2025年4月11日金曜日

意外と身近な“ブリティッシュスタイル”

イギリスのトラッドは、非常に難しくて危険なルートを登るイメージが強いと思います。
日本のグレードに換算すると、5.14,R/Xとか。
もはや、異次元過ぎますね。

もちろん、経験者の話を聞くと、裾野は結構広くて
・超低グレードの危険なルート
・普通のクラックルートのように信頼できるプロテクションの取れるルート
なども結構あるようです。

ただ、歴史的背景なのか、「日本だったら通常はスポートルートの岩場にするよね?」と思うようなプロテクションの取りづらい岩場でも、普通にトラッドの岩場となっているケースが多いそうです。
そこまでしてトラッドに拘る強烈な文化なのか、開拓者優位の原則から今更変更はできないのか、現地でも色々な人がいるのかもしれませんが。

当然、カム・ナッツだけでなく、ハーケンはもちろん、様々なギア(エイドの前進用のものも含む)を使用するようです。
そこまで頑張った上で、「落ちたら死ぬかもねー。」、「静荷重も、どうだろうねー。」ということになるので、R/Xという話です。
<湯河原の梅>

その際、高難度開拓で問題になるのがスタイルの限界です。
大きく分けて、ギアのプリセット(ピンクポイントなど。今回は触れない。)、トップロープリハーサル、の2点です。

1級以上のムーヴ、取り先を知らないデッドポイント、スラブっぽい微妙なバランス、などをリハーサル無しでフリーソロに近い状態でこなすことは、いかにトップクライマーでもリスクが高すぎるようです。

そうなると、高難度ルートの初登はトップロープリハーサルが当然になり、グランドアップによる再登は、「未来のトップクライマーに期待!」という感じになります。
(実際、再登者によってオンサイトされたり、おっかなビックリのテンションを交えつつ数撃で登るなどの情報もあるようなので、期待はある程度まで達成されるようです。)

これが、いわゆる「UKトラッドが抱えるジレンマ」という話です。
「よりナチュラルに岩を登る。(ボルトを打たない)」ということを重視しまくった結果、「下から攻める。(グラウンドアップ)」を相当なレベルで犠牲にしている、という感じです。

このように、トップロープリハーサルして、フリーソロに近い状態を許容するリード方法を、“ブリティッシュスタイル”と呼ぶ人もいます。
(この呼び方に異論もありそうなので、鍵カッコ付きにしておきます。)

じゃぁ、何が正解なんでしょうか?

A)現状通り、開拓すべし
B)グラウンドアップできるものだけ開拓すべし
C)十分な力量を持つクライマーが再登に訪れた場合のみグラウンドアップでトライできるように、最小限のボルトを打つべし(NP &ボルトのイメージ。イギリスの文化的に受け入れられるのかは私は知りませんが、日本では割とよくある構成。)

などと、人によって思想が分かれそうです。
<上に活路を見出す登り方を直し中の、Mさん>

一応、私の感覚としては、Cが良いクライマーを育成するように考えています。

過去に120mぐらいのマルチ(最高ピッチグレード5.11a)を開拓した際に、「核心部にカムの効きが超微妙」という場面で、僕はボルトを打ちました。
120mのマルチで、たった1本というのは何ともルートを汚すような感覚ですが、それを打たないとトップロープリハーサル無しでのトライが難しいルートになってしまったからです。

もちろん、私なんかより遥かに強い友達が、5.11a,R/Xぐらいはオンサイトするのも目に浮かびましたし、私と同じか弱いぐらいの友達でもトップロープリハーサルを重ねてでもオールNPで登りたい人もいるかと思います。
(マルチなんで、マニア向けになること請け合いですが・・・)

実際、私自身は核心部の掃除のためにグラウンドアップを放棄しましたから、「そのままトップロープリハーサルしまくってボルトを打たない。」という選択肢も存在しましたからね。
(開拓に手間が掛かるルートは、通常はグラウンドアップ開拓できないというジレンマ。)

沢登り・冬壁などの山登りの本番では、核心部が落ちてはいけないというのも納得できます。
「大自然なんだから、それが登れる人だけが登れば良い。」という感覚です。

一方で、小川山・瑞牆のようなゲレンデマルチでは、以下のような構成が教育的かなと思っています。
相対的に易しいパートを落ちてはいけないセクションとして設定して「ムーヴの安定感の足切り試験」とする。その代わり、核心部はちゃんとプロテクションが取れる状態(カムが効かないならボルトも許容)にして、落ちる覚悟で頑張らせる。
<読図講習@奥多摩>

ここまでは、「私自身を最低レベルとして、中上級者層を見上げた世界観」という話でした。

ここから、講習生レベルも含めた初級者が「すでにある課題」にどう取り組むべきか?を考えます。
<色々と考えて登山道の無い尾根を下る>

例題1) ボルトルート

ボルダー4級が核心部のボルトルートで、6級セクションがボルトが無いとします。
あなたはどうしますか?

①「ボルトが無いのが悪い。」と考えて、超長ヌンチャクなどで仮想的に1本ボルトを増やした状態にする。1本目までの区間であれば、プリクリを許容する。(岩場のジム化、という方向性)

②“ブリティッシュスタイル”を採用し、トップロープリハーサル(チョンボ棒も含む)でホールドを確認し、その後に真っ当に(?)リードする。

③グラウンドアップを採用し、行きつ戻りつで「ほぼ絶対落なさそう。かつ、いざとなったらクライムダウン敗退できそうなムーヴ。」を探し尽くす。見つからなければ一旦敗退し、トレーニングを積んでから再訪する。
<裏から回ってヌンチャクを回収する練習>

例題2) 岩場ボルダー

ボルダーで、核心部(4級)を越えた後の易しい(6級)が落ちてはいけないセクションで、怖がって登れなかった岩場初心者の友人がいます。
あなたはどうしますか?

①「こんな危ない課題やらなくて良いよ。」と言う。

②「気持ち、気持ち!突っ込んじゃえば、核心なんかより易しいから大丈夫だよ。」と言う。

③「あなたのリスク感覚は正しいよ。」と肯定する。
その上で、
「もうちょっと安定して登れる方法を考えるんで良いと思うよ。この後に何回かトライして、どうしても思い付かなければ、またジムで色々とトレーニングしてから再訪すれば良いよ。安定して登るのも、大切な技術だから。」
とグラウンドアップのリスク管理へと誘導する。
例題3) ジムのリード

下部5mのセクションにおいて、クリップのタイミングが明らかに遅く、自ら「落ちてはいけない状態」を作っている友人がいます。
ただ、本人はそのセクションのムーヴは(トップロープやチョンボクリップによるリハーサルの結果)完成されており、全く落ちる気がしていません。
さらに、そのムーヴ中にクリップ動作を入れる方が手繰り落ちのリスクがあると考えています。

※この手法を採用している人は、なまじ登れる人が多く、5.12台のルートをやっていたりします。

あなたなら、どうしますか?

