2024年1月4日木曜日

モチベーションは内から湧き出るものか?下がらないように努力するものか?

12月中は、山っぽい講習が多めでした。
マルチピッチリード講習、アイスクライミング講習で八ヶ岳2日間、城ヶ崎の懸垂エリア(特に空中ユマーリングで帰るエリア)、丹沢での読図講習、など色々やりました。
<ハンドクラックの復習に来てくれたISさん>

最近、少々興味深い講習生の発言があったので、載せておきます。
この秋にマルチピッチリード講習を卒業した方なのですが、ちょっとモチベーションが落ちてきたそうです。

一般的には、「さあてこれから」というスタート地点に立ったところですが、どういうことでしょうか?
まず、この方の経緯を説明します。

若い頃に、山岳会に入って危なっかしい感じで、入門バリエーション(冬の八ヶ岳岩稜シリーズなど)、アイスクライミング、トップロープリハーサル後のボルトルート、などを体験。
案の定、足を骨折する事故となるも、何が反省点なのかイマイチ判然としません。
「山なんて、リスク受け入れる部分もあるし、何が悪いんだか分からない。」といった話です。

とりあえず、「このままでは危ない。」ということだけは直観して、山から遠ざかり、何年も経過します。
ただ、山への想いは断ち難く、「これで分からなければ、もう辞めよう。」という覚悟で当塾へと来たそうです。
この方の方向性としては、「マルチピッチや雪山を含めた登山を、今度こそリスク管理を意識してトライできるようになること。」となります。
現在、これが最低限達成できてしまい、目標を見失っているという話です。
ここから、詳しく見ていきましょう。

①マルチピッチリード講習までを卒業するという目標

本人は、これに一生涯を費やし、道半ばで山人生を終える覚悟で当塾に来た様子。
しかし、実際には講習生の中では飲み込みも良く、練習量も結構ちゃんとしていて、ジムのムーヴLv.0からスタートして、わずか3年で達成。

しかも、その後に講習生仲間と実際に残置無視トポ無視で、何本かのマルチを完登して、着実に力は付いていると実感した様子です。
②アイスクライミングのリードという目標

過去に事故を起こしたのは、アイスクライミングでした。

今となっては、

・墜落距離の計算をせずに、なんとなくスクリューの位置を決めている
・スクリューの効き具合をあまり意識していない
・フォールしたときに、アイスクライミングの装備だからこそ骨折しやすい、というファクターを意識していない
・ビレイの立ち位置、緩み具合などによる墜落距離の補正など、全くしていない(アイスクライミング では、落氷リスクなどのためにビレイの立ち位置などが悪くなるケースが多い。)
・アックスの効き具合、氷の割れる可能性などに対して、どの程度の安全マージンまで許容するかを意識していない
・スタティックムーヴ、戻れるムーヴ、という概念が無い

などの反省点は、挙げられます。

それらを意識すれば、当然リードは今までよりも困難に感じます。
その上で、昨シーズンから少しずつリードを始めることができました。

今のペースで続ければ、「南沢大滝クラスをノーテンションで問題なくリードする日もそう遠くはない。」という実感もあるようです。
③スポーツクライミングとしての目標

怪我をする直前の頃、トップロープながらに5.11aを触っていたことを考えると、もっと真っ当な形で5.11aぐらいは登れるようになりたい、という思いがあったそうです。
また、辛くないボルダージムで3級ぐらいは登りたい、という目標もあったそうです。

これも、大まかに達成できたそうです。
一方で、ここから先へと進むには、2つの壁があります。
パートナー問題、初級から中級へのステップアップ、です。

A:パートナー問題

まず、この方自身、当時の山岳会の中でも、少々危なっかしいと見られていたそうです。
しかし、今となっては山岳会の人たちの方が危なっかしく見えてしまうそうです。
それは、リスクについて色々と学んだからでしょう。
さらに、それに目を瞑って一緒に登ったとしても、行けるルートはたかが知れているし、将来性も無いと予見できてしまったそうです。

