2013年6月11日火曜日

プロテクションの間隔、あるいは作戦について

6月9日(日)は、マルチピッチリード講習にて、二子山中央稜。

またまた補習(卒業以前に予約した分ですが・・・)、男性ONさん。
常連女性TZさん。

<今回は、TZさんもアプローチを覚えており、楽勝のアプローチ!>
今回は、技術的な話。

リード中、死なないためにプロテクションを取ります。

プロテクションという言葉に馴染みがないなら、中間支点、ランニングビレイ、ランナー、なんて言えば分かるでしょう。
(厳密には、ニュアンスがちょっと違うと思いますが。)

<ビレイ点作業も、少し慣れてきたONさん>
さて、プロテクション(カム、ナッツ、ハーケン、立木、など)を、どこで取るべきか?

1m間隔とかで取れたら、ジムみたいで怖さはなくなるでしょう。
が、そしたら40mロープを伸ばすのに、39個のプロテクションが必要です。

それは、現実的じゃないんで、作戦としてメリハリをつけます。
基本
①自分が落ちそうなムーヴの直前に、確実なプロテクションを取る

②階段状で、登山道に近い感じなら、プロテクション節約

③その中間くらいの難しさや、簡単だけどクライムダウンは無理そうなら、その都度でリスク判断

<核心のクラック(5.7)をリードするONさん>
じゃあ、問題です。

・この先1m行けば、絶対にプロテクションは取れそう

・でも、その1mがちょっと難しいそうで恐い

・しかも、そのムーヴのためのプロテクションは取れない

・今なら、まだ安全に敗退できる自信がある

って状況なら、あなたはどうします?

<ザックを背負っても、ノーテンションで核心部を突破できたTZさん>
講習中に、よくある解答例

①とにかく、集中して、気合で登る

はい。
それは、「ノープラン」ってやつです。

「行くしかない」って思考です。

行き詰まったら死ぬ、ってことは念頭に置いてくださいね。

<左右にダブルロープが分かれ、理想的なロープさばき>
②様子を見つつ、1歩、2歩だけ行ってみる

クライムダウン出来る範囲で様子を見る、っていう意味ではナイスです。
ただ、敗退できるギリギリを見極めないと、戻れなくなって死ぬ可能性もあるので気を付けて。

<ビレイ点で、ギアを受け渡したり、次のピッチの相談したり>
③迂回路を考える

④ちょっと離れた場所からプロテクションが取れないか考える

それが出来たら、楽になりますね。
ナイスです。

<高度感のある終盤>
最後に、あんまり口頭で思い付く人はいないんですが、実際よくやる作戦。

⑤その1mが、絶対に落ちそうもないと確信があるなら、クライムダウンはできないけど行っちゃう。

「もう戻れない!」
という恐怖はあります。

①と結果的には同じ行動です。
が、リスクが計算されているかどうかが違います。

<微妙に左右のロープが交錯気味。右下のクリップは、赤ロープにすれば良かったかな?>
こんな感じで考えて、

「落ちたら死んじゃう上に、戻るに戻れない状況になっちゃった!」

ってことに、ならないようにします。

この状況は、将棋で行ったら「詰み」の状況ですね。
昔は、そういうクライマーの窮地を「蝉(せみ)」なんて呼んだそうです。

そうなるぐらいなら、
⑥敗退できる今のうちに、敗退を決断する

っていうのも、充分にアリでしょう。

<マルチピッチを終えて、頂上稜線>
ただ、詰んでからも、決死の思いでクライムダウンor上へのオンサイトクライミングを敢行します。

そうすると、10回のうち9回以上は助かります。

僕も、例に漏れず、こういう目にあったことはあります。

「本当に、死ぬ可能性充分、と思ったこと」
「ちょっとだけ、死を覚悟したこと」

を合わせれば、10回以上はあるんじゃないでしょうか。

<山頂にて>
でも、これって、やっぱり失敗だったと思うんですよ。

詰んでしまってからのサバイバルゲーム、ってのは我々一般人は辞めた方が良いと思います。

やはり、リスクは計算範囲内に納めるのが基本。

そういうリスクコントロールを分かった山の友達でも、毎年平均1人くらいは死んでおりますので。
(ただ、やっぱり不確定要素の高い、冬が多いです。)

<下山も、ためしにTZさんに先頭を任せてみましたが、今回は迷わずバッチリでした>
行動記録
7:50 駐車場出発
8:10 取り付き
8:50 スタート
15:40 トップアウト
16:15 西岳頂上
16:50 取り付き

ローソク岩を見学してから帰る

18:35 駐車場

講習内容
・ロープさばき、カムセット、プロテクション間隔、などについてアドバイスをしていく


クライミングのリスクは、ゼロにはなりません。
あとは、どこまでリスクをコントロールできるか。

オブザベーションの段階で、それを予測して作戦を立てておくことが、1番のリスク低減だと思います。