2022年9月28日水曜日

11月の予約受付

10月3日(月)の夜21時より、11月分の予約受付を開始いたします。

11月は、岩場リード講習は天王岩、クラックリード講習は湯川or城ヶ崎、マルチピッチリード講習は越沢、といった可能性が高くなります。

ではでは、皆さまよろしくお願いします。

2022年9月26日月曜日

手繰り落ち、ケース解説

9月25日(日)は、自分のクライミングにて、小川山ボルダー。
10年以上前に合計6日間以上は通ったであろう、三日月ハング(1級)を登ることができました。
アップ後に11時に再開して、15時30分にムーヴ完成(スタートが低いため、、バラシが可能)、16時に登れました。
最近、自分なりに意識しまくっているフィジカル系の練習が活きたように思えて、本当に良かったです。

さて、話は変わりますが、最近手繰り落ちについて会話することがあり、ここ何年かで見かけたパターンをお話ししようかと思います。

この際、
①パンプの限界付近やホールドが持てない状況で、無理にクリップに行き、案の定の手繰り落ち
②普段から足置きが雑過ぎて、スリップの手繰り落ち
といった超典型のパターンは除外します。

これはこれで見かけるし、上級者でも確率0にはならない問題だと思います。

(追記)僕自身も、手繰り落ち未遂(バランスを崩したタイミングで、慌ててヌンチャクorジムのルート外のホールドを掴み、事なきを得た)は、何回かあります。

今回は「そういうことは、ある程度注意している自覚のある方」が、不意に起こしてしまう手繰り落ちというケース紹介です。

●ケース1
<図1>

図1は、軽いレイバック状態でのクリップです。
右下方向に抑える力(A)と、左下方向に張る足の力(B)の均衡により、バランスが保たれています。
ちなみに、Aはスローパー気味、Bはインカットしたサイドカチ、Cで自重のほとんどを支えるスタンスはガバ足、傾斜は薄被り(100°程度)です。

クリップは若干高く、左手でクリップするために、右手でロック(腕を曲げた状態で固定)したくなります。
その際、左足に乗り込んで行くため、左足に掛けていた力が鉛直(重力方向)の力が掛かってしまい、見事にスリップするという仕組みです。
 ※その後、その方は右手をロックするだけで左足には乗り込まず、若干のツイストをしながらクリップする態勢を発見していました。

私自身、目撃した訳ではないのですが、ホールド配置からしても手繰り落ちしやすい場面ではあったと思います。

ここで、反省点をいくつか考えてみます。

①そもそも、力方向(力の釣り合い)を考えていたか?
あまり考えていなかった。どちらかと言うと、左足はわずかな荷重しか掛けていないため、そこまで重視していなかった様子。
   ※右足に自重のほとんどが掛かっているので、心情は理解できる。
また、外傾スタンスに対して鉛直荷重を掛けたくなる状況だったことも、無自覚だった様子。

②チャレンジしてフォールするのは良いが、落ちるつもりが無い場面で不意に落ちるのは反省すべき、という理解はあったか?
本人なりに、これまで手や足がスリップしてフォールする機会が多いことを自覚した様子。

③足置き(足裏感覚)への注意
シューズが、岩場ではもう使えないヘタった物を使用していたが、穴が空いているなど、少々酷過ぎて課題のレベルに合っていなかった。

①、②に関して、もう少し考察を深めます。
ある講習生の発言を、私なりに要約すると。
「そもそも、ムーヴ中はバランスの限界を攻めるものである。なので、このケースでも左足に鉛直方向の力を掛けてもギリギリの摩擦で滑らないことは十分に考えられる。なので、仕方ないんじゃないか?」

実際、今回の当事者は力の釣り合いなどでムーヴを考えるタイプというよりは、バランスの限界を攻めることによって上達してきたタイプです。
また、怖がりゆえにデッドなどで落ちることは少ない一方、スタティックを追求していく過程で②が多くなったのもあるでしょう。

そういう登り方を完全否定することも難しいです。
これに関しても、
「クリップ中は普段のムーヴ中よりも安全マージンを大きめに取るべき。」
という当たり前の結論にしか至りませんし、そのサジ加減を誤って手繰り落ちすることは中上級者でも十分あり得るでしょう。

一方で、
・今回が3本目での手繰り落ちだったためビレイヤーが一瞬でロープを引かなければグラウンドフォールと予想されること
・手繰り落ちで指を切断した例は私が知るだけで2件あること(ロープが指に絡んだのか、カラビナに指を挟んだのか、などは不明)
といった事実は抑えておきたいです。

