ。
大きい人には、絶対に不可能なムーヴ。

典型的には、以下です。
●小さい人には、絶対に届かない位置にスタートホールドがあり、何らかの事情で地ジャン不可。
●大きい人には、絶対に通り抜けられないトンネル。

<同じく、橋立で見つけたルーフクラック>

C:かなりの程度、軽減できるもの

これは、考察が難しいです。
例えば、僕の場合は185cmなので、狭いムーヴは不利になります。

まずは、一般論。
手足の距離が近いと壁から身体が離れるため、保持力が一層必要になります。
しかし、大きい人は体重が重い傾向にあるため、保持力の強化に重点を置いたトレーニングは指の故障リスクが高過ぎます。
※極端な例として、狭いカチ課題をイメージすると分かりやすいです。
※実際、私は若い頃に指を盛大に壊しており、指には不利を抱えています。

「じゃぁ、狭いムーヴはもう無理なのか?避けて生きて行くしかないのか?」
と考えてしまうと、なんだかクライミング生活が暗くなります。

次に、ある程度まで弱点をカバーする方法を考えます。

①体幹を強化して、ガバならば狭くてもグラグラしないようにする。
②指の力ではなく、ホールドを効かせる圧力(スローパー対策の圧力)の強化により、カチでもある程度までは保持できるようにする。
③ヒールフックなど、一般的に狭いムーヴ対策として有効と言われるムーヴに習熟する。
④片足は切ってフラッギングする、他人より1つ下の足からランジする(巨人でありながら、あえて距離出しで補うという発想)、凹凸を利用してニーロックなどの多用、などの他人とは異なるムーヴ選択肢を強く意識する。
⑤リードであれば、その他の部分の省エネを強化して、狭いムーヴでの消耗を補う。

まぁ、これらの大部分を封じてくる課題もあるのですが・・・。
・手がカチで、狭い。
・足が悪く、重心の選択肢が少ない。
・ヒールに適したスタンスが無い。
・SDスタート、低空トラバースなどで、片足を切ると地面に付いてしまう。
といった要素が3つ4つと並ぶと、「強くなってから出直させてください!」という状態になります。
この場合、①や②を僅かずつ強化して、数年後に再トライするしか無いかなと考えています。

この考え方は、小さい人にとってのリーチ不利問題、クラックのサイズ不利問題、もともと運動神経に自信がない人の努力方法、などへの応用が可能です。

ときどき、「リーチ不利な課題の対策を教えてください。」みたいな質問をされるのですが、この構図なので、「初心者への説明が複雑すぎるなー。」と感じます。

「不利な課題は、不利。」
「どうにかする方法は、課題による。(保持、足置き、体幹、ダイナミックムーヴ、別ムーブの発案、柔軟性、などなど)」
「不利さを軽減する一般的なトレーニング方法を私から提示するのは現時点では時期尚早なので、目の前の課題ごとに頑張ってください。」
「現時点の講習では、課題ごとの有利不利は一旦置いておき、誰にとっても必要な基礎トレーニングをしていきましょう。」
という回答が、精一杯です。

問題は、
根本解決は不可能だが軽減できそうな弱点 → 上記①〜⑤に相当する改善案の導出 → 実行&継続
という流れをどこまで作れるか、という話です。

あまりにも頭を使うし、根気も必要です。
例えば、講習生のレベルであれば、Aを中心に克服していき、Cはムーヴとトレーニングの理解が進んでから開始する方が現実的な気もします。

実際、①〜⑤のうちの半分くらいは、他の弱点を克服する際にも多少はやることになります。
そうすると、キャリア5〜10年目には相当なムーヴ理解度になっているはずなので、それからスタートしても良いかなと。

キャリア10年でモチベーションがそこそこあれば10年先を見据えることは可能でしょうが、キャリア1年で10年先を見据えるのは相当すごい人だけな気がします・・・。
<こちらは、普通の課題>

最近、小川山のエイハブ船長(1級)がようやく登れました。

こちらは、
●15年ぐらい前に何日もトライして全然ダメ。
当時は、エクセレントパワーを目標にして、ボルダーだけを行っていた期間中。

●数年前にトライして割と良い感触だが再現性が低過ぎる。

という思い出深い課題で、核心のカチを利用し、ある程度までムーヴが起こせたことに感慨深いものがありました。
まぁ、他人との相対評価では永遠に弱点なのですが、自分なりの成長を楽しむゲームとしては、割と満足行く結果です。

GW合宿後半 2025

再びレスト日を挟み、クライミング3日目は甲府幕岩。
この日は、幻の右(ボルトルート、5.12c)をトライしたのですが、4トライして1箇所のクリップムーヴが解決せず、持ち越しになりました。

