2024年4月25日木曜日

オンサイトトライ時の「行きつ戻りつ」

6月の予約受付は、4月30日(火)の21時スタートです。
念のため、再掲。

レストポイントから核心部を探り、再度レストポイントに戻る、という方法があります。

リードのオンサイトトライが、最も頻出する場面ですが、ボルダーであっても一部有効な場面はあります。
マルチピッチ、沢登り、冬期バリエーションなどでは、これができないと死亡に直結するとさえ思います。
<クラックリード講習@城ヶ崎>

私は、本当にしつこくやる方で、岩場でのオンサイトトライが2時間に及ぶこともあります。

理由は、2つ。

・オンサイトトライを大切にしたいから。
ことリード技術に関しては、オンサイトに拘った上で、その上達方法を真剣に検討しないと上手くならないと感じています。オブザベ、省エネ技術、戦略、駆け引き、リスク計算、などなど。
グレード自体はレッドポイント主体の人でも向上しますが、あくまでリード技術という観点に絞って考えるとオンサイト技術で見るべきかなと考えます。

・本当に危ない場面も多い。
マルチピッチは当然としても、ショートルートでも「落ちてはいけないセクション」は、本当に多いと感じています。ここで、戻れないムーヴで突っ込んで、次のボルトにクリップできたから結果オーライ、みたいな登り方は、もはや心が受け付けません。
クリップの直前一歩だけを、「絶対に行けばクリップできる」と読み切って勝負をかけるのは、ボルダーの怖いマントルみたいなもので、仕方ない場面もありますが、極力避けたいです。

これは、プリクリップ問題にも直結する話です。
スタイル問題は、リスクをやせ我慢するのではなく、こういうことを真剣に考えた方が良いと思います。
<名張に行ってきました>

さて、この問題に関して、3つの論点を挙げてみます。

①そもそも行きつ戻りつが苦手な人は、どうすれば身に付く?

②現実的に、許容できるトライ時間は?

③効率的な行きつ戻りつで、時間短縮は可能か?
<苔男で、行きつ戻りつする桂くん>

①そもそも行きつ戻りつが苦手な人は、どうすれば身に付く?

まず前提として、「行きつ戻りつがどうしても嫌い」だという人は、無理にやらなくても構いません。
ジムのようにボルト間隔が近いルートなら、困ったらテンションor潔くフォール、で良いんじゃないでしょうか?
実際、コンペを見ていても、それに近いスタイルで上位になる選手も居ますので、我々一般レベルではどんなスタイルであれグレードに伸びしろはあります。

ただ、「落ちてはいけないセクション」があるようなルートは、きっと苦手になるでしょうし、すぐにチョンボしたくなるでしょう。
「チョンボしないけど、リスクをやせ我慢しているだけ」というのも、いただけませんし。

あとは、行きつ戻りつと土壇場の頑張りをミックスさせたような至高のオンサイト体験は、一生できないかもしれません。これは、グレード的には5.10レベルでも十分に体験できるので、本当はオススメしたいです。
<行きつ戻りつ>

次に、行きつ戻りつができるようになりたい人です。

ジムや岩場で見かけた人、講習生などを見るに、いくつかのパターンがあります。

・そもそも、足がデッドポイントっぽい感じで、戻りにくそうなムーヴ構成をしている。
   →手だけでなく、足のスタティックを考えた方が良い。

・ノーハンドレストできるテラスから数歩上がって戻ることも、全く意識にない。
   →完全回復できそうなのに、おそらくは意識が無い。ビレイヤー、周りに申し訳ないという気持ちもある。単なる「せっかち」な場合も多い。

・垂壁の大ガバなのに、戻らない。
   →そこで回復できる自信が無い。結果として、戻らないことが常態化している。

・微妙なレストポイントに、戻らない。
   →ここまで来ると、さすがにレスト技術の差が顕著になり、戻っても回復できない人がいるのも理解できる。

・レストポイントからの数手(数歩)を暗記しないと戻れなくなるパターンに弱い。
   →暗記しようという意識の問題も大きい。ホールド・スタンスの暗記が重要なのか、ムーヴ自体を暗記しないと戻れないのか?