①「ジムの人に怒られるよ。」と言う。

②「ジムみたいにボルトが十分にあるはずの場所で、“ブリティッシュスタイル”じゃなきゃ完登できないルートは、あなたにとって時期尚早で、トライするべきじゃないと思う。」と言う。

③「本人なりに考えがあることだろうから。」と考え、何も言わない。

④モヤモヤしているが、何も言わない。
<無事に終了点に辿りつき、懸垂下降してヌンチャク回収>

例題3)は、人間関係とか指摘の上手さ、タイミングといった問題も絡むので、かなりの難問です。
まぁ、回答例はあえて書かないので、色々考えてみてください。


さて、初心者のうちからグラウンドアップを採用してトレーニングすることは、以下のメリットがあります。

●クラック、マルチ、沢登り、アイスなどとトライの手法が同じ(上に活路を求めない)なので、より一般的な「落ちたらいけないセクション」対策になる。
●ボルダーの落ちたらいけないセクションの対策にもなる。(ボルダーは、チョンボ棒やトップロープに相当することができない。)
●そのルートの足切り試験(このルートをトライするなら、このぐらいのセクションは安定して登れるでしょ?という開拓者感覚)を突破できているため、次のボルトルートをトライするときの下積みになる。

一方で、トップレベルのアルパインクライマーも“ブリティッシュスタイル”で、高難度のR/X課題を開拓する人もいます。
ハイボルダーでも、FIXロープで掃除がてらホールド探り・ムーヴ探りしてしまう実態もあるようです。
つまり、私には見えないようなレベル感の方々にとっては、これが何かしらのアルパインのトレーニングになっているという可能性もあります。
もしかしたら、スリルが織りなす極限の集中力を楽しんでいるだけかもしれませんが。

最後に。
“ブリティッシュスタイル”とグラウンドアップは、リスク管理の方法が根本的に異なります。
“ブリティッシュスタイル”は間違えない再現性が大切で、グラウンドアップは行きつ戻りつが大切です。
この思考方法が根本的に異なる2つを、初級者が意識的に使い分けるのは、私は無理だと感じています。
どちらかを本能レベルにまで習慣化することが、最も大切な練習かと思います。

少なくとも、フリークライミングの技術が初級レベルだと自覚しつつマルチ・沢登り・アイスなどを楽しみたいというのなら、どちらを採用すべきかは自明だと思います。

例えば、越沢バットレスとか三ツ峠で、一度トップロープやフォローでホールドや残置ハーケンの位置を記憶してからリードする、という初級パーティを見かけると、とても心が痛みます。
中途半端に“ブリティッシュスタイル”の甘い汁だけを吸うと、悪癖が強化されるだろうなと思うのです。

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この話も、もはや何回ぐらい書いたんだか分かりません。

今回は、批判にビビりつつも“ブリティッシュスタイル”という概念を文章に盛り込んだので、これで多少は構造が分かりやすくなれば、幸いです。

2025年4月2日水曜日

「美しい」、「カッコいい」という概念

6月分の予約受付は、4月4日(金)の21時スタートです。
よろしくお願いします。
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「綺麗」、「カッコいい」、などなど。
クライミングにおいて、「美しい」に類する言葉は、ちょくちょく口にするのではないかと思います。

主観が大きな部分を占めるので、「美しいムーヴ」、「美しいライン」と言っても、かなり評価が分かれます。

これに関して、僕なりに思うところを書いてみます。
<城ヶ崎>

●美しいライン
ボルダーからアルパインまで、古今東西され尽くした議論だと思います。

①合理的なライン
スタートしたらゴールまで自然に導かれる状態です。
つまり、「迂回ラインの方が本当は易しいのだが、それはナシで!」といった限定っぽさが無いことです。

ボルダーで「カンテなし」、「カンテの左側に出るのはダメ」、「リップはホールドとして使って良いけど、途中でマントルしたらダメ」ぐらいはまだ分かりやすい方で、「ボルダーならば許容できるか?」と思う課題も多いです。
(僕は、本当はこれも好きではありません。このレベルの課題ならトライすることも多いですが、ムーヴを探っている間中ずっと多少のストレスは感じています。ボルダーの場合、「書いてないけど普通こっちは使わないよね?」みたいなのが多いので、使用すると卑怯者な感じがします(笑)。)

酷いのになると、「カンテはありだけど、カンテの奥のガバはダメ」、「このスタンスは禁止」というものまであります。

この点では、リードのクラックルートはムーヴだけでなくプロテクションの都合からも合理的なラインを突いているので、ほとんどのルートが最低要件を満たしています。

②見た目のかっこよさ

これは、めちゃくちゃ主観に基づくなと思っています。

僕は、凹角・カンテ・ワイドクラックみたいな、大きな形状を見ると「すごいの、あった。」と思いますが、人によってはボルトが打たれていなければラインとは分からないようなフェースにこそ「かっこいい・・・。」と吸い込まれていきます。
僕がオブザベでラインと判別できるものを好むのに対して、その友人は「こんな弱点の無さそうなフェースにラインが引けるなんて素晴らしい・・・」と畏敬の念を抱いているのかもしれません。

沢登りだと、水線から離れるほどボロ壁や草付きっぽくなるケースが多く、大高巻きなんかすると沢床すら見えないため「水線に近い方が美しい」という感覚があります。
一方で、クライミングや泳ぎを嫌う沢登り愛好家からは、「わざわざ大変なラインは、行かんで良い。」という反論もあります。たしかに、高巻きも立派な技術ですしね。

③ムーヴの面白さ

これも、めちゃくちゃ主観に基づくと思っています。

僕は、ヒールフックとかワイドムーヴみたいな工夫要素満載のムーヴの可能性を感じると「良いラインだな。」と思います。
一方、「カチで細かいスタンスで傾斜真っ向勝負!」みたいなのが核心の方が、「良いラインだ!」と感じる人もいます。
<最後の動画の課題は、実はインバージョンでスタートすると易しくなる>

●美しいムーヴ

①ムーヴの完成度

スタティックならビタっと静止する感じ、デッドなら反動の付け方、足置き、フォーム、などなど。
完成度が高いムーヴは、割と多くの人を納得させる力があると思います。

参考)
ムーヴ講習で行っているような練習は、結果として易しいグレードを美しく登れるように導いていると思っています。
ただし、美しさは合理性(省エネ・身体のコントロール・故障しにくさ、など)を追求した結果であって、「美しさを目指す」というのは変だなと思っています。
一方、「合理性のある動き」≒「美しい動き」(2つが、かなり近いもの)という感覚に自信が付いてくれば、ある程度は基礎練習の指標になるかと思います。

②ムーヴの派手さVS小技

足が切れるか際どいデッドポイントで、足ブラに耐える姿がカッコよく見えることもあります。
一方で、足を残した技術(場合によっては筋力)がカッコよく見えるのもあります。

真っ向勝負のムーヴもカッコいいですが、「そんな方法アリ?」と思うような足先行・軟体動物のようなムーヴで悪いホールドを処理するのをカッコいいと思う人もいます。

要するに、派手さ・潔さ・地味な技術・体幹・賢さ、といったファクターを見て、どれを美しいと思うかは人それぞれだと思います。

参考)
ときどき「そんなムーヴ(例えば足先行や軟体動物で悪いホールドを処理)は男らしくないから、真っ向勝負しなよ。」という意見の人がいます。
これには、「その方が強くなるよ。」という意味が暗に込められている場合も多く、その人なりの善意があるために反論しづらいと感じる場面が多いです。
「スルーするのも何だか感じ悪いし、かと言って真っ向勝負でやるよりこっちでトライしたいんだけど・・・」という微妙な空気に陥るためです。

私は、強くなるための練習方法はそれはそれで考えるとして、本気トライ中は「登れればどんなムーヴでもオーケー!」という方がアドレナリンも出るし、頭も使うので良いように思っています。
<野猿谷に向かう中、ツララあり>

●カッコいいトライ

これは、トライの完成度に尽きるように思います。

O.S.トライであれば、オブザベ、易しいセクションのスムーズさ、レスト中の作戦、粘り、土壇場の頑張り、などなど。
R.P.トライであれば、トライ前のイメトレ、ムーヴの再現性、丁寧さと思い切りの使い分け、などなど。

当然、落ちても大丈夫な場面で、「てんしょーん!」などとギブアップするのは、カッコよくはないです。

今回の話の中では珍しく、人によって評価が割れにくいのが嬉しいところです。
まぁ、O.S.トライでは全然勝負にならなかったのに、2トライ目は割と余裕を持ってR.P.みたいなケースも頻繁にあり、1日のクライミングの中で一度も良いトライが出来ないということも頻繁にあります。
<野猿谷では「見ざる」(4級)という宿題を登れた。グレードが低くても課題名があると、便利ですね。>

●美しいスタイル

相対的に上位のスタイル、という概念はあります。
グラウンドアップ(下から攻める)の方が良い、事前情報は少ない方が良い、自力解決が良い、ギアは少ない方が良い、などの評価軸があります。
相対的に上位のスタイルが美しいか?カッコいいか?と言われると、手放しでそうとも言いづらい、というのが難しいところです。

例えば、いくつかの観点においてオンサイトフリーソロが最上位なのですが、それを美しいと思うかどうかは、やっぱり人によると思います。
オンサイトはともかく、フリーソロが厄介です。

フリーソロを理想だと考える人、そもそも行うのはダメだと思う人、入念に準備してトレーニングして自分なりの安全基準を満たす範囲でならやっても良いと思う人、色々います。

岩場やアイスで、稀にフリーソロをしている人を見かけますし、ハイボルダーでも実質フリーソロだと思う場面もあります。
これを、めちゃくちゃ安定して登っているクライマーが居たら、あなたはどう感じるでしょうか?
反対に、自分より技術不足な人がプルプルしながら登っていたら、あなたはどう感じるでしょうか?