マスターでトライして、ヌンチャクだけは掛けられます。
「その体勢のバランスが悪いので、手繰り落ちのリスクが高過ぎるだけ。」という展開です。
そのため、3トライ目からはA0クリップして、トップアウトだけはしています。

ムーヴに関しては、再現性に難はありますが、一応は突破しました。

続きは、秋ですかね。
<1本目核心のルートで遊ぶ狂祖さま>

久々に、足首フォールや足元フォールを20回とかいうレベルで行い、これはこれで良い練習だなと思いました。

ジムリードだと、ハングドッグしても膝下程度までのフォールがほとんどですからねー。
私の場合、岩場でもオンサイト〜数トライの範囲での課題を好むので、ロングフォール経験は少なくなりがちです。

<「御座山はオグラサン」(5.12a)をビレイする狂祖さま>

再びレストを挟み、最終日(クライミング4日目)は桂くんと狂祖さまと小川山。

昔お世話になった塚越さんの5.11dの「スラブとフェースの中間ぐらいの傾斜」の課題を2撃になってしまい、なんとも力不足を感じます。
<無事にR.P.する桂くん>

ちなみに、「スラフェース」という概念がもっと一般的になったら便利が気がするんですが、どうなんですかね?

●70〜80度くらいで、「ノーハンド立ち込み」、「ノーハンドトラバース」に類する動きは、ほとんど無い。
理由:よほど条件の良いスタンスでない限り、後方に倒れてしまうから。

●垂壁同様に、ハンドホールドが必要。
ただ、後方への回転力が非常に小さいため、かなり特殊なムーヴが可能であったり、極小のハンドホールドに耐えられたりする。

60度以下とかでノーハンドに近い動きが連発する「The スラブ」(どスラブ)みたいなのと、「スラフェース」を分けて考えた方が、だいぶムーヴを理解しやすい気がします。

問題点としては、これだと岩場の高難度スラブの大部分が、「スラフェース」に分類されてしまいそうなことです。
ただ、私がよくやるぐらいの5.10〜5.11、8級〜3級ぐらいの範疇だと、両方が同じぐらいの比率で存在する気もします。

少なくとも、講習時はこの2つを明確に分けて説明した方が、講習生のスラブへの対応が良くなるように思っています。
実際、講習生にとって問題となるのは、5.9以下の「どスラブ」であったり、5.10前半のスラフェースであったりするので、
●ムーヴ中の意識も持ち方
●極端に苦手な場合の、基礎練習を行う考え方
も全く別になると思われます。

まぁ、ルートの途中で傾斜が変わったりして、両方の要素が出てくる場合もあるのは、当然あるという話です。
<「雨上がりは、意外と状態が良い」というマイブームを語る桂先生>

<フォックストンネル(5.10b)>

<ニャンドリー(5.11b)をトライする狂祖さま>

<よたきつね(5.11d)のオンサイトに失敗どころか、ここで何度もテンションする私>


<ニャンドリー、桂くん>

最終日に具体的に登ったルート
・クジラ岩周辺のボルダーで、色々とアップ。
ちなみに、スラブの4級が登れず・・・。
後日、再トライするも、未だに宿題。
現在、最も気になる宿題の1つ。

・フォックストンネル(5.10b、チムニー〜ボルトフェース) O.S.
チムニーのセクションまでは、NPとランナウトで登り、最終2本だけをボルト使用するというスタイルで登ってみました。
クラック好きには、こちらの方が自然だと思います。

・よたきつね(5.11d、スラブ〜フェース) R.P.(2トライ)
リボルトはまだ不完全で、核心部のボルトは錆びていました。
下から見える範囲がリボルト済みに見えたのですが、トライ開始してガッカリ、というパターンです。
これは初登者の責任ではないし、数本だけでもリボルトしてくれた方にも感謝しかありません。
ただ、現在の状況としては、よくあるトラップになっていました。

実際の判断:
1本下のボルトが近いため、ヘルメットなどの対策をしてトライする分には、核心部の最悪のボルト抜けでも大事故リスクはほとんど無いかなという判断でトライ続行しました。例によって、カムの固め取りと同じ理屈です。

ボルトが近いのは、小川山・瑞牆のような岩場だと「ちょっと緩いんじゃないのー。」という気持ちも湧く一方、こういう風にボルトに不安があるときは大いに助かります。
あと、ジム並みにボルト間隔で、恐怖感少なくガンガン落ちるトライを岩場でやるのも、ときには一興という気もします。
与えられた課題が求めるリスク管理要素に対して、なるべくポジティブな気持ちでトライするって感じでしょうかね。

