2022年12月21日水曜日

修正力とは何か?

11月17日(木)は、マルチピッチリード講習にて、越沢。
女性Mさん、男性KBさん。

12月3日(土)は、マルチピッチリード講習にて、越沢。
女性Mさん、男性TGさん。
KBさんのリード中、ちょっと危ういシーンがありました。
いわゆる「上に活路を求める」登りで、プロテクションセット態勢を作るのがちょっと大変なので、どんどんランナウトしてしまいました。

クラックの5.10aとかで行ったら、誰が見ても危険行為です。(余裕な人がランナウトするのとは、見た目にも明確に違う。)

しかし、マルチの傾斜の寝た壁で、RCCグレードⅣ級〜Ⅴ級(体感で、岩場の5.7〜5.9
レベル)でやってしまう人が多いのは、理解できます。
ちょっと苦しい態勢でプロテクションセットしているより、数歩進めば楽になる可能性が高い、という「経験値」(カッコ付きの経験値)を積んでしまうのもあるでしょうし、「経験値」は無くても傾斜が寝ているが故に誘い込まれます。
そして、稀に非常に恐ろしい目に遭います。
この手の失敗は、過去の卒業生も多くが行っており、復習参加で来た卒業生も全く直っていないことも数多くあり、私も胸が痛みます。

とても根深い問題で、これを修正したいという強い思いが、私の講習スタイルを日々変える原動力にもなっています。
実際、ムーヴLv.0や岩場リード講習で教えるムーヴの基礎も、昔よりも相当ボリュームが増えました。
しかし、こういった事態は、未だに散見されます。
実際、KBさんも前回講習でも同様の指摘をしたところでした。

誰でも1度や2度の失敗は必要なので、講習中での事故可能性は受容せざるを得ないとしても、こういったヒヤリハットの回数を最小化して欲しいとは思います。
ここで、「修正力とは何か?」という問いを立ててみます。

①課題発見能力
そもそも、ジムの5.11とか4級とかが登れる運動能力がある人が、Ⅴ級レベルでプロテクションセットの静止ができない(別の例を挙げると、「Ⅳ級レベルで逆再生可能ムーヴを貫けない」)のは変ではないか?
このまま登攀能力を上げていっても、マルチピッチを安全に登るという当初目的の1つは、達成できないのではないか?
いつの間にか、「グレードを上げたい、〇〇という課題を登りたい」ということだけにフォーカスしてしまっていないか?
②練習方法の立案能力
ジムでの練習方法、ボルトルートやクラックのショートルートでの取り組みを、再考する。

ジムでの練習例)
・グレード〇〇までは、全てのホールドで5秒レスト
・グレード〇〇までは、デッド禁止
・グレード〇〇までは、足音を立てたらムーヴやり直し
・グレード〇〇までは、逆再生可能ムーヴだけで登る
・グレード〇級までは、ボルダーのようにクライムダウンが厳しい状況であっても、行きつ戻りつをしてでも一撃に拘る

グレードと一括りにしましたが、課題の特性で、デッド禁止に無理があるルートが低グレードで存在することもあります。
ここにも、一定レベルの考察力が要求されます。

自分が、岩場での登りが危なっかしいと感じる方は、たとえ主戦場がボルトルートであったとしても、この手の練習方法を追求してみる時間を作ることをオススメします。
③いわゆるPDCAサイクルを何度も何度も回す
問題意識が間違っていても、練習方法が間違っていても、目的の能力はほとんど伸びません。
①〜③の何か1つが欠けても、修正は難しいです。

講習生の中で修正力が高い人は、①の問題意識を私が投げかけたら、②と③を色々と試せる人だなと思います。
行き帰りの車中や、宿での会話だけで、練習方法を見事に修正していくのです。

そういう人は、ロクスノを読んでも、トップクライマーの記録を読んでも、我がこととして練習方法を微調整していくのでしょうね。
そう考えていくと、私自身の修正力の低さ、意識の低さも突きつけられる心持ちです(笑)。
もちろん、そう出来ないのが凡人なので、②や③についても講習でお付き合いしたいと感じています。

何年も講習を続けていただく方は、こういった考え方そのものも身に付けていただきたいです。

これは、今回挙げたようなリスク管理に限らず、
・特定ムーヴを覚えたい
・特定のフィジカルを上げたい
・苦手を克服のための原因分析したい
・オブザベ能力を上げたい
などの、あらゆる場面に必要な思考方法だと感じます。

もはや、クライミングに限った話じゃない気もしますが、クライミングで実践するにはクライミングの基礎が無いと不可能でもあります。

10年前に講習を始めた頃は、まさかこういう考え方こそが講習すべきこととは、思っていませんでしたねー。