上位のスタイルを意識した方が良いのですが、フリーソロしている人を「カッコいい」とは言いづらい気持ちになるかと思います。

つまり、スタイルの相対的上下は説明しやすいものの、美しさは安全性・潔さ・本人の姿勢などの総合評価になるので、結局は主観によるという毎度の結論に達ます。

また、自分にとって難しい課題に対してスタイルの妥協を行うのは、どうでしょうか?
特に、「〇〇すべきだ!」と主張していた人が、課題の完登のために妥協したとなると、有言不実行が否めないので、ダサいと見る向きが多いでしょう。

一方で、ルートの難易度によってスタイルを使い分け、色々なルートに対して本気で取り組めるようにする、という考え方もあります。
例えば、この課題は一撃に拘る、この課題は「バラし禁止」で毎回下からトライする、といったマイルールを課すことで、本気トライでトレーニングできるグレード幅を広げる方法もあります。
こういう人は、私たちにカッコいいトライを頻繁に見せてくれるでしょう。

つまり、スタイルの妥協1つとっても、何をどういう意図で行ったのかまで読み取らないと、「カッコいい」かも分かりません。

参考)
登山でプロテクションの悪いピッチを切り抜けていく場面、ボルトルートで1本目までが相当悪いルート、などと、フリーソロはしない人でも似たような場面には頻繁に遭遇するはずです。
「美しいか?」、「カッコいいか?」どうかは脇に置いても、易しいフリーソロ状態を安定して登る練習はした方が良いと思います。
<城ヶ崎、ハンド〜フィストのクラック、O.S.トライ>

おまけ
●カッコいいクライマー

ここは、私の完全な主観を書きます。

とりあえず、ジムでも岩場でも登山でも、自分より遥かに強ければ、大抵の人はカッコいいです。
真面目にトレーニングした成果であることが尊敬に値するし、前述の美しさ・カッコよさを相当なレベルで実践している人が比較的多い、という印象です。

また、ロクスノのトップクライマーのインタビューとか、山人生のインタビューを見ると、生き方レベルで感嘆させられます。

皆さん、本当に流石ですよねー。
<ラインの合理性はない(本当は左から逃げられる)ので、純粋にムーヴ練習として登ったもの。トライとしては結構良かったかな?マットに足が当たって減速したのが、何度見ても残念だが、トライに影響なしと判断して登り切った。1時間以上はトライしたと思われる。>

2025年4月1日火曜日

6月分の予約受付

4月4日(金)の夜21時より、6月分の予約受付を開始いたします。

ジム講習の場所は、最初の申し込み者の希望になるべく合わせる方式で行いたいと思います。
ランナウト、Dボル立川、ストーンマジックの3店に関しては、出張費用は不要です。
その他のジムでの講習希望の場合は、私のジム使用料を負担いただく形になりますので、ご相談ください。

また、7月のうち3週間は富士山に行きますが、8月は通常通り講習を行います。
その点もご承知おきください。

2025年3月27日木曜日

2025年4月、岩場基礎トレの御案内

ガイドの林智加子さんと一緒に「岩場基礎トレ」という企画を行います。

4月12日(土)小川山
4月27日(日)城ヶ崎

登山道を登るためのクライミング講習というテーマなので、普段ジムで講習しているような内容を易しい岩場(登山道で出てくるレベル〜プラスアルファ)で行います。

当塾では、岩場の講習はジムでリードできる人向けに、「岩場でもちゃんとリードできるようになるため」というコンセプトで行っており、講習としては少々レベルが高めの内容となっております。
そのため、こういった企画は依頼されたものだけを行っており、年に1〜数回程度になります。
ご興味ありましたら、是非ともどうぞ。

オススメのレベル感
「全くのクライミング素人さんだが岩場歩きに問題意識がある方 〜 当塾の岩場リード講習は(現時点では)ちょっと厳しすぎると感じる方」
ぐらいの間の方であれば、ちょうど良いかなと思います。

今回は、企画が林智佳子さん、外部講師として私なので、以下の林智佳子さんのページから詳細を確認してみてください。
申し込みも、こちらのページから可能です。

2025年3月19日水曜日

スタティック

今さらですが、「スタティックが大切だ」という話をしたいと思います。

ダイナミックムーヴは、デッド、ランジなどの反動(勢い、スピード)を必要とする動きです。
「どの程度のスピードからがダイナミックなのか?」
という疑問があると思うのですが、「動かすべき1点を完全にフリーにした状態で完全静止できること」を、スタティックとしておきましょう。
(もう少し厳しい定義はありうるが、緩い定義はあり得ないはず。)

ジムでのリード、スポートルート、クラック、マルチ、アイス、沢登り、などを全部混ぜて書くので、未知の分野は読み飛ばしてくださいませ。


A)なぜ大切か?

①安全のため
・クリップ態勢は、片手フリーで5秒ぐらいは静止する必要があります。
カムセット、スクリューセットとなれば、この何倍もの時間を要することも日常茶飯事です。

・レスト態勢も同様です。
これができなければ、「ほとんどノーハンドになれるようなテラスや、ぶら下がって休めるようなガバでない限りレストできない。」という登りになってしまいます。
レストと言っても、次のホールドを取りに行く瞬間に1回だけシェイクするようなものではなく、なるべく悠然とレストして作戦を練れるぐらいの時間的猶予が必要です。
この時間を利用して、ムーヴを考えるだけでなく、リード中のリスク管理についても考えます。

・ダイナミックムーヴは、ターゲットにしているホールドが思ったよりも悪かった場合、ホールドが欠けた場合に、一般的にはフォールします。
岩場においては、「落ちてはいけないセクション」が存在する方が一般的ですし、場合によってはそれが結構微妙なバランスだったりするので、ついつい安易なデッドポイントに走りがちです。

・ダイナミックムーヴは、逆再生がしづらいため、敗退できなくなります。
やはり「落ちてはいけないセクション」において、敗退を意識して登ることは基本です。
ボルトルートでの初見リード(トップロープ、チョンボ棒を用いずに、普通にトライする)、マルチピッチ、アイス、沢登り、などで共通です。

※この議論が、分かった気になった方の落とし穴。
「自分はスタティックをしているつもりでも、実はダイナミックである(スタティックではない)。」
という現象が、最大の問題です。
特に、足のデッドポイントに関しては、私より難しいルートが登れる人でも無自覚な人が多いと感じます。
(自覚を持った上で、足デッドを使っているなら、一つの選択です。)
結果として、「落ちてはいけないセクションを、逆再生可能なムーヴで登るなんて、机上の空論でしょ?」という発想になっていると思います。

