2014年9月29日月曜日

“マルチは場数”へのアンチテ-ゼ

9月28日(日)は、マルチピッチ体験にて越沢バットレス。
男性SRさん、男性IKさんの2名。
マルチピッチは、場数が大事だと言われます。

分かりやすい例として、

①ロープワークの手際

②トラブル対処の経験

③判断の経験

といった能力は、回数で伸びていきます。
ただ、講習をしていて、

マルチピッチ経験が0~数回ぐらいの人が、教えやすいのも確かです。

で、案外そういう人が、飲み込みが早いことも多いです。
逆に言えば、場数をこなす弊害ってやつです。

例えば、

・「スピード、スピード!」と先輩に言われすぎて、考えなしに手を動かす悪い癖が付いた。

というと、これを講習で直す必要が出て来ます。
他にも、

・先輩に色々なルートに連れて行ってもらったために、自分がオンサイトできる入門ルートが無くなってしまった

というパターンもあります。

オンサイトトライは、リスク判断しながら登っていく、貴重なものです。
しかも、当塾は、クライミング能力的には初級者レベルでもマルチを教えています。

(ジムで5.10台の人も多い。5.12aを登る人など、むしろ希少。)


そうなると、講習や卒業後に、自力で行くような入門ルートが無い!

という困った事態にも、なりかねません。
不思議な話なんですが、

「マルチを本当に覚えたかったら、リードを覚えられる実力が付くまで、なるべくマルチには行かない。」

という成長方法です。
これは、山の業界全体では、一般的じゃないでしょう。

でも、個人的には結構良いと思うんですよ。
0回は、ちょっと欲求不満になっちゃうので、なるべく少な目ぐらいで良いんです。

だからこそ、マルチピッチリード講習の参加条件が、クラックのオンサイト経験な訳です。

これ、ボルトルートやクラック、沢、雪山なんかでも同じことです。

「あのルートは、昔トップロープで触っちゃったから、オンサイトじゃないんだよなー。」
なんて話は、よく聞きます。

とはいえ、ショートルートは世の中には、けっこう沢山あります。
(特に、ボルトルートは。)

沢も、雪山も同じなんで、連れて行ってもらうのも良いと思います。

ただ、クライミングの入門マルチが、日本には少ないので、連れて行ってもらうかどうかは要検討だと思うんですよ。
ちなみに、SRさんは体験講習2回目。

で、そんな考えで、講習出来るオンサイトルートを減らさないために、前回と全く同じルートで講習を行ったのでした。

「ちょっと刺激が弱いかな?」と心配しましたが、
システムや判断などが、前回よりもスッと飲み込めたみたいで、十分に満足していただけました。

登りも、前回よりは安定してきて、私のセットしたカムも見られたようです。

次回から、いよいよリード講習ですねー。
具体的な講習内容
・ギアの収納
・コールあり、なしの流れ
・1ピッチでのリード&フォロー、懸垂下降の流れを2回練習
・3ピッチで、実際にトップアウト
・1ピッチ目だけを、SRさんリード、IKさんリードで、1回ずつリード&フォロー練習