●ケース2
<図2>

図2は、もう少し単純な事例です。
手はガバを鉛直より若干手前に効かせ(A)、アンダーホールドの上面を押すように乗り(B)、バランスを取っておりました。

これを、背伸びしてクリップに行き、見事に足がスリップしました。
  ※この場面は、私も目撃しました。

反省点として
①上述の状況を理解していなかった。
②クリップ動作を、通常の指が届けばクリップできるタイプではなく、手のひら全体が届かないタイプ(強傾斜などで有利になりやすいタイプ)のクリップ練習をやっている最中で、この場面でも行った
③パンプした状態の中、思考停止気味で急いでクリップした。

などが考えられます。

●ケース3
<図3>

図3は、右手保持で左でクリップする場面です。
右手の真下のラインを、赤点線で示しました。

この際、左足がスリップし、手繰り落ちになったそうです。
(講習生に「最近、こんなヒヤリハットに遭いまして」と聞いた話なので、状況は推測も含む。)

左足は、普通に乗れるぐらいのスタンスではあったものの、ガバ足やインカットカチなどの「よく掻き込みの効くスタンス」では無かった様子。
<図4>

比較のために、図4を書きました。
こちらは、赤点線をまたいでいます。
そのため、右足・左足ともにスタンスには明確な荷重が掛かり、スリップしにくいものです。

一方で、図3では右足には自重が掛かるものの、左足は回転を止めるための軽めの荷重しか掛かりません。
しかし、軽い荷重ではあるものの、一度スリップして回転が始まってしまえば、フォールは避けれれません。
つまり、図3の状況でクリップに行く場合、左足がスリップしないように細心の注意を払うか、右足のスタンスを左足に踏み替えて片足バランスでクリップした方が良かったと思われます。

ちなみに、このヒヤリハットは、ジムの4本目だったため、やはり本人は「やっちまった。これは事故だな。」と覚悟したそうです。が、やはりビレイヤーが渾身の1引き+1歩後ろに下がることをしたのでしょうか、グラウンドフォールは避けれらたそうです。

以上が、私なりの分析です。
本人なりの「落ちそうも無いという感覚」も大切ですが、ムーヴの仕組みを理解すること、不意落ちを極限まで減らす意識、なども大切だろうと思います。

練習方法としては、以下3点を推奨します。

安全な状況であっても不意落ちした場合は、なぜ予想外に落ちたのか、なるべく原因究明する習慣を付ける。
②ウォームアップなどでは、過剰なまでに丁寧に登る練習を織り交ぜる。(これは岩場対策にもなる)
③チョンボクリップ(ルート外のホールドなどを使ってのクリップ)は、避ける。クリップできない場合は、潔く敗退し、次のトライでクリップムーヴを今まで以上に真剣に探る。

 ※チョンボクリップしてトップアウトを繰り返す人も多いです。核心ムーヴよりはクリップムーヴの方が易しいため、トライ数を重ねると「いつの間にか」できるようになることが多いものです。そして、その方法はR.P.戦略としては最短経路です。しかし、なんとなく出来るようになったことには危うさがあると私は考えるため、毎回クリップムーヴのリスクと向き合う覚悟を持って欲しいのです。

2022年9月20日火曜日

マルチピッチはマルチタスク

9月16日(金)は、自分のクライミングで小川山ボルダー。
10年以上前に全然できなかった、フィロソフィーをトライしに。

120度のトラバース課題で、カチと第二関節スローパーのサイドorガストンという構成。
ガバ足が少ないので、足技でフィジカルをカバーする方法も取りづらく、どうやっても真っ向勝負の連続になるタイプ。

結果は、まだ全然ダメでした。
ただ、10年前よりは進捗を感じる程度にはなったので、ツライほどのトライ状況にはならず。
もう少し行くのもアリかもしれません。
<夕方、、隣のクラックで、レイダウンスタートの練習>

翌日は、NSさん夫妻のマルチピッチリード講習で小川山。

ここで、なかなか興味深い話が出ました。
1P目で、ピッチを短く切りすぎた奥さま。
もう5m伸ばせば、2P目のリードをビレイする位置として適切でした。
本人としては、「せっかく良い立木も現れたし、ここで切ればフォローの姿も見やすいし。」という判断。

結果的には、5mの移動のために30分のタイムロスが発生しました。(慣れたパーティでも、10分は掛かりそうな状況。)
続く2P目で、今度は旦那さまがピッチを伸ばし過ぎ、枯れ木をビレイ点にしてしまいました。

本人としては、
「ちょうどロープの屈曲点にあるビレイ点で、ありがたい。難しいセクションの手前で切るのが原則なので、歩きっぽいセクションが終わるところまで伸ばせるのも、グッド!」
ぐらいの感覚でした。