②スポーツとしてのリードが得意になるため
スタティックであれば、かなり厳しい一手を出す過程においても、どうにかチョークアップをしながら進むなどの小さい省エネが可能になります。
こういった積み重ねが、ルート上部でのパンプ具合に影響します。

デッドを極端に嫌うリードクライマーが、この手の技術に長けてくるのは、必然でしょう。
「ボルダーが極端に苦手なのに、5.13を登るような方」が存在する一要因、として挙げられます。

また、無意識の足デッドを避けることで、不意落ち確率を低減し、ムーヴもより省エネになってきます。
※足デッドは恐怖心が無い場合が多いため、「デッドなんか(落ちても大丈夫な場面でも)したくない!」という発言を憚らないような方でも、普通に行っているのが難しいところ。

③クラック、アイスが得意になるため
ジャミング、アックスを振る動作には、どうしても片手フリーで静止する必要があります。
しかも、保持している方の腕を曲げた状態(ロックオフした状態)で、場合によっては数十秒の静止時間が必要です。

④フォーム改善・バランス習得の基礎練習を行うため
上述3項目と異なり、自分にとって十分易しいルートを基礎練習する際に、意図的にゆっくり登ることで自分のフォームやバランスを内省し、改善する効果が期待できます。

ダイナミックムーヴの練習も大切なのですが、ダイナミックムーヴの中でフォームを改善するのは、かなりの経験者向けです。
初級者のデッドポイントでは、ターゲットのホールドが取れたか否かで判定するのが関の山で、「綺麗に決まったか?」、「何がイマイチだったか?」を意識することは相当困難です。
フォーム・バランスの基礎練習はスタティックで行い、ダイナミックムーヴはスイングの軌道だけを意識するぐらいが現実的だと思います。

※ジムなどで行うと迷惑になりやすいので、人気の壁を避ける、状況を見て行うなどの配慮が必要です。



B)混乱ポイント

①本気トライにおいて、ダイナミックムーヴを禁止する訳ではありません。

これは、私の講習生が時々陥る混乱です。
核心部などの勝負所でダイナミックムーヴは、是非とも活用してください。
そして、勝負のムーヴに入る前に、「落ちても大丈夫な状況だな。(墜落距離の予測、ロープの足絡み、落ちる態勢、などなど)」と考え、覚悟を決めて一手出します。

ジムのリードであれ、岩場であれ、ダイナミックムーヴ主体での登りは辞めた方が良いという話はしました。
一方、勝負所でのダイナミックムーヴは、スポーツとしてのクライミングの醍醐味だとも思います。

そのために、
●しっかりしたビレイ(弛ませすぎず、それでいて登りやすいを理想に)
●プロテクションが膝程度でも過剰にビビることなくフォールできる程度の自信
●核心部でもロープを絡ませない足捌き
●直前のレストポイントで状況観察と覚悟を決める時間的余裕
などをしっかり学びましょう。

※ジムのボルダリングなどでは、ダイナミックムーヴを禁止したら4級(辛くないジムを想定)すら登れない課題が多いぐらいでしょう。
これは、ボルダリングがリードの核心部だけを取り出したような遊びで、動きを楽しむことに特化したゲームだと考えると、納得できます。

「スタティックが省エネに感じない現象」との向き合い方が難しいです。

一般的に、登り方を変更すると成績は下がります。
ダイナミック主体で登っていた方は、それに慣れており、スタティックに不慣れなので当然疲れます。
肩や肘を壊した方などは、フォーム改善を行う難しさを嫌というほど味わったかと思いますが、それと同じです。

基本的に、本気トライ中の修正は、よほどのクライマーでない限り不可能だと思います。
少なくとも、私にはできません。

理由①  意識できない
理由②  意識できたとしても、慣れた方法(ダイナミック主体)を選択した方が登れる(疲れない)

そのため、基礎練習の時間が必要です。
自分にとって絶対に登れるぐらいの課題、課題を無視して色々なホールドを触りながらのウォームアップ、などが最適なタイミングです。
この時間を、長めに取ることを私は推奨しています。

もうちょっと頑張りたい人は、すでに登り終えた○級までを続けざまに何本も登るようなサーキットトレーニングで行うという方法もあります。
「落ちても、あまり悔しくない」課題のため、理由②がそれほど気にならないのがポイントです。
ただ、私自身は意識が難しいと感じているので、サーキットよりも「基礎練習+本気トライ」という方法を自分のルーティンにしています。
サーキットは、ごく一部に行う日もある、という程度。

こういった登り方の矯正期間中も、私はジムでの本気トライは行なって構わないと思っています。
理由①および②から、これまでの登り方をせざるを得ないのですが、それでも基礎練習さえ辞めなければ段々と修正されていく(私自身も講習生も)と感じているからです。

ただ、「ダイナミック主体を直さないと、私には岩場は危なすぎる!」と問題意識を感じた方は、「肩・肘が痛すぎて、登るのが辛い!」という方と同じです。
そこまで強い問題意識があるのなら、一定の修正完了までは本気トライを控えるのも一案だと思います。
唯一の問題は、本気トライを数ヶ月とか1年とか禁止した状態で、モチベーションを保つのが、なかなか難しいことです。やはり、「〇〇ルートが登れた!」というシンプルな達成感は、定期的にあった方が良いものです。
そのためには、問題が深刻化する前からコツコツと修正作業を始めるべきなのですが、人間とは怠惰な生き物ですよね。
つくづく、故障と同じ構図です。

このあたりは、ご自身の性格・クライミング経験・ムーヴに対する洞察力、などに合わせてメニューを考えていただければと思います。
基本的には独学が難しい話なので、ほとんどの方には講習を定期的に受けることをオススメします。

2025年3月14日金曜日

卒業後問題

近年、「講習卒業後に通い続けられるかどうかが、最大の才能かもしれない」という風に考えるようになりました。

例えば、講習生として、
●理解が速い
●弱点の指摘に対して素直
●体力・根性がある
などの色々な要素があります。

こういう方は、私としても教えがいを感じます。

しかし、これは受講初期(月1〜2回程度で1年とか)〜中期(月1〜2回程度で3年とか)までの能力でしかない、という気がします。

別の言い方をすれば、30回ぐらい受講すれば、ほぼ誰でも「私の真意を想像しながら指摘を聞けるようになるし、ある程度の素直さ・自主練習の必要性は痛感できる」からです。
<ワイドクラックの練習>

頭が良くて覚えが早く、弱点の指摘に素直で、講習以外も確実に自主練習を積んで来る体力と根性がある模範的な講習生は、ごく一部に存在します。
それこそ、ほとんど素人さんだった40代とかでも、3年ぐらいでマルチピッチリード講習まで到達してしまいます。

これは、極めてすごいスピード感です。
そもそも月1〜2回の受講を数年維持しつつ、自主練習を続けるというのが最大の核心です。
それが出来るだけの環境を作れたとしても、3年は速いです。

講習生の中では「神童」的な感じです。
<デッドポイントの基礎練習>

しかし、そこで受講が途絶える方が多い、とも感じています。

私の卒業基準は、「そろそろ自力で岩場に行ってみたら?」、「そろそろ友達同士でリードしてみたら?」という見立てレベルで、「もはや教えることは何も無い。」ではありません。

つまり、「自立してから講習に通うことができるかどうか?」こそが最大の才能ではないかと思うのです。
<姿勢を意識しまくるISさん>

卒業後に講習に通いたくない理由は、いくらでも想像できます。

●さすがに飽きた。
●卒業まで頑張っただけでも、十分えらいでしょ?(実際、マルチ卒業まで残るのは、それだけでも偉いと思います。)
●そろそろ別の人に習った方が伸びる気がする。
●石田さんは、グレードを上げたりすることよりも、ひたすらリスク管理的な登り方(落ち方、戻れるムーヴ、などなど)を講習してくれる気がする。
●ワイドクラックとかは、石田塾だとオンサイトリードで超低グレードから下積みさせられるだろう。もっと、一足飛びに上手くなりたい。(トップロープで難しいのを触るとか・・・)
●ムーヴ講習では、さすがにグレードを上げるためのこと(フォーム、色々なムーヴ、トレーニング、など)を教えてくれそうなのは分かるんだけど、すぐに成果が出ないような超基礎を反復することになるんだろうな。
●今は調子が良い(どこも痛くない)から、講習なんかに行くよりも色々なルートを登りたい。
●今は調子が悪い(どこかが痛い、リハビリ中、など)から、基礎練習みたいなつまらないことをやっても飽きそう。
<5.8の核心ぐらいあるワイドボルダー>