自分がどのパターンに該当し、それをどうやって改善するかを考えるのが、興味深いところです。
<こちらも、腰を据えてビレイ>

②現実的に、許容できるトライ時間は?

まず、安全上の上限として2時間が妥当だと感じています。

自分自身や、これまで一緒に登ってきた「行きつ戻りつを積極的に行うタイプ」のパートナー
5人程度を思い返しても、集中力切れ・喉の乾き・シャリバテなどを引き起こします。
クラックなどで順調に登っても40分以上掛かりそうなロングルートを粘りに粘ったとしても、2時間後に核心を突破できていないなら、まず無理でしょう。
マルチピッチなどのリスクあるピッチのリードでは、この時間を越えることは、判断力の大幅な低下を招いていると感じます。

もちろん、「核心を越えてから5.10台が続いて、慎重に行けば登れちゃうだけに2時間オーバー。」とか、「粘りに粘った挙げ句、ハングドッグになってしまい、クラックなどでカム残置もできないのでトップアウトorエイドダウンで2時間オーバー。」とかも、考えられます。

状況的に仕方ないこともあると思うのですが、本人にもストレスが大きく、ビレイヤーからも泥仕合に見えるので、なるべく避けた方が良いです。
それでもやってしまったら、軽めでも良いので謝罪します。
<サキサカ1P目の桂くん>

次に、ビレイヤーの集中力です。

これは、そもそも素晴らしいビレイは10分程度が限界じゃないかと思います。
レストポイントから出発するときに「行きます!」の声がけをすることで、レスト中はビレイヤーに休憩してもらう、などのメリハリが必要です。
ただ、ビレイヤーが行きつ戻りつのビレイを面倒だと思っていそうだと、「行きます!」と言っておいて、やっぱり戻るのを繰り返してしまうのが、お互いにすごくストレスになります。
(「行きます詐欺」をやっている気分になる。)

グリグリなどのブレーキアシストも、やはり有効だと思います。
<このままBlueまで繋げるつもりだったので、ギアも重い>

最後に、ビレイヤーや周囲への迷惑です。

これは、本当に人によるし、場面にもよると思います。
ビレイヤーも行きつ戻りつを積極的に行うタイプで、順番待ちも皆無なら、問題ありません。
そうでなくても、その頑張りを応援してくれる雰囲気があるのなら、問題はありません。

ただ、順番待ちでイライラしがちな岩場というのも実際に存在します。
ビレイヤーが行きつ戻りつをそれほどしない場合は、どこまで許容できるタイプか見極める必要もあります。
③効率的な行きつ戻りつで、時間短縮は可能か?

行きつ戻りつに肯定的な私ですが、とはいえ闇雲に行きつ戻りつをするのも考えものです。
行きつ戻りつは行うが、少ない回数で正解を導きたい、というのは当然の願いでしょう。

主には、
・マルチピッチなどの時間制限がある
・微妙なレストポイントなどで行きつ戻りつを数回はできるがそれ以上繰り返すと核心ムーヴが成功しなさそう(核心前に、ほぼ確実に無限レストポイントがあるのは、低グレードのみ。)
・周囲への影響から、長時間トライは、1日に1回以内に留めたい(長時間ハングドッグと、似た構図?)
といった状況が考えられます。

例1)
地上やレストポイントから、核心部のホールドが全て確認できる場合。
その場合、ムーヴの選択肢がいくつか浮かびます。
そのムーヴの導入部分だけを行きつ戻りつで何パターンか試し、ゴーアップする、というのが理想です。
これならば、2〜5回程度で発進できそうです。
ジムリードのオンサイトトライなどで頻出のパターンですし、コンペを見ていてもリードが強い選手は行っています。
ジムの場合、5.11以上のオンサイトトライで核心前で無制限にレストできる、というケースも少ないので、この技術が肝になります。

※講習生は、これが苦手な人が多いです。オブザベ能力の問題でしょうね。

例2)
ホールドの掛かり、ホールドの場所などの確認をしてからでないと、ムーヴの選択肢が絞り込めない場合。
岩場のハング越えなどに頻出です。
残念ながら、可能な限りホールドを触りに行き、戻って作戦を練り直すことになります。
かなり時間が掛かることもあります。

