2024年4月25日木曜日

オンサイトトライ時の「行きつ戻りつ」

6月の予約受付は、4月30日(火)の21時スタートです。
念のため、再掲。

レストポイントから核心部を探り、再度レストポイントに戻る、という方法があります。

リードのオンサイトトライが、最も頻出する場面ですが、ボルダーであっても一部有効な場面はあります。
マルチピッチ、沢登り、冬期バリエーションなどでは、これができないと死亡に直結するとさえ思います。
<クラックリード講習@城ヶ崎>

私は、本当にしつこくやる方で、岩場でのオンサイトトライが2時間に及ぶこともあります。

理由は、2つ。

・オンサイトトライを大切にしたいから。
ことリード技術に関しては、オンサイトに拘った上で、その上達方法を真剣に検討しないと上手くならないと感じています。オブザベ、省エネ技術、戦略、駆け引き、リスク計算、などなど。
グレード自体はレッドポイント主体の人でも向上しますが、あくまでリード技術という観点に絞って考えるとオンサイト技術で見るべきかなと考えます。

・本当に危ない場面も多い。
マルチピッチは当然としても、ショートルートでも「落ちてはいけないセクション」は、本当に多いと感じています。ここで、戻れないムーヴで突っ込んで、次のボルトにクリップできたから結果オーライ、みたいな登り方は、もはや心が受け付けません。
クリップの直前一歩だけを、「絶対に行けばクリップできる」と読み切って勝負をかけるのは、ボルダーの怖いマントルみたいなもので、仕方ない場面もありますが、極力避けたいです。

これは、プリクリップ問題にも直結する話です。
スタイル問題は、リスクをやせ我慢するのではなく、こういうことを真剣に考えた方が良いと思います。
<名張に行ってきました>

さて、この問題に関して、3つの論点を挙げてみます。

①そもそも行きつ戻りつが苦手な人は、どうすれば身に付く?

②現実的に、許容できるトライ時間は?

③効率的な行きつ戻りつで、時間短縮は可能か?
<苔男で、行きつ戻りつする桂くん>

①そもそも行きつ戻りつが苦手な人は、どうすれば身に付く?

まず前提として、「行きつ戻りつがどうしても嫌い」だという人は、無理にやらなくても構いません。
ジムのようにボルト間隔が近いルートなら、困ったらテンションor潔くフォール、で良いんじゃないでしょうか?
実際、コンペを見ていても、それに近いスタイルで上位になる選手も居ますので、我々一般レベルではどんなスタイルであれグレードに伸びしろはあります。

ただ、「落ちてはいけないセクション」があるようなルートは、きっと苦手になるでしょうし、すぐにチョンボしたくなるでしょう。
「チョンボしないけど、リスクをやせ我慢しているだけ」というのも、いただけませんし。

あとは、行きつ戻りつと土壇場の頑張りをミックスさせたような至高のオンサイト体験は、一生できないかもしれません。これは、グレード的には5.10レベルでも十分に体験できるので、本当はオススメしたいです。
<行きつ戻りつ>

次に、行きつ戻りつができるようになりたい人です。

ジムや岩場で見かけた人、講習生などを見るに、いくつかのパターンがあります。

・そもそも、足がデッドポイントっぽい感じで、戻りにくそうなムーヴ構成をしている。
   →手だけでなく、足のスタティックを考えた方が良い。

・ノーハンドレストできるテラスから数歩上がって戻ることも、全く意識にない。
   →完全回復できそうなのに、おそらくは意識が無い。ビレイヤー、周りに申し訳ないという気持ちもある。単なる「せっかち」な場合も多い。

・垂壁の大ガバなのに、戻らない。
   →そこで回復できる自信が無い。結果として、戻らないことが常態化している。

・微妙なレストポイントに、戻らない。
   →ここまで来ると、さすがにレスト技術の差が顕著になり、戻っても回復できない人がいるのも理解できる。

・レストポイントからの数手(数歩)を暗記しないと戻れなくなるパターンに弱い。
   →暗記しようという意識の問題も大きい。ホールド・スタンスの暗記が重要なのか、ムーヴ自体を暗記しないと戻れないのか?

自分がどのパターンに該当し、それをどうやって改善するかを考えるのが、興味深いところです。
<こちらも、腰を据えてビレイ>

②現実的に、許容できるトライ時間は?

まず、安全上の上限として2時間が妥当だと感じています。

自分自身や、これまで一緒に登ってきた「行きつ戻りつを積極的に行うタイプ」のパートナー
5人程度を思い返しても、集中力切れ・喉の乾き・シャリバテなどを引き起こします。
クラックなどで順調に登っても40分以上掛かりそうなロングルートを粘りに粘ったとしても、2時間後に核心を突破できていないなら、まず無理でしょう。
マルチピッチなどのリスクあるピッチのリードでは、この時間を越えることは、判断力の大幅な低下を招いていると感じます。

もちろん、「核心を越えてから5.10台が続いて、慎重に行けば登れちゃうだけに2時間オーバー。」とか、「粘りに粘った挙げ句、ハングドッグになってしまい、クラックなどでカム残置もできないのでトップアウトorエイドダウンで2時間オーバー。」とかも、考えられます。

状況的に仕方ないこともあると思うのですが、本人にもストレスが大きく、ビレイヤーからも泥仕合に見えるので、なるべく避けた方が良いです。
それでもやってしまったら、軽めでも良いので謝罪します。
<サキサカ1P目の桂くん>

次に、ビレイヤーの集中力です。

これは、そもそも素晴らしいビレイは10分程度が限界じゃないかと思います。
レストポイントから出発するときに「行きます!」の声がけをすることで、レスト中はビレイヤーに休憩してもらう、などのメリハリが必要です。
ただ、ビレイヤーが行きつ戻りつのビレイを面倒だと思っていそうだと、「行きます!」と言っておいて、やっぱり戻るのを繰り返してしまうのが、お互いにすごくストレスになります。
(「行きます詐欺」をやっている気分になる。)

グリグリなどのブレーキアシストも、やはり有効だと思います。
<このままBlueまで繋げるつもりだったので、ギアも重い>

最後に、ビレイヤーや周囲への迷惑です。

これは、本当に人によるし、場面にもよると思います。
ビレイヤーも行きつ戻りつを積極的に行うタイプで、順番待ちも皆無なら、問題ありません。
そうでなくても、その頑張りを応援してくれる雰囲気があるのなら、問題はありません。

ただ、順番待ちでイライラしがちな岩場というのも実際に存在します。
ビレイヤーが行きつ戻りつをそれほどしない場合は、どこまで許容できるタイプか見極める必要もあります。
③効率的な行きつ戻りつで、時間短縮は可能か?