参考:
ラインとしては、隣のニャンドリーに逃げられる(バイパスできてしまう)場所が何箇所もあるため、ボルトでラインを誘導しているルート。
ここが、唯一の残念ポイント。
とは言え、ムーヴは面白いので、タイミングあれば是非。

2025年6月4日水曜日

GW合宿前半 2025

もはや1ヶ月以上の時間が経ってしまいました。
7日間の合宿、1日目、3日目、5日目、7日目と登ったので、合計4日間のクライミングです。
<ちびまる>

1日目は、狂祖さまと瑞牆の黄金狂時代周辺のエリア。
僕は、このエリアは4回目ぐらい。

前回に来たのは、ヨセミテ直前でクロム1P目(ワイド系、5.11a)で、悲惨なまでの膝スタックを喰らったとき。

今回は、いよいよ「はやぶさ2」(ワイド系、5.11c)をトライです。
<クロム1P目>

何度も書いている気がしますが、ワイド系の5.11以上のグレードは、参考程度です。

垂壁の場合、サイズごとに大まかなセオリーがあり、「自分はちょっとサイズ的に有利(or不利)だけど、たぶん一般的には5.○○というグレードだろう。」というグレード評価に、ある程度の納得感があります。
そのため、「どこの岩場は甘め、辛め」とかを考慮しても、「5.10bなのに5.11aに感じる!」とかのバグはほとんどありません。
ほとんどアルファベット1つ(せいぜい2つ)程度の誤差です。

(個人的には、ワイドの5.10台は、アルファベット1つごとの格差が大きいと感じます。5.10aまでは技術主体のゲームという感じもありますが、5.10後半がフェースに比べて著しく強度が高い気もします。)

一方で、ハングしてくるとサイズの差があまりにも顕著になります。

●限られたジャミングポイントにハンドやフィストが効くか?
●膝は入るか?
●クラック外のホールド・スタンスに届くか?狭くないか?
●全身が入ってしまってチムニーとなり、ハングを全く感じない状況になってしまうか?
●ワイポイントのルーフ越えであるが故に、リーチがある人は核心が無くなってしまうか?
などなど。

極端な話、「5.11a〜5.12aのどこか」とグレーディングしたくなりますし、実際それに近い発表グレードもあります。
<クロム1P目を2撃する狂祖さま>

今回の「はやぶさ2」に関しては、おそらくは僕が有利になるというオブザベです。

ただ、フレアーしたセクションが何回かあり、ランナウト・固め取りの許容度が問題になりそうです。

具体的には、
「カムが足元なのに、ホールドが欠けそうで、ひっくり返ってフォールするリスクを感じる。」
「ランナウトする前に固め取りしたものの、下の緩斜面が割と近いため、複数決めたうちの一番上のカムが抜けたら大怪我しそう。」
「ランナウトして落ちられないが、実際にほぼ落ちそうにない。ただ、ハングしているので、1手1手は戻れるムーヴで構築していても、パンプして戻れなくなるリスクを考えて突っ込めなくなる。」
といった懸念事項があります。

これらは「クラックあるある」なのですが、パンプや体幹のヨレとの戦いの中で正常な判断を下すことは相当なプレッシャーです。
<野猿谷>

保守的な判断に振り過ぎれば、オンサイトトライなど形だけのテンション祭りになります。

突っ込み過ぎれば、事故リスクが飛躍的に高まります。
仮に登れたとしても、モヤモヤが自分に付きまとい、時を経るごとに「あれは登ったとは言えない」と感じることは、過去の経験からも明らかです。

ジムリードのオンサイトトライのようにスポーツ的に頑張るのも好きですし、余裕のあるグレードや傾斜でリスク管理的な登りをするのも好きですが、ミックスされた状況は判断ミスをしそうで一番嫌なものです。

そんな緊張の中、意を決してスタート。
何度もギブアップフォールがチラつきながも、思いがけずプロテクションが早めに取れる場面などに助けられ、息も絶え絶え1時間ほどでオンサイトできました。
<ルーフクラック>

リスク管理的にも、想定しまくった甲斐あって及第点かなと思います。
実際、多少リスクは取ったのですが、一応は計算範囲内かなと。

久々に、満足の行くリードの本気トライでした。
1日レストして、クライミング2日目は野猿谷ボルダー。

STさんも加わり、フェース・スラブ・クラックと色々と登りました。
STさんが見つけ、1時間ほど掃除して登ったルーフクラックが楽しかったです。
<STさん>

<足先行スタートでも遊んでみる狂祖さま>

140度くらいあるので、「通常の向きと足先行のどちらが楽なんだろうか?」という気もします。

クラック掃除の講習

クラックリード講習の卒業者を対象に、ときどき掃除講習を実施しています。
最初は、私から「掃除初心者向けのラインがありますが、いかが?」とお誘いしたものですが、特に気に入った方からは毎年依頼があります。