また、以下のような意見もあります。

●せっかく自力で行けるようになったのだから、とりあえず色々行って、経験を積んでからまた受講しようかな。

これには一理あり、実際に数年後に戻って来て年間数回ずつでも受講を続けてくれる方も、数名はおります。

一方で、
●一度数年離れてしまったら、今から自分のやり方を色々と批判されに行くのはツラくなってしまった。

という感情が、むしろ一般的かなと思います。

これは、マルチピッチリード講習卒業者に限らず、途中で講習を離れた方には特に多いです。
<ワンポイントのハングだが、ガバがある。これを、いかにグチャグチャにならずにムーヴを組み立てるか?>

また、別の観点で。

●これ以上続けたら、もう辞め時は無い。本当に、生涯学習になる。
(すでに岩場に自立して通えている状態なので、石田さんに習うことが無くなるか、それに近いところまで通うことを想定すると・・・。)

もちろん、講習と自主練習をちゃんと行えていた初期の3〜5年とは異なり、

・仕事や家庭環境の変化で、トレーニングに割ける時間が減った
・成長が停滞気味になったらモチベーションが下がり、他の趣味に軸足を移した

といった現象もあります。
<最後に、遊びでインバージョンを少々>

色々と書いていて思うのは、結局は講習に通うかどうか、ひいては真面目に登るか否かすら自由です。
(不真面目な状態でバリエーションに行くのとかだけは、本当に死ぬ可能性が高まるのでやめた方が良いと思いますが・・・。)

真面目に考えれば眉唾な理由も、至極真っ当な家庭環境などの理由もあるし、僕よりも他のインストラクターに習った方が良いこともあるでしょう。

ただただ、私の立場として思うのは、「本当は、ここからですよ!」ということです。

●最低限のリスク管理能力があってこそ、グレードに繋がるようなトレーニングを教えようかなという話になります。 
●卒業を心待ちにしない人だからこそ、教えるのに時間の掛かる難しい内容にもチャレンジできます。
●自分で弱点を見つける事は難しく、長い付き合いのコーチが居た方が良いです。
●リスク管理も、自己研鑽を続けることは難しいので、登り方やロープワークを批判される機会があった方が良いです。
●ワイドクラック、ヒールフック、デッドポイントの反動の付け方、などの普段の私がすごく考えているテクニカルな分野も、ようやく講習のスタートラインに辿り着けます。

最低ラインを越え、本当に上手に強くなって欲しいなと思います。
<ワイドクラックの基礎練習①>

<ワイドクラックの基礎練習②>

アイスとフリークライミングが繋がるタイミング

今シーズンも、3日間のアイス講習を受講していただいたTGさん。
多い年には、月2日間ずつの予約で、天候中止などを鑑みても6日間ぐらいは受講しています。
おそらく、20日間ぐらいはアイス講習を受講しているでしょう。

これが、本日ようやく
「普通のクライミング(無雪期のフリークライミング)と同じものだと感じられた。」
と感動していました。
<最初は、70度くらいで凹角あり、ガバ足ありの面で、ウォームアップと復習。このときは、写真で見てもフォームが今一歩。>

本人曰く

前回の講習で行った
①凹角の登り方

今回の講習で行った
②アックスが刺さったら、一度アックスから手を離し、通常のホールディングのように小指側で効かせること

の2つで、なんだか急激にフリークライミングっぽい登りが再現できるようになったようです。
<80度くらいの傾斜でガバ足も少ないので、基礎練習としては割とハードな面だが、ようやく長時間滞在できるようになった>

①凹角の登り方

これまでは、ひたすら「保持手に対してダイアゴナル気味の軸またぎを作る。」という連続だと感じていたらしく、単純作業の繰り返しのイメージがあったそうです。

これが、氷の形状によって、
●アックスの振りやすさ
●保持手のパワー消費量の省エネ
という2つのバランスを意識した足位置選択を考え始めたら、急激にムーヴが読めるようになったそうです。

そして、登る前のオブザベも、傾斜・凹角の有無・氷質の3点を見て、リードの大変さを想像できるようになったという感じです。
<しっかりした態勢なので、片手で高めにスクリューセットも可能>

②アックスが刺さったら、一度アックスから手を離し、通常のホールディングのように小指側で効かせること

これにより、未だに自分がアックスを握っていたことを実感できたようです。
ジムで行っている基礎練習のようなフォームが再現できるようになり、パンプの速度もここへ来て半減し、とにかく全てのムーヴが行いやすくなったそうです。
<凹角から緩傾斜に出るところ。氷質が悪いことが多いので、直前のプロテクションは慎重に。>

もちろん、これまでもフリークライミングと共通するコツを講習してきました。

●レスト技術
●リードのリスク管理方法
●片手フリーのときは腰を入れて胸を開く
●ダイアゴナル気味の軸またぎがオススメな理由(アックスを振りやすいバランス作り)
●足デッドを避ける練習(逆三角形、など)
●アイゼンを蹴り込む方向(クライミングシューズのような、足置き後の「膝の方向転換」が難しい)
など

もちろん、アイス特有のコツもちょっとずつ説明してきました。

●靴紐の調整
●アックスの振り方
●アイゼンの蹴り込み
など
これらが統合されて、
「アイスも、結局フリークライミングと大体一緒なんだな。」
と感じられるタイミングが、ようやく来たようです。

私から見ても、前回でリードのプロテクション戦略が良くなって、今回で足運びやフォームがTGさんの本領が発揮されるように見えたので、「形になってきたな。」という感じが明らかに見て取れました。

今回はⅣ級〜Ⅳ級+程度のラインでしたが、ようやく「恐々のリード」ではなく、「パンプしそうでヒヤヒヤ」でもなく、普通にノーテンションリードになりました。

ここから、ちょっとずつ洗練させて、グレード向上を目指せる段階に入りましたね。
20日間近くのアイス講習期間を、長いと捉えるか、短いと捉えるかは人によりますかね。

TGさんのフリークライミング能力であれば、これを洗練させることでⅤ級のノーテンションリードまでは、確実に上達できると思います。

是非とも、頑張ってくださいませ。
<スクリューをまめに取って、ビレイしていても安心できる>

●Ⅴ級のイメージ
例えば、「80度、凹角なしで8mぐらい続くセクションがある。」など、ある程度のパンプしないで登る技術が必要。
当然、その8mの中で何本もスクリューセットをする必要があるため、セット態勢の技術も問われる。

※グレードは相対評価なので、70度主体や凹角主体でも40mのロングピッチだからⅤ級、完全な垂直(90度)が4mだけで途中のスクリューセットは1回だけのⅤ級、とかもある。

※顕著な凹角があると、たとえ90度(完全な垂直)でもパンプしにくい。また、スクリューセットも容易になる。

※70度程度だと、凹角が無くても最低限のレスト技術があればレストで粘りやすい。

2025年3月7日金曜日

5月分の予約受付

3月10日(月)の夜21時より、5月分の予約受付を開始いたします。

●ジム
これまで通り、定期講習も含めて講習場所はランナウト・ストーンマジックなどに変更可能です。
最初に申し込んだ方の希望になるべく合わせますので、メールにて希望を教えてください。