ちなみに、枯れ木であることは気づいており、このままピッチを伸ばす場合のプロテクションとして使用することに不安を感じたそうです。
が、ビレイ点として使う際には、その不安をいつの間にか忘れてしまったそうです。

5mほど手前に、割と元気そうな立木があり、カムでもバックアップが取れる「ビレイ点の適地」があったのですが。
この出来事、なかなか興味深いなと思いました。

1点目は、1P目の反省を活かそうと考えて、裏目に出た点です。
岩場リード講習などで、ロープと足の絡む関係を講習し、次のリードトライで意識したら多少マシになる、という入門型の学習過程を踏みづらいのです。

マルチピッチリード講習は、仕事で言うところのオンザジョブトレーニングに近い状況です。
全ピッチ出てくる状況は異なるため、様々な原則(※)を押さえつつ、何を重視すべきかを本人なりに判断する必要があります。

※今回で言えば
・難しいセクションの手前でピッチを切ると、リードのビレイがしやすくなる。(見やすさ、ベストなビレイ位置を選べる、など)。易しいセクションは難しいセクションの後半部として登ってしまうことでピッチ数の削減にもなる。

・ビレイ点は、ラインが大きく屈曲するところに設定すると、ロープの流れが良い。

・ビレイ点は、安全マージンを大きめに取ることで、パーティ全滅のリスクを低減させる。

など、全ては理解済みの内容でも、総合的にその場で判断することは難しいようです。

2点目は、枯れ木であることに気付きつつも、いつの間にか忘れてビレイ点としていた点。

1点目の総合的判断と関わりますが、マルチピッチは非常に頻繁に情報処理の限界を超える場面が出てきます。
リードや作業そのものは、全く焦る必要はなく、ゆっくりと考えながら取り組んでいただいていますが、それでも情報処理の限界があるようです。
最初は、マルチピッチのシステム理解やら、作業の流れに不安を感じていた2人ですが、本当に考えるべき核心に迫ってきた、とプラスに捉えたいと思います。

以前の講習生に、「マルチピッチは、マルチタスクだ!」と言っていた方がいたのが思い出されます。
その後も、3P目、4P目とドラマが続き、キャンプ場に降りたのは21時となってしまいました(笑)。

でもまぁ、トップアウトできたし、学びも大きそうだったので、何よりでした。
引き続き、ゆっくり行きましょう。

2022年9月12日月曜日

「頭が良いのに、なぜ考えないんだろう?」

ジムリードの下部(例えば、1本目と2本目の間)で、フォールして怪我を負ったとします。
事故原因を知りたいなら、下記のことを質問すると思います。

・2本目のクリップのタイミングが遅すぎたのか?
   →ビレイヤーがどう頑張ってもグランドする状況だったのか?

・1本目の後に大きくトラバースする設定だったので、ロープに安全確保されるということ自体が無理筋だったのか?
   →同上
  ※落ちてはいけないルートorボルダーとして着地するべきルートor1本目をあえてトラバース進行方向側にクリップすべきルート、などの可能性考慮

・2本目に対して手繰り落ちだったのか?
   →同上

・本来的には安全圏でのフォールだったけれど、ビレイヤーがロープを弛ませていたり、何らかの問題があったのか?

・そもそも、上述の状況を理解せずにトライしていたのか?
   →現状のリスク把握が足りていたか?

・その他、ミスを誘発する複合要因はあったのか?

同じ事故があったとしても、
「下部で落ちるのは危ないよねー。」
で会話を終える人もいます。

私が疑問なのは、
「とは言え、下部が難しいルートは世の中に無数に存在するので、ムーヴ選択・着地姿勢・ビレイ技術などを磨くしかないんじゃないか?」
ということです。
岩場だと、1本目直後に核心というルートも数多くあります。

また、そういった発言をしている人も、一定期間クライミングをしているなら、その事実を知らないとは思えません。
つまり、自己矛盾に気付いていない状態です。

では、なぜ自己矛盾に気づかないのでしょうか?
興味深いことに、いわゆる頭の良い人にも起こるようです。
(大学教授、医者、コンサル、ITエンジニア、などなど。私のイメージでは、相当頭の良い方々。実際、そういう方はビレイ技術や墜落距離の予測などの理解が早い傾向にあるため、講習していてイメージが強化される部分も大きい。)

経験上の回答は、以下になると思います。

①興味がない。
  →本人の興味は、〇〇ルートの完登、グレード、岩場の状態、誰が何を登ったか、核心のムーヴ、など。

②下部が難しいルートは、色々めんどくさいので、避ければ良いと思っている。
  →どうしてもやる場合は、2本目にプリクリップして、トップロープ状態でのリハーサルでムーヴを固める派。
  ※オンサイトトライにおけるリスク管理、グラウンドアップの放棄をすれば、大体事故は無いでしょう、という考え方