行きつ戻りつに肯定的な私ですが、とはいえ闇雲に行きつ戻りつをするのも考えものです。
行きつ戻りつは行うが、少ない回数で正解を導きたい、というのは当然の願いでしょう。

主には、
・マルチピッチなどの時間制限がある
・微妙なレストポイントなどで行きつ戻りつを数回はできるがそれ以上繰り返すと核心ムーヴが成功しなさそう(核心前に、ほぼ確実に無限レストポイントがあるのは、低グレードのみ。)
・周囲への影響から、長時間トライは、1日に1回以内に留めたい(長時間ハングドッグと、似た構図?)
といった状況が考えられます。

例1)
地上やレストポイントから、核心部のホールドが全て確認できる場合。
その場合、ムーヴの選択肢がいくつか浮かびます。
そのムーヴの導入部分だけを行きつ戻りつで何パターンか試し、ゴーアップする、というのが理想です。
これならば、2〜5回程度で発進できそうです。
ジムリードのオンサイトトライなどで頻出のパターンですし、コンペを見ていてもリードが強い選手は行っています。
ジムの場合、5.11以上のオンサイトトライで核心前で無制限にレストできる、というケースも少ないので、この技術が肝になります。

※講習生は、これが苦手な人が多いです。オブザベ能力の問題でしょうね。

例2)
ホールドの掛かり、ホールドの場所などの確認をしてからでないと、ムーヴの選択肢が絞り込めない場合。
岩場のハング越えなどに頻出です。
残念ながら、可能な限りホールドを触りに行き、戻って作戦を練り直すことになります。
かなり時間が掛かることもあります。

※ハング下のレストポイントに入ったときに、「ハング上をオブザベできる場所で、なるべく見ておくべきだった。」と後悔することが多いので、注意しておく。

例3)
プロテクションを先行させるために、一旦クリップしてから、また戻る場合。
特に厄介なのが、カムセット態勢に難航してしまい、疲れて何度も戻るパターンです。
さらに、カムセットした挙げ句、その場所がムーヴに干渉してしまい、別の場所にセットし直すこともあります。
大抵の場合、ここで少しでも高い位置に固め取りしたい場面でもあり、作業は難航しやすいです。

※プロテクション先行→固め取り→ムーヴ干渉、というパターンは、超頻出だと理解しておく。

例4)
落ちてもギリギリ怪我はしなさそうな状況に思えるが、かなり際どいフォールになりそうなので、99%落ちないムーヴを探したい場合。
ギリギリでテラスに届かないであろう、振られ落ちだが隣の壁にはぶつからないであろう、このカムなら何とか止まるであろう、などなど。
この場合、命が掛かっている感覚になる。

※僕が2時間トライになるパターンとして、これが特に多い。絶対に落ちられない状況の方が、可能・不可能という判断も下しやすい。
「99%は落ちて怪我しないのなら、99%落ちないムーヴならばリスク許容できる。」という状況だと、時間を掛けただけ成果が出やすいため、悩ましい。

例5)
ライン取りが複数考えられ、ルートファインディングに迷った場合。

※効率的に複数ラインを試すために、色々と頭を使う。
例1)に近い状況で、10〜20回も行きつ戻りつしていたら反省すべきでしょう。

一方で、例2)+例3)、例2)+例4)といった悪条件が揃った状況では、もはや作業を終える時間が読めなくなってきます。
こういった中で、私が意識していることは以下になります。

①ハマりそうなルートは、たとえグレード的に易しくても、アップ無しで極力取り付かない。
「ロングルートだし、下部は易しいから登っているうちに暖まるよ。」などとパートナーから勧められがちなので、要注意。
アップが終わってからトライするだけでも、30分以上もトライ時間が変わることもある。
周囲にアップルートが無く、仕方ない状況もあるが。

②行きつ戻りつを始めたら、今自分が置かれている状況を頭の中で整理する。

例1)ムーヴ選択の最終絞り込み
例2)ホールドの位置、掛かりの確認
例3)プロテクション先行(ムーヴとの干渉注意)
例4)確実なムーヴの必要度合い
例5)ルートファインディング

これにより、作業を着々とこなすように意識する。

③ビレイヤーが不快に感じている可能性、自分自身への不甲斐なさ、などが押し寄せてくるが、その感情を客観視する。
この場面では、トライを止めるか、時間を掛けるかしか無い・・・。

④粘りに粘った挙げ句、登れずにテンションした場合の展開(大迷惑シナリオ)も念頭に入れておく。
ボルトルートなら、ハングドッグせずにロワーダウンすることも考慮。
クラックなら、ムーヴ解決は捨てて、すぐさまトップアウトorエイドダウン回収に移行することも考慮。
フォール後に、ビレイヤーと相談する。

どれだけ意識してもハマるときはあるんですが、それを承知で色々と思考を巡らすのが人間かなと思います。
<マルチピッチリード講習@三ツ峠>

名張で登った主なルート

1日目
苔男(5.11a、フィンガー系) フラッシュ
サキサカ1P目+Blue(5.10a+5.10a、フィンガー〜ワイドまで盛り沢山の45m) 後半部分はO.S.かな?

2日目
大魔神の逆襲(5.11a、ハンド系と見せてフェース系) O.S.
   まさに、これで執拗な行きつ戻りつを行いました。1時間30分ぐらい?

3日目
レスト

4日目
ムササビ君の休暇村(5.10b、ワイド系) O.S.
   限定せずに登りました。
   これは、我ながら効率的な行きつ戻りつが出来たと思う。







<アドバンスクラック講習@野猿谷>

2024年4月24日水曜日

6月分の予約受付

4月30日(火)の夜21時より、6月分の予約受付を開始いたします。

先月のマルチピッチリード講習の変更に続き、ムーヴ講習の変更も行います。
ムーヴLv.1を原則廃止して、全て、ムーヴLv.0に統一いたします。
講習方法の変更、洗練に伴い、クラス分けをする必要性を感じなくなったためです。

平日のジム講習場所は、火木がDボルダリングプラスリード立川、水がランナウト、を基本といたしますが、最初に申し込んだ方の希望である程度は融通可能です。

引き続き、よろしくお願いします。

2024年4月1日月曜日

5月の予約受付、マルチピッチリード講習の改定

①4月4日(木)の夜22時より、5月分の予約受付を開始いたします。

ジム講習は、火木をDボルダリングプラスリード立川、水をランナウト、週末の雨中止はストーンマジックを基本といたします。
また、八王子から1時間以内のジムであれば、交通費などの経費を負担いただけば、その他のジムでも講習可能です。
これまで通り、相談に応じたり、こちらでジム指定を行う場合もあります。