※ハング下のレストポイントに入ったときに、「ハング上をオブザベできる場所で、なるべく見ておくべきだった。」と後悔することが多いので、注意しておく。

例3)
プロテクションを先行させるために、一旦クリップしてから、また戻る場合。
特に厄介なのが、カムセット態勢に難航してしまい、疲れて何度も戻るパターンです。
さらに、カムセットした挙げ句、その場所がムーヴに干渉してしまい、別の場所にセットし直すこともあります。
大抵の場合、ここで少しでも高い位置に固め取りしたい場面でもあり、作業は難航しやすいです。

※プロテクション先行→固め取り→ムーヴ干渉、というパターンは、超頻出だと理解しておく。

例4)
落ちてもギリギリ怪我はしなさそうな状況に思えるが、かなり際どいフォールになりそうなので、99%落ちないムーヴを探したい場合。
ギリギリでテラスに届かないであろう、振られ落ちだが隣の壁にはぶつからないであろう、このカムなら何とか止まるであろう、などなど。
この場合、命が掛かっている感覚になる。

※僕が2時間トライになるパターンとして、これが特に多い。絶対に落ちられない状況の方が、可能・不可能という判断も下しやすい。
「99%は落ちて怪我しないのなら、99%落ちないムーヴならばリスク許容できる。」という状況だと、時間を掛けただけ成果が出やすいため、悩ましい。

例5)
ライン取りが複数考えられ、ルートファインディングに迷った場合。

※効率的に複数ラインを試すために、色々と頭を使う。
例1)に近い状況で、10〜20回も行きつ戻りつしていたら反省すべきでしょう。

一方で、例2)+例3)、例2)+例4)といった悪条件が揃った状況では、もはや作業を終える時間が読めなくなってきます。
こういった中で、私が意識していることは以下になります。

①ハマりそうなルートは、たとえグレード的に易しくても、アップ無しで極力取り付かない。
「ロングルートだし、下部は易しいから登っているうちに暖まるよ。」などとパートナーから勧められがちなので、要注意。
アップが終わってからトライするだけでも、30分以上もトライ時間が変わることもある。
周囲にアップルートが無く、仕方ない状況もあるが。

②行きつ戻りつを始めたら、今自分が置かれている状況を頭の中で整理する。

例1)ムーヴ選択の最終絞り込み
例2)ホールドの位置、掛かりの確認
例3)プロテクション先行(ムーヴとの干渉注意)
例4)確実なムーヴの必要度合い
例5)ルートファインディング

これにより、作業を着々とこなすように意識する。

③ビレイヤーが不快に感じている可能性、自分自身への不甲斐なさ、などが押し寄せてくるが、その感情を客観視する。
この場面では、トライを止めるか、時間を掛けるかしか無い・・・。

④粘りに粘った挙げ句、登れずにテンションした場合の展開(大迷惑シナリオ)も念頭に入れておく。
ボルトルートなら、ハングドッグせずにロワーダウンすることも考慮。
クラックなら、ムーヴ解決は捨てて、すぐさまトップアウトorエイドダウン回収に移行することも考慮。
フォール後に、ビレイヤーと相談する。

どれだけ意識してもハマるときはあるんですが、それを承知で色々と思考を巡らすのが人間かなと思います。
<マルチピッチリード講習@三ツ峠>

名張で登った主なルート

1日目
苔男(5.11a、フィンガー系) フラッシュ
サキサカ1P目+Blue(5.10a+5.10a、フィンガー〜ワイドまで盛り沢山の45m) 後半部分はO.S.かな?

2日目
大魔神の逆襲(5.11a、ハンド系と見せてフェース系) O.S.
   まさに、これで執拗な行きつ戻りつを行いました。1時間30分ぐらい?

3日目
レスト

4日目
ムササビ君の休暇村(5.10b、ワイド系) O.S.
   限定せずに登りました。
   これは、我ながら効率的な行きつ戻りつが出来たと思う。







<アドバンスクラック講習@野猿谷>