大体、1回か2回を講習で行い、残りの数日間はご自身で掃除を完成させていただく、というものです。

「掃除が経験として良い!」と思われるポイントは、大きく分けて3つです。

A:ルートに対する敬意が増し、クライミングの歴史の一部を実感できる。
B:オブザベ能力が上がる。
C:ロープワーク作業に強くなる。
<昨年、掃除講習で使ったエリア>

A:ルートに対する敬意が増し、クライミングの歴史の一部を実感できる。

①手間への敬意
割と手間の掛かるラインだと、FIXロープ設置、浮き石の撤去、土の除去、苔のブラッシング、などに数日間を要します。
掃除初心者、FIXロープ作業初心者である講習生ならば、その倍以上の時間が掛かることもあります。

その作業中に、一人黙々と物思いにふけることになるのですが、これがまた良い時間です!
②設計への敬意
お客さま気分で岩場に来ていると、「なんでここにボルト打たないの〜。」とか、「終了点の位置が高くて、小さい人への気遣いが足りないよ〜。」などと安易に発言しがちです。
(その発言に、一理ある場合もある・・・。)

しかし、実際に自分が作業すると、考えさせられます。

終了点を低くすると、終了点クリップは快適、ロワーダウン時のロープの擦れも少ないです。一方で、最後のマントルムーヴをやらない再登者が続出し、それが当たり前のルートになってしまいます。

よりナチュラルな岩場として、終了点の残置も残さないという方針もあります。
一方で、立木があっても、残置ロープに残置ビナを設置し、クリップだけでロワーダウンできる岩場にする方針もあります。

カムが効かないセクションにボルトを打つかどうかも、相当悩みます。
●核心部のグレードの割に易しいセクションか?
●スポート的なルートにするか、冒険的なルートにするか?(グラウンドアップトライを前提とする範囲内での冒険的ルートか?トップロープリハーサルを前提とするか?)
●小さい人でもマスタースタイルで取り付けるボルト位置か?
●脆い岩、などへの配慮。
<小さいエリア>

③開拓方法の違いを体感

1、オンサイトグラウンドアップ開拓
掃除前に、最初からオンサイトトライします。

ほとんど掃除不要のライン、汚くてもどうにかオンサイトできるぐらいのラインで行います。
脆い、汚い場合は、完登後にFIXロープを張り、数日間の掃除をして、多くの人に登ってもらえる状態になります。

2、グラウンドアップだが、エイドでFIXを張りに行く方法
掃除しないと完登できないレベルのラインで行います。
場合によっては、クラック内の土を掻き出しながらカムを決めてエイドして行き、とにかく作業用のFIXを張りに向かいます。

3、ラッペルダウンの開拓
岩場の裏から回り込み、懸垂下降でFIXロープを張ります。
掃除が完了してから、初めて自身でもトライをします。
ボルトを打つか迷うぐらいのラインだと、そのセクションを掃除してから最終判断をしたいので、必然的にこうなるかと思います。

上記3つの開拓方法を全て講習で体感してもらうには、最低でも3クールは受講してもらう必要があります(笑)。
B:オブザベ能力が上がる。

①登るラインの選定

最初は、私が「このラインとかは、いかが?」と数本を提示して、その中から選んでもらう場合もあります。
慣れてきたら、講習生の方から「ここは行けると思うんですが、プランニングとか相談して良いですか?」と質問していただけるようになります。

この際の、「ここは行けると思うんですが・・・」というのが、いわゆる「岩を見る目」に相当します。
プロテクション、大雑把なムーヴ、大雑把な難易度予測、作業内容の予測、などを考えます。

これが、トポとグレードを見て取り付くのとは全然違います。
②掃除作業中も、登る人のプロテクションやムーヴを考え続ける

「ここは、プロテクションはこんな感じで、この態勢だとすると、ちょっと嫌だろうなー。いや、こっちのムーヴの方が安定するかな?」
などと想像しながら、クラック内、フェースのホールドを掃除します。

これが、実際に掃除後トライすると微妙に想像と違ったりします。

普段は、オンサイト中の行きつ戻りつであれ、ハングドッグであれ、「ちょっと考えたら岩を触って検証」という感じです。
しかし、この作業は「自分の身体での検証作業」までの勿体ぶり方が半端じゃないです。

通常、ルートセットでもしない限り、ここまで時間をかけてムーヴやプロテクションを考える機会はないので、良い経験になります。
<今年の掃除講習、ISさんのオンサイトグラウンドアップのトライ>

