2022年10月5日水曜日

ときどき良いスタイルで登る、ということは可能か?

10月2日(日)は、マルチピッチリード講習にて三ツ峠。
女性Mさん、男性KTさん。
<ピッチを切る場所に迷うMさん>

先日、ある講習生からされた質問。
「マルチピッチ講習で残置無視なのは、いざというときにビレイ点をカムで作れるようになるためですか?」

僕の回答は
「そういう部分も一部にはありますが、本来の趣旨ではありません。」
<色々と延長して、完成>

残置無視で登ると、ビレイ点をどこに作るかも自分で考えます。

立木が見えなければ、カムの残量を気にしながらリードしなければなりません。
先の見通しが悪い場合などは、ほとんどカム1セットを丸々温存するような形でリードを終えるべき場面も多くあります。
クラック自体は豊富な岩場でも、ビレイ点で使いたいカムのサイズは、行かないと分かりませんので。

また、残置ビレイ点はテラスのある場所や次のピッチのリードビレイがしやすいように作られていますが、ビレイ点を自分で構築すると、何を優先すべきかを考える必要が出てきます。

さらに、ビレイ点が作れなければ、クライムダウンしてカムを取りに戻るのか、手前でピッチを切るのか、周辺で右往左往してビレイ点作りをするのか、などの判断は全て自分に委ねられます。

これらの戦略的な判断そのものを楽しみ、反省していくのです。
<丁寧な登りでフォローするKTさん>

つまり、リード中に即興でカムのビレイ点を作っているのではなく、あらゆる事態を想定しながらリードする点が、根本的に異なります。

そのため、途中でギブアップのように残置を使ってしまうことを前提とした残置無視は、本来の趣旨とは異なると思います。
(少なくとも、初登攀ごっこ、リスク管理を真摯に捉えたゲームでは無い。)
<ハンド〜フィストのクラック>

この考え方に、
「自分の実力次第で、どんな壁でも登れる方法なんて夢がある。」
「既成ルートでも、そうやって楽しめば本当のクライミングなのかな。」
「それぐらいやらないと、リスク管理能力は上がらない気がする。」
などと直観された方は、是非とも当塾講習へどうぞ。
<フォローを迎える>

では、普段はトポを熟読し、残置を追いかけている方が、こういったクライミングを「ときどき」することは可能でしょうか?
とにかく上へとリードしてしまい、パニックに陥るだけの非常に危険なクライミングをすることになりそうです。上へと向かえばビレイ点がある、という負の成功体験が、リスク管理としては悪癖につながってきます。
これを仮に、初級残置使用者と呼びます。

もちろん、一部には既成ルートも楽しく登り、人跡未踏の岩場で冒険的なクライミングもこなす人がいることも分かっています。
そういう人は、日によって、あるいはエリアによって、自分なりに本日やるべきことスイッチを切り替えられるのでしょう。
こちらを仮に、上級残置使用者と呼びます。

初級から上級へのステップアップは、何が鍵になるのでしょうか?
実際、それを成し遂げた人もいるでしょうが、あまり数は思い浮かびません。

それとも、まずは残置無視から入るべき(初級残置使用者は成長過程として経由しない)で、残置無視に十分慣れてから、ボルトを打たないとどうしようも無い壁などでの残置使用を行うというステップを踏むべきなのでしょうか?
こちらは当塾の方針ですし、探検部出身者、人里離れた沢登りを好む方などは、こちら寄りかと思います。

初心者にとってどちらが正しいかという議論もありますが、「私、実際問題もう初級残置使用者になっちゃっているんですけど、どうしましょう。」という話もあります。
<荷上げしたいザックがテラスに置いてある>

初級の習慣が悪癖となり、上級へのステップアップの弊害となる一方、いきなり上級の習慣でスタートを切ることに難しさがある事例を挙げてみます。

●ガイド登山と、仲間内での登山
  ⇨山岳会などで、ガイド登山出身者が煙たがられる話は、数え上げればキリが無い。ガイド登山ではないが、連れられ登山が好きな人というのも多い。ただ、ガイド登山には金銭的負担が大きいため、現在のところ少数派。

●トップロープリハーサルと、グラウンドアップのリード
  ⇨自分でも嫌気が差すほどブログに書いている。ガイド登山と異なり、金銭的負担が無いため、もはや広く一般化している。ちなみに、トップロープリハーサル好きな人が、あるルートに対してだけ、「オンサイトしたい!」などと言うと、僕などは危なっかしいトライをしている構図しか頭に浮かばず、あまり応援する気持ちになれない。
<ワイドっぽいコーナー>

この話は、スタイルの話に限らず、上級者の習慣を身に付けることの全般的な難しさを物語っているように思います。

スポーツとしてクライミングを考えても、最初に身に付ける練習習慣って間違いも多いです。
リスク管理にしても、怖さとリスクを全く分離して考えられないまま、10年20年と過ぎている方も多く見かけます。
<富士山が近いのは三ツ峠の魅力の1つ>

厳しいことばかり書いたようですが、普通のことも書いておきます。

オンサイトは楽しい!
残置無視・トポ無視の初登攀ごっこは楽しい!
リスク管理の反省会は楽しい!
現在の練習習慣を見直し、日々自分を変化させるのも楽しい!

楽しいからこそ、甘さをグッと堪えることに達成感があります。
ちなみに、この翌日は一人で小川山に行き、先日のフィロソフィーをやろうとしたら、体力的に疲れ切っていたようで、まるで力が入らずに昼に下山しました。
本日はノーカウントとして、また再訪しようと思います。

できないムーヴと向き合うのは、ツラいっすね!
でも、これをやらないと、講習生に上記4点をやれとも言えないですしねー。
頑張ろ。
<最上部の緩傾斜帯>


<色々と工夫したビレイ点>

<お疲れさまです>