●変更点
ジムリード講習は①〜③のクラス分けでしたが、今後は②と③を統合します。

リード① エイトノット、クリップ、ロープ畳み、ATCを落とさない方法、墜落距離の計算の初歩編、などのリードの基礎技術を学ぶ

リード② 落ちる練習・止める練習を通して、受け身姿勢、クリップのタイミングの安全上の重要性、ダイナミックビレイ、ビレイの立ち位置などを学ぶ
     実践本気トライ(フォールする可能性の十分にあるルートを、テンションギブアップなしでトライする)

※どちらも、前半の時間をムーヴの安定性を高めるための基礎練習の時間に充てています。ある程度は安定できてくると、私の言っているリスク管理方法(例として「レストしながら考える習慣」、「スタティック主体で動き、勝負所でデッドする習慣」)が身に染みて理解できるためです。
そのため、リード講習に進級後もムーヴ講習を継続的に受講してくださる方の場合は、その後の進級がスムーズになる傾向にあります。

では、どうぞよろしくお願いします。

2025年3月5日水曜日

行きつ戻りつによるルートファインディング

マルチピッチでは、ラインが複数通り考えられ、どれがベターかは「行ってみないと分からない。」というケースが多いです。

右上するのか、直上するのか、左トラバースしてから直上するのか?
といった具合です。

実際、「違うな。」と思って、分岐点まで戻り、リスタートすることも多いです。

この作業に、気持ちが負けてしまう人は結構多いと思います。
<最近行った、城ヶ崎ボルダー。そこに居た強い人。>

当塾の講習では、こういった状況を念頭に置いて、「易しいセクションは、戻れるムーヴで登ること」というコンセプトを徹底的に練習しています。

マルチピッチリード講習まで受講している人であれば、当然理解していることですし、ボルトルートやクラックでも、プロテクションが取れない(落ちてはいけない)セクションでの行きつ戻りつは相当数を経験してきているはずです。

しかし、「やっぱりこの状況は嫌だ、避けたい。」という気持ちも理解できます。
具体的に、どの辺が嫌なのでしょうか?
<湯河原での岩場リード講習>

①ムーヴの選択肢ではなく、ラインに選択肢がある

前者であれば、数歩の行きつ戻りつで絶対に落ちそうもないムーヴ探しをすれば良いです。
典型的には、ボルトルートの1本目が高い場面、ボルト間が遠い場面、など。

後者の場合は、「ラインが違った」と思ったら数メートル以上のクライムダウンが必要になります。
いわゆる、「リードしながらの偵察」ですが、これを複数ラインに対して行うのが、精神的にもキツいという話です。

また、クライムダウンをする際に、プロテクションが取れるなら回収しながら戻るのにある程度の時間を要します。
一方で、ノープロテクションでの行きつ戻りつであれば、相当に易しくても(岩場の5.6、Ⅳ級程度のセクション)相当な緊張を強いられます。

さらに、数メートル分のムーヴを暗記しながら登るのは極めて困難なので、最低限覚えておくべきホールドとかスタンスを、完全なる自己責任で選択する必要があります。
<プロテクションの悪い1P目をリードするYZさん>

②失敗した場合
ボルトルートで1本目が高い場合の行きつ戻りつは、失敗した場合は大怪我というケースが多いです。
一方で、マルチピッチのノープロセクションは、失敗した場合は死亡というケースが多いです。
③その他
マルチピッチの高度感・ロープワーク・時間管理に不慣れであるため、「そこまで頑張らなくても・・・」という気持ちになります。

実際、本気トライという観点では、ショートルート(1ピッチのルート)の方が遥かに集中して取り組めます。
<2P目の出だしが、まさにラインが複数通りあって悩ましい状況>

こういう状況に、ISさんは苦手意識があり、YZさんは「山って、そういうもんでしょ。」という感じの受け入れがありました。
この差は、どこから来るのでしょうか。

A)興味の主体がショートルートなのか、ロープを使用する登山なのか。

山では、歩きとクライミングの中間ぐらい(5.4、Ⅲ級ぐらいなど)をノーロープで通過したり、数十メートルをノープロでリードすることもあります。
「これを安全にこなせないと、山では話にならない。」という意識があるのも理解できます。

B)リスクに対して悲観的に色々なことを想定する習慣(「戻るときにムーヴが分からなくなったら・・・」など)なのか、楽観的な習慣(「行き詰まったら、戻れば良いでしょ。」)なのか。

C)戻れるムーヴを組み立てるスタティックな能力、安定感、戻るために暗記すべきポイントを選択する能力、などの基礎技術。(当塾で、最も重視しているムーヴ能力の1つ)
なかなか興味深いのは、Cの能力には大差ないように見える点です。

強いて言うなら、スタート時点ではYZさんのムーヴが雑だったので、私から「もう少し丁寧さを思い出して!」と指示を出し、その結果として2人のCの能力は同程度に見えました。
仮に、私が居なければISさんの方が安定したムーヴで登っていた可能性が高いです。
ただ、YZさんの方が体幹が強そうなので、同じムーヴを選択してもグラつきは少なそうです。
両方の要素を勘案して、Cの能力は五分五分かなという私の評価です。

AとBは、能力というよりも興味とか性格に近いものですね。
2人が対局とまでは言いませんが、グラデーションの割と離れた地点にいるように思えます。
ある程度は楽観的でないと山は楽しめない気もする一方、楽観主義のリスクは否めません。
また、経験を積むほどに事故例を身近に知っていくため、一般的にはベテランほど悲観的です。

この話って、「もっとこうした方が良いですよ。」という単純明快な終着点が無いですよね。

究極、「自分を知りましょう。そうすれば、基礎練習中やリード中に意識することも少し変わって来ます。」ぐらいでしかありません。
でも、こういうことを考えずにいられないところが、山とかクライミングの面白さだなと思っています。

2025年2月19日水曜日

ジムでの練習時間の使い方

講習生には、色々な人がいます。

A)山から入って、なかなかクライミングの練習に馴染めない人。
僕も学生時代はそうでした。

B)クライミングの本気トライは楽しいが、基礎練習は続かない人。
基礎練習は講習のときだけしか行っていない、という事実に気付いていない人もいます。

C)ジムに行って、基礎練習ばかりを行いたがる人。
易しいルートなどで、スタティック縛りで登る、姿勢を意識する、特定のテクニックを意識する、などなど。

さて、今回はCの人のお話。
Cの人は、非常に真面目だとは思う反面、実際にはジムに通えなくなります。

理由
・ジムの常連さん、スタッフとは全く話が合わない。
「〇〇ルート、登れましたー!」、「あそこのムーヴが分からないんだけどー。」、「あそこが、△△でムズイよねー。」と言った会話が成り立ちません。

・一人での基礎練習は、飽きる。
講習後、数回の自主練習は、色々と意識することもあるでしょう。
しかし、それは徐々に失われ、「自分でやっていても上達を感じないし、面白くない。」という状況に早々に直面します。
もし、飽きない人がいたら、反省点抽出の天才でしょう。

結果として、CはBよりも登れるようになりません。
というか、ジムに来る頻度が上がらなくなります。
(そのため、「最初は、とにかくジムに通いまくれ。初心者は、練習の質よりも量だ!」というジムスタッフからの一般的な教えは、真実味があります。)

また、極端にBに寄っている人は、経済的・時間的に問題ないとしても講習には通常来ません。
本気トライ、常連さん同士のセッション、などだけで上達したいので。
(「練習量が最重要」という時期をとっくに越えているため、一番講習に来た方が良さそうに見えますが・・・。)

もちろん、Cの人も、ほとんどはクライミングを辞めてしまうのですが、一部に講習に残る人がおります。
それは、自主練習をほとんどせずに、講習だけに通う(登山には自分で通っていたりする)という人です。