どうぞよろしくお願いします。



②マルチピッチリード講習を2つのクラスに分解することにいたします。

例えば、三ツ峠くらいのスケール感(ロープスケール100m以上)の壁では、トップアウトを目指さずに時間管理を除外したクラス設定にしようと考えています。

例えば、もともと数ピッチでトップアウトできる壁のスケールであれば、難しいセクションはフォローが見やすいor声が届きやすい場所でピッチを切り、ピッチ数を2倍にして登るという選択肢も取れます。
時間に余裕があれば、ムーヴを丁寧に行うことや、浮き石のチェックも、もう一段階丁寧にできます。

もう少し余裕を持って講習カリキュラムを組もうと思います。
今回に限らず、マルチピッチ講習は他の講習に比べてリスクが高いと感じているので、少し方法を模索してみます。

例えば、両クラスとも10回ずつぐらいの受講をイメージしています。

A:マルチピッチリード講習
原則、アプローチ2時間以内とする。
原則、3ピッチまでを対象とする。
残置無視・トポ無視での初登攀ごっこ、というスタイルで行う。
半日を地上でのロープワーク練習や、カムやピナクルでのビレイ点作成練習、メインロープでのビレイ点作成、ハーケン打ち練習、などに費やし、1〜2ピッチのみを登る日をメインとする。

参加条件:①クラックリード講習を卒業し、5.8以上のクラックを3本以上オンサイトしていること。
     ②マルチピッチ体験を受講していること。

B:アドバンスマルチピッチリード講習
原則、アプローチ2時間以内とする。
ピッチ数に制限なし。
残置無視・トポ無視での初登攀ごっこ、というスタイルで行う。

※時間管理と丁寧さ・焦りの最小化の両立、という難題と向き合わざるを得ないケースが増えることを想定。
※登りと違うラインを下降するケースが増えるため、地形把握と向き合わざるを得ないケースが増えることを想定。
※カムスタック、忘れ物回収などのイレギュラー対応、ちょっとした怪我への対応、など初歩的なセルフレスキューまでの習得を目指す。

参加条件:マルチピッチリード講習を卒業していること

2024年3月18日月曜日

湯河原、サブウェイ

3月15日(金)に、湯河原のサブウェイ(2段)を登ることが出来ました。
紛らわしいのですが、秋にトライしていたのは小川山の延長サブウェイ(1級)です。

11月にトライして、2日目には惜しいところまで行ったのですが、結構苦しめられて、結局6日間のトライとなりました。

以下、苦労した点。

①トラバース課題なのでバラしは容易だが、ほとんどレスト出来なかったため、繋げにくかった。特に、1手ごとに複数の意識したいコツがあったりして、10数手の課題でも20ぐらいのコツがあったため、コツが自動化されるまでは前半パートの再現性が低すぎた。
数週間ぶりに行くたびに、手順足順は暗記していてもバラシ直しから始めざるを得ない。

※コツは、手順足順のシークエンス暗記ではなく、もっと細かい話。

②年末から1ヶ月以上に渡って、風邪が治りきらない時期があり、まともにトレーニングできなかった。講習の合間は、必死で休養を取るぐらい。むしろ、この時期はパフォーマンスが低下した。
風邪が治った直後に1回行ってみたが、やっぱりダメ。

③1月〜2月にかけて、5週連続で雪山講習というタイミングがあった。このときは、疲れが残ったり、準備や片付けがあるため、調子が落ちるのは止むを得なかった。ただ、地味なトレーニング自体は続けられたので、このタイミングが終われば調子が上がるのは予想されていた。
雪山の合間に1回行ってみたが、指皮が柔らかくなっており、トライ数が制限され過ぎて、やっぱり厳しい。

④日当たり良好すぎる面でホールドがヌメるため、夕方4時以降にならないとバラシ直しの練習すらできない。そのため、後半は午後出勤と決めて行くとことにし、繋げトライは基本ヘッデンで行うことにする。しかし、夕方以降は強風が吹くことがあり、マットが飛ばされたり、結構大変だった。
まぁ、僕より強い人たちは、昼間でも普通にムーヴを練習しているのだが、僕は全くホールドできない。



今回は、冬の間の練習をサボらないために、あえて調子が悪かろうが岩場に行く日はコレを打ち込みに行く、というルールでやってみました。
このルールは、僕の性格的にはツラいものだと思うんですが、さほど何も感じなくなったのは進歩だなと思いました。

もともとの性格は、オンサイトなどの戦略ゲーム好き、色々なルート・ジャンルで総合的に登りを楽しみたいタイプです。
たぶん、練習が昔よりも好きになったのか、自分の好きなことをやる時期との区分けにメンタルが慣れてきたのかと思います。

最近、地味な練習で成果を少しずつ感じているのもあるでしょうね。

2024年3月14日木曜日

デッドポイントの仕組み

デッドポイントの仕組みについて、自分なりの理解を書きます。
99%自己満足の文章です。

もともと出来ている人は、復習ぐらいには使えるんじゃないかと思います。

常々、この仕組みについて講習したいとは思っているのですが、岩場リード講習卒業以上ぐらいのレベル感の講習生でも、たぶんムーヴ講習を全10回ぐらいは掛かると思うので、なかなか実現しづらいですね。
他にも、フォームやらスタティックやら、講習すべきことは山ほどありますから、これだけ徹底的に行うのも非現実的ですし。

何人かの講習生には、触り程度は講習しているので、是非とも続けていただければと思います。


A:分類
①回転制御系
右手を離すと扉が回転する仕組みのときに、どうやって右手を離すか?というタイプ。
意図的に扉を揺らすことで、右手が無荷重になるタイミングを作る。このタイミングで、右手を出すことを基本とする。

広い意味では、コンプレッションで片手を離すときに、両手の力の釣り合いが崩れるためにスタティック不可能というパターンも含める。
正確には、後者は回転(モーメント)制御というよりも、「力の釣り合い」が無い状態の制御にあたる。
そういう意味では、物理的静止不可能系とでも言った方が正確。

ちなみに、物理的に静止不可能な状態で、かつタメも全く作れず、片手を離した瞬間に身体が振られる中で、その手でターゲットホールドを捉えて振られに耐える、というムーヴもある。
原理としては、タメを作るコツが分からない初級者のデッドポイントと同じになってしまうのだが、これが止むを得ないケースも、時々出てくる。

②強度補完系
物理的にはスタティックに手を出せるバランスだが、筋力不足などの影響で、スタティックが不可能(or非常に疲れてしまう)場合に行うタイプ。
初級者が「どっかぶりガバガバルート」で、「全てのムーヴがダイナミックで無いと手が出せない」という状態が典型。

一方で、片腕懸垂や片腕ロックができない私がキャンパムーヴを行う、完全保持ができないホールドで片手になれないためにスタティックを諦める(片手デッドポイントの練習と似た動き)など、ある程度のレベル感になっても(たぶん一生)、このムーヴから逃れることはできない。
ただ、経験上は故障と紙一重なムーヴであり、少しずつ減らしていく努力が必要。