C:ロープワーク作業に強くなる。

FIXロープの張り方、ユマグリなどの登下降、振られ止め、終了点残置ロープの設定、などなど考えることは山積みです。

結果としては、マルチピッチ、城ヶ崎や大堂海岸などのトップダウンエリアでのFIX張り、セルフレスキュー技術、などへの対応が良くなっていきます。

もちろん、既成ルートを登る際にも、残置ロープなどを今までより観察するようになるでしょう。
<今年のルートは長い>

A〜Cの総体として、
●本気トライの質の向上
●トポなどの文章の理解の向上
●オブザベ能力の向上
●ロープワーク技術の向上
●リスク管理能力の向上

などが望めるのではないかと考えています。

もちろん、これらを向上させる方法は掃除に限る必要もないかなと思います。
ただ、これらの向上こそが、クライミングの筋トレ以外の主たる楽しみだと思うんですよね。

余談ですが、「掃除は、意外と体幹トレになる」という話もあります。
事実ではありますが、ワイドクラックや、自宅での体幹トレには効率面で劣りそうなので、あくまで副次的な話かなと思います。
<無事にオンサイト成功し、再登者のための掃除を開始するISさん>

勘の良い人は、こんなことは自分でやれば良いと思うし、開拓とか掃除を金銭を払って習うということ自体に違和感を感じるのは、私も同じです(笑)。

しかし、勘の良い人(あるいは、根本を理解するまで根気強く続ける人)って実は数%とかで、大半の人は何も理解しないまま時が流れていくように思います。
「一般大衆から、ちょっと分かっている人」への一歩を踏み出すには、こういう講習も1つの選択肢かなと思います。

2025年5月4日日曜日

7月、8月の予約受付

5月9日(金)の21時より、7月および8月分の予約受付を開始いたします。
今年も、7月後半の3週間は富士山ガイドに行きますので、その期間は講習できません。

また、ジム講習の場所は、これまで通りです。
Dボルダリングプラスリード立川、ランナウト、ストーンマジック、ベースキャンプ入間、などでの講習が可能です。
講習場所は、原則として最初の1人として申し込んだ方の希望に、なるべく合わせたいと思います。

よろしくお願いします。

2025年4月18日金曜日

心に潜むタイパ思考

例によって、写真とは全然関係ない話で恐縮です。

近年(?)、コスパ(コストパフォーマンス)の仲間のような言葉で、タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉を、耳にするようになりました。

批判的な文脈で、「タイパを意識すると、活動・思考の豊かさが失われる。」という感じで聞くことも多いです。
一方で、「時間あたりの効率」は無視できない問題です。

このあたり、どう考えるべきでしょうか?
今回は、ジムでのリードを例にして、考えてみます。
<林智加子さんとのコラボ企画・岩場基礎トレ>

例1) オブザベ

クライマーなら、ある程度はオブザベするのが当然だとは思います。
そんな人でも、オブザベを早々に切り上げたくなるタイミングが、2つあります。

①どうせオンサイトは無理そうだから、とりあえずホールド触りたい。
②数回オブザベしたら、これ以上に深読みしても情報が得られそうにない。

非常によく分かります。
ここで、敢えてタイパを無視したら?

①オンサイトが無理そうでも、相当しつこくオブザベする。
②数回オブザベしたものを、暗記できるまでオブザベを繰り返す。(トライ前に、目をつぶっても大部分の情報が思い出せるぐらい。)

そこまでやったら、良いトライができる可能性が高まります。
しかし、散々オブザベした挙句、やっぱり出だしでフォールするという可能性も否めません。

両者は、5〜10年先に、どんな技術や心構えを身に付けているかが変わると思います。
「タイパ VS 時間を掛けて得られる豊かさ」という構図にピッタリの内容です。

補足)
タイパ重視でオブザベを一定時間で切り上げたとしても、その余った時間を何に使ったかによっては、5〜10年先に良いことがあるかもしれません。
余った時間を何にも使わないとしたら、5〜10年先も同じようなことをしているでしょう。

※コンペティターは、短時間でオブザベするトレーニングも積んでいることは、反論としては意識すべき。
<浮き石の説明>

例2) 課題を選ぶとき

自分に登れそうな課題を選ぶことは、悪いことではありません。
全く登れそうにない課題は、ムーヴ自体が起こせないために筋トレにすらなりません。

一般的には、「頑張ればオンサイトできそう」〜「頑張ればR.P.できそう」の間を本気トライとして位置付けます。

登れそうな課題探しのために、グレードだけでは飽き足らず、ジムの常連さんの評価を聞いて回る人もおります。

ただ、ときには全然無理そうな課題に触るのも、プラスがあるかもしれません。
また、自分でオブザベして難易度予測した方が、長い目で見たら経験が豊かになるかもしれません。