素晴らしいリード、反省すべきリード

9月27日(土)は、マルチピッチリード講習で越沢バットレス。
女性WNさん、女性ARさん。
<壁をオブザベ>

本日、WNさんのリードで、素晴らしい1本と、反省すべき1本がありました。
<ARさんの1ピッチ目>

素晴らしい1本は、

・ライン取り
・クライミングの安定感
・突っ込むか、敗退するかの判断
・メンタルの充実
・プロテクションのスリング延長などの判断

全てが充実。
WNさんにとっての限界近いピッチを、45mに渡ってロープを伸ばしました。
実質的に、オンサイト状態で。

初めて扱うハーケンも、リード中に5本を打ち、少し手慣れて来ました(笑)。

そして、リードだけで2時間!
<素晴らしいリードをこなす、WNさん>

よく、「マルチはスピード!」みたいなことを言います。

たしかに、手際が悪くて時間が掛かったのなら、反省すべきでしょう。

が、実際には突破するために、色々なことを試みた2時間は立派なものです。
なにせ、突破できなければ、完登できないのですから!
<厳しい態勢で、ハーケン打ち>

次に、ダメなリードの話。

リード中に、ランナウトした状態で、進むことも戻ることも出来ないと慌てました。

いわゆる、“セミ”というやつで、将棋で言えば“詰み”です。
この状態になると、決死の突っ込みか、決死のクライムダウンをしなければ、生き残ることが出来ません。

こんなことを頻繁にやってたら、いつか死んでしまいます。
<余裕たっぷりでフォローするARさん>

今回、これになった原因を挙げると・・・

・そんなに難しくなかった&先にレストポイントがあったので、安易にワンムーヴをこなしてしまった

そのムーヴをこなすリスクを十分に理解していれば、

「クライムダウンできるかどうか、ホールドとスタンスを覚えておこう。」
「そのレストポイントで、突っ込むかクライムダウンを判断するだけの気力・体力が自分にあるかな。」

といったことを、考えたはずです。
<1本目は、WNさんの活躍でトップアウト>

WNさんは、その前に素晴らしいリードをこなしたのですから、当然そんなことは分かっていたと思います。

ただ、こんなことが油断の原因だったんじゃないかと。
<懸垂下降>

①自分が、2時間リードで消耗しているのを、甘く見ていた

②素晴らしいリードと同じ頑張りを、もう1回できる気でいた

③過去に、このピッチをフォローしたことがあって、「ちょっと簡単目」という印象があった
<敗退することになったピッチ>

判断というのは、メンタルが作用しますからねー。

「敗退できる範囲で前進する」
というのは、奥が深いものです。
<もはや、疲労困憊のWNさん>

わずか3ピッチのリード講習でしたが、十分に経験が積めたと思います。
また、頑張りましょう。
<でも、帰りは笑顔>

2014年9月27日土曜日

岩場リード講習の一部で、スラブのムーヴ講習を行うことも

9月26日(金)は、小川山にて岩場リード講習。
男性ITさん、男性MRKさん、女性KMさん、加えて富士山ガイド仲間の林さんが 
ゲスト参加にて。
岩場リード講習は、小川山が一番効果的だと思っています。

理由は、以前も挙げた通り・・・

・ミニマムボルトを感じられる
・岩塔っぽくて、景色が山っぽい
・スラブのムーヴ講習が出来る

といった所。
本日は、特にスラブのムーヴ講習を2時間以上。

クラックリード講習の、ジャミング練習と同じく、ひたすら昼まで反復反復。
結局、これが出来ないとマルチで苦労するから、覚えてもらいたいというのが、私の狙い。

ただ、この練習自体が、本日は評判が上々。

「飽きなかった。」
「面白かった。」

という感想が聞けました。
・足裏感覚と微調整(足指を馴染ませる、足をグリグリさせて探る)
・ダイナミックとスタティックでの立ちこみ
・体重移動がしやすい両足の位置関係
・股関節の使い方(リラックスして、腰を落とすイメージ)
・ホールドがある場合の足の荷重方向

などを伝えることにしています。
ジムで登れるクライマーでも、スラブは意味が分からないという人も多いと思います。

でも、仕組みが分かると、これはこれで楽しいものです。

クラックと同様に、5.8が楽に登れるようになります!

個人的には、5.9以上になると、クラックよりは不安定感が拭えないのですが・・・。
私も、まだまだスラブに慣れてないからでしょう。
具体的な講習内容
・スラブのムーヴ講習(上記内容)
・安定するまで、手や足を進めないこと
・ヌンチャクの向き
・ミニマムボルトなど、フリークライミングの基本原則あれこれ
・リードで落ちる練習
・実践本気トライ
ITさん:オーウェンのために祈りを(5.10c)をR.P.
KMさん:かわいい女(5.8)をO.S.