B:様々なコツ
①腕の曲げ伸ばしだけで反動を作り出すことは難しいため、体幹部を効率的に揺らすことが原則。

足の移動時に使う「壁から身体を離す姿勢」と、手を出すときに使う「腰を入れた姿勢」を切り替えを主たる動力にすると、前後方向のスピード(本当に欲しいのは、発射時の慣性力)が付きやすく、発射の瞬間に足に力も込めやすくなるため、推進力が得やすい。また、この動きだとタメの際に体幹部の筋肉を軽く脱力することが行いやすいため、止める瞬間に体幹部に力を込めやすい。また、止める瞬間に腰も入り、胸も張り、背筋も伸びるため、あらゆる意味で良い。

ただ、実際問題として、ムーヴによって上記の手法が使えないことも多く、限られた部位だけでタメと発射の振り子軌道を作ることも多い。
胸の張りだけで軌道を作るイメージ、骨盤だけで、場合によっては腕だけで、サイファーの要領でフラッギングしている脚も連動させて、最終手段は首で、といったケースも起こりうる。ホールドやスタンスが悪くなったり、配置が悪くなると、タメを大きくすると手足がすっぽ抜けてしまうため、どんどんと状況は厳しくなる。その中でも、体幹部を一時的に脱力してタメる、ということが一つのポイントになる。

②前後軌道が重要なのは、何も考えずに手を出すと後ろ方向に飛んでしまうから。
そのため、横方向に出るデッドだとしても、斜め後方にタメを作る。真横にタメを作ると、ターゲットのホールドに届く頃には身体が相当後ろに流れてしまう。
この理屈は、ランジ(特にダブルダイノ)や横に歩くコーディネーションでも、顕著に感じられる。

③保持手は、発射のしやすいホールディングよりも、最終的に止めやすいホールディングを選択することが多い。ラップよりも普通のガバ持ち、オープンよりもピンチ気味、など。
取り手は、オープン気味にしておくことが多い。カチ持ちだと、タイミングよくホールドを離すことが難しい。

④発射前にスイングする回数は、小さいスイングで軌道を確かめるぐらいなら数回降っても良いが、大きめにタメるのは原則1回に限る。2回以上振ると疲れてしまうし、完璧なタメ軌道を作りに行くことよりも、発射するまでの最後の進行方向での軌道の中で、姿勢の微調整を行った方が良い。特に、スタティック主体のクライミングスタイルの我々は、恐怖心もあって完璧なタメ軌道を無限回数でも求めてしまう傾向にあるので注意。

⑤腕は軽く曲げておく。肩は下げておく。足は棒立ちを避けて、軽く曲げておく。全ては、スイング中の器用さを最大化すること、止める瞬間にフルパワーを出しやすくすること、に繋がる。

C:最後に
取れなかった場合のフォール姿勢のイメージ、リードであれば墜落距離の計算やロープと足との絡み解除、などは、スイング前(ジムのようにムーヴが見えるならばオブザベ中)のイメージ作りに含まれる。これが不安だと、結局は出られなかったり、出ても落ちることばかりイメージした発射になってしまう。

2024年3月8日金曜日

墜落距離の計算はしつつも、判断ミスは終わらない

3月のアイスクライミング講習にて、TGさんに摩利支天大滝をリードしてもらいました。
結論からすると、課題山積が明らかになり、非常にモチベーションが向上した様子でした。
                    →TGさんは、そこが素晴らしいです。
まず、トライそのものの終わり方としては、スクリューで1テンションしてトップアウト。
(講習では、アックステンション用のフィフィなどは禁止している。)

アイスクライミングでは、たとえランナウトしていない状況でも、フォールで怪我をするリスクがあります。アイゼン・アックスを装着していることと、多くの氷が90度未満であることが理由です。そのため、ギブアップのテンションコールは、スポートルートのように非難されるべきものとは限りません。
(安心してフォールできるのは、トップロープ状態や垂直以上の限られたケースのみ)

そのため、ノーテンションで登れなかったのは残念ですが、「安全にトライを終える。」という観点では、この結果には問題はありません。
私としても想定範囲内です。
しかし、問題は上記の「完登できたか否か?」ではなく、「安全にトライを終えたか?」です。

上の写真の1本目と2本目が、かなり離れているのが分かるでしょうか?

1本目が4mほどの高さ、2本目が7mほどの高さだと思います。
スポートルートやジムとは異なり、アイスクライミングは頭より高い位置のカラビナに手を伸ばしてクリップするようなことは、極めて稀です。
通常は、腰〜胸ぐらいの高さにスクリューセットして、そこにヌンチャクを垂らすため、クリップした段階で、「もうトップロープ状態の上限付近に居るなぁ。1歩でも上がればリード状態・・・。」という状況です。

そう考えると、2本目をセットした状況は、クリップ前にフォールしたらグランドフォールしたであろうランナウトという話です。

ビレイしていた私もハラハラしていて、
「さすがにプロテクション取らないと、ヤバ過ぎますよ。」と声がけして2本目をセットしてもらった次第です。

※当日の状況は、取り付き付近からして70度程度の傾斜があり、取り付きはスネ程度のフカフカ雪の雪田となっていたため、6mぐらいの高さからフォールしても、死ななそうではあった。しかし、骨折などの確率は高そう。
さて、次に本人の心境を後から伺いました。

①トライ開始時点
オブザベでは、割と易しそうに見えたが、登り始めると思った以上に難しかった。
基礎練習よりもムーヴがバラバラなのは自分でも感じていて、「ヤバイなぁ。」とは薄々思っていた。

②1本目〜2本目まで
ランナウト具合は、ものすごく意識していた。

「今、膝だ。怖いけど、まぁ落ちても多分・・・。」
「足首だ。いよいよ怖い。」
「(クリップ済みカラビナが)足下だ。まだ1本しかクリップしてないから、グランドの可能性も・・・。」
「スクリューが足下だ。ホントにホントにヤバい・・・。」→このぐらいのタイミングで、石田からの声掛け。

というぐらいに理解していた。

しかし、ついつい上へと登ってしまった。
講習では、「落ちてはいけないセクションは、戻れるムーヴで進むのが原則。戻れないムーヴで行き詰まったら、人生の詰みです。」と伝えています。
なので、易しいセクションをランナウトするなら、話は分かります。

これは、岩場リード講習、クラックリード講習、マルチピッチリード講習と卒業してきたTGさんにとっては、理論としても体験としても実感している内容でしょう。

冷静に考えれば、

A)辛くても、早めに2本目をセットする。
B)それすらヤバそうなら、1本目までクライムダウンしてギブアップのテンションコールする。
C)1本目のセットは、比較的足場が良かったので、頑張って頭ぐらいにスクリューセットして、以降のランナウトをマシにする。