補足)
ただし、私がよく行くジムで課題について聞いてもらったらコミュニケーションのネタとして色々とお話しはします。
「なるべくムーヴを聞かないで自力で考える。」というクライマー的に良い振る舞いをする人が、スタッフと気軽に話すネタを失うのと同じで、程度問題もあるかと思います。

適度な頃合いが難しいですね。
<ムーヴの基礎練習>

例3) 完登への過程

「自分が登れそうなルートを、早くコンプリートしたい」という気持ちはよく分かります。
一方で、それを意識するあまり、「やりたいリードルートが多すぎて、ボルダーまで手が回らない。」という人もおります。

中長期的なトレーニング効率よりも、R.P.ゲームとしての効率を重視した結果ですね。

スタイルの話でも時々触れていますが、上記のR.P.効率を意識しすぎると、5〜10年先の自分へのデメリットが大きいと感じています。
<チカさん>

例4) 疲れた後

頑張って本気トライで完登した後、帰り際に疲れた状態で別のルートを「お触り」するという方法があります。
次回へのモチベーションを高める効果もあり、多少なりともトレーニングになるため、必ずしも悪癖とは言い難いです。

一方で、そのルートが「フレッシュな状態ならば、オンサイトで勝負になる」ぐらいの難易度だったら、貧乏性で貴重な機会を失っているかもしれません。

じゃあ、余った時間は何をするのが良いのでしょうか?
・次回に向けてのオブザベ?
・基礎練習?
・筋トレ?
・ボルダー?(リードで疲れた後は、課題によっては全然ダメなので、課題選びなどに工夫が必要。)
・アイシングやストレッチ?
・早めに帰宅?

この話がちょっと面白いのは、何の効率を重視するか?という点です。

前述のR.P.ゲームとしての効率を無視すると、その日は余剰時間が生まれるので、ちょっと手持ち無沙汰になるという構図です。

<最後に、トップロープ体験>

例5) できないムーヴの試行錯誤で、無理っぽいアドバイスを受けたとき

私も、これは大の苦手です。
無理っぽいムーヴに1〜数トライを費やして、その日の体力を消費するのが勿体ないと感じてしまうのです。

①「それは考えたんですけど、無理っぽいからやめときまーす。」
②「やるだけやってみまーす。」

という選択肢で、どうしても①を取りがちだと自覚しているので、あえて時々②を取るように心掛けています。
経験を積むほど、自分のムーヴ解析が合っているケースが増えていくので、アドバイスを取捨選択したい気持ちが強くなります。

しかし、ベテランであっても、ときどき「それは無理でしょー。」と思ったアドバイスがハマることがあります。

私自身、頭が固いオジサン・オバサンにならないために、なかなか有効な心理トレーニングにもなるように思われます。
キャリア10年以上のベテランクライマーには、オススメです。
その意味では、ジムボルダーが最も良いように思います。
少し話は逸れますが、夕方のベスト時間帯(日が陰って、ホールドがヒンヤリする)を狙って昼間は大休憩する(お昼寝などで数時間を潰す)というのも、ちょっとした我慢強さが必要なります。
ボルダーとか、顕著です。

開拓作業とか、自分が苦労した割に発表されているグレードが低いとかも、人によっては嫌な気持ちになるでしょう。

タイパ思考って、一つの貧乏性なんでしょうね。

効率を考えるとき、
①クライマーとしての良い習慣を身に付けるための時間の贅沢な使い方
②R.P.効率
③トレーニング効率
などを総合的に判断できるようになりたいものですね。
<ファンタジー岩>

①と③のどちらを重視するかは、良いクライマーになりたいか、強いクライマーになりたいかにもよるように思います。

②は、人間の欲の現れ(いわゆる煩悩)みたいなところがあり、放っておいても自然と湧いてきます。
僕も、登れそうなルートのコンプリートは大好きですし、完登を目指すからこそ頑張れるというのも真実です。

そういう意味では、②に対しては抑制的にして、①や③を優先する態度が大切なのではないかと思います。
<1年半越しの宿題、ベヒーモス(1級)が夕方ようやく登れた。3日半は打ち込んだと思われる。>

2025年4月11日金曜日

意外と身近な“ブリティッシュスタイル”

イギリスのトラッドは、非常に難しくて危険なルートを登るイメージが強いと思います。
日本のグレードに換算すると、5.14,R/Xとか。
もはや、異次元過ぎますね。

もちろん、経験者の話を聞くと、裾野は結構広くて
・超低グレードの危険なルート
・普通のクラックルートのように信頼できるプロテクションの取れるルート
なども結構あるようです。