次に、卒業生仲間で登るのは、リスク管理の点では共通の土台があり、ディスカッションもしやすい間柄です。
一方、山深いエリアとか、冬のバリエーションまで含めてやろうという人は、なかなか見つからなそうだという寂しさがあるようです。
これは当然のことで、1つ1つを最低限ちゃんと学ぶと、どこまで手が回るかは自分で見切りを付けたくもなり、良い意味での淘汰が起こります。
「私は、クラックまでかな。」、「私は、無雪期マルチまでかな。」などなど。

最後に、一般にパートナーを求めるにしても、ほとんどの場合は上記2つのどちらかに行き着きます。
結局のところ、入門バリエーションにおいて
・リスクをよく考える
・山屋だけれど、クライミングもある程度ちゃんとやる
という意識レベルの人は、ほぼ皆無なのです。

では、ソロシステムはどうかと思い、練習したこともありました。
しかし、これもさらにハードルが上がることを思い知ったようです。

こういう話は、私には解決はできません。
まぁ、同じような人は時々現れるから、しぶとく雪山とクライミングを続けることだと思います。
B:初級から中級へのステップアップ

講習の卒業は、「そろそろ自力で行ってみたら?」という話に過ぎません。
クラックで言えば、5.8や5.9がオンサイトトライでまともに遊べるようになったぐらいですし、これをこの先もっと習熟させていく方法も楽しいものです。

スポートルートにしたって、ジムにしたって、ムーヴの仕組みや練習方法を考えることに終わりは無いように思います。
グレード更新は年齢との戦いとなったとしても、上達そのものは続けられると私は感じています。

ただ、このタイミングで「終わりが見えない。」と思って、心にブレーキが掛かる人が一定数いることも理解できます。
僕自身にも、そういう時期があったようにも思います。

まぁ、趣味なんだから終わった方がむしろ困るはずなんですが・・・。
「あなたは全てを修了しました。もう練習しなくて構いません。」とか、神は絶対に言わないのです。
この方自身も、「自分は、(講習生の中では)結構成果出ている方だと思う。」と仰います。
もっと、成果が出ずに「練習が報われない」と感じてモチベーションが下がる人がいることも、十分に理解しています。
講習を続けられない人、上達を感じない人、いつしか思考停止している人など、いくらでもいると思います。

ここまでは十分報われているんだけど、「ここから先どうするか・・・」というタイプの悩みです。
まぁ、先のAとBの話で、ほとんど結論は出ているように思います。

あとは、本人の気持ちの問題なので、最終的には誰も最後の一押しはできません。
まぁ、きっと大丈夫でしょう。
話を少し広げて、「モチベーションが無いのに、無理にも頑張るべきか?」という問題があります。
「煩悩が無いならば、悟りへの一歩として受け入れたらどうか?」という話。

ただ、この悩みを挙げる人は、「モチベーションが無い自分が、なんとなく嫌だ。」、「できれば、ちゃんと練習したい。」、「仕事以外に、何かに打ち込む方が良い人生な気がする。」といった価値観が根底にあるように思います。

しかし、燃え尽き症候群、頑張っても報われない状態がダラダラ続く、パートナー問題、目標を見失う、などなどの事情で、モチベーションが落ちることはよくある話です。
であれば、選択肢は限られています。

・モチベーションが上がるまで、離れる
・モチベーションが上がったときに、パフォーマンスが落ちまくるのも困るので、最低限真面目にやる
・他の趣味に行く

ありがちな選択として、ダラダラやるというのは、色々な意味でやめた方が良さそうです。
練習習慣も悪癖だらけになるし、一時の気楽さが長期的には負い目となり、もとの自分に戻れなくなります。

「最低限真面目にやる」というのが、自分を律する能力が問われますが、大切なことだと思います。
スポーツですから、調子が上がれば自然とモチベーションが上がることも多いです。

僕自身は、こういう気持ちのやり取りを繰り返し過ぎて、もはや表層的なモチベーションを自分で感じにくく、淡々としてきたなと思います。(笑)
答えの無い話を長々としました。

同じ構図は、自分自身にも仲間にも生涯に渡って繰り返されますので、何かの参考になれば幸いです。


<マルチピッチリード講習、つづら岩>

<アドバンスクラック講習、城ヶ崎あか根>

<空中ユマーリングの練習>