などのオプションはありました。
それでも尚、上に活路を求めてしまった訳です。

その場だけでなく、下山路や帰りの道中で話を聞くにつれ、いくつかのヒントがありました。

1)ジムリードでは、Aに相当するクリップは行っている。

考えられる理由
・スクリューセットやカムセットに比べて、辛いスタティック態勢が10秒以内に終わることなどが原因?
・ジムの本気トライでは、直後のフォール確率が10%を超えるため、我慢してクリップすることのインセンティブが大きい。対して、アイスでは直後のフォール確率は常に1%未満だが、フォールした場合のリスクは大きいため、直感的にはインセンティブが把握しにくい
2)易しいクライミングで、プロテクションを取らないことを注意されがち。(上図を参照)

具体的には、易しいクライミング(5.7のクラック、マルチピッチの途中、Ⅳ級程度までのアイス、など)3mぐらいの垂直パートを登るときに、頻出します。
3mの垂壁を目の前にして、顔ぐらいの位置(Aの位置)にプロテクションをセットします。
そして、テラスまでのマントルが少々悪くても、そのまま押し切って、「テラスに上がる前に1本取っておかないと(Bの位置)、ミスったら下のテラスにグランドでしたよ。」と、講習中なら石田に、仲間内で登っているときならパートナーから注意されがち、という話です。

もちろん、テラスへのマントルが非常に易しければ、TGさんの戦略もアリだと思いますが、下から見ていて「プルプル」っとムーヴが乱れていたりすると、「一応、取れるなら取っておいて欲しかったなぁ。」という気持ちになります。

ただ、テラスに手が届いたぐらいのタイミングで、カム・スクリューをセットするという行動は、初級者心理にはなかなか難しいものです。
垂壁が始まる前は、ノーハンドに近い状態で立てるから、余裕でセットできます。
しかし、マントル直前は、まぁまぁ辛いのです。
しかも、マントルの先は、再びノーハンドに近い大レストという誘惑も大きいです。

また、こういう恐怖を押し殺してマントルをこなしたときに、妙に「やり遂げた感」があるのも事実です。「アルパインって、こういうもんでしょ!」という感覚(錯覚?)に陥るのも心情としては理解しますが、果たして必要な行動だったのでしょうか?
2の状況は、上に活路を求めると99%以上うまく行ってしまうことが、リスク習慣の見直しに繋がらないという話です。

一方、今回の摩利支天大滝は、上に活路を求めても、状況は悪化するケースです。
言い換えれば、「怖いから、ついつい上に上がってしまった。」というのはベテラン側からは意味不明な行動なのです。

1つの有力な仮説として、以下のものがあります。
2の状況を多く経験してきたからこそ、上に活路を求める負の成功体験を数々積んできてしまった。

「トップロープ癖がある人が、リードも並行練習すると、上に活路を求めがち。」という話と構造が酷似しています。
ただ、TGさんはトップロープ癖は無いのに、易しいリードを色々経験したことによる負の成功体験がある、という話です。
だからと言って、5.7のピッチ、Ⅳ級程度のアイスのリードで経験を積むことを全否定することもできません。それに、グレードが少々上がったところで、同じ構図は起こりえます。

先日の岩場リード講習で、「1トライ目にハングドッグしてムーヴ解決したら、2トライ目はムーヴに集中できてしまってランナウト具合を全然意識していなかった!」と思い悩んでいる講習生がおりました。(5.10aのスポートルート)
これも、理論的・体験的に墜落距離とフォール姿勢の予測ができること、実践の中でそれを活かして登ること、というバランスの難しさを現した一例です。

これらを修正するには、どうしたら良いでしょうか?
もちろん、僕なりにも様々なトレーニング方法の提案はありますが、本人なりの問題把握が肝になります。

「リード中の直感的判断が、客観的にはダメ」と書くと単純化しすぎですね。
もう少し、洞察力が試される問題かなと思います。
しつこく頑張りましょう!

2024年2月29日木曜日

4月分の予約受付

お待たせいたしました。
3月4日(月)の夜21時より、4月分の予約受付を開始いたします。

ジム講習の場所設定は、以下の通りです。

火曜:Dボルダリングプラスリード立川
水曜:ランナウト
木曜:Dボルダリングプラスリード立川

月金は、応相談です。
また、最初の1名として申し込んでくれる方の希望は、ある程度融通いたします。
「火曜だけど、ランナウトで行なって欲しい。」、「水曜だけど立川で行なって欲しい。」など。

また、1件だけ研修登山の問い合わせがありましたので、こちらは先行予約とさせていただきました。
研修登山は、マルチピッチリード講習卒業者を対象にして、実際のバリエーションや沢登りを講習するものです。今回は、沢登りを予定しています。
雪山講習と同様に連続勤務に支障が大きいため、私のスケジュール調整のため先行予約といたします。
マルチピッチリード講習卒業者で一緒に受講したい方が居れば、お気軽にお問い合わせください。

2024年2月21日水曜日

本物の山

初心者が夏山登山道を歩いていて、歩き慣れてきた頃には、山が分かった気になります。

実際、僕も高校生の頃にそうでしたが、山と高原地図は読み込める感じになっていましたし、夕方にヘッデンを装着するタイミングも手慣れてきたり、山歩きの入門書に書いてあるような内容も実感を伴って理解したり、部分的には筆者に批判的な意見を持てるようになっていました。

しかし、登山道の無い尾根となると、グッと敷居が上がります。
本格的な読図が必要になりますし、ロープが必要な場合もあります。
迷った人が沢に降りたくなってしまう心情も、ヒシヒシと伝わってきます。
<50mぐらいの滝の下部で、ロープを付けずにムーヴ練習>

登山道の無い尾根は、当時はルート図集もなく(今でも少ない)、当時はブログなどでの情報も皆無でした。
まぁ、そもそも1990年代は、携帯もパソコンも持っている人が多くはなく、大学生になってPHSか携帯のどちらかを持つような感じでしたが。

そのため、行きたい尾根は自分で地形図を見て決定することになります。
敗退した場合のことも、よくプランニングしてから向かいます。
携帯電話が山で通じないので、ビバークしても捜索は計画書頼みです。
当然、GPSも持っていません。
<小犬殺しをリードするTGさん>

当然、自分の至らなさが目に付きます。自分が今まで遊んでいた範囲が、いかに人の手によって整備されていたのかを思い知ります。
そして、プランニングの段階から、安全圏に到達するまでの間、本当に色々なことを想定して戦略を楽しみます。

言い換えれば、
●謙虚さの維持
●不安心理をリスク管理能力の向上のきっかけとするエネルギー転換
という2つの要素です。

今となっては、これが本物の山に登るメリットだと感じています。
奥多摩の名もなき尾根ごとき、という話も分かるのですが、登山道と比べて本物の山だったわけです。
<入門砦でも、ムーヴ練習>

