2014年9月22日月曜日

迂闊な省略はダメ

9月20日(土)、21日(日)は、小川山にてマルチピッチリード講習。
男性Hさん、女性SGさんの組み合わせ。
<春の戻り雪の近くで、初登攀ごっこ>

マルチピッチでは、原則的に常に何かにビレイされているようにします。

たとえば、フォローが終わったら、セルフビレイを取ってからビレイ解除してもらいます。

リードを始めるときも、ビレイを開始してもらってから、セルフビレイを外します。
同じように、懸垂下降する際も、

①懸垂下降にテンションを掛けてから、セルフビレイを解除

②次の懸垂支点で、セルフビレイを取ってから、懸垂下降の手を離す
つまり、ビレイをスイッチしながら作業を進めて行けるのが、マルチピッチのシステムの優れているところ。
<このルートは、2人には楽勝すぎ?>

その一方で、これを省略することもあります。

たとえば、ビレイポイントが安定した広場なら、

「セルフビレイを取る必要が無い。」
という判断もアリでしょう。
<余勢を刈って、2本目にトライ>

でも、これを迂闊にやると、リスクも大きいのです。

例えば、足で立てる位の
「狭いテラスor外傾した広場」

こんなところで、ノービレイになると

①うっかり、自分の注意力不足で滑落
②パートナーにぶつかって、滑落
③ロープに足を絡ませて、滑落

といった可能性があります。

実際、広々としたテラスでもロープダウンした際に、そのロープを足に絡ませて滑落したという事故例もあります。
足で立てると、クライミングより怖くないから、安心しちゃうんですよねー。
<春の戻り雪を、バックに>


だから、ちょっとした場面で、ノービレイになるときも、

「パートナーに、うっかり押されても大丈夫なくらい広いテラスだな。」
「パートナーに、自分がノービレイになることを、念のために伝えておいた方が安心だな。」

といった、リスク判断をして欲しいです。
<2日目は、3峰にてトポ無視でスタート>

他にも、セルフビレイがロープと絡んでしまったとき、

「一瞬ノービレイになって、セルフビレイを交換する。」
という瞬間芸には、リスクがあります。

私も
「絶対にやるな!」
とまでは言いません。

先に挙げたリスクを分かった上で、気を付けてやる、という選択肢はアリだと思います。
ただ、
「その瞬間芸って、いまの場面で本当に必要ですか?」
ということは、常々考えて欲しいです。

講習では
「ヌンチャクなどで、環付きカラビナじゃなくても良いから、仮のセルフを取る。その状態で、環付きのセルフビレイを場所交換する。」

という方法を、推奨しています。

大した時間ロスにならないので、必ず覚えて欲しい方法です。
<5.8くらいありそうなクラック>

また、迂闊な省略のパターンに

・ビレイポイントを、“多分止まる”くらいのカム複数個で作る

→時間を掛けても、しっかりしたセットをした方が、あとあと気持ちも楽だった。
<恐ろしげなフレークを繋げる、Hさん>

・フォローする際に、スリングをぐちゃぐちゃのまま回収してくる

→結局、ビレイポイントで収納し直すので、無駄な作業が増える
今の2つは、省略が裏目に出ることが多いパターン。

でも、省略するか検討に値することも多いので、その例も挙げておくと・・・

・懸垂下降中と歩きを交えて降りる際、
①ロープを背負い畳みにするか
②肩に掛けただけで、ちょっとだけ歩いちゃうか

という判断。
<隣の2峰で、セレクションをオンサイトしてきたSTさん、KSさんペア>

たしかに、10mだけの歩きのたびに背負い畳みをしていたら、バカバカしい感じです。

でも、長い距離を歩いたり、藪に引っかかると、ロープが絡んでロスになります。

あるいは、ちょっと悪い足場を歩くときは、首に掛けたロープがダラダラと解けるリスクも気にかかるので、ちゃんと畳んで歩いて欲しいところ。
つまり、省略はダメじゃないんです。
やるときは、ちょっとだけ考えて欲しいのです。

「本当に、その省略はリスクが低いのか?」
「省略することで、本当に時間短縮になっているのか?」
今回の2人は、すでに山岳会で山に行っていることもあって、省略形を多く使っていました。

で、やっぱり

「今の、ホントに考えて省略しました?無意識に手を離してたように、見えましたけど。」
「そんなの、省略しても時間短縮にならないですよ。」
「その省略は、リスクが上がるからダメ!」

といった指摘を、沢山しました。
<驚くほど快適な、テラス>

このあたりの意識が、まだまだボンヤリしていそうな感覚があったので、まだ卒業にはしませんでした。

ここで自立させちゃうと、混んでいる三ツ峠なんかでよく見かける

“上からロープダウンされていたり、他パーティーが周りにウロウロしているにも関わらず、ノービレイでバンドをうろうろしている人”

みたいな人に、なっちゃう可能性を考えて。
<頂上直下で見つけた、凹角形のクラック>

こうやって書くと、すごく時間が掛かりそうな気がするかもしれません。
実際、最初はそうなると思います。

でも、慣れれば一瞬で判断できますよ。
だって、マルチピッチで出てくるテラスの形状なんて、そんなに種類は無いでしょうから。

それに、事故は核心部ではなく、ちょっと油断しやすい場面で起こるという法則を考えると、この労力は大事だと思います。
<SGさん敗退で、メパンナクラックの命名ならず!>

ところで、この日のマルチピッチクライミングそのものは、花丸を付けたくなるような素晴らしいリードの数々。

各ピッチのリード中の判断、手際も良かったです。
かなり恐ろしげなピッチもトライしていましたが、講習生の判断そのものには信頼がおけたので、腰を据えて黙っていることが出来ました。
<続いてHさんが、テンション掛けつつも突破!>

屋根岩3峰の頂上直下では、未踏かもしれないクラックに挑んで、テンション掛け掛けトップアウト。

これに代表されるように、かなり攻撃的なラインを付いて、充実そのもののトップアウト。
<屋根岩3峰の頂上は、いつも誰にも会わない静かな場所>

「クライミングとは、何ぞや?」
という意識レベルは十分に卒業レベルなので、

あとは
「安全とスピードとは、何ぞや?」

という意識レベルを上げていければ、と思います。
<歩きを交えた下降>

本日は、良いクライミングの時間を共有できて、私としても楽しかったです。