2023年2月14日火曜日

伸びる講習生の3タイプ

最初に断っておきますが、これは全く科学的な話ではありません。
講習生を見て「経験的に、この人は伸びそうだな。」という僕の感想です。

結論としては、3タイプ。
理解が早い、情報収集力が高い、自分の弱さに向き合える、です。

タイプ① 理解が早い。

私が説明したことに対して、
「ってことは、〇〇についても△△ということが言えますよね?」
「××に関する問題と、同じ構図ですね。」
といった、理解を示すリアクションが非常に良い方々です。

大学教授の方、医師の方、東大などの高学歴の方、コンサルの方、などに多い印象です。
時として、私の論理的な破綻を見抜いてくるだけに、こちらにも良い緊張感があります。

当然、フンワリした講習生も多いのですが、不思議なもので何年も通っていただくと多少なりとも変化を感じます。
たぶん、リスク管理と向き合う中で、必要な思考方法なのでしょう。
似たような原因のヒヤリハットを何回も味わっていたら、死亡リスクが高過ぎますしね。

個人的に興味深いのは、この手の方々は社会学とか哲学的な素養がある方が結構居て、
・集団心理
・リスクや上達に対する心構え
・山屋の感覚と一般社会からの眼
などについて、一段高い視点を教えてくれることがあります。

東大・京大では教養で結構仕込まれるのか、本人の興味なのかは不明です。

タイプ② 情報収集力が高い。

意味のある情報を、大量に仕入れる力がある人です。

例えば、ビレイに関する疑問が湧いたとして、ネットで素人さんの記事を色々見つけて、それを読んでも、混乱が深まるだけかもしれません。
アルテリアのページを見たり、ちょっと読むのが大変そうな入門書を見たり、用具の説明書を読み直したり、といったことが調べ始めの姿勢としては正しいでしょう。

この場合、意味のある情報というのは、理解するのに労力が掛かることが多いです。

少々専門的な文章を読むと、分からない単語が出て来たりします。
そこで、さらにググったり、クライミング入門書の索引を調べ直したりして、それでも可能な限り読み進めます。
さらに、これを複数の文献で行います。
本人がそれなりのレベルであれば、中上級者向けの技術書を探したり、登山とは関係ない文献を当たったり、英語文献を読む人もいます。

それでも分からない点や、自分の理解が合っているかの確認のために、僕に質問を投げてくる人がそれに当たります。
質問される僕もタジタジ、という可能性が十分にあるので、緊張感が溢れます。
ただ、僕も色々と話が聞けて助かります。

僕自身、かなり苦手とする能力で、大学院で研究に不向きだと痛感した一因でもあります。
ちょっと分からなかったら、すぐに分かりそうな人に聞きたくなるのですが、教授はそれを甘えとして許さない雰囲気がありました。

この能力が僕より高い人が居る一方で、スラスラ読める文章しか読む気が起きない人も居ます。
僕自身、自己評価は中の下。

タイプ③ 自分の弱さに向き合える。

・重大なヒヤリハットを経験したときに、本質的な反省点を見出せるまで考えることを止めずにいられるか?
・精神的ダメージを受ける指摘を受けたとき、ブツブツ言いながらも軌道修正していけるか?
・できないムーヴの原因が超が付くほどの基本からのやり直しが必要だと気づいてしまったとき、それを実行可能か?
・自分の到達点と目標達成までの距離感が、実は想像の3倍以上あると知ったとき、努力を続けられるか?(講習の卒業システムなども、これに当たるケースがあります)

事故やヒヤリハットの例が分かりやすいのですが、本質的な反省というのは、なかなか難しいものがあります。
事故を起こしたルートに再訪して完登するだけでは、全く不十分なことも多いです。

自分なりに、
「あれは、〇〇すれば防げるから、次回からそうする!」
と決めても、実際に山に行くと微妙に現実に合わない場面があったりして、さらに頭を悩ませたりします。

フワフワした友達に話しても的を得た指摘はもらえませんし、ピリッとした人に聞いたら「そもそも、普段の取り組み方や考え方から変えて行きましょう。」ぐらいの耳の痛いことを言われそうです。

しかし、それでも向き合い続ける人は居ます。

雪山でめげたら、雪山を辞めることだってできます。
雪山のために、地図の読み方から学び直す必要性に迫られたり、一人で雪山ハイキングから出直すべきという焦燥感に駆られるかもしれません。
ほとんどの場合、本当に向き合うべきことは根が深く、複数の基礎を見直す時間が必要になります。
だからこそ、向き合う人には見返りがあります。
クラックでも、マルチでも、アイスでも、リードとトップロープ問題でも、ボルダーでも、よくある話です。

ちなみに、結局は辞めないんだけど、ウジウジする期間が長い人も居ます。
こういう人も、1〜2年後には反省点が整理されていることがあるので、逃げ口上を並べつつも内心は向き合っていたのだろうと思います。
今回のテーマの「伸びる講習生」という観点では、決してスムーズに伸びるタイプではないので、オマケです。

ただ、上述の2例は極端なタイプとしても、2〜3年と講習を続けていれば、タイプ③に多少なりとも素養がある人だと思って、期待をしています。
講習で、色々な指摘をされるのは、結構キツイこともあるはずですから。


終わりに
今回は、学ぶことに対する思考方法にフォーカスしました。

・体力があって、たくさん練習できる
・運動経験などの影響で、フォームが良い
・コミュニケーションが上手で、ストレスが少ない
・基礎練習が好きで、試合みたいな緊張感も好き

などの観点も、実際は1つあるだけでも、相当なアドバンテージです。

あとは、
「タイプ③の能力が爆発的に高かったら、タイプ①やタイプ②の能力すら付くんじゃないか?」
なんていう妄想もしますが、タイプ①は「学校の勉強が得意だったか?」に依存する部分が大きいので、社会人になってからの逆転は相当困難でしょうね・・・。
得意な人の代表に、東大医学部出身者とか、物理学を大学で教えていたような人、などなどが並びます。その方々も、才能だけでなく長年の努力で身につけたものでしょうから、流石に全然違いますよね。
タイプ②は、心構え次第である程度は補えるでしょうが、僕も苦手なので何とも言えません。
やはり、得意な人の代表例は、英語の専門文献でも物怖じしない方々だったり、自分でまとめ資料を作成してしまうような人なので。
個人的には、タイプ③の講習生には感動を覚えるので、それだけで十分ありがたいのですが。

何の能力が高いと、長期的に良いのかは、なんとなく考えてしまいますね。
講習に限らず、僕自身の練習どころか、人生にすら当てはまることなのが、興味深いです。