その後、大学で沢登りや雪山を始めますが、当然ながらトポ(沢ならば遡行図)のあるルートに行った回数の方が多いです。
多少なりとも本物の山を知っていたにも関わらず、トポには文句を付けたくなるのが人情です。

滝のグレードが間違っている(自分たちの体感と大幅に違う)、巻き道の記述が間違っている、大きな滝の個数が間違っている、難易度に誇張表現がある、入渓ポイント・枝沢の記述が分かりにくい、などなど。私も仲間たちと色々喋りました。

そして、しばらくすると写真のバンバン載っているトポが登場し、有名ルートは非常に間違えにくくなりました。
その後、携帯電話が通じる範囲の拡大、ブログなどでの情報量の増加、GPSの普及、などが起こりました。
<雪上訓練Lv.2、方丈山〜柄沢山>

講習生を含め、色々な初級者の人と話していると、「○○のルートについて、まだ調べ込んでいなくて。」という発言をよく耳にします。

つまり、山に行く前の準備として、他人のブログを読み漁り、遡行図やトポの情報量を果てしなく増やして行こうとするのです。
幕営適地、雪崩の実績、迷いやすいポイント、雪庇の方向、ロープを出した箇所、親切心から意図的に詳しい情報を載せている人もいます。
まるで、素人さん向けの富士登山案内のページの様相です。

そして、それをしないでオンサイト重視の感覚で山に向かう人を、危険登山者として非難する風潮もあります。
<方丈山の頂上、昨年はここで幕営しました>

しかしながら、オンサイト重視の感覚で山に向かうことは、先述の

●謙虚さの維持
●不安心理をリスク管理能力の向上のきっかけとするエネルギー転換

という2つの要素があります。

地形図や少量の情報から、色々想像して、敗退方法を考える時間をたくさん取るのです。
これが、長い目で見たら我々をもっと思慮深くさせてくれるでしょうし、長い目で見たら安全かもしれません。
<柄沢山への縦走>

そんな考えもあり、雪上訓練Lv.2ではトポに載っていないような雪山テント泊縦走を行っています。

今回は、昨年敗退した上越の方丈山〜柄沢山。
多分、1年に1パーティ冬期縦走するかな?くらいのルートでしょうから、当然ノートレースですし、藪もあります。
雪崩地形も自分で考えて歩きますし、幕営地も探しながら歩きます。
現場で状況を見て、ラインも変えますし、下山予定の尾根の変更や、行動時間読みの修正も行なっていきます。

まぁ、取り立ててすごい話では無いと思います。
ただ、最近の初級者はこれが本来のスキルだと意識していない人が多いように思えます。
山岳会に入ったならば、5年先、10年先に身につけるべきスキルの総体だと思うのですが。

例えば、僕より少し上の世代で、沢登りで地域研究と称して一山域をしらみつぶしに登り、遡行図集を書いたような人たちもいます。それほど強くはないメンバーが、地形図や山域の特徴から、そんなに難しくない沢だと見越して入ることもあったはずです。
つまり、各時代のトップクライマーの初登攀だけの遊び方では無く、一般レベルでも十分に辿り着ける目標地点だと思います。
<雪面をならして、幕営>

便利が、全て悪い訳では無いです。
例えば、15年ほど前までは天気図をラジオで書き取っていましたが、これを携帯の画面で見ることは労力の削減になります。

ただ、ピンポイント予報に踊らされて、「どこどこの予報会社が当たるらしい。」とかの情報にばかり詳しくなり、予報が外れたら文句タラタラというのは、思考停止というものでしょう。
低気圧や前線の位置から、「予報が外れるとしたらこんなストーリーかな。」ぐらいの予想は立てて、自分の行動計画を決めないと、バカになってしまいます。

GPSを持つなとは言いませんし、今時は携帯に内蔵されてしまっています。しかし、GPSを見ながら歩いて自分が地図を読める気になる現象に陥っているとしたら、バカだと言わざるを得ません。

これに限らず、ギアの進歩だって、悪いことだとは思いません。
ただ、これを使うと考えなくなりそうだな(「バカになりそうだな。」)という感覚は、常に鋭く保っていたいものです。
<1日目に、そのまま柄沢山へアタック>

こういう考え方は、当塾講習の

●残置無視トポ無視のマルチピッチ講習
●ボルトルートやクラックでも、トップロープリハーサルを禁止して、オンサイトグラウンドアップ

などに典型的に現れていますが、ジムクライミングから日常生活にまで根底には通じるところがあると思っています。
<縦走>

私にとって、謙虚さを維持して思考停止を避けるための手段は、ときどきこういう山に入ることです。
一方で、一般的なスポーツマンにとっては、これは試合に相当すると思っています。

つまり、クライマーであるためには、コンペに出るか本物の山と触れ合うか、どちらかが超重要なのかな、という感覚です。
これさえ続けていれば、「人のせいにしたり、言い訳したりしても、自分が悲しくなるだけだ。」という最低ラインを守りやすいように思います。
<ときどき現れる見晴らしの良い場面>

今回の話は、あくまで観念的な話です。

「もっと厳しい人跡未踏の地じゃないと、本物とは言えない。」
「人の手が云々よりも、ストイックに困難に挑戦しつづければ思考停止にはならない。」
「ボルダラーなんかは、コンペに出なくても良い心構えっぽい人は多数いるよね。」

とか、細かい議論の粗は分かっています。

私が関わる程度の、初級山岳会の方々や、講習生の皆さん、ジムのリードエリア、などでの総合的な印象ですので、すごい人たちは気にしないでください。
<2日目も、訓練のために柄沢山に再度登る>

<地図読み>

2024年2月6日火曜日

初心者的謙虚さ、上級者的謙虚さ

遥か以前に、謙虚さについての気付きをサラッと書いたことがあります。
これを、少し分析的に書いてみます。

謙虚と言っても、その内面にある心情は様々です。

①本当に何も分からなくて、聞く・学ぶ姿勢がある

例えば、エイトノットを教わる初心者、岩場に初めて行く人、沢登りや雪山を初体験する人、地形図を初めて学ぶ人。
ここで、最初から登山・クライミングを侮りまくっている人は、講習で出会うことはまずありません。仮に独学で始めるにせよ、書籍で登山技術を学ぼうとするなど、それなりの畏怖があるはずです。
これを、「初心者的謙虚さ」と考えることにします。

②自分より強い人、知識や経験に優れた人がいることを知っている。
これを、「相対的謙虚さ」と考えることにします。

③自分の能力が不十分であることを分析的に捉えることができていて、研究しようというモチベーションが高い。また、他人から見て自分の弱い点を指摘してもらうことを期待している。

