2022年9月26日月曜日

手繰り落ち、ケース解説

9月25日(日)は、自分のクライミングにて、小川山ボルダー。
10年以上前に合計6日間以上は通ったであろう、三日月ハング(1級)を登ることができました。
アップ後に11時に再開して、15時30分にムーヴ完成(スタートが低いため、、バラシが可能)、16時に登れました。
最近、自分なりに意識しまくっているフィジカル系の練習が活きたように思えて、本当に良かったです。

さて、話は変わりますが、最近手繰り落ちについて会話することがあり、ここ何年かで見かけたパターンをお話ししようかと思います。

この際、
①パンプの限界付近やホールドが持てない状況で、無理にクリップに行き、案の定の手繰り落ち
②普段から足置きが雑過ぎて、スリップの手繰り落ち
といった超典型のパターンは除外します。

これはこれで見かけるし、上級者でも確率0にはならない問題だと思います。

(追記)僕自身も、手繰り落ち未遂(バランスを崩したタイミングで、慌ててヌンチャクorジムのルート外のホールドを掴み、事なきを得た)は、何回かあります。

今回は「そういうことは、ある程度注意している自覚のある方」が、不意に起こしてしまう手繰り落ちというケース紹介です。

●ケース1
<図1>

図1は、軽いレイバック状態でのクリップです。
右下方向に抑える力(A)と、左下方向に張る足の力(B)の均衡により、バランスが保たれています。
ちなみに、Aはスローパー気味、Bはインカットしたサイドカチ、Cで自重のほとんどを支えるスタンスはガバ足、傾斜は薄被り(100°程度)です。

クリップは若干高く、左手でクリップするために、右手でロック(腕を曲げた状態で固定)したくなります。
その際、左足に乗り込んで行くため、左足に掛けていた力が鉛直(重力方向)の力が掛かってしまい、見事にスリップするという仕組みです。
 ※その後、その方は右手をロックするだけで左足には乗り込まず、若干のツイストをしながらクリップする態勢を発見していました。

私自身、目撃した訳ではないのですが、ホールド配置からしても手繰り落ちしやすい場面ではあったと思います。

ここで、反省点をいくつか考えてみます。

①そもそも、力方向(力の釣り合い)を考えていたか?
あまり考えていなかった。どちらかと言うと、左足はわずかな荷重しか掛けていないため、そこまで重視していなかった様子。
   ※右足に自重のほとんどが掛かっているので、心情は理解できる。
また、外傾スタンスに対して鉛直荷重を掛けたくなる状況だったことも、無自覚だった様子。

②チャレンジしてフォールするのは良いが、落ちるつもりが無い場面で不意に落ちるのは反省すべき、という理解はあったか?
本人なりに、これまで手や足がスリップしてフォールする機会が多いことを自覚した様子。

③足置き(足裏感覚)への注意
シューズが、岩場ではもう使えないヘタった物を使用していたが、穴が空いているなど、少々酷過ぎて課題のレベルに合っていなかった。

①、②に関して、もう少し考察を深めます。
ある講習生の発言を、私なりに要約すると。
「そもそも、ムーヴ中はバランスの限界を攻めるものである。なので、このケースでも左足に鉛直方向の力を掛けてもギリギリの摩擦で滑らないことは十分に考えられる。なので、仕方ないんじゃないか?」

実際、今回の当事者は力の釣り合いなどでムーヴを考えるタイプというよりは、バランスの限界を攻めることによって上達してきたタイプです。
また、怖がりゆえにデッドなどで落ちることは少ない一方、スタティックを追求していく過程で②が多くなったのもあるでしょう。

そういう登り方を完全否定することも難しいです。
これに関しても、
「クリップ中は普段のムーヴ中よりも安全マージンを大きめに取るべき。」
という当たり前の結論にしか至りませんし、そのサジ加減を誤って手繰り落ちすることは中上級者でも十分あり得るでしょう。

一方で、
・今回が3本目での手繰り落ちだったためビレイヤーが一瞬でロープを引かなければグラウンドフォールと予想されること
・手繰り落ちで指を切断した例は私が知るだけで2件あること(ロープが指に絡んだのか、カラビナに指を挟んだのか、などは不明)
といった事実は抑えておきたいです。

●ケース2
<図2>

図2は、もう少し単純な事例です。
手はガバを鉛直より若干手前に効かせ(A)、アンダーホールドの上面を押すように乗り(B)、バランスを取っておりました。

これを、背伸びしてクリップに行き、見事に足がスリップしました。
  ※この場面は、私も目撃しました。

反省点として
①上述の状況を理解していなかった。
②クリップ動作を、通常の指が届けばクリップできるタイプではなく、手のひら全体が届かないタイプ(強傾斜などで有利になりやすいタイプ)のクリップ練習をやっている最中で、この場面でも行った
③パンプした状態の中、思考停止気味で急いでクリップした。

などが考えられます。

●ケース3
<図3>

図3は、右手保持で左でクリップする場面です。
右手の真下のラインを、赤点線で示しました。

この際、左足がスリップし、手繰り落ちになったそうです。
(講習生に「最近、こんなヒヤリハットに遭いまして」と聞いた話なので、状況は推測も含む。)

左足は、普通に乗れるぐらいのスタンスではあったものの、ガバ足やインカットカチなどの「よく掻き込みの効くスタンス」では無かった様子。
<図4>

比較のために、図4を書きました。
こちらは、赤点線をまたいでいます。
そのため、右足・左足ともにスタンスには明確な荷重が掛かり、スリップしにくいものです。

一方で、図3では右足には自重が掛かるものの、左足は回転を止めるための軽めの荷重しか掛かりません。
しかし、軽い荷重ではあるものの、一度スリップして回転が始まってしまえば、フォールは避けれれません。
つまり、図3の状況でクリップに行く場合、左足がスリップしないように細心の注意を払うか、右足のスタンスを左足に踏み替えて片足バランスでクリップした方が良かったと思われます。

ちなみに、このヒヤリハットは、ジムの4本目だったため、やはり本人は「やっちまった。これは事故だな。」と覚悟したそうです。が、やはりビレイヤーが渾身の1引き+1歩後ろに下がることをしたのでしょうか、グラウンドフォールは避けれらたそうです。

以上が、私なりの分析です。
本人なりの「落ちそうも無いという感覚」も大切ですが、ムーヴの仕組みを理解すること、不意落ちを極限まで減らす意識、なども大切だろうと思います。

練習方法としては、以下3点を推奨します。

安全な状況であっても不意落ちした場合は、なぜ予想外に落ちたのか、なるべく原因究明する習慣を付ける。
②ウォームアップなどでは、過剰なまでに丁寧に登る練習を織り交ぜる。(これは岩場対策にもなる)
③チョンボクリップ(ルート外のホールドなどを使ってのクリップ)は、避ける。クリップできない場合は、潔く敗退し、次のトライでクリップムーヴを今まで以上に真剣に探る。

 ※チョンボクリップしてトップアウトを繰り返す人も多いです。核心ムーヴよりはクリップムーヴの方が易しいため、トライ数を重ねると「いつの間にか」できるようになることが多いものです。そして、その方法はR.P.戦略としては最短経路です。しかし、なんとなく出来るようになったことには危うさがあると私は考えるため、毎回クリップムーヴのリスクと向き合う覚悟を持って欲しいのです。