2014年9月24日水曜日

すぐにでも、次のクラスへ向かいたい講習生

9月23日(火)は、岩場リード講習にて小川山。
女性HSさん、男性ITさん。
今回で、HSさんは岩場リード講習を卒業です。

卒業というのは、「教えることが無い」という意味ではありません。

「だいたいの危険も見えて来た頃だし、そろそろ自力で岩場に行ってみても良いと思いますよ。」
という、私の見立てです。

今回の場合は、ボルトルートに限って!
あとは、10月にはクラックリード講習も予約してあります。

こちらは、岩場リード講習を終えているだけでなく、

新参加条件
・ボルトルートの5.9以上を、3本オンサイトしていること

を満たしてもらいます。
ただ、実際には本日の講習中に、HSさんは2本の5.9をオンサイト!

あと1本は、個人で岩場に行ったときに達成してきてください。
こんな風に、すぐにでも次のクラスへと進む講習生は、少なくありません。

クライミングの幅を徐々に広げるんではなく、最初っからマルチピッチや沢登り、アルパインが目標だからでしょうね。
実際、ボルトルートのオンサイトは5.10aそこそこでも、クラックやマルチピッチを楽しむことは、十分に可能だと思います。

ただ、グレードだけじゃない、リードの本気トライ慣れみたいなものは、マルチで重要だと思います。
ですから、友達と岩場経験を積むのは、これから頑張って欲しいですね。
具体的な講習内容
・ヌンチャクの向き(ウィップラッシュ現象)
・終了点作業の練習(結び替え、立木での懸垂下降)
・実践本気トライ
オンサイト狙いルート、ハングドッグになりそうなルート
ITさんとは、10年来の繋がりです。
なかなかコンスタントに登れないのが悩みですが、さすがに年々上手くなってますね。

10年前のような、溢れる若さはないにしても。

クライミングとは、やはりテクニック主体のスポーツなんだなぁと思います。


2014年9月22日月曜日

迂闊な省略はダメ

9月20日(土)、21日(日)は、小川山にてマルチピッチリード講習。
男性Hさん、女性SGさんの組み合わせ。
<春の戻り雪の近くで、初登攀ごっこ>

マルチピッチでは、原則的に常に何かにビレイされているようにします。

たとえば、フォローが終わったら、セルフビレイを取ってからビレイ解除してもらいます。

リードを始めるときも、ビレイを開始してもらってから、セルフビレイを外します。
同じように、懸垂下降する際も、

①懸垂下降にテンションを掛けてから、セルフビレイを解除

②次の懸垂支点で、セルフビレイを取ってから、懸垂下降の手を離す
つまり、ビレイをスイッチしながら作業を進めて行けるのが、マルチピッチのシステムの優れているところ。
<このルートは、2人には楽勝すぎ?>

その一方で、これを省略することもあります。

たとえば、ビレイポイントが安定した広場なら、

「セルフビレイを取る必要が無い。」
という判断もアリでしょう。
<余勢を刈って、2本目にトライ>

でも、これを迂闊にやると、リスクも大きいのです。

例えば、足で立てる位の
「狭いテラスor外傾した広場」

こんなところで、ノービレイになると

①うっかり、自分の注意力不足で滑落
②パートナーにぶつかって、滑落
③ロープに足を絡ませて、滑落

といった可能性があります。

実際、広々としたテラスでもロープダウンした際に、そのロープを足に絡ませて滑落したという事故例もあります。
足で立てると、クライミングより怖くないから、安心しちゃうんですよねー。
<春の戻り雪を、バックに>


だから、ちょっとした場面で、ノービレイになるときも、

「パートナーに、うっかり押されても大丈夫なくらい広いテラスだな。」
「パートナーに、自分がノービレイになることを、念のために伝えておいた方が安心だな。」

といった、リスク判断をして欲しいです。
<2日目は、3峰にてトポ無視でスタート>

他にも、セルフビレイがロープと絡んでしまったとき、

「一瞬ノービレイになって、セルフビレイを交換する。」
という瞬間芸には、リスクがあります。

私も
「絶対にやるな!」
とまでは言いません。

先に挙げたリスクを分かった上で、気を付けてやる、という選択肢はアリだと思います。
ただ、
「その瞬間芸って、いまの場面で本当に必要ですか?」
ということは、常々考えて欲しいです。