例えば、クライミングにせよ登山にせよ、自分がより安全に登るために、次のレベルを登れるようになるために、色々と考え抜きます。
単に「ヒールフックが掛からない。」と喋っているだけでは不十分で、なぜ掛からないのかを分析して、1ヶ月後や1年後を見据えて練習メニューを考えます。
登山のヒヤリハット反省をするにしても、トレーニングをするにしても、ビレイやカムセットなどの安全に関する技術にしても、全て同じです。
これを、「上級者的謙虚さ」と考えることにします。
<岩場リード講習での、落ちる練習>

上級者的謙虚さの代表格は、各分野の超一流の人の発言です。
将棋の羽生善治さんが、「将棋の1%も分かっていない」(AIとの比較という文脈、人間は頑張っても一生で10万局指せるかどうか、という経験量の問題から。)などと発言したりしています。
オリンピックアスリートであれ、何かしらの達人であれ、皆さん同様のことを仰っている印象です。
だからと言って、自分がやるべきことは変わらず、淡々と技の研究を続け、少しずつ弱点を克服していく求道者のようです。

ひるがえって私は、人から弱点を指摘されることは期待しつつも、結構心を痛めやすい部分もあり、上級者的謙虚さには不十分だと感じています。
これでも、10年前よりは、だいぶマシになりましたが・・・。
<アドバンスクラック講習で、ちょっとしたロープレスキューをやりました>

さて、ここからは私が登山・クライミングを通じて感じた印象を、雑多に述べます。

●初心者的謙虚さは、この業界は危険と隣り合わせなだけに、一般的には受け入れやすい。
「調子に乗って、甘く見ている素人さん」の方が少数派。

●相対的謙虚さは、評価軸がクライミングの最高グレード、バリエーションルートの総合グレード、山仲間やジム友達の中での優劣順位、だったりすると生産性はほとんど無いかと思います。
何なら、「自分は大して登れない。」とグレードなどで自虐しつつも、不遜に振舞うことも可能だと感じます。
私も他人との会話の中では使うこともありますが、自分自身にとってプラスはあまり無い考え方だと思うようになりました。

●上級者的謙虚さは、趣味の目的の1つが精神修養とすると、我々の目指すべき方向性と考えられます。
ただ、これを淡々と行うまでには、人それぞれ紆余曲折があり、落ち込んだり嫌になったりもするかと思います。
ヒールフックの話にせよ、ヒヤリハットの反省にせよ、改善には相当な解析力が求められることも多いです。

●「100%の安全は無い。上級者でも事故を起こす。」という事実が、我々を真面目さに引き戻してくれる大きなパワーになっています。
例えば、事故は核心部ではなく易しいセクションで起こる、ガイドや有名クライマーでも入門エリアで何人も死んでいる、といった話は、知れば知るほど身が引き締まります。
油断大敵を実践するため、改善行動をやめてはならないという縛りです。
危ないからこそ精神修養として価値ある遊び、というアウトドアスポーツの基本に立ち返ります。

●初心者的謙虚さ・相対的謙虚さ・上級者的謙虚さは、入り混じった状態で持っていて、その割合が達人っぽい雰囲気・素人っぽい雰囲気・山をナメている雰囲気、を醸しているように感じます。

<天神尾根。山頂で視界10mぐらいにホワイトアウトしたので、技術面以外にも講習生の心構えが少し変わったように見えて、やりがいを感じました。>

さてさて、俯瞰的に見て、当塾の講習目的とは何なのでしょうか?

・初心者的謙虚さの状態にある人に、初歩を伝授する
説明にも慣れているから、一般の人がやるよりは上手く説明できることが多いでしょうけど、これを一生の仕事にするのは寂しすぎる気がします。

・上級者的謙虚さを持ちつつあるが、技術解析やヒヤリハット反省が難しい人に、練習方法や考え方をアシストする
強いやりがいを感じます。

・初心者的謙虚さから上級者的謙虚さへの誘導する
講師は、技術習得・精神修養の過程で「こじらせやすい」ポイントを、沢山知っているものです。とは言え、どう頑張ってもダメだったり、1回や2回は捻くれたりするものだ、という諦めも肝要。
教育的には最も重要なプロセスですが、ややもすると人生相談受付みたいになってしまうので、なるべく具体的な技術講習内容の中で、ちょっとずつ感じてもらうのが良さそうです。

2024年2月1日木曜日

3月の予約受付

2月5日(月)の夜22時30分より、3月分の予約受付を開始いたします。
時間が変則的で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

3月からは、マルチピッチ講習も再開します。

また、例によって冬山系の講習は1つ先行で決めてあります。
前後日に、岩場講習などが入ると、私の運転リスクなどが高過ぎるため、日程調整させていただきました。

今回、ジム講習の曜日を、一度以下のように行ってみます。
火曜日:ランナウト
木曜日:Dボルダリングプラスリード立川
月水金:相談の上、こちらで調整

ではでは、よろしくお願いします。

2024年1月6日土曜日

2月の予約受付

1月9日(火)の夜23時より、2月分の予約受付を開始いたします。

私の移動上の都合により、雪山関係の講習は早めに予約を受け、その前後日は休業とさせていただきました。

ジム講習は、火木はDボルダリングプラスリード立川、水金はランナウト、月曜は適宜相談を基本としますが、最初に申し込んだ方に合わせて応相談とすることにいたします。
どうぞよろしくお願いします。

2024年1月4日木曜日

モチベーションは内から湧き出るものか?下がらないように努力するものか?

12月中は、山っぽい講習が多めでした。
マルチピッチリード講習、アイスクライミング講習で八ヶ岳2日間、城ヶ崎の懸垂エリア(特に空中ユマーリングで帰るエリア)、丹沢での読図講習、など色々やりました。
<ハンドクラックの復習に来てくれたISさん>

最近、少々興味深い講習生の発言があったので、載せておきます。
この秋にマルチピッチリード講習を卒業した方なのですが、ちょっとモチベーションが落ちてきたそうです。

一般的には、「さあてこれから」というスタート地点に立ったところですが、どういうことでしょうか?
まず、この方の経緯を説明します。

若い頃に、山岳会に入って危なっかしい感じで、入門バリエーション(冬の八ヶ岳岩稜シリーズなど)、アイスクライミング、トップロープリハーサル後のボルトルート、などを体験。
案の定、足を骨折する事故となるも、何が反省点なのかイマイチ判然としません。
「山なんて、リスク受け入れる部分もあるし、何が悪いんだか分からない。」といった話です。

とりあえず、「このままでは危ない。」ということだけは直観して、山から遠ざかり、何年も経過します。
ただ、山への想いは断ち難く、「これで分からなければ、もう辞めよう。」という覚悟で当塾へと来たそうです。
この方の方向性としては、「マルチピッチや雪山を含めた登山を、今度こそリスク管理を意識してトライできるようになること。」となります。
現在、これが最低限達成できてしまい、目標を見失っているという話です。
ここから、詳しく見ていきましょう。