ただ、歴史的背景なのか、「日本だったら通常はスポートルートの岩場にするよね?」と思うようなプロテクションの取りづらい岩場でも、普通にトラッドの岩場となっているケースが多いそうです。
そこまでしてトラッドに拘る強烈な文化なのか、開拓者優位の原則から今更変更はできないのか、現地でも色々な人がいるのかもしれませんが。

当然、カム・ナッツだけでなく、ハーケンはもちろん、様々なギア(エイドの前進用のものも含む)を使用するようです。
そこまで頑張った上で、「落ちたら死ぬかもねー。」、「静荷重も、どうだろうねー。」ということになるので、R/Xという話です。
<湯河原の梅>

その際、高難度開拓で問題になるのがスタイルの限界です。
大きく分けて、ギアのプリセット(ピンクポイントなど。今回は触れない。)、トップロープリハーサル、の2点です。

1級以上のムーヴ、取り先を知らないデッドポイント、スラブっぽい微妙なバランス、などをリハーサル無しでフリーソロに近い状態でこなすことは、いかにトップクライマーでもリスクが高すぎるようです。

そうなると、高難度ルートの初登はトップロープリハーサルが当然になり、グランドアップによる再登は、「未来のトップクライマーに期待!」という感じになります。
(実際、再登者によってオンサイトされたり、おっかなビックリのテンションを交えつつ数撃で登るなどの情報もあるようなので、期待はある程度まで達成されるようです。)

これが、いわゆる「UKトラッドが抱えるジレンマ」という話です。
「よりナチュラルに岩を登る。(ボルトを打たない)」ということを重視しまくった結果、「下から攻める。(グラウンドアップ)」を相当なレベルで犠牲にしている、という感じです。

このように、トップロープリハーサルして、フリーソロに近い状態を許容するリード方法を、“ブリティッシュスタイル”と呼ぶ人もいます。
(この呼び方に異論もありそうなので、鍵カッコ付きにしておきます。)

じゃぁ、何が正解なんでしょうか?

A)現状通り、開拓すべし
B)グラウンドアップできるものだけ開拓すべし
C)十分な力量を持つクライマーが再登に訪れた場合のみグラウンドアップでトライできるように、最小限のボルトを打つべし(NP &ボルトのイメージ。イギリスの文化的に受け入れられるのかは私は知りませんが、日本では割とよくある構成。)

などと、人によって思想が分かれそうです。
<上に活路を見出す登り方を直し中の、Mさん>

一応、私の感覚としては、Cが良いクライマーを育成するように考えています。

過去に120mぐらいのマルチ(最高ピッチグレード5.11a)を開拓した際に、「核心部にカムの効きが超微妙」という場面で、僕はボルトを打ちました。
120mのマルチで、たった1本というのは何ともルートを汚すような感覚ですが、それを打たないとトップロープリハーサル無しでのトライが難しいルートになってしまったからです。

もちろん、私なんかより遥かに強い友達が、5.11a,R/Xぐらいはオンサイトするのも目に浮かびましたし、私と同じか弱いぐらいの友達でもトップロープリハーサルを重ねてでもオールNPで登りたい人もいるかと思います。
(マルチなんで、マニア向けになること請け合いですが・・・)

実際、私自身は核心部の掃除のためにグラウンドアップを放棄しましたから、「そのままトップロープリハーサルしまくってボルトを打たない。」という選択肢も存在しましたからね。
(開拓に手間が掛かるルートは、通常はグラウンドアップ開拓できないというジレンマ。)

沢登り・冬壁などの山登りの本番では、核心部が落ちてはいけないというのも納得できます。
「大自然なんだから、それが登れる人だけが登れば良い。」という感覚です。

一方で、小川山・瑞牆のようなゲレンデマルチでは、以下のような構成が教育的かなと思っています。
相対的に易しいパートを落ちてはいけないセクションとして設定して「ムーヴの安定感の足切り試験」とする。その代わり、核心部はちゃんとプロテクションが取れる状態(カムが効かないならボルトも許容)にして、落ちる覚悟で頑張らせる。
<読図講習@奥多摩>

ここまでは、「私自身を最低レベルとして、中上級者層を見上げた世界観」という話でした。

ここから、講習生レベルも含めた初級者が「すでにある課題」にどう取り組むべきか?を考えます。
<色々と考えて登山道の無い尾根を下る>

例題1) ボルトルート

ボルダー4級が核心部のボルトルートで、6級セクションがボルトが無いとします。
あなたはどうしますか?