講習では
「ヌンチャクなどで、環付きカラビナじゃなくても良いから、仮のセルフを取る。その状態で、環付きのセルフビレイを場所交換する。」

という方法を、推奨しています。

大した時間ロスにならないので、必ず覚えて欲しい方法です。
<5.8くらいありそうなクラック>

また、迂闊な省略のパターンに

・ビレイポイントを、“多分止まる”くらいのカム複数個で作る

→時間を掛けても、しっかりしたセットをした方が、あとあと気持ちも楽だった。
<恐ろしげなフレークを繋げる、Hさん>

・フォローする際に、スリングをぐちゃぐちゃのまま回収してくる

→結局、ビレイポイントで収納し直すので、無駄な作業が増える
今の2つは、省略が裏目に出ることが多いパターン。

でも、省略するか検討に値することも多いので、その例も挙げておくと・・・

・懸垂下降中と歩きを交えて降りる際、
①ロープを背負い畳みにするか
②肩に掛けただけで、ちょっとだけ歩いちゃうか

という判断。
<隣の2峰で、セレクションをオンサイトしてきたSTさん、KSさんペア>

たしかに、10mだけの歩きのたびに背負い畳みをしていたら、バカバカしい感じです。

でも、長い距離を歩いたり、藪に引っかかると、ロープが絡んでロスになります。

あるいは、ちょっと悪い足場を歩くときは、首に掛けたロープがダラダラと解けるリスクも気にかかるので、ちゃんと畳んで歩いて欲しいところ。
つまり、省略はダメじゃないんです。
やるときは、ちょっとだけ考えて欲しいのです。

「本当に、その省略はリスクが低いのか?」
「省略することで、本当に時間短縮になっているのか?」
今回の2人は、すでに山岳会で山に行っていることもあって、省略形を多く使っていました。

で、やっぱり

「今の、ホントに考えて省略しました?無意識に手を離してたように、見えましたけど。」
「そんなの、省略しても時間短縮にならないですよ。」
「その省略は、リスクが上がるからダメ!」

といった指摘を、沢山しました。
<驚くほど快適な、テラス>

このあたりの意識が、まだまだボンヤリしていそうな感覚があったので、まだ卒業にはしませんでした。

ここで自立させちゃうと、混んでいる三ツ峠なんかでよく見かける

“上からロープダウンされていたり、他パーティーが周りにウロウロしているにも関わらず、ノービレイでバンドをうろうろしている人”

みたいな人に、なっちゃう可能性を考えて。
<頂上直下で見つけた、凹角形のクラック>

こうやって書くと、すごく時間が掛かりそうな気がするかもしれません。
実際、最初はそうなると思います。

でも、慣れれば一瞬で判断できますよ。
だって、マルチピッチで出てくるテラスの形状なんて、そんなに種類は無いでしょうから。

それに、事故は核心部ではなく、ちょっと油断しやすい場面で起こるという法則を考えると、この労力は大事だと思います。
<SGさん敗退で、メパンナクラックの命名ならず!>

ところで、この日のマルチピッチクライミングそのものは、花丸を付けたくなるような素晴らしいリードの数々。

各ピッチのリード中の判断、手際も良かったです。
かなり恐ろしげなピッチもトライしていましたが、講習生の判断そのものには信頼がおけたので、腰を据えて黙っていることが出来ました。
<続いてHさんが、テンション掛けつつも突破!>

屋根岩3峰の頂上直下では、未踏かもしれないクラックに挑んで、テンション掛け掛けトップアウト。

これに代表されるように、かなり攻撃的なラインを付いて、充実そのもののトップアウト。
<屋根岩3峰の頂上は、いつも誰にも会わない静かな場所>

「クライミングとは、何ぞや?」
という意識レベルは十分に卒業レベルなので、

あとは
「安全とスピードとは、何ぞや?」

という意識レベルを上げていければ、と思います。
<歩きを交えた下降>

本日は、良いクライミングの時間を共有できて、私としても楽しかったです。