「毎回の練習に、お金が掛かって大変じゃない?」、「(石田さんところの)自立したクライマーと反しない?」などの一般の方々からの目は重々承知ですが、私はなるべく諦めないで欲しいとも考えています。

例えば。
①登山の岩場通過などに役立つ練習としては、月2回程度の講習だけでも、数年続ければ相当なレベルになる。
くれぐれも、その練習量でバリエーションとかに欲を出さないで欲しい。

②クライミングの動きの原理原則が分かってきたら、いつか化けるかもしれない。
自分でジムに通って、基礎練習と本気トライを半々の時間だけ行う、という理想的な取り組みになっていく可能性もある。
そうなってきたら、リード、登山におけるクライミングなど、僕が本当に教えたいことを教えたいとも思う。

③老化対策の姿勢教室として、スタティック練習、フォーム練習は、効果がある。
これは、講習ならではの話です。
私自身も、これはすごく役立っています。
<今回とは、ほぼ無関係な挿絵的写真ですが>

さて、そんなCの方々にも、私は懲りずに一人でジムに通うことをオススメしています。
そんな方々の何名かに、昨夜作ったメールのご紹介します。

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●基礎練習は、一人で行うとどうしても飽きるので、いくつかのルールを決めて行う。

①最初の15分ぐらいは、「とにかく丁寧に」ぐらいの大雑把な意識で良い。
段々と身体が動いてくるに従って、講習ノートを見返したりして、色々と意識的に試してみると良い。
むしろ、最初から色々と意識し過ぎると、ロボットのような硬い動きになってしまう。(どんなスポーツでも講習生が陥りやすい姿)

②飽きないように、色々な壁の1番ないし2番目に易しいルートを、順繰りに行う。
次のホールドを追いかけることで、ついつい意識するのを忘れてしまったり、ホールドの形状で色々と考えさせられたりするので、練習の刺激になる。
手足限定だと、基礎練習には難しすぎると感じる場合は、足自由で練習しても良い。
飽きないならば、同じルートを何回か登っても良い。

③それでも飽きてくるので、ジムに滞在する時間の後半は「一般的なクライミングのゲーム(自分が登れるか登れないかギリギリ、ぐらいのルートのクリアを目指す)」を楽しむ。
基礎練習よりは難しめのルートにトライすることが可能。動きがグチャグチャになったとしても、突破できればオーケーなので。
そのため、トライできるルートの数は相当広がる。
とはいえ、グチャグチャの場面が多すぎると、さすがに疲れて上まで登れないので、色々と作戦を考えることが、クライミングのゲーム性の1つ。
1回目で登れなかったルートでも、反省点が見つかったり、ホールドを暗記することで2回目、3回目と繰り返しのトライで登れることもある。
一般的には、基礎練習よりも腕が疲れるため、1トライごとに座って休憩し、反省点や作戦を考える。

上記の流れで、疲れて③「一般的なクライミングのゲーム」が楽しめなくなったら帰宅、というのが一般的な流れです。
これは、オートビレイでもボルダリングでも同じです。

時間は、1時間でも3時間でも、休みの日にそれ以上滞在しても構いません。
ご自身の生活リズムの中で、行ってください。

ジムの一般的な常連さんだと、特に何も意識しないウォームアップと③「一般的なクライミングのゲーム」のみを行っている人が多いです。

それでも自主練習が難しければ、とりあえずは講習だけは続けてみましょう。
クライミングの動きが理解できてくれば、一人でも楽しめる日が来ると思いますので。

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改めて読み返すと、ブログよりも平易な言葉ですね。
普段のブログは、どうしても講習生の上位クラスの面々、感想をくれる知人をイメージして書いてしまうので、どんどん専門的になってしまいますね。

2025年2月17日月曜日

熱くなりすぎない

クライミングは、メンタルへの負荷が結構高いと思います。

・本気トライで、登れると思ったのに登れなかったとき。
・パートナーが、同じ課題をトライして、自分より先に完登したとき。
・リスク管理に関してディスカッションをしたけれど、上手く伝えられずに若干の険悪な雰囲気になったとき。
・自分の能力の低さ(〇〇が出来なさすぎる、など)を痛感させられたとき。
・最近練習を始めたことが、全く本番で活かされなかったとき。
・自分のリスク管理方法に誤りがあると、認めざるを得ないとき。
・自分の練習習慣に誤りがあると、認めざるを得ないとき。

これらは、ほとんどの人にとって嫌な場面だと思います。
実際、不機嫌になる人、これが嫌で真面目に練習しない人、一応本気でやっている風なんだけど悔しがることや反省点の抽出を思考放棄気味な人、など様々な人がいます。

人によっては、もっと些細な点でイライラしたり、落ち込んだりしています。
また、経験が浅いうちは、経験や技術を評価する尺度がグレードしかないため、グレードに振り回されることもあります。

・ホームジムのグレードが辛くなって、自分が退化した気分になる。
・グレードが辛めのジム、岩場に行って、自分でも理由がよく分からないぐらい落ち込む。
・自分が苦労して完登したルートを、周りの人が「グレード甘めだね。」とコメントしたことに怒ってしまう。
・「このルートが、いかに自分が不利か!(例えば、リーチ)」を力説しているところ、「でも、こういう要素も考慮すると、そうでもないんじゃない?」などと反対意見を言われて怒ってしまう。

また、スポーツ的な要素も見過ごせません。
・パートナーや同時期に始めた仲間の成長速度に付いていけない。
・成長どころか老化を感じる。


さて、これらの問題に対して、どう取り組むべきでしょうか?
まず、問題を3つに分類します。

①「スポーツの厳しさ」への心構え
・競争心の負の側面
・老化
・練習不足、的を得ない練習方法による、後々の成績不振
・体調不良とリハビリ期間
・成績への一喜一憂

②「リスク管理の厳しさ」への心構え
・自分は出来たつもり、によるツケが回る現象
・他人から指摘される不快感
・ディスカッションの難しさ(お互いに、ある程度の言語化能力がないとモヤモヤして終わる)
・勉強不足の後ろめたさ
・事故当事者パーティになったときの強烈な自責の念

③「人間関係の難しさ」への心構え
・同性パーティのデメリット、異性パーティのデメリット
・上下関係のデメリット(上は下をコントロール下に置きたがる、下は上に依存する、など)
・イコールパートナーの難しさ(過剰な競争心を制御する必要性、平和的にディスカッションする能力の必要性)
・パートナーへの過剰な期待
・練習方法、トライへの姿勢、リスク管理を指摘したが、ディスカッションが上手くいかなかったことによる人間関係の綻び

僕自身を振り返ると、①、②、③全てを登山とクライミングを通して学びました。
ある程度、落ち着いた考え方に至るまで10年以上は掛かったと思います。
同じ構図の不快感を2〜3回ずつぐらいは味わった結果、「こういうもんなんだな。」と諦めが付いたのかもしれません。

そして、講習生が落ち込んだり、仲違いする様を見てきて、さらに理解を深めています・・・。
一体、何周回っているんでしょうね?

また、講習生の場合、30〜50代でクライミングを始めるパターンが多いため、元々の人生経験にも左右されるように思います。

例えば、他のスポーツを真剣にやっていた人であれば、①だけは嫌と言うとほど経験あり、チームスポーツなら③もある程度は分かっているとか。
講習生には、医者、弁護士、エンジニア、などがおりますが、こういった方々は、②に対する心構えは良いようにも思えます。
他にも、仕事柄③は得意という人もいるように思います。

さて、「自分自身の精神的ダメージを減らすにはどうしたら良いか?」という、最も本質的な問題はどうしましょう?