①「ボルトが無いのが悪い。」と考えて、超長ヌンチャクなどで仮想的に1本ボルトを増やした状態にする。1本目までの区間であれば、プリクリを許容する。(岩場のジム化、という方向性)

②“ブリティッシュスタイル”を採用し、トップロープリハーサル(チョンボ棒も含む)でホールドを確認し、その後に真っ当に(?)リードする。

③グラウンドアップを採用し、行きつ戻りつで「ほぼ絶対落なさそう。かつ、いざとなったらクライムダウン敗退できそうなムーヴ。」を探し尽くす。見つからなければ一旦敗退し、トレーニングを積んでから再訪する。
<裏から回ってヌンチャクを回収する練習>

例題2) 岩場ボルダー

ボルダーで、核心部(4級)を越えた後の易しい(6級)が落ちてはいけないセクションで、怖がって登れなかった岩場初心者の友人がいます。
あなたはどうしますか?

①「こんな危ない課題やらなくて良いよ。」と言う。

②「気持ち、気持ち!突っ込んじゃえば、核心なんかより易しいから大丈夫だよ。」と言う。

③「あなたのリスク感覚は正しいよ。」と肯定する。
その上で、
「もうちょっと安定して登れる方法を考えるんで良いと思うよ。この後に何回かトライして、どうしても思い付かなければ、またジムで色々とトレーニングしてから再訪すれば良いよ。安定して登るのも、大切な技術だから。」
とグラウンドアップのリスク管理へと誘導する。
例題3) ジムのリード

下部5mのセクションにおいて、クリップのタイミングが明らかに遅く、自ら「落ちてはいけない状態」を作っている友人がいます。
ただ、本人はそのセクションのムーヴは(トップロープやチョンボクリップによるリハーサルの結果)完成されており、全く落ちる気がしていません。
さらに、そのムーヴ中にクリップ動作を入れる方が手繰り落ちのリスクがあると考えています。

※この手法を採用している人は、なまじ登れる人が多く、5.12台のルートをやっていたりします。

あなたなら、どうしますか?

①「ジムの人に怒られるよ。」と言う。

②「ジムみたいにボルトが十分にあるはずの場所で、“ブリティッシュスタイル”じゃなきゃ完登できないルートは、あなたにとって時期尚早で、トライするべきじゃないと思う。」と言う。

③「本人なりに考えがあることだろうから。」と考え、何も言わない。

④モヤモヤしているが、何も言わない。
<無事に終了点に辿りつき、懸垂下降してヌンチャク回収>

例題3)は、人間関係とか指摘の上手さ、タイミングといった問題も絡むので、かなりの難問です。
まぁ、回答例はあえて書かないので、色々考えてみてください。


さて、初心者のうちからグラウンドアップを採用してトレーニングすることは、以下のメリットがあります。

●クラック、マルチ、沢登り、アイスなどとトライの手法が同じ(上に活路を求めない)なので、より一般的な「落ちたらいけないセクション」対策になる。
●ボルダーの落ちたらいけないセクションの対策にもなる。(ボルダーは、チョンボ棒やトップロープに相当することができない。)
●そのルートの足切り試験(このルートをトライするなら、このぐらいのセクションは安定して登れるでしょ?という開拓者感覚)を突破できているため、次のボルトルートをトライするときの下積みになる。

一方で、トップレベルのアルパインクライマーも“ブリティッシュスタイル”で、高難度のR/X課題を開拓する人もいます。
ハイボルダーでも、FIXロープで掃除がてらホールド探り・ムーヴ探りしてしまう実態もあるようです。
つまり、私には見えないようなレベル感の方々にとっては、これが何かしらのアルパインのトレーニングになっているという可能性もあります。
もしかしたら、スリルが織りなす極限の集中力を楽しんでいるだけかもしれませんが。

最後に。
“ブリティッシュスタイル”とグラウンドアップは、リスク管理の方法が根本的に異なります。
“ブリティッシュスタイル”は間違えない再現性が大切で、グラウンドアップは行きつ戻りつが大切です。
この思考方法が根本的に異なる2つを、初級者が意識的に使い分けるのは、私は無理だと感じています。
どちらかを本能レベルにまで習慣化することが、最も大切な練習かと思います。

少なくとも、フリークライミングの技術が初級レベルだと自覚しつつマルチ・沢登り・アイスなどを楽しみたいというのなら、どちらを採用すべきかは自明だと思います。

例えば、越沢バットレスとか三ツ峠で、一度トップロープやフォローでホールドや残置ハーケンの位置を記憶してからリードする、という初級パーティを見かけると、とても心が痛みます。
中途半端に“ブリティッシュスタイル”の甘い汁だけを吸うと、悪癖が強化されるだろうなと思うのです。

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この話も、もはや何回ぐらい書いたんだか分かりません。

今回は、批判にビビりつつも“ブリティッシュスタイル”という概念を文章に盛り込んだので、これで多少は構造が分かりやすくなれば、幸いです。