人間は見たいものしか見ないので、特定分野以外は分析力が働かないのでしょうね。
クライミングのスポーツ的な側面で言えば、「フィジカル不足」を毎日のように口にしながら、トレーニング方法を分析しない人と、同じ構図でしょうか。

2022年9月7日水曜日

ポジティブシンキングもどき

例①
本チャンで、ランナウトしている場面。
ボルダーで、絶対に落ちたくない高さでムーヴを探って逡巡している場面。
ボルトルートで、落ちてはいけないセクションを慎重に探っている場面。
沢登りで、ロープ無しで易しめの滝を登っている場面。

こういった場面で、
「次のホールド(あるいはムーヴ)が思ったより悪かったら・・・。」
「抜け口が脆かったら・・・。」
「抜けられても、次で詰まったら・・・。」
などと想定しながら登ることは、必要なことです。

結果的には、
「なるべくスタティックなムーヴで、戻れる範囲で探りながら登る。」
というのがセオリーになってくるはずです。
(絶対に突破できるムーヴの読みに自信があり、かつ抜けた後の状況も確定的に生きて帰れそうな自信がある、などの例外的な状況判断は色々あると思いますが。)

ちなみに、こういう会話を聞くことが、よくあります。
Aさん「あそこまで、心配なんだけど。(90%以上登れるとは思うけど、落ちたら事故だし、どうしよう。)」
Bさん「大丈夫だよ。全然!〇〇っしょ!(Bさんなりの見立てを語ったり、Aさんの能力を褒めたり、自分が過去にそのルートをトレースしたことがあればホールド情報を伝えたり)」
Aさん「そうかなー。まぁ、行ってみます。」
Bさん「行ける行ける!大丈夫だよ。」

恥ずかしながら、私自身もAさん、Bさん、どちらの役回りも演じてしまったことがあります。
本来、Aさんは探りながら登って自分で進退判断をすべきなのを、曖昧な自信を持たせることで阻害してしまったと思います。

ちなみに、私個人が何かを判断するときも、脳内でAさんとBさんは意見を出し合っているように感じます。
当然ですが、Bさんの意見は話半分に聞き流し、冷静に戻れる範囲で探ることを推奨いたします。

例②
ジムリードのオンサイトトライのオブザベで、大きなインカットホールドがありました。

Aさん「グレード○○だし、大ガバっしょ!ってことは、あそこで大レストできるし、クリップもできるから・・・。次の2手ぐらいも楽だな。よしよし・・・。」
Bさん「あのホールド触ったこと無いからなー。大きいけど、スローパー気味だったり、マッチしにくいかもなー。だとすると、レストしにくいから、あそこで思考をフルリセットできるような将来を描くのは、ちょっと楽観的すぎるかな。と言って、次から数手も良いホールドでは無さそうだし、苦しい状況でフーフー言いながら高度上げる感じかも。」

実際にはガバかもしれないし、違うかもしれません。
Aさんの思考回路からすると、ガバだと思うのに、わざわざ悲観的シナリオを想定するのが労力の無駄使いなのかもしれません。

例えば、こういうストーリーが予想されます。

Aさんは、ガバじゃなければ早々にテンションコールして、「なんだよー。グレード辛いよー。」ぐらいのコメントを言いつつトップアウト。
次のトライで、サクッとR.P.し、「分かっちゃえば簡単だね。あそこは、ガバじゃないから素早く通過ね。」とコメントする未来が予想されます。

Bさんは、オブザベで神経を擦り減らしますが、ガバじゃない場合も想定内なので、どうにか頑張ってオンサイトを決める可能性があります。



これらの例は、日々見かけるので、まぁ間違いないと思います。
僕なりの考えは以下です。

・楽観的シナリオを信じると、リスクが高い場面がよくある。
・悲観的シナリオを想定し始めると、考えるべきパターンが増えるため、安易には取り付けなくなる。
・悲観的シナリオを考えた上で、リスクある場面なら敗退シナリオ想定、スポーツ的な場面なら別ムーヴなどのオプション想定、をやった方が良い。

今回のタイトルの意味を、最後にまとめます。
初心者のうちは、楽観的シナリオを語ることの多いノリの軽い人が「ポジティブシンキング」だと見えてしまうかもしれません。

でも、悲観的シナリオを想定した上で、「リスク判断による敗退もアリ」、「安全なら色々と手を尽くして登れないなら止む無し」ぐらいに腹を決めて取り付くのが、理想的だと思います。
そこまで考えた上で、敗退してもクヨクヨし過ぎない、オンサイト失敗しても次に繋げる、ぐらいが良いんじゃないでしょうか。

まぁ、人間なので多少は挫けますけどね・・・。