A)俯瞰する
   上述の、どの状況にあたるのか?
   問題の改善点を提案する意識。(「悩むより考えろ」というイメージ)

B)極力、自責思考にする
   他責思考に陥ると、その場は自責の念が薄まるため、防衛反応として考えがち。
   しかし、そのツケはいずれ回ってくる。

C)同じ構図の不快感は、いつか再び訪れると覚悟しておく
   本気トライで、取りこぼす時などは、日常茶飯事。(そもそも、成功率20〜80%ぐらいだから本気トライなのです。)
   イコールパートナーとディスカッション失敗して微妙な空気になる時もある。
   心の準備がない突発的な不快感に対しては「一人になって頭を冷やす」ぐらいしか対策が難しいように思います。

こうやって抽象化すると、なんとも当たり前なのですが、その場になると結構難しいものです。しかも、一度不快になると、他人の些細な行動・言動にまでイライラしてしまうという悪循環もあります。

真面目にやるからこそ嫌な思いをするものです。
その気持ちは痛いほど分かるので、「いい加減にやれば良いや」という投げやりにはならないで欲しいものだと思います。

「スポーツ選手が小中学生の頃に味わうような挫折やメンタルコントロール体験を、我々は大人になってから味わっている。」
と考えれば良いかもしれません。

2025年2月11日火曜日

フリークライミングの端から端

講習では、岩場でのムーヴ練習は極力ボルダリングで行うことにしています。
これは、岩場リード講習、クラックリード講習、アドバンスクラック講習、アイス講習など、全てに一貫した考え方です。
<ボルダーでの基礎練習>

メリット
①落ちたらどうなるかを想定しながらムーヴを行う習慣付け

トップローパーの人に、「落ちたらどうなるかを意識して、どんな行動をするかを判断せよ。」と言うと「(トライ中は)そんな余裕が無いから無理。むしろ反対に、なるべく怖いとか考えないようにして登っている。」みたいな発言をします。

落ちた場合の状況は大きく分けて下記の3パターンがあり、それに応じて「落ちるかもしれないムーヴを繰り出すか、戻れないムーヴを許容するか、ちょっと欠けそうなホールドを許容するか」などの総合的な判断を行います。

A)落ちても、ほとんど怪我をする可能性が無い。
B)気を付けて落ちれば大丈夫(高さ、下地に若干の不安要素があるが、自ら飛び降りるぐらいの余裕があれば問題ない)
C)落ちたら事故(事故の重大性に対して、Cを2〜3段階に分けることも可)

さらに、講習では同じボルダーで何回も繰り返しムーヴ練習を行い、さらに私から「もっとこうやった方が良いムーヴ習慣になりますよ。」という指摘も繰り返します。

結果的に、10回以上も同じボルダーを登ったり、クライムダウンしたり、トラバースしたりするため、「ちょっとリスクを感じたけど、通過できちゃったから、もうやらなくて良いよね?」みたいな登りを、最小化していきます。
「同じ場面を100回やっても、そんなにストレスが無い。」というリスクレベルで、クライミングを楽しめるようになって欲しいと考えています。

そのリスクレベルで行動する習慣こそが、リードクライミングにおける最も基礎的な考え方であると私は感じています。
<今回でクラックリード講習を卒業にした、HGさん>

②圧倒的な練習回数
トップロープでの練習に比べて、交代などの手間が無いため、練習量が増えます。

<湯河原でのムーヴ練習>

③難しいルートをトップロープで触りたがる悪癖からの脱却
「ボルダリングorリードしか選択肢が無い。」という環境こそが、まともなリードクライマーを育てると考えています。

そういう意味では、もはやそういうレベルに越えた講習生であれば、トップロープをしても構わないはずです。
しかし、人間は弱いものなので、すぐに悪い習慣へと流れるものだと思っています。

そこで、「完登済みのルートで納得いかなかったムーヴ検証&反復練習」といった、ごく一部の条件下でのみ、トップロープ練習を行うことにしています。

このあたりの考え方が理解できるまでには、それなりに時間と心構えが必要なので、岩場リード講習やクラックリード講習では、原則トップロープでの反復練習は行わないようにしております。
アドバンスクラック講習では、その条件下でのトップロープ練習を行います。
<アドバンスクラック講習で、FIXロープの張り方、ユマグリの練習>

そんな訳で地上50cmとかで、そもそも突破できる箇所を「より良いムーヴへと洗練させる」練習を徹底的に行います。

この地味さが、クライミングの一つの端っこであると思います。

ホールディング・姿勢・足置き・ムーヴ選択(手足の位置関係)の考え方といった、ジムでのムーヴ講習と同様の内容を、岩場で行います。
そこで、安定して登る必要性に対し、理解を深めて欲しいと思います。
<FIXの練習中>

一方で、クライミングは総合的な遊びであり、それ自体を楽しんで欲しいと考えております。

岩場リード講習であれば、トップアウトできなかった場合のヌンチャク回収(敗退ビナ残置、クライムダウン回収、裏から回り込んで懸垂下降)といった作業や、それに伴うプランニングも大切です。
クラックリード講習であれば、エイドダウン敗退。
残置無視・トポ無視のマルチピッチ講習であれば、そもそも敗退プランを練りながら登ることが、楽しみの1つと言えます。

自立したクライマーを目指す上で、総合力が問われる場面です。

こういった総合力を他人に依存したり、トップロープやチョンボ棒に頼っているようでは、何とも寂しいものです。
<アドバンスクラック講習にて、城ヶ崎の懸垂エリア「ばったり」>

その意味では、城ヶ崎もなかなか良い練習場です。

今回のアドバンスクラック講習では、エリアを私が指定し、トポも見せずにFIXを張ってもらいます。
(そもそも、100岩場とか魅惑のトラッドには載っていない。)
どこのテラスからスタートするか、どのルートで遊ぶかも、自分たちで決めてもらいます。

ほとんど開拓と同じ作業で、この手の能力が、もう一つのクライミングの端だと思います。
<ビレイ点もカムで作成>

プロテクション、難易度、脆さ、などを勘案し、ルートを決めます。
スタート地点となるテラスを選び、2人ともO.S.、フラッシュを成功。
これも、なかなか良いトライでした。

そこから、日暮れまでの残り時間を勘案し、もう1本の候補ルートをトライするかを相談。
かなり厳しいと判断して、完登済みのルートでワイドパートのトップロープ反復練習を選択されていました。

そして、夕暮れ前に予定通りユマグリして、荷上げ。
暗くなった遊歩道を帰る、という流れです。

細かい指摘(リスク管理、作業効率、ムーヴ、など)は色々としましたが、大筋の流れは自分たちでコントロールできており、2人とも大したものだと感心しました。
<オンサイトするHSさん>

「残置も何も無いエリアで、オンサイトグラウンドアップで普通に楽しむ。」という総合的な遊びに至る過程も、結局は基礎が大切だと思います。
(トップダウンのエリアなので、下降中に浮き石除去とかでルートは多少触ってしまいますし、軽くオブザベも出来ちゃいますが。)

「人気ルートだから安全」とか、「グレードが〇〇だから安全」とか、そういうフワフワした感覚は、早く捨てましょう。

「こういうルールを自分に課して登っていれば、初登攀だろうが難しいルートだろうが、許容リスク範囲内でトライ・敗退をする判断ができるはずだ。」
という自信を身に付けていただきたいものです。

今回は、2つの端についてお話ししました。

ある程度整備されたショートルートの本気オンサイトトライ、というのが丁度中間ぐらいかなと思っています。
「ボルトルート、クラックの〇〇っていうルートを本気オンサイトトライする。」など。

講習では、両方の端を丁寧に扱うことが大切な気がしています。

どうしても、自分が主にやっているものだけを「クライミングって(山って)、こういうもんでしょ。」と語りがちになるし、それが成長を疎外することにもなります。
全体を見渡して、「今は〇〇が特に重視される場面だな」という感覚で行動できるようになると、クライミングや登山がもっと楽しく上達できるのではないでしょうか。

<ISさんもフラッシュ成功>

<完登済みのルートでの、トップロープ練習。石田によるムーヴ解説。>

<夕方の登り返し>