①マルチピッチリード講習までを卒業するという目標

本人は、これに一生涯を費やし、道半ばで山人生を終える覚悟で当塾に来た様子。
しかし、実際には講習生の中では飲み込みも良く、練習量も結構ちゃんとしていて、ジムのムーヴLv.0からスタートして、わずか3年で達成。

しかも、その後に講習生仲間と実際に残置無視トポ無視で、何本かのマルチを完登して、着実に力は付いていると実感した様子です。
②アイスクライミングのリードという目標

過去に事故を起こしたのは、アイスクライミングでした。

今となっては、

・墜落距離の計算をせずに、なんとなくスクリューの位置を決めている
・スクリューの効き具合をあまり意識していない
・フォールしたときに、アイスクライミングの装備だからこそ骨折しやすい、というファクターを意識していない
・ビレイの立ち位置、緩み具合などによる墜落距離の補正など、全くしていない(アイスクライミング では、落氷リスクなどのためにビレイの立ち位置などが悪くなるケースが多い。)
・アックスの効き具合、氷の割れる可能性などに対して、どの程度の安全マージンまで許容するかを意識していない
・スタティックムーヴ、戻れるムーヴ、という概念が無い

などの反省点は、挙げられます。

それらを意識すれば、当然リードは今までよりも困難に感じます。
その上で、昨シーズンから少しずつリードを始めることができました。

今のペースで続ければ、「南沢大滝クラスをノーテンションで問題なくリードする日もそう遠くはない。」という実感もあるようです。
③スポーツクライミングとしての目標

怪我をする直前の頃、トップロープながらに5.11aを触っていたことを考えると、もっと真っ当な形で5.11aぐらいは登れるようになりたい、という思いがあったそうです。
また、辛くないボルダージムで3級ぐらいは登りたい、という目標もあったそうです。

これも、大まかに達成できたそうです。
一方で、ここから先へと進むには、2つの壁があります。
パートナー問題、初級から中級へのステップアップ、です。

A:パートナー問題

まず、この方自身、当時の山岳会の中でも、少々危なっかしいと見られていたそうです。
しかし、今となっては山岳会の人たちの方が危なっかしく見えてしまうそうです。
それは、リスクについて色々と学んだからでしょう。
さらに、それに目を瞑って一緒に登ったとしても、行けるルートはたかが知れているし、将来性も無いと予見できてしまったそうです。

次に、卒業生仲間で登るのは、リスク管理の点では共通の土台があり、ディスカッションもしやすい間柄です。
一方、山深いエリアとか、冬のバリエーションまで含めてやろうという人は、なかなか見つからなそうだという寂しさがあるようです。
これは当然のことで、1つ1つを最低限ちゃんと学ぶと、どこまで手が回るかは自分で見切りを付けたくもなり、良い意味での淘汰が起こります。
「私は、クラックまでかな。」、「私は、無雪期マルチまでかな。」などなど。

最後に、一般にパートナーを求めるにしても、ほとんどの場合は上記2つのどちらかに行き着きます。
結局のところ、入門バリエーションにおいて
・リスクをよく考える
・山屋だけれど、クライミングもある程度ちゃんとやる
という意識レベルの人は、ほぼ皆無なのです。

では、ソロシステムはどうかと思い、練習したこともありました。
しかし、これもさらにハードルが上がることを思い知ったようです。

こういう話は、私には解決はできません。
まぁ、同じような人は時々現れるから、しぶとく雪山とクライミングを続けることだと思います。
B:初級から中級へのステップアップ

講習の卒業は、「そろそろ自力で行ってみたら?」という話に過ぎません。
クラックで言えば、5.8や5.9がオンサイトトライでまともに遊べるようになったぐらいですし、これをこの先もっと習熟させていく方法も楽しいものです。

スポートルートにしたって、ジムにしたって、ムーヴの仕組みや練習方法を考えることに終わりは無いように思います。
グレード更新は年齢との戦いとなったとしても、上達そのものは続けられると私は感じています。

ただ、このタイミングで「終わりが見えない。」と思って、心にブレーキが掛かる人が一定数いることも理解できます。
僕自身にも、そういう時期があったようにも思います。

まぁ、趣味なんだから終わった方がむしろ困るはずなんですが・・・。
「あなたは全てを修了しました。もう練習しなくて構いません。」とか、神は絶対に言わないのです。
この方自身も、「自分は、(講習生の中では)結構成果出ている方だと思う。」と仰います。
もっと、成果が出ずに「練習が報われない」と感じてモチベーションが下がる人がいることも、十分に理解しています。
講習を続けられない人、上達を感じない人、いつしか思考停止している人など、いくらでもいると思います。

ここまでは十分報われているんだけど、「ここから先どうするか・・・」というタイプの悩みです。
まぁ、先のAとBの話で、ほとんど結論は出ているように思います。

あとは、本人の気持ちの問題なので、最終的には誰も最後の一押しはできません。
まぁ、きっと大丈夫でしょう。
話を少し広げて、「モチベーションが無いのに、無理にも頑張るべきか?」という問題があります。
「煩悩が無いならば、悟りへの一歩として受け入れたらどうか?」という話。

ただ、この悩みを挙げる人は、「モチベーションが無い自分が、なんとなく嫌だ。」、「できれば、ちゃんと練習したい。」、「仕事以外に、何かに打ち込む方が良い人生な気がする。」といった価値観が根底にあるように思います。

しかし、燃え尽き症候群、頑張っても報われない状態がダラダラ続く、パートナー問題、目標を見失う、などなどの事情で、モチベーションが落ちることはよくある話です。
であれば、選択肢は限られています。

・モチベーションが上がるまで、離れる
・モチベーションが上がったときに、パフォーマンスが落ちまくるのも困るので、最低限真面目にやる
・他の趣味に行く

ありがちな選択として、ダラダラやるというのは、色々な意味でやめた方が良さそうです。
練習習慣も悪癖だらけになるし、一時の気楽さが長期的には負い目となり、もとの自分に戻れなくなります。

「最低限真面目にやる」というのが、自分を律する能力が問われますが、大切なことだと思います。
スポーツですから、調子が上がれば自然とモチベーションが上がることも多いです。

僕自身は、こういう気持ちのやり取りを繰り返し過ぎて、もはや表層的なモチベーションを自分で感じにくく、淡々としてきたなと思います。(笑)
答えの無い話を長々としました。

同じ構図は、自分自身にも仲間にも生涯に渡って繰り返されますので、何かの参考になれば幸いです。


<マルチピッチリード講習、つづら岩>

<アドバンスクラック講習、城ヶ崎あか根>

<空中